オアシスでの食事
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オアシスの死角になる方から降り、『イリュージョンワンド』を取り出し二頭のラクダと積んだ荷物の『幻影:ファンタズマル』を作り出します。
それから二人で歩いて水場へ近づいてゆくと建物前のテントに日陰で食事の準備をしているオアシスの民の若い女性がいます。
部族や家系を表しているのだろう幾何学模様など刺繍が施された厚手のオーバードレスに裾を絞ったパンツ、その上に麻の足首まであるゆったりとしたシルエットのチュニックを重ね着しています。
コインやビーズの飾りが編み込まれた鮮やかな色使いの長い布を頭に巻き、口元を覆えるような布を首に巻いてアクセサリーのように見せています。
全体的に砂に紛れない青や赤の色合いが使われ、その上に金属製のバングルやアンクレットに嵌め込まれたガラスビーズやターコイズ、ラピスラズリなどが存在感を示します。
私のような王都の者にはとても色鮮やかで、華美に感じる部分もありますが異国情緒溢れ素敵と感じる部分もあります。
アレンとは顔見知りの様で軽く挨拶を交わした後に建物の中に声を掛けます。出て来た夫婦のうち女性は最初の女性の母親と思われ同じような格好をしています。男の人は長衣に裾を絞ったパンツ、ターバンを何重にも頭に巻いた格好で太い腰ベルトには半月刀を下げています。
あちらの男性が挨拶してくるのにアレンと共に応えます。
「冷たい水が、あなたの喉を潤しますように」
「冷たい水が、あなたの喉を潤しますように」
ラクダは水場へ連れてゆき、水を飲んで休ませる『幻影:ファンタズマル』を出しておきます。最近『幻影:ファンタズマル』を出すときに以前より、リアルに下手したら実体がある様に出せるようになってきました。具体的にはラクダの匂いや水を飲んだ時にベロが水場に付いたときにさざ波まで発生しています。以前はせいぜい視覚、聴覚までだったのですがこの子の影響でしょうか? ちょっと大きくなった腰の小袋を撫でます。
そこからは日陰の絨毯の上に皆で座って、地下に貯水槽でもあるのでしょう冷たい水が供されのどを潤します。とても美味しいです。お礼を言ったアレンが荷物から何やら、ナッツ類の蜂蜜漬けの瓶や乾燥チーズ、岩塩や砂糖、スパイスの塊を少量ずつですが出して渡しています。
喜ぶ彼らの顔と衣装で輝くガラスビーズを見て思い出します。私も『魔法収納袋』から赤や青、緑、黄色などの掌サイズのステンドグラスの破片を取り出し絨毯の置くと離れて料理していた奥さんと娘さんが「まぁ!」「きれい!」と声を上げて喜んでくれます。
ああ、以前ある街で教会に忍び込んだ時に証拠隠滅のために『魔法収納袋』に収めていたのを今しがた思い出したのです。やはり一度、中身の整理をしないといけませんね。忘れているものが案外ありそうです。でも、今回は喜んで貰えてよかったです。
それと新鮮な牛肉の塊とここらでは見かけない新鮮なフルーツをいくつか出しておきます。大変感謝されお昼のメニューに追加されました。
砂漠では旅人が来たらどんな人であれ、水と食事で持て成す風習があるそうです。相互扶助の考えで協力していかないと生きていけない環境なのでしょう。ですのでアレンの方も少しずつですが彼らの必要としているものを用意してきています。
さて、料理が出来るまでアレンはご主人とお話をしています。
最近の天候や砂丘の形の変化、他の隊商たちが立ち寄った状況、砂漠の魔物の目撃情報など、このオアシスはカストルから「砂上帆船」で二日、ラクダなら六日ほどの距離で重要な情報はこうやって行き来する者たちと交換しているようです。
アレンからもポルックス行きの「砂上帆船」の行方が知れないことも告げられます。
「前の定期便の船長っていえば‥‥」
「ああ、親父だ」
「そいつは心配だな。だが、船長はここいらでは一番の船乗りだ。何かはあったんだろうが、どうにかしているはずだ。気を落とし過ぎるなよ。少なくともここを通った時には何の異常もなかった」
なるほど、アレンは前の船の関係者さんでしたか。
食事が始まるとスパイスたっぷりの黄色い「牛肉をぶつ切りにした豪華な炊き込みご飯」や「牛肉とデーツの濃厚シチュー」、「牛肉の串焼き」、「酸味の効いた冷たいヨーグルト」など、五人分とは思えない量が絨毯の上に並びます。
食後にはオアシスの水場で採れたばかりのフレッシュミントを入れたミントティーが出されます。牛肉の濃厚な脂気と、多用されたスパイスの刺激が口の中に残っていましたが、そこに摘みたてのフレッシュミントがたっぷり溶け出した熱いお茶を流し込むと、喉から胃にかけてスーッとした冷気のような爽快感が駆け抜けます。
重たかった口の中が一瞬で洗浄され、再び呼吸が軽くなるような感覚です。
奥さんと娘さんからはあちらから見たら異国のエスクイリン王国の話をせがまれいくつかお話します。広場の市や食事、服装、装飾品、劇場の観劇、王宮の貴族の生活など今日はもうここに泊まりなさいという勢いだったがお茶が済んだところでお花を摘み、出発の準備をする。
『幻影のラクダ』は大人しく水を飲んだ後は膝を折って休んでいます。その背の一瘤の後ろ辺りに跨り立ち上がらせるとまず後ろ脚から立ち上がり、次に前脚が伸びます。なので乗り手は前方にガクンとのめり出し、次に後ろに大きく揺さぶられ見まわす景色は馬よりも高く、遠くまで見通せます。
側ではアレンが口を大きくポカンと開けおバカさんみたいな顔になっていますが、後ろにいる親子からは見えていないのが救いでしょう。
そう『幻影のラクダ』のはずなのに触れて乗れるのです。これはもう『幻影:ファンタズマル』とは呼べないかもしれません。
「アレン、急ぎましょう」
私の声に何とか正気を取り戻したアレンがおっかなびっくりラクダに乗るのを、親子は不思議そうに見ています。
「どうした。ラクダなんて珍しくもないだろうに」
「そ、そうだな。最近船ばっかりで、ちょっと久しぶりだったんでね‥‥ははは」
「さぁ、行きましょう」
親子に手を振りながらオアシスを後にする。
『幻影のラクダ』は右の前後の脚、左の前後の脚を交互に出して歩き、身体が左右に大きくゆったりと揺れます。姿や歩き方は昨日、街を散策した時に観察してありますので中々な再現度だと思います
砂の上に足跡を残しつつ進み、小さな砂丘を一つ越えてオアシスが見えなくなったところで『幻影のラクダ』から降りて『魔法の絨毯』に乗り換えです。
再び上空まで上がり次の目標物に向けて進路を取ります。
「行方不明の船の船長はお父様だったんですね?」
「あぁ、と言っても血の繋がった親子じゃないがな。他にも引き取られて一緒に育った兄弟が何人か乗ってるんだ」
「船長さんは懐の大きな人なんですね」
「どうかな、身寄りのない子供を何人も引き取って船乗りにしてたから、ただ単に人手が欲しかっただけかもしれないがな」
「でも、行方が分からなくなって、探しに行こうと思う息子さんが居るんですよね?」
「‥‥‥そうだな」
「今回、薬草の輸送が優先順位一番ですが、捜索活動も同時にしていきましょう」
「本当か?」
「ええ、その船に載っていた薬草もあればあったに越したことはないですから」
「はは、そうか。助かる。あんたもでけえな」
「よく、小さいと言われますが」
「ははは、そうだな。小さくてでっかいな!」
「船のシュプールを確認するにはもうちょっと高度を落とした方が良いですかね?」
「いや、まだ当面はこの高さで良い。カストルに着いた便の奴らからポルックスとの中間地点のオアシスまでは無事だったことは確認できている。何かあったとしたらその先だ」
「解りました。ではそこまで飛ばしますよ」
「いや、‥‥待て、ゆっくりーーーー!」
更新頻度は不定期です。




