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六ノ話   「神ノ使イ」

今回の依頼は迷い猫の捜索。

割と楽な仕事だったからあっさりと仕事は終わった。

そんな仕事の風景にふと、昔の光景が重なったのだった…。

「あ~…。待たせて悪かったな。ようこそ、”依頼部”へ」

俺はそう言って、その女子生徒を歓迎したのだった。

いやぁ、美里の仕事からこうも連続して依頼がくるなんてホントにレアだな。

…まぁ、美里の一件は妖魔を取り逃がしたこっちの責任なんだけどな。

「あ…はい…」

女子生徒は頭を下げて答える。…う~ん真面目な娘だ。

”適当”がウリの依頼部には貴重だねまったく。空気がリフレッシュされてるよ。なんかもうその辺の空気清浄機より便利だと思うね。

「さて…じゃあ話を聞こうか」

だいぶ思考が脱線したが、とりあえず俺は彼女の話を聞くことにした…。


「…なるほど、迷子の猫の捜索、ねぇ…」

「はい…」

どこまでも控えめな女子生徒…渡瀬わたせは小さく頷く。

依頼内容は単純明快。家で飼っていた猫が行方不明になったらしい。

普段も外へ散歩に行くらしいが、今回はあまりにも遅すぎるということで心配なのだそうだ。

「…猫っていつ帰ってくるかわからないものなんじゃ…?」

当然の疑問を口にしてみる。

「そうなんですけど…あの子、そんなに遠出する子じゃないから…心配で…」

別に必ず連れて帰る必要はないらしい。ただ無事を確認さえできればそれで構わないとのこと。

「…まぁ、OK。やれるだけのことはやってみるわ」

俺はその依頼を引き受けた。

「あ…ありがとうございますっ!」

彼女はそう言って、大きく頭を下げた。

…おおう、背中折れそうな勢いだな、流石に少し遠慮してしまう。

とりあえず頭を下げ続ける渡瀬をどうにかすることから始めるのだった…。




「えっと、じゃあ猫さんを探すんですか?」

とりあえず渡瀬から目的の猫の写真を借り受け、今日は帰ってもらった。首輪もついているらしいから絶対に見つけられないわけはないだろう…が。

大体この街全部探すとしてもすごい広さだぞ…。

とりあえずそれは後で考える(現実逃避する)ことにして、俺は後でやって来た奈々美に依頼の内容を説明していた。

上の制服は干してあるので、今奈々美は俺の制服を着ている。少し大きかったが何とかなりそうだ。

…この格好、奈々美狙いの男子生徒が見れば悶絶モンだろうなぁ…。

不本意にも依頼部の女子メンバーはみんなミスコン出場経験アリという美少女揃いだ。

まあ、それは認める。実際奈々美にもファンの男子生徒はいっぱいいるけど…。

…このド天然のどこがいいのやら…。この格好写真に撮って男子生徒どもに売ってみようか?

「…? 俊樹さん?」

そんな俺の考えに気付くことなく奈々美は首を傾げる。

「あ~…。いや、なんでもない」

俺はそう言って今の考えを振り払う。まあ実際やるつもりはなかったけどな。

奈々美はしばらく不思議そうな顔をしていたが、特に気にすることはなかった。




 はい、というわけでやってきました”夜の学校”!

まさかこんなにも早く再びここに集うことになるとは…。

「ねぇ、篠原…。こんなところでなにするのよ?」

今回は美里にも来てもらった。いずれ美里にもここに加わってもらう日がくるからな。

ちなみにあれから一日中探してみたが、この街全部探すなんて埒がないので結局”この方法”に頼ることとなった。

「ま、見てなって。これが一番手っ取り早いんだから」

不思議そうな顔をしている美里に俺は言った。

「うし、始めるか」

俺たちは頷きあうと、意識を集中させた…。


「どうだ…霞…いたか…?」

俺は意識は一定の集中を保ったまま隣で同じく集中している霞に聞いた。

「…確認しました…。南東に30キロ…」

霞はその方向を見つめながら、静かに言った。

「えぇ~っと…? …お、あれか」

俺も霞の言った場所に意識を集中させる。すると確かに”それ”はあった。

「…なにがあったの?」

「探してた猫」

怪訝そうに聞いてくる美里にはっきりと即答してやった。

「…は? …って、ええぇ!?」

…おおう、初々しいねぇ。

「まあ、正確には、”猫についてた渡瀬の霊力”だけどな」

「…え?」

疑問符だらけの美里に、またもや俺の霊能力講座が始まった…。


全ての人間には素質のあるなしに関係なく霊力が少なからずある。

その霊力は”物に移すことが可能”なのだ。

方法は大きく分けて2種類。


1つは、霊能力者が意図的に霊力を”込める”方法。

道具に込めれば”霊具れいぐ”。札に込めれば”霊札れいふ”といったように術式を組み込んだりそのまま武器にしたりする場合、霊能力者たちはまず決まってこの方法を使う。


2つめは、素質や知識のない人間が無意識に霊力を移すパターン。

これは一般的に”残留思念ざんりゅうしねん”とかそういった類の物で、持ち主が特に思いを込めて使っている物にその持ち主の霊力が少しばかり移る、といったものだ。

今回利用したのはこのパターン。

このパターンの場合、霊力は”物”だけでなく”生物”にも移る。

今回は探している猫に移った渡瀬の霊力をこうして探し、そしてうまく見つけることができたのだった。


「…それはわかったけど…。どうして最初からこうしなかったの?」

俺の説明も終わり、美里が疑問を投げかける。

「何でって、そりゃ…神経使うからだよ。今回すぐ見つかったのも運がよかっただけだしさ」

俺たち霊能力者でも思い入れのあるものには霊力を移してしまう。

これは誰にも防げない”自然現象”なのだ。

だが、俺たち霊能力者と一般人とじゃ霊力の最大値が違う。

つまり”移してしまう霊力の量”も全然違うのだ。

ただでさえ少ししかない一般人の霊力のさらにごく一部が移ったものをこの広い街から探し出すなんて

”砂漠にスプーン一杯分の砂糖を撒いたんで探してみてください(笑)”

と言われたようなものなのである。

今回は一日目で見つかったがそれは偶然で、本当は何日もかけて探すつもりだった。


「まあ、すぐ見つかったならなによりだ…。さ、行こうぜ」

俺はさっさと屋上を後にする。

「あ…待ってってば!」

それに美里、そして他の面子も続くのだった…。




「え~っと…? たしかこの辺だったよな?」

俺たちが訪れたのは、古くなって廃墟となってしまった神社跡だった。

「ずいぶん意味ありげなトコだなオイ…。さっさと見つけちまおうぜ」

俺の言葉に、その場にいるみんなが頷く。

俺たちは手分けして猫を探すことにした…。


「俊樹君、俊樹君」

しばらくして、晃が声をかけてきた。

「どうした? いたか?」

いや…この奴の雰囲気…。まさか…。

「この木陰とか人目にもつきにくそうですし、隠れて昼寝するのに適してませんか?」

晃はいつも笑顔のままそんなことを抜かしやがった。

「おー、確かにここなら隠れてサボってても誰にもバレない…ってちっげーよ! 何探してんだよお前はよぉ!? またお前の隠れ場所増えちまったじゃねぇかこの野郎!!」

夜中にもかかわらず、俺の声が木霊する…。

「アッハッハッハ。俊樹さんは元気ですねぇ」

「ああ…元気だな。…ならこの元気をテメーで発散させてやらあぁぁぁぁぁ!!」

はい、喧嘩勃発…───

「ちょっとあなたたち! 真面目に探してよ!!」

…するところを、美里にぴしゃりと止められた。

「…ハイ」

…なんだろう、この敗北感。


「俊樹さん、俊樹さん」

またしばらくして、今度は奈々美が話しかけてきた。

「…お前までくだらねぇこと言うんじゃねぇだろうな?」

「そっ…そんなことあるわけないじゃないですかっ! ほら、あれ…」

俺の言葉を慌てて否定した後、奈々美は茂みの奥を指差した。

「あ…」

そこに、いた。写真取りだして見比べてみる。うん、間違いなさそうだ。

「怪我してるみたいですよ…?」

「ん…」

近くで見てみると、確かに足を怪我している。

「なるほど…。だから帰れなかったのか」

「今、治してあげますね…」

そう言うと、奈々美は猫の傷口に手をかざし、そっと眼を閉じた。

「…」

途端、奈々美の手から明るく、そして暖かな光があふれ、傷口を優しく包み込む。

「あ…」

そんな光景を見て、俺は昔のことを思い出していた…。


「…はい。もう大丈夫ですよ?」

奈々美は集中を解き、優しい笑顔を猫に向ける。

猫はニャア、とひと鳴きすると、そのまま奈々美の腕の中に納まってしまった。

「あ…。どうします? 俊樹さん?」

そんな猫を見て、奈々美が俺に聞いてきた。

「…このまま渡瀬の家の近くまで連れて行けば良いんじゃないか?」

俺がそう言うと、奈々美は

「…そうですね」

そう言って頷いてくれた。

「…なんだか、前もこんなことありましたね?」

「…奇遇だな。俺も同じこと考えてたよ」

「え…。そうなんですか?」

俺の言葉に、奈々美が意外そうな顔をする。そのまま見つめあい、同時に笑みを浮かべた。




 あれは俺がまだ1年生だったころ、まだ依頼部を立ち上げて間もなかった俺は、霊力の素質のある生徒を探して回っていた。

そんな中、神社で巫女の手伝いをやっている坂本奈々美という生徒の情報を得た俺は、なんとか彼女とコンタクトをとろうとしていたところだった…。


 ある日の帰り、ちょうど奈々美の神社の前を通りがかったときに隅の木陰でしゃがんでいる彼女を見つけた俺は、なんとなく近くまで行って様子を見てみたのだった。

すると、そこには神力の治療術で怪我をした野良猫の傷を癒している奈々美がいた。

『なにしてる…お前…』

『え…!? ひゃああぁっ!?』

どうやら俺の存在に気付いてなかったらしい…。派手に驚いて、そのまましりもちをついてしまう。

『おいおい…大丈夫か? …ほら』

俺はそんな奈々美に手を差し出す。

『あっ…。ありがとうございます…』

奈々美は、恐る恐るといった様子で俺の手をとる。俺はそのまま奈々美の手を引いて立たせてやる。

立ち上がると、奈々美は頭を下げて礼を言った。

『あの…見ました…?』

多分さっきの術のことを言っているんだろう…。

『ああ、見たよ』

『ひうぅ!』

奈々美はそれを聞くと、絶望したような表情になり、そのまま泣く一歩手前まで表情を歪めた。

『…ったく…。神術しんじゅつを使うならもっと人気のないところでやれよ…』

『で…でも…。…って、あれ? なんで神術を…』

偶然にも、こうして俺は奈々美とのコンタクトに成功したのだった。

それからお互いのことを話したりして意気投合し、奈々美は今依頼部の接待係、そして俺たちの貴重な回復・援護役として頑張ってくれている。…まあ援護はさっぱりだが。

だが、個性的な面子揃いの依頼部メンバーの中で奈々美のピュアさは…なんかいい感じに癒しになっていた。




「はい、もう大丈夫ですからねー」

そう言って奈々美は抱きかかえていた猫を降ろした。

ここは渡瀬の家の近く。…何だかんだで結構遅くなってしまったな。

奈々美に降ろされた猫はもう一度ニャア、と鳴くと、そのまま夜闇の奥へと消えていった…。

「フフ…。”ありがとう”って言われちゃいました」

「”余計なお世話だったよ”って言ってたかもしれないぜ?」

嬉しそうに言う奈々美にそう言ってからかってやると、なんだか泣きそうな顔をされたので

「…わーったよ…」

と、俺はさっさと白旗をあげた。

…まったく、本当に子供みたいな奴だな…。

「…もう、1年になるんですね…こうしてみんなと一緒にいるのも」

ふと、奈々美がそんなことを呟いた。

俺が依頼部を立ち上げ、奈々美、晃、霞の3人を誘って、こうして仕事をこなしている生活もあっという間に1年になっていた。

仕事自体はそれほど多くはなかったが…もうこんな生活が当たり前になっている。

「新しく美里も加わったしな。また賑やかになりそうだ」

「そうですね」

そんなやりとりをしていると

「2人とも~! 帰るわよ~!」

後ろから美里の声。振り返ると、みんなが待っていた。

「おっと。…じゃ、帰るか」

歩き出す俺に奈々美は頷き、歩き出す。

「ねえ、俊樹さん」

「ん?」

途中、不意に奈々美が話しかけてきた。

「これからも、よろしくお願いしますね?」

そんなことを言ってくる奈々美に、俺は笑みを浮かべて

「もちろんだ、お前のノーコンも治さんとなぁ?」

そう言ってやった。

「…ぁぅ」

そんな俺の言葉に俯いてしまう奈々美。

…だが、そんなやりとりももう1年になる。

俺たちにとってはこんな日々が既に”日常”だったのだった…。

お久しぶりです。

ペースが落ちてきてるなぁ…。

なんとか一週間に一回は更新したいものです。

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