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セーフルーム

「いいでしょう。ではお部屋にご案内いたします」


 平民街の中通りにある私の名義で借りている売れない芸術家たちが多くいるアパートメントの一室である。三階まで上がる間、狭さや薄ら埃っぽいのにリズが驚いている。

 変哲もない扉の鍵を開け入り、薄暗い部屋の鎧戸を開けると、狭い部屋にベッドやテーブル、ソファー、棚には日用品が用意してあるのが目に入る。ここでも物珍しそうにリズは室内を眺め回して疑問を口にする。


「この部屋は埃っぽくないですね。それからこれは?」


 リズはサイドチェストの上に不自然に置かれた空の牛乳瓶と大き目の平皿を指さす。


「これはお掃除のお礼です。きれいに食べて貰っていますね。夜、寝静まった時間に小人さんがお掃除をしてくれるのです。今回は案外、汚れていたので多目に置いておきました」


「小人さん? ですか」


「ええ、起きている時には出てきてくれないので、私も見たことはないのですが妖精、小人さんはいらっしゃいますよ。まぁ、すべての家や部屋にいる訳ではないようですが」


「‥‥‥はい。分かりました」


 リズは納得していない顔であったが話を進めるつもりの様である。


「では、説明を始めましょう」


 クローゼットには『チェスト』を用意してあるので使用方法の説明と使用者登録を行う。

『チェスト』の錠前部分に手を触れ、小声で一言二言呟くとほんわかと錠前部分が青く光る。


「こちらの『チェスト』の錠前の場所に手をかざしてください」


 リズが素直に手をかざすと錠前の光が収まった。


「では『チェスト』を開けてみてください」


 リズは表情をちょっと強張らせて『チェスト』を開いた。そのまま、私の方を見たので目線で閉めるよう促す。


「ではミックさん開けてみてください」


 ミックが近寄り開けようとするがびくともしない。


「今、この『チェスト』はリズが使用者登録されているのでそれ以外の人が空けることは基本出来ません。管理者登録してある私か高位の魔法使いでない限りは開けることができませんので安心してください。カギが無くても開けられます。ではミックさんも登録しましょう」


 ミックも登録し開閉の確認を行う。それから三人で中身を確認する。一週間分の保存食とワインは用意して入れてある。それに今回、執事から預かっていた『ヒーリングポーション』、武器、硬貨袋、いつくかの貴金属、侯爵家の紋章の入った身元保証書などを入れる。

 その後、ミックには入口の方に行ってもらい女子二人で用意した下着なども含む衣類など一式を入れ、着方なども軽くレクチャーし最後にこの部屋の鍵を入れる。

『チェスト』を閉じクローゼットを閉じる前に『チェスト』の横に置いてある陶器の”チェンバー・ポット”を取り上げ小声で告げる。


「非常時にはこれで、部屋から出られるようでしたら裏の中庭の共同トイレを使用してください。共同ではありますが、お屋敷と同じで下水に繋がった物件にしておきましたので」


「‥‥‥お気遣い、ありがとうございます」


 王都では貴族街と中流街はほぼ下水が整備されている。三年前の事件で被害を被り、復旧作業中のところも多いがここは被害を免れた場所である。貴族の家では各トイレに汚水管が整備されていたりする。この辺りでは各部屋までは汚水管の整備はされていないが中庭に共同のトイレと汚物処理用の排水施設が用意されている。

 汚水は地下の大きい汚水管を通り『汚水処理場』で処理され川に放流されている。なので、道端で上から汚物が降ってくることも、街路が汚物まみれなこともない。

 ちなみにポットの横に置いてある四角い箱にはちり紙が入っている。

 ビバちり紙、ビバ下水道、ビバ『汚水処理場』!


 閑話休題




 ミックにも鍵を渡し最後の説明に入る。


「部屋の空気の交換と掃除はこちらで定期的に行っておきますので気にしないでください。食料とかも定期的に交換します。というか普段は絶対にこちらに近づくことのないようにお願いします。場所はしっかり覚えて忘れないようにしてください。念のため鎧戸の外の装飾を目立たないように侯爵家の紋章である”ミモザと交差した槍”を彫ったものに交換してあります。最終的にはそれで確認ください」


 二人と鎧戸を確認し、部屋の中を一回り見渡す。


「何か聞きたいことはありますか?」


 ミックは黙って頷き、リズを見る。


「大丈夫です」


 リズはまっすぐ顔を上げ、気丈に言った。


「では、これでご案内はお終いになります」




 アパートメントの前の通りで別れを告げる。


「今日は楽しかったです。次の機会は無いかもしれませんが、もしまた会えることがあれば‥‥また、街歩きをしてくださいますか?」


「そうですね。買い物してお茶もしましょう。リズ」


「はい。ミッシー」


 私たちは軽く抱擁し別れを惜しむ。ミックは少し離れて辻馬車を捕まえている。


 リズの耳元で彼女にしか聞こえないように囁く。


≪目の前の店が見えますか、もし本当にどうしようもない状況になったらこの店の扉を開きなさい≫


 リズは少し顔を上げ、店を確認し頷いた。


「リズお嬢様、馬車が捕まりました」


 目元に僅かに涙をたたえたリズが体を離し、深く頭を下げ目元を拭った。


「さようなら」


「はい。さようなら」



 二人の乗った馬車を見送り、見えなくなってから踵を返す。

 彼女が『ガス化ポーション』を使う日は来るのだろうか? 

 あの部屋を使うことは?

 使うことが無いのが一番であるが‥‥‥



 目の前の「メリッサ・スー魔法古物店」の看板のある店に入る。

 まずはゆっくりお茶にしよう。

 さぁ、茶葉は何にしようか?


次回は明日16:00頃、更新予定です。

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