『ファイアーボールワンド』と新人魔法使い2
熱い紅茶に入れなおし二人でカップに手を伸ばし、ちょっと一服する。
クッキーに手を伸ばしたコルムが口元を緩ませる。
「まだ、弟子入りしてなかった子供の頃、家で食べた記憶があります」
「グラッスル領は砂糖の産地ですから、クッキーもお砂糖を多く使ったものが多いのですね」
「では、ここからは魔法古物商としてより冒険者の先輩としての話しになりますが、二つ目は冒険者仲間の探し方です」
「はい」
「まず、今回コルムさんが話をした冒険者は所謂、中堅冒険者の方々でしょう。彼らはそれなりの経験を積んで実績があり、即戦力を求めている。これは分かりますね。彼らに余裕が有れば新人魔法使いをパーティに加え、育てることもあるかもしれませんが今回の彼らにはその余裕もしくは考え方が無かったのでしょう。ちなみに名前とか聞きましたか?」
「ええ、周りからはフランクと呼ばれていました」
「はい。そもそも育てる気が無い人たちですね。仮にそのパーティに入っていたら苦労していたと思います。私見ですが」
「良かったです。断られて‥‥」
「では、今後の仲間集めはどうします?」
「時間は掛かっても、同じ新人冒険者に声を掛けて行こうと思います。確か新人講習会というものも有るそうなのでまずはそれに参加して、顔を広げて自分に合った仲間を探します」
「そうしたほうが良いでしょう。それではいくつか先輩冒険者としてのアドバイスを、一つ目魔法使いは魔法以外で役に立ちなさい」
指を一本立てる。
「魔法以外ですか?」
「そうです。新人の頃はなおさらです。今、『魔法の矢』は何回撃てますか?」
「一日に三回ほどです。そうか、それ以外の時に役に立つ事を考えないと」
「冒険者パーティの指揮官役は魔法使いかスカウトがやるべきだと私は思っています。前衛で戦っている戦士の方達は目の前の敵で手いっぱいで回りに気を配ることが難しいです。ですが、後方で全体を見えるところにいる者なら適切に情報収集、判断できるのではないでしょうか。前線の戦士からの指示を待って魔法を撃つのではなく、一番有効に魔法が効くタイミングを見計らって魔法使いから指示を出すようでなければいけないのではないでしょうか」
「確かにそうです。考え方が変わりました。ありがとうございます」
「二つ目、体は鍛えましょう」
「魔法使いがですか?」
「そうですよ。例えばダンジョンアタックするとしても、馬車で街道を三日移動した後に森に入って徒歩で四日、ダンジョン内に三日居てまた七日掛けて帰って来るなんてざらですから冒険者は体が資本です。新人魔法使いが移動で足手まといになるのは魔法使いあるあるですよ。重い武器や鎧を着ていないからと舐めているかもしれませんが保存食や飲み物、キャンプ道具等自分の物は自分が背負っていくのですよ。仲間は誰も持ってくれません」
「‥‥‥分かりました」
「三つ目、魔法使い、精霊使い、聖職者は初期ではレア職業です。新人パーティでは甘いお誘いがあることがあります。とてつもなく好条件とかうまい話には注意しましょう」
「な、なるほで」
「四つ目、戦士の方とかは幼馴染とか訓練所が一緒だったとか案外、最初から仲間なことがありますのでそこに後から仲間になる訳ですから人間関係とかは本当に注意しましょう。後はパーティ内恋愛についてですがこればっかりは自分で経験するしかないので‥‥」
「そんな、パーティ内で恋愛なんてしませんよ」
「‥‥‥皆さん。最初はそう言います。私の統計上、分け前で揉めるよりもパーティ内恋愛の方がパーティ崩壊のメイン原因ですよ」
「‥‥気を付けます」
「最後に『ファイアーボール』は使えるようになっても使う状況をよく考えて使いましょう。理由はなんでしょう?」
「はい。まずは森や林、街中で家屋が近い時の延焼の危険性でしょうか?」
「そうです。使用場所が荒野の戦場とかで延焼の可能性が低い場所ならば効果は抜群ですしどうぞ使ってください。他には?」
「ダンジョン内等の狭い空間で使用した時の呼吸困難の危険性です」
「素晴らしいです。どこぞの剣を振るう事しか考えていない中堅冒険者に聞かせたい回答です。『ファイアーボール』を撃った後は火の精霊の力が強くなり、我々が呼吸するための風の精霊の力が弱くなってしまいます」
「『ファイアーボール』の呪文を教わった時に師匠から教わりました」
「ああ、カーツマン師。しっかりしていますね。という事で今回は魔法古物商としてお力になれることはないと思います」
「はい。お話を聞いていただきありがとうございます。一度、ゆっくり考えて仲間集めをしたいと思います。そうだ。七歳と十歳の女の子と十二歳の男の子に何か良い贈り物とかございますか?」
店舗の方に移動し展示台の『オルゴール』のゼンマイを回して上蓋を開けるとコルムには聞きなれない異国のメロディーが流れ、その上に森の小動物たちが踊る光の幻影が浮かび上がる。
「女の子にはこちらの『オルゴール』などどうでしょう? いくつか種類が合って小動物、妖精、海の生物などがありますので比べてごらんになってください。男の子にはこちらの『幻影の炎の剣』などどうでしょうか?」
ショートソードよりも短い剣で見た目もおもちゃと分かる作りをしているが柄頭の赤い宝石の部分を押すと、刀身に炎を纏った。
「使用頻度にもよりますが半年程度は使えます。それ以降はお持ちいただければ数日預かって付与しなおすことも出来ます。まぁ、お客様であればちょっと研究すれば術式を解読できると思いますが」
「へーー、面白い物があるのですね。『幻影の炎の剣』とは」
「ええ、男性の方にはロマンを感じる物の様で、冗談で作って貰ったら案外良い売れ行きでして‥‥‥」
コルムが『オルゴール』を見ている間に裏に回り棚の『保存缶』からダイヤモンドクッキーを小袋に移し店に戻る。
その後、小袋と化粧小箱二個と40㎝位の包みをもって晴れやかな顔でコルムは店を出た。
「またのご来店をお待ちしております」
*とあるダンジョン内
グールの群れと戦う冒険者たち
「ダブス、右一匹行ったわよ」
「おう、任せと、へ、へ、ヘックッシュン」
振り降ろされる爪を寸でのところで避ける戦士ダブス。
追い打ちをかけるグールの胴体に後ろから刺さる『アイススピア』が一本。
戦闘後
「なにやってんの! さっきもクシャミして、気が抜けているんじゃないの」
「そういうなよ。カレン。こういうのは生理現象だからしょうがないだろ。帰ったら一杯奢るからさ」
「まぁ、良いわ。今回は良いお土産も出来たし帰ったらメリッサ誘って飲みに行きましょう」
次回は明日16:00更新を予定しています。




