出発準備と砂先案内人
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さて、薬草輸送の護衛依頼を出した商人さんとの話はギルド長が主体で纏めてくれた。
今は街の砂漠寄りの外にある港? というか「砂上帆船」置き場と倉庫のある地域にいる。カピトリン王国行きの定期便は出港延期になっているが、それ以外の目的地の船は出港するし、到着した船もいる。
見上げれば同じような大きさと形の「砂上帆船」が三隻ほど泊まっており、クレーンが荷物を釣り、荷役たちが積み込みや荷下ろしで忙しそうにしている。
全長20m、全幅10m、船体高4mの船体は正面から見れば台形で左右に脚が広がり、その先に鉄で出来た大きく長い橇が砂に埋もれている。船体の台形は横からの砂を含んだ風を受け流し船体の転倒を予防する役目があるそうだ。
3本のマストは前・中・後に配置され海の船の「スクーナー」に近い帆装形式だ。メインマストは中央やや後方、高さ15mで主動力を得る。サブマストは前方、高さ12mほどで補助的な推進力を得、風向きの変化に素早く対応できる。後部小マストは船尾付近で高さ6mほどで舵取りの役割、船尾を風に立て直進性を保つ。
海面下に船体がある通常の船と違って、すべて地上にあるため中々の大きさである。
紹介された商人さんが説明してくれるのを「うんうん」と頷きながら聴いている。海の船は多少乗ったことがあるが「砂上帆船」は無い、今回は縁が無かったが一度乗って旅をしてみたいものである。
商人さんとは話が付いており、既に12箱の薬草の木箱とその他急ぎの商品は受け取り済みである。またその他諸々の話と必要そうな備品や道具なども預かっている。
そんなところに日焼けした顔の20代半ばの男性が現れる。
ゆったりとした長衣に幅広の腰ベルト、防砂のオーバーコート、ロングブーツとスパッツ、背中にはサンドシューを括った鞄を背負った男は今回の「砂先案内人」である。
ここら辺の詳しい地図も頂いたし一人で大丈夫だと言ったのだが、砂漠に詳しい案内人がいた方が良いという事もあり同行することになった。
まぁ、魔法使いのお婆さんが身元証明はしてくれたが、関係者全員が納得しているわけでもないのだろう。お目付け役というものか。
男は不躾に私の事を観察しごつく日焼けした右手を出してきた。
「「砂先案内人」のアレンだ。よろしく」
「メリッサと申します。よろしくお願いします」
「アレンは元々、次の定期便の案内をするはずだった男でね。まだ若いが子供のころから砂漠を行き来しているから経験は十分だ。砂漠の事なら何でも聞いて貰って大丈夫だから」
「ああ」
商人さんの紹介に不愛想にアレンは答える。
冒険者ギルド長と魔法使いのお婆さんが合流してきて『双子の水晶球:ジェミニクリスタル』でカピトリン王国の砂漠の縁の街ポルックスの冒険者ギルドには連絡が終わったことを告げてくる。
一応、大事にはしたくないことを告げてあるのでドックの外れに移動し最小限の見送りで旅立つことになっている。
冒険者ギルド長と魔法使いのお婆さん、商人さん、アレンが見守る中、『魔法収納袋』から『魔法の絨毯』を出すと全員が聞いてはいたはずだが、驚いた顔をしている。ふわふわと浮く『魔法の絨毯』を眺め、アレンだけは顔色が悪くなっている。
『魔法の絨毯』に乗り込み、「どうぞ」と後ろを指差せば、怯えた顔のアレンがゆっくりと乗り込んできた。
「‥‥し、失礼する」
「大丈夫ですよ。落ちることはまずありません」
「まず‥‥」
『魔法の絨毯』はふわふわと浮いているが乗るとしっかりとした床? の様なので座り心地が安定しない訳ではない。安心してほしい。
「では、行ってきます。あっ、忘れていました。こちらをお預けしときます。ポルックスに付いたら『双子の水晶球:ジェミニクリスタル』で連絡させていただきますので、使用方法はその時に」
魔法使いのお婆さんに革の小袋を渡し、『魔法の絨毯』をゆっくりと進ませる。
「お、おおーー!」
と声を上げるアレンは放っておき、高度を徐々に上げる。
「よろしく頼みます」
「気を付けて行ってらっしゃい」
「お願いします。砂と風の導きを」
と皆さんが見送ってくれるので高度を3m位で街を離れます。
「お、うわー!」とうるさい声が後ろから聞こえますが、まだ馬の駈歩程度の早さである。しかし周りの景色はサーと流れるように変わり、振り返れば街の建物や「砂上帆船」のマストなどが遠くなっています。
「大丈夫ですか? やっぱりやめときますか。今なら街に戻れますけど?」
「‥‥大丈夫だ‥‥」
「では、速度を上げますね」
「はい?」
馬の襲歩、全力くらいの速度まで上げると周りの景色の流れるように後ろに去ってゆく、特別うるさくなったので高度を上げることにする。同じ速度でも地上3mと100mとでは体感速度が違う。高度100mでは景色はゆっくり流れるのでその怖さは軽減されるはずである。
静かになった後ろを見てみるとアレンは目を瞑って体を強張らせている。
一度停止して、アレンに声を掛ける。
「いま、動いてはいないですよ。後ろに凄い良い景色が見えますけどご覧になりませんか?」
「‥いや、景色なんか今はどうでもいい!」
「そうですか。もったいない」
「‥‥」
ぎりぎりと後ろに首を回したアレンが「あぁ‥‥」と声を上げた。
眼下には今、後にしてきたカストルの街の城壁と風の塔が小さくあり、その向こうには草原の緑がその先にはさらに濃い緑の森林が広がっている。精々が「砂上帆船」のマストの上、20m程度の高さ位しか経験がないだろうカルトスの住民には初めて見る景色だろう。
「どうです。自分の街を上から見下ろす気分は?」
「あぁ、思っていた100倍、凄いな」
やっとアレンの笑顔が見られました。笑った顔は思ったより若く感じます。
「じゃあ、お仕事をお願いします。どちらの方角に進めばよろしいですか?」
「ああ、ちょっと待ってくれ。‥‥右手30度、まずはあの岩山を目指して飛んでくれ」
「了解です」
「おわっと!‥ゆっくりで頼む!」
「それじゃあ、夕飯をポルックスで頂けませんよ」
それから「砂先案内人」の導くまま砂漠を越えてゆく。
森林や草原に比べて対象物が減り、基本眼下には延々と砂漠が広がり景色の変化が乏しくなる。
最初は緊張していたアレンも慣れてくれば口を開く余裕も生まれ、目標物の指示の合間に砂漠の水場の探し方や棘サボテンの生えている場所、サンドラットの生態や生息場所などを教えてくれるようになった。
話を聞くとあまり高い所が得意ではなかったそうだ。
しかし、実際『魔法の絨毯』で飛んでみると景色が遠くまで見えて素晴らしいと、気に入ってくれたようだ。
ときたま視界に隊商のラクダの列や砂漠トカゲの群れの日光浴なども見かけるが、基本的には生物は乏しい地域である。
飛び始めたのが朝の十時くらいであったのでそろそろお昼にしようという時間になってきた。
「どこかお昼に良い場所はありますか?」
「ちょっと、寄りたい場所もあるんだ。あとちょっとでオアシスがあるからそこで昼にしよう」
二時間ほど飛んできたので「砂上帆船」ではカルトスから大体二日分の距離であろう。
ほどなくゆらめく陽炎の中に緑色の塊が広がっているのが見える。近づくにつれそれがヤシの葉だというのが分かります。
地平線がすべて黄土色の世界で、そこだけが不自然なほど濃い緑です。
そして、緑の塊の中央にはエメラルドグリーンの水面が鏡のように空を映し出しています。水際には芝生や丈の低い草木が水場の周りを囲んでおり、前に日除けのテントが張りだしたいくつかのレンガ造りの建物も見えます。
さぁ、ここではどんなお茶が楽しめるでしょう。
更新頻度は不定期です。




