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7話「古代魔法」

アシュレイは信じられないものを見るように、ユタを凝視した。


「僕はこの世界で唯一の古代魔法使いです。」


その一言が、彼の脳内に衝撃の鐘を鳴らす。


情報量が多すぎて、遠くに沈みゆくオレンジ色の夕日が綺麗だなということ以外、何も考えられなかった。


「……あれ? アシュレイさん?」


ユタがゆっくりと近づく。


ハッと我に返ったアシュレイは、慌てて後ずさった。


「待った! 俺の告白よりでかい告白しないで欲しいんだけど?! 驚きすぎて言葉失ってた!あと、なんかモヤモヤするからアシュレイでいい」


ぱちくりと目を瞬かせたユタは、その後ふっと微笑んだ。


「そ、その……創造の神の申し子は聞いたことがない…。君が噂の六人目の五星剣ってことなのか?」


「うん……そうみたいだね」


まるで他人事のようにユタは答える。


「そうみたいって……」


(待てよ……ユタが五星剣ってことは)


「もしかして、お前の友達って、賢者ノア様?」


「そうだよ」


アシュレイは目を見開く。


長旅になると覚悟していたが、まさかこんなに早く五星剣の手がかりを掴めるとは思っていなかった。


「良かった〜、俺、ノア様とユタを探してたんだ」


「え? 僕を?」


アシュレイは、帝国騎士団長として課せられた使命と、これまでの経緯をユタに説明した。


「大災害の……予言と、均衡の乱れ……なるほど」


ユタは顎に手を当て、しばし考え込む。


「実は……今回僕がノアに会いに来たのは、ある時期からノアと連絡が取れなくなったからなんだ」


「連絡が取れなくなった?」


「うん。その時期がさっきおじいさんから聞いた 大神官交代 の時期と同じくらいで……大災害の予言の時期とも重なってるみたいなんだけど……」


アシュレイの表情が険しくなる。


大神官の交代。ノアとの音信不通。大災害の予言。

すべてが 同じ時期 に起こっている――。


「……何か裏がありそうだな」


ユタは静かに頷く。


「これは一筋縄じゃいかないかもね……」


「利害は一致している。大ミサまで、一緒に行動しながら調べるか」


「そうだね。僕の知ってることなら何でも教えるよ。僕もノアが心配だから。」


2人は互いに握手を交わした。



宿探しをしながら、アシュレイはふと疑問に思ったことを口にした。


「そういえば、ユタもなんか少しキャラ変わってないか? そんな堂々と話す感じじゃなかっただろ」


「ああ、それはね。あの仮面つけてると、声がこもるし、小さくなっちゃうんだよね」


「……そんなしょーもない理由から!?」


「でも仕方ないよね。僕の目、目立つから隠すにはちょうどよかったの」


アシュレイは呆れ返るしかなかった。


「だったら、盗賊に襲われた時ももっと早く助っ人してくれてもよかったよな?」


ユタは苦笑いを浮かべ、そっと目を逸らした。


アシュレイとユタは街を歩き回り、ようやく一軒の宿を見つけた。


「すみません、部屋は空いてますか?」


受付の宿のおばさんが申し訳なさそうに眉を下げる。


「あーごめんねぇ、今の時期、大ミサのために各国から人が押し寄せててね。部屋が一つしか空いてないのよ」


「一部屋か……まあ、しょうがないな」


アシュレイが肩をすくめると、おばさんはニコリと笑い、何気なく言葉を続けた。


「まぁ、恋人同士なら大丈夫よね?」


「……はい?」


アシュレイが硬直し、ユタは一瞬理解が追いつかずに目を瞬かせる。


「え、ええええ!? 僕、男の子なのに!?」


ユタはカウンターの隅っこで崩れ落ちるようにうずくまった。


「クソッ……僕がもうちょっと男らしかったら……!」


「まあまあ、ありがたく泊まらせてもらおうぜ」


苦笑しながらアシュレイはさっさと支払いを済ませた。


こうして、何だかんだ二人は無事に宿を確保した。



部屋に入ると、ユタはどっとベッドに倒れ込み、アシュレイは窓を開けて夜風を取り込んだ。


「そういえばさ」


アシュレイがふと振り返る。


「初めてお前の魔法を見た時、違和感があったんだよ。宮廷魔術師ですら、あんな魔法使うやつはいなかった。あれが古代魔法だったんだな」


ローブを外しながらユタは頷く。


「そうー。明らかに現代魔法に慣れてる人だとバレちゃうから、あまり人前では使わないようにしてたんだ」


「なるほどな。俺は魔法の専門家じゃないけど、現代魔法と古代魔法の違いってなんなんだ?」


「ん〜、そうだな……」


ユタは指先を軽く振ると、小さな魔法陣が空中に浮かび上がった。


「まず、現代魔法っていうのは 決まった魔法陣を覚えて 発現させるんだ。要は、レシピ通りに料理を作る感じ」


魔法陣が輝くと、小さな火の玉が現れ、ふわふわと宙を漂う。


「じゃあ、古代魔法は?」


アシュレイが興味深そうに覗き込むと、ユタは指先で火の玉をつまむような仕草をした。


「古代魔法はね、一から元素を組み合わせて魔法を作るんだよ」


パチン、と指を鳴らすと、火の玉は水滴に変わり、次の瞬間には風となって消えた。


「……つまり?」


「古代の大魔法使いたちは、世界に存在するすべての元素の性質を理解してて、それを自在に組み合わせて魔法を作ってたんだ。でもね――」


ユタは少し寂しそうに笑う。


「昔の魔法使いの中には、魔法を覚えるのが苦手な人もいたんだ。そういう人たちが『決まった魔法を簡単に使えるようにしよう』って、あらかじめ魔法陣を作って、それを覚えるだけで魔法が使えるようにしたのが、現代魔法の始まり」


「え、そしたら本当は俺でも魔法が使えるって事?」


「うん、そう。まぁ、魔力問題とかもあるけどね。そして、その方法が広まりすぎて、誰も元素を覚えようとしなくなった。結果的に、古代魔法を使える人は歴史が進む事に大魔法使い以外いなくなったんだ」


ユタは指先で小さな光の魔法陣を浮かばせながら、少し寂しげな表情を見せた。


「だけどね……時代が流れるにつれて、現代魔法には欠点があることに気づいたんだ」


アシュレイは腕を組んでユタの言葉を待つ。


「一つは、新しい魔法を誰も生み出せなくなったこと。現代魔法はすでに決まった魔法陣を覚えるだけだから、新しい組み合わせを考えたり、魔法そのものを生み出すことができないんだ」


ユタの指先で浮かんでいた魔法陣がふっと消える。


「もう一つは、魔法陣の書が失われてしまったら、その魔法は覚えている人がいない限り、永久に失われてしまうってこと」


アシュレイは少し驚いた表情を見せた。


「つまり、今の魔法は先人たちの遺産に頼ってるだけってことか?」


「うん。現代魔法は確かに便利だけど、限界がある。自由で、幅広く、可能性が無限大にあったのが古代魔法。でも、それを使いこなすには膨大な知識と才能が必要だったんだ」


ユタは自分の胸に手を当てる。


「だからこそ、古代魔法を使えた魔法使いたちは、みんな偉大な大魔法使いになれた。それが今では、僕一人だけになっちゃったってわけ」


ユタはどこか遠くを見るような目をした。


アシュレイはそんなユタの様子を見て、少し黙って考え込む。


「……なんかさ、お前が最後の古代魔法使いってのが惜しい気がするな」


ユタは驚いたようにアシュレイを見つめた。


「え?」


「いや、だってさ。お前の魔法、まだちょっとしか見てねぇけど、めちゃくちゃすげぇんだろ? こんなすごいもんがこの世界から消えちまうなんて、もったいなすぎる」


ユタは目を丸くしたあと、ふっと微笑んだ。


「……アシュレイは、変な人だね」


「おい、褒めてるつもりなんだけど?」


「ふふっ、ごめんごめん。でも、ありがとね」


ユタはどこか吹っ切れたような表情を見せると、再び指先に魔法陣を浮かばせた。


「じゃあ、せっかくだし──少しだけ、古代魔法の“本当の力”を見せてあげるよ」


「おい、待てって! 宿屋だぞ!?」


「大丈夫、大丈夫! ちょっとだけだから!」


この後、アシュレイはユタの魔法学を朝まで聞かされていたのだった。

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