神の選択
ゲームのポートフォリオ提出でまだ公開してない作品が多いですが投稿出来る準備だけはしてあります。
人は祈る、それが例え意味の無い事だとしても。
人は祈る、それが例えどれだけ努力した人間であっても。
人は祈る、確率論でも決定論でも、自分が知らぬなら祈る。
人は祈る、得体の知れない未来に怯え、いつも祈る。
祈るは折ると大して変わらない。
希望の希は希釈の希である様に、望みを薄くする。
・・・そして、漸く望みは果たされる。
人は働き続けれないが、人が働く事を強いる誰かがいる。そして、それが正しくある様に振る舞う。
取り返しのつかない利便性と共に、命を託す。
望みと願いを石に託す。
この世界に神が存在するかは、運次第である。
・・・つまり、だ。
石に祈り、時間を浪費し、神を引けるかどうか。
分からないが、成功者がいるのは確かだ。
人の前には、いつしか神というものが与えられた。・・・正確には、最初からいたが、独占から漸く逃れたらしい。
しかし神も無限に存在する訳ではない。その中で神は人々に告げる。
『人の子よ、お前達に石を与える。これは祈ればやがて我等を手繰り寄せる事が出来る・・・しかし、祝福は全員には与えられぬ。努力を怠ってはならぬ、苦痛から常に逃れてはならぬ。・・・人は神に頼る為に作ったものではない。』
自分は、昔、神に出会った。
親に捨てられ、一人、空腹の中で祈り、『デウス=ノーヴァ』という神を引き、大人になるまで最低限食える分の金を得る事が出来た。
・・・しかし、それ以降は全く祝福も無い、そんな退屈な日々を過ごしていた。
・・・名前はアム、捨てた親は名前のスペルAdamすら間違え、こんな名前になった。
信仰は多くの人を狂気に陥れた。聖書無き単純な信仰は、恩恵こそ存在するものの特に倫理を育てる事は無かった。
自分には先が無い、未来が無い。
その中で生きる、そんな話だ。
そう、そういう、悲しい話なのだ。
煌びやかなガラスは足元を決して照らしはしない。あの空は青々としている。白の陽光は閃光を何度も送り出す。
嗚呼、焼ける様に暑い。
蜃気楼という目に見える暑さ、蝉の音という嫌でも聞こえる暑さ、焼ける様な鼻奥にこびりつく臭い、数秒間触れる事すら許さない指先、呼吸の度に飲料の余韻を残す舌先。
この田舎に残された家を一人守り続ける。
当然の様に学校の準備をして、向かう為に靴先を揃え、鍵も閉めずに外へ出る。
どうせ鍵をかけた所で、人が住んでいるとは思いはしない。
田園に、野良犬を見た。
野良犬は祈りはしない、その不幸な産まれから、ヒトに拾われ、生き延び続け、そしてヒトに捨てられた奴もいる。
あの犬は、多分捨てられた。
「・・・あの犬は、祈りを知っているだろうか。」
犬の為に祈る。しかし何も起きやしない。
誰かの為に祈っても、あの時の様にはならない。
後ろから細いブレーキ音が聞こえる。
ロミーが自転車を止めて、足をついた。
「アムー。今日、暑すぎるんだけど。」
アムが振り返ると、ロミーは自分の前腕を彼の腕にそっと押し付けてくる。
「風で冷えた。気持ちいいでしょ?」
アムは何も言わず、一歩だけ離れた。
「……うん、暑い。」
ロミーが笑う。ほんの少しだけ、からかうように。
商店街へ入る。
開きかけたシャッターの取っ手だけが鈍く擦れていて、一方で上にある屋根は部分的に新しかった。・・・どうやら、田舎でも繁盛はしているらしい。
暑いという文句から店に立ち寄り、ミルクティーをロミーに差し出す。
「え、くれるの?」
ロミーは驚いたように受け取り、すぐに一口飲んだ。どうせ神からの端金、今の内に恩でも売っておこう。自分と違って内気でもない彼女に。
「……ありがと。」
そのままベンチに腰かけ、ひと息ついた後、周囲を見渡す。
しかしアムは立ったまま、何も飲まずにいる。
ロミーはしばらく彼を見て、それから立ち上がり、近くの店に入った。
戻ってきたときには、フレンチトーストの入った紙箱を持っていた。ロミーは紙箱を開け、すぐにミルクティーのカップ、透明なフタを開きアイスだけを器用に取り出す。彼女はスプーンで慎重にそれをすくい取り、トーストの上にそっと落とした。
「……はい、食べて。」
アムは答えない。だが、関心というか目を睨むという感じが一切無い光り方をしている。野良犬と同調でもしていたのだろうか、とロミーは思ってしまう。
視線だけがトーストに向けられ、静かに、ゆっくりと手が伸びる。
アイデアを叩き付けた者として、笑顔で何も言わず、紙二枚とペンを再び握る。
祈りのもう一つの手段として、努力というものがある。努力は祈りよりも確実で、祈りよりも誇らしいが故に、大抵の幸運な人類は努力したと言い張る。
授業は静かに進行していた。
教科書を読み上げる声と、ノートに書き込む音だけが響く。
それは、祈りとは関係のない時間だった。
だが、チャイムが鳴り、休み時間になると、教室の空気がゆっくりと変わる。
一部の生徒は立ち上がり、窓際や廊下へ向かう。
鞄から取り出した小さな石を手に持ち、目を閉じる者もいる。
誰も騒がない。
けれど、誰も笑ってもいない。
そんな中で、アムとロミーは校庭の片隅にいた。
誰が持ってきたのかすらわからない、やや空気の抜けたボールを蹴り合っている。
芝生はすでに土が露出していた。靴の裏で砂がこすれ、小さな埃が立つ。
「祈りの時間、遊びの時間ってわけね。」
ロミーが笑いながらボールを返す。ポニーテールが肩で弾む。
アムは黙って受け止め、すぐに返した。蹴り方が重くなく、手加減もない。
教室の窓から、それを見ている生徒もいた。
だが咎めるでもなく、羨むでもない。ただ、見ている。手のひらに石を包んだままの指が、ほんの少しだけ強張っている。
ロミーは転がってきたボールを足で止めながら、ちらりとアムを見る。わずかな汗が額に滲んでいた。
「・・・なんかさ、空っぽの方がよく跳ねるって言うよね。」
アムはそれに答えず、軽く蹴り返した。砂埃が舞い、足元に残る。
有意義だ、無駄な体力消費を抑える・・・という機会が減り、不健康は進むが、努力とて確実なものではない。
「・・・どうやら、今日の昼からは外部講師らしいわよ。暇になりそうね。」
「全員が全員社会経験を拒絶しているのに大人になんてなれるか。」
ロミーはボールを拾い上げて手の甲で汗をぬぐいながら、校舎を見上げる。
「場所って大事よね、学歴も極論勉強内容じゃなくて学校の構造とか、建物の構造から推測したものなんじゃない?」
「成程なぁ。確かに、大学の説明会で『エアコンのある話し合える場所』が多数ある所と全くない所で分かれているのを見た。」
・・・念の為言うと、彼等自身は中学生だが、就職も早い段階から進み、学歴フィルターどころかカースト制度になりつつある。
「学力が無くてもコネ作りで強い所はあるし、学歴ってそういうのを見るのがメインになるんじゃないかしら?」
アムは少しだけ息を切らしながら深呼吸して頷いた。
「・・・それは、神の有無を問うのか?」
強めのバックハンドで返す、自分は何か煮え滾るものがあったのだろう。
「さぁね、努力も所詮積み重ねの運よ、結果も、実績も。だから努力は生半可じゃダメ。当たり前のラインを引き上げるの。」
「・・・ああ。」
納得はしなかった、不満ではあった、だが、耐える。
「アムは、出来る。」
違う、自分は努力しても大して出来はしないだろう。祈りも努力も微妙だ。不快ではあるが、顔には出さないと、彼女は不敵に笑う。
「・・・ま、根性論にも聞こえるかもね。」
「・・・?」
そういう話か、なんて思っていたが、実は違うらしい。
「頑張る・・・というのは単なる視点では出来ないの。諦めを自制し、最終的に自分の感情を制御し切り、大人になったかどうかを確認する。・・・必要なのは、そういう能力よ。」
優しくサーブを入れる、それに自分は合わせてしまう。球の速度に感情が露出する。
「字を綺麗じゃなく丁寧に・・・なんて言うけどそれは瞞しよ、綺麗に丁寧に書くの。」
神々の時代、人々は単純な力を神に託し、己だけにしか磨けない能力を伸ばす事が多い。勉学も運となった時に、より多く選択された。
・・・大人は、結構な数がコミュ障である。必要な説明をせず、無駄な手順を重視する割にそれ以外は疎かにする。その結果、多くのミスを起こす。礼儀作法が大事なのは、そういう事だ。失敗や過失を不思議と許せる人格であれ、そう願った結果が礼儀作法という一番簡単な手段なのだ。・・・その中で礼儀作法は許し合える関係性だが・・・その重要な部分を全て忘れてしまったのだ。
その上で多様性というものを求めるのは、個性や芸術性の勝負という風になり、礼儀作法を覆せる手段かどうかが試された。
「芸術性で勝負する、それは競合ばかりよ。その上で生き残るなら、丁寧に綺麗に、そこから異質な芸術性を露出させるの。」
舌先を出す、何かが奥にある。
「・・・これがミルクティーの分、タピオカはお返しするわ、一つだけだけど。」
ぬらぬらと光る喉の奥、そっと口の奥にキスで押し込まれ、反射的に指先で掴み取り出す。
「・・・ビー玉か?」
「歯の裏で球体に整えただけよ、芸術性はこの位個性があって漸く評価出来るもの、この神々の時代で個性は諦めるべきだと思うわ。」
「・・・一連の行動も芸術的で、呆気に取られたよ。」
「そう?」
疑問形の割には笑顔が先から小悪魔的だ。
「芸術の神は居ない、出ない様にされたと聞いたわ。だから私は貴方に忠告する。」
自分は、ゆっくりと心臓を掴まれる様に感じ取った。どこかで彼女は把握していたのだ。
「・・・自分の境遇を不幸と思い、稼ぐのは良いわ。でも、それを自らの芸術性と勘違いしない事ね。飽きやすいエンタメよ。」
・・・自分の出生をどこかのタイミングで掴んだ、一切明かしていない筈だった。学校内でもバラバラの噂が飛び交っていた・・・だが、彼女だけは見抜いていた。
「(このタピオカ一発ネタはどうなんだ。)」
だが、よく考えればこれは鮮烈だ。深く重いものではなく、シンプルで具体的で、印象的だ。何より味がある。違うのだ。
「忘れられる?」
「・・・いや、無理そうだな。」
この世界では不運を嘆く不運主義というものがある。努力でも運でも成功しなかったと諦めるのだ。だから逆に周囲に対し自分より不幸ではないだろう、自分の方が感情としては重い、と考えて祈る。神にではない、自分の方が不幸であれと自分自身に願うのだ。
「今日出会ったばかりなのにね。」
「・・・意外と増えたよな。」
神の中には、結婚や恋愛、友情や敬意とありどれが出るかは分からないが、片方だけ出ていれば問題ない。その為「この人かもしれない」と運命的に出会ったり、どちらも引いてないのに向き合ったり・・・そもそも神がどう出現するかすら知らない人間が大半だ。
「・・・君の名前は?」
「ロミー、名前はロマンスからとった感じ。アムは何?」
「親のスペルミスだ、アダムをAumと間違えた結果こうなった。」
もう、明かしても構わないか。とそう伝える。
「アダムから何も考えてなさそうな所が素敵だと思うわ。」
「ありがと、いつか自分の名前を変えてくれ。」
「・・・そういう腹積もりなんだ。」
「・・・ま、縋るのは大事だ。」
・・・実は、両者互いに違う感情を抱いているが、すれ違う感情を気にしない、互いが互いを運命と錯覚している、それだけの事だ。
昼下がりの教室、窓から差し込む光だけが白く眩しい。 石を机に並べて数えている生徒、隣の席の子に向かって手をひらひらさせている。 教室の隅で座り込んだまま、鞄を足で突っつく者もいる。
「またダメだった。昨日もずっとお願いしてたのに。」
「私なんか三日も飲み物飲まなかったけど、全然何も変わらないし。」
「それ本当?水分取らないと死ぬって。」
「ほんとだってば。ほら、私もう細くなったでしょ。」
わざとらしく袖をめくって見せる。机の向こうから数人が苦笑い。
「これぞホントの無茶だな。」
「アム、無茶以上に無粋よ。」
「何より無謀だ。」
アムの方は祈る様子があまりない、石の光り方としてはかなり使い込んでいる。・・・関連性は不明だが、祈る回数や確率は形で変わるとか聞いた事があるが・・・今の所関連性はないらしい。
「うちの親、“祈れば楽になる”って言ってさ、また石買ってきたよ。」
「神引いたってだけで進学決まった人もいるんだよね。」
「いいなあ・・・。」
羨望と嘲りが交じったため息がいくつも落ちる。
ロミーは教室の一角、窓際の席でノートのページを繰りながら、会話に加わらない。 時折、誰かの言葉にだけ視線を上げる。・・・田舎の小規模な所である為そもそも学年が違い、話すのも抵抗がある。
結局引けた所で、所詮運であると軽蔑される。引けた事が祈りのアイデンティティを支える。・・・努力は否定される、祈りも否定される。それが所詮彼等の中身なのだ。
机の下、アムはぼんやりと自分の手を見つめている。会話の輪から遠く、返事をしない。 ロミーはその様子にも一度だけ目を止めるが、すぐまた窓の外に視線を戻す。
「努力も遊びも意味ないよね。全部、神頼み」 「もう無理だよ。神出るまで、みんな待つだけなんだし」
誰も本気で笑わず、うつむいたまま指先だけが石を弄っている。 自分の不幸を競い合い、話が途切れると空気が重くなる。 ロミーはうるさそうに髪を耳にかけ、ペンでノートを小さく叩く。 教室の空気に溶け込まず、どこか一歩引いたまま、窓の外の陽射しを眺めていた。
だが、アムだけはそれを興味深そうに見つめる。
「興味あるの?」
「勿論だ、分からないからな。」
「・・・一旦次の授業よ、そろそろ向き直しなさい。」
「ああ。」
チャイムが鳴る。会話は自然と止まるが、重たい沈黙は残ったままだ。
「本日は外部から講師の方をお招きしています。」
静かに入ってきたのは、見慣れないスーツ姿の男――近年移住してきた、有名な資産家だった。
話題の“配信者上がり”で、だが、今は広告でしか見ない。
前に立った瞬間、ロミーがぼそっと呟く。
「落ち目の芸人ってなんでもするわよね。」
アムが静かに返す。
「映画のエキストラでなら見た事がある。サメ映画のだが。」
一瞬だけ空気が揺れるが、すぐに静まり返る。
資産家は黒板の前に立ち、教室全体を見回す。 表情に余計な愛想はなく、視線はどこか諦めたような色を帯びている。
「私は、現実の話をしに来た。・・・まあ、お前達が知ってる通り、神は、今やこの世界中で引き合いに出されてる。」
・・・静かに、ロミー以外は頷く。
「祈りで願いが叶うだの、幸せになれるだの・・・そんな話、いくらでも転がってる。だが・・・現実は全く別だ。」
彼は机の前に手をつき、声のトーンを一段下げる。
「実際に神を引いた。確かに願いは叶った。だが、それは誰かの不幸が俺に巡ってきただけだ。・・・お前らが思ってるハッピーエンドなんかじゃない。」
一瞬だけ目線が生徒の列をなぞる。
「神で人を殺してしまった、偶然だった、一瞬だった。理解するのに一週間も掛かった。」
静寂が教室を満たす。
「努力も祈りも、選べるほど立派なもんじゃない。幸福も不幸も、誰かの“結果”が回ってくるだけだ。…それでも現実は、いつも正直だ。」
資産家は短く息を吐き、全員に聞こえるように淡々と締めくくる。
「お前達は、何かを祈っている?それとも努力するのか?」
誰も身動きできず、冷たい空気だけが残る。
・・・恐ろしい事実が降って湧く、ロミーですら衝撃を受ける・・・アムは知っている、神は問答無用で呼び出され、同時に機能する。
神が人を殺せるなら、それは同時に人殺しを強制される・・・或いは、既存の神の影響が結婚後に恋愛を引くとか、周囲が金銭を引いて一人だけ貧困になるとか・・・そういうものならまだ分かる。
・・・どうやら、それは違うらしい。
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