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6話『本性と素顔』

アシュレイはユタを抱えながら、近くにいた老人に声をかけた。


「あの…これは何の集まりなんですか?」


老人はアシュレイとユタの容姿を一瞥し、すぐに外国から来た者だと察したのか、穏やかに微笑んで答えた。


「あれは、もうすぐ行われる 神の子選定儀式 の説明を、神官様方がお話してくださっているのですよ」


「神の子選定……この国で最も大きな儀式ですよね?」


アシュレイが確認するように言うと、老人は感心したように頷いた。


「おお、お若いのに博識ですな。そうです。この国で最も大切な行事の一つで、この儀式の対象は子供たちです。ここで選ばれた子供は 白の塔 で神官として育てられます。そして、それだけではなく——」


老人は少し声を落としながら続けた。


「選ばれた子供は 神の使い と呼ばれ、神の子である ノア様 のお世話などもするそうです」


「……ノア様の?」


アシュレイは、あえてその部分だけを繰り返した。


「そうです。大神官様が代替わりしてからというもの、ノア様は 白の塔 から一歩も出てこられなくなってしまった。塔の中に入れるのは、大神官様と、こうして選ばれた子供たちだけですからな」


「大人ではダメな理由とは?」


アシュレイの問いに、老人は当然のことのように答える。


「この国では、 子供は純粋で白い存在 だと言われています。15歳を過ぎると、その純粋さは失われてしまう。だから、神官になれるのもこの儀式で選ばれた者だけなのです」


(……なんだか随分と狭い価値観だな)


アシュレイはそう思ったが、深入りするのは得策ではないと判断し、口をつぐんだ。


「そうでしたか。ご丁寧に教えていただき、ありがとうございます」


そう言って頭を軽く下げると、周囲の人々が徐々に座り始めていることに気づく。

目の前の老人も、ゆっくりと腰を下ろしていた。


(これは……っ!!!!)


アシュレイの表情が一瞬で強張る。


(この流れ……まずい!このままだと巻き込まれる!!)


即座にユタの手を引き、その場を離れた。




「はぁ〜、危なかった。あの祈りに捕まってたら、夜まで付き合わされてたぞ……」


アシュレイは軽く息をつきながら、ユタの手を引いたまま足を止める。

しかし、ふとユタの様子が気になり、視線を向けた。


「あ…少し走るの早かった?」


ユタは無言のままじっとアシュレイを見つめている。

その静かな視線に、アシュレイは少し戸惑った。


そしてユタはゆっくり口を開いた。

「……なんか、お兄さん、雰囲気が変わった。今のほうが、いいね」


「雰囲気?」


アシュレイは一瞬、何のことかわからず考え込む。

(……ああ、そうか。俺、人前で何も気にせず素で話してたんだな)


気づいた途端、彼は少し何かを考え込んだ仕草を見せたあと、吹っ切れたようにユタへと顔を戻す。


「俺は、人が嫌いだ」


「え……?」


唐突な言葉に、ユタは驚き、動揺したように肩を揺らした。


「何でもかんでも俺に仕事を押し付けてくるタヌキジジィも嫌いだ。雨の日が嫌いだ。歩くのも嫌いだ」


ユタはさらに困惑したようにアシュレイを見上げる。


「つまり!俺はこんな人間だ!爽やかで頼れる騎士団のお兄さんなんかじゃない!ほら、これで隠し事なーし!!」


アシュレイは勢いよく言い切り、どこかすっきりしたように両手を広げる。

今さら取り繕うのも面倒だ。素の自分を見せたところで、どう思われようが気にしない……はずだった。


アシュレイはユタの反応をうかがうように視線を向けると——


「ふふ……」


小さな笑い声が聞こえた。


「お兄……アシュレイさんは面白い人…だね」


ユタは仮面にそっと手を添える。


(……?)


ゆっくりと、その仮面が外されていく。


「僕も…これで……隠し事なし」


静かな声が響いた瞬間、アシュレイの目が見開かれた。


仮面の下から現れたのは——


壊れそうなほど白く滑らかな肌。

ほんのりピンクがかった淡い髪。

そして何より、全ての宝石を凌ぐ輝きを放つ黄金の瞳。


この特徴を持つ者を、アシュレイは知っている。


「……五星剣……」


言葉が自然と口をついて出た。


ユタは微笑み、静かに答える。


「僕は、創造の神の申し子。この世界唯一の古代魔法使いです。」

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