状況確認と身元証明
ブックマーク、評価、誤字報告 ありがとうございます。
目の前には緑茶ベースにたっぷりの新鮮な生ミントと砂糖を入れて煮出したミントティーが湯気を上げています。一口含めばとても甘く、ミントの香りが鼻を抜けます。
軽く自己紹介してテーブルの向こうには受付のまとめ役の方が座り、その後ろにはミントティーを出してくれた赤毛の受付嬢が立っています。
「とても美味しいですね。温かくて落ち着きます」
「それは良かった。ここらでは日常的に飲むものなのですが、珍しいですかな?」
「そうですね。私の国では主に紅茶をストレートで飲むことが多いですね」
「エスクイリン王国とは随分遠い国からいらっしゃったようですな」
「はい。カピトリン王国に用がありまして」
「砂漠を渡るのは初めてで?」
「はい」
まとめ役の聞き取りにミントティーを傾けつつ、私は素直に答える。
「では、いくつか情報を提供しましょう。まず、カピトリン王国方面へは通常ラクダの隊商では1か月ほど、「砂上帆船」でも風が良くて10日ほどかかります。砂漠が初めてでお一人で渡られるなら値段は高くつきますが「砂上帆船」をお勧めします。通常の船と違って船酔いの心配もありません。ただし、今現在カピトリン王国への航路は不通になっております」
話を大人しく聞いてふむふむと頷いている私の目を見て、まとめ役が一旦話を止める。
「聞いております」
「それをご承知で、依頼の詳細をお聞きになったと?」
「宿の旅人の方たちの話題にも上っていましたし、こちらでも噂話で小耳にはさんでおりましたので。なんでも「砂上帆船」の定期便が行方不明だとか」
「そうです。2週間ほど前にこちらを出たカピトリン王国行きの船が行方を断っています。4日前には着いていないとおかしいのですが‥‥。カピトリン王国の砂漠口の街ポルックスの冒険者ギルドとは『双子の水晶球:ジェミニクリスタル』で連絡を取り合っていますので間違いのない情報です」
『双子の水晶球:ジェミニクリスタル』、この水晶球は「かつて一つの大きな水晶だったものを二つに割って作られた」という伝承があるレアな『マジックアイテム』である。
片方を起動すれば相手方に姿と声を伝えることが出来る物で、距離が離れるとそれだけ魔力を使うので長時間会話することは出来ないが時間を決めて定期連絡をし合うにはとても役に立つものである。
「薬草の輸送の護衛という事ですが、急ぎの理由があるのでは?」
「ポルックスの街で砂肺症の流行の兆しがあったのです。早期に薬を飲めばそれ程深刻な症状になるものではないのですが、薬を飲まずに症状が進行すると肺をやられ、咳が止まらなくなり‥‥、最終的には呼吸困難で亡くなる病気です。薬草の群生地はこちらのカストルの街の近くにありますので採集依頼を掛けて量の確保は出来ています。二週間前の定期便である程度の量を送っていて、次の定期便でも送る手はずだったのですが前の定期便が連絡を絶ってしまったので次の定期便の出発は延期です。いまは調査隊を出すことを検討しているところです」
まとめ役の方は苦い顔でお手上げの仕草をした。
「なので、当面カピトリン王国行きは難しいと思います」
言外に今回は諦めなさいという雰囲気がとても伝わってくる。
その後ろでは赤毛の受付嬢も同じような顔をしている。
「そうですか。では、その薬草の商人を紹介していただき、護衛ではなく荷物をお預かりして輸送という事にしていただけますか?」
「はい?」
まとめ役の方も赤毛の受付嬢も「何を言っているんだこの人は?」という顔をしている。
私は立ち上がり、掛けていたソファーに右手を触れて『魔法収納袋』へと収めた。
「「あっ!」」
と声を上げた二人の前に今度は『魔法収納袋』からソファーを元の場所に戻す。
「荷物は木箱10個ですか20個ですか?」
「‥‥ああー、12箱ほどでしょうか。しかし、荷物は『魔法収納袋』に収められますが航路の安全が確認できていませんので‥‥」
今度は『魔法収納袋』から『魔法の絨毯』を出してふわふわと浮かせてみる。
「空の旅になりますので危険は少ないかと思います」
『魔法収納袋』はそれほど珍しくもなく冒険者ギルドにいたならば今まで見たこともあっただろうが『魔法の絨毯』はレアアイテムである。初めて見たことだろう。
「「‥‥‥」」
「君、ギルド長と依頼主の商人を急ぎ呼んできてくれたまえ」
目と口を大きく見開いていた二人のうち、またも再起動の早かったまとめ役の人が赤毛の受付嬢に指示を出し、受付嬢は急ぎ足で部屋を出て行った。
「失礼ですが、お名前をもう一度お聞きしてもよろしいでしょう?」
「エスクイリン王国の冒険者で『魔法古物商』を営んでおりますメリッサ・スーと申します」
鉄のタグの冒険者のギルド証と丸めた羊皮紙の商人のギルド証を『魔法収納袋』から机の上に出しまとめ役の方に押しやると、両方に目を通し戻してくる。
「これでご信用いただけましたか?」
ギルド証の偽造は重罪であり、身柄の拘束や財産の差し押さえなど重い罰が下るのでまずやる者はいない。しかし私が出したのは両方、馬車で2か月離れた王国のものである。見慣れないもので確認作業も出来ないので身分証明としては微妙ではある。
冒険者ギルドが商人にこの冒険者は信用に足ると紹介するには足りない気が私もする。
そこへ部屋の外からバタバタという足音ととともに、大柄の日焼けした男性が赤毛の受付嬢とともにやってきた。
挨拶もそこそこにギルド長は机の上のギルド証に目を落とす。
「失礼ですが、こちらのギルド証はどちらも真贋がこちらでは確認できません。他に何か証明になるものはお持ちではないでしょうか?」
『双子の水晶球:ジェミニクリスタル』のような『マジックアイテム』がそうそうあるわけではないので離れた土地の冒険者ギルド同士で連絡しあうのは基本手紙でのやり取りになる。今からすぐ手紙を出しても返信が返って来るのは四か月先である。
「ロイランス侯爵家発行の身元証明書」は公証人の印も押したものを念のために持たされている。エスクイリン王国近隣の国であればこれで十二分に証明になるのだが、ギルド証と同じくこちらもこの地域では真贋確認できないだろう。
仕方ないので魔法塔から支給された『魔法使いの杖』を机の上に出す。この『魔法使いの杖』はエスクイリン王国の魔法塔に末席を置いたときに持たされたものだ。杖と言っても50㎝程の長さの短杖で直径3㎝程の白檀の棒で先端に10㎝程の水晶が嵌められたロッドである。
「こちらの魔法使いギルドの方に鑑定をして貰ってください。それで身元は証明できると思います」
魔法使いギルドはすぐ近くにあったのですぐに年老いた魔法使いのお婆さんがやってきた。
訝しげに私を見た後、机の上の『魔法使いの杖』をみて目を剝いた。
ゆっくりと机に近づき「手に取っても?」と聞いてくるので頷いて返す。
こちらは待っている間に入れなおして貰ったミルクティーを傾ける。
種を抜いたデーツの間にクルミやアーモンドを挟んだものがミルクティーのスパイス感とデーツの濃厚な甘みで完璧な組み合わせです。
手に取り一頻り『魔法使いの杖』を見ていた魔法使いのお婆さんが杖をこちらに差し出す。
「魔力を流して貰っていいかい」
「はい」
『魔法使いの杖』を受け取り魔力を流せば、水晶から淡い七色の光が部屋に溢れ、その中にエスクイリン王国の魔法塔を現す魔法陣が輝く。
『魔法使いの杖』は登録者しか発動することは出来ない。
「ほう!」
と魔法使いのお婆さんが声を上げる。
「間違いない。あたしは若いころ留学していたことがあるんだ。懐かしいねぇ」
エスクイリン王国はこの大陸に今ある国の中では大き目の国である。学問や魔法を学ぶために遠い国から留学する者も一定数いる。
気のせいでなければお婆さんの目頭に光るものが見える。
お婆さんも腰に下げた『魔法使いの杖』を取り出し魔力を流すとこちらは赤い光が輝き、私のとは一部違う魔法陣が浮かぶ。
「私のは魔法塔の修了認定の魔法陣だから違いはあるがこのお嬢さんがエスクイリン王国の魔法塔の魔法使いだという事は間違いないよ」
周りの人たちは部屋の中に浮かぶ二つの魔法陣を見て驚いているが、私もお婆さんの魔法陣を見てちょっと驚いた。
「失礼ですがカーツマン師の妹弟子の方ですか?」
魔法陣の中にはその魔法使いギルドの所属の者にしか分からない様に師弟関係などの情報が書き込まれている。
「ああ、懐かしい名前だね。兄弟子は元気かい?」
涙声でお婆さんは聞いてくる。
「はい、先日も新しい研究の為、忙しそうにしていました」
更新頻度は不定期です。




