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三十三ノ話 「籠球」

 待ちに待った団体対抗競技。

そこに現れたのは反則級の実力派チームだった。

勝利に執着するつもりはなかった俺達だが、”ある理由”から、俺達は優勝に向けて全力で挑む事になったのだった…。

「トッポと木刀は禁止です」


 …。


「ですよねー」

「…じゃ、ないでしょうが!!」


 団体対抗競技であるバスケの試合前、準備をしていると、俺と晃が審判に目をつけられた。

 どうやら、俺が口に咥えているトッポと、晃の左手に握られている妖刀───鞘に納めていれば木刀に見える───が規則に引っかかっているそうな。


「…いやいやいや。普通に考えたらわかるでしょうに。…篠原はそのトッポを外せばいいとして、久遠君は───」

「えー。俺さ、トッポが5分以上口に無いと禁断症状で死に至るんだよね」

「だまらっしゃい。もしくは禁断症状で死になさい」

「酷っ!?」


 おのれ…トッポの素晴らしさが理解できんとは…何たることだ!!

 俺がギリギリと拳を握り締めていると、俺の側でその様子をじっと見詰めていた霞が、済ました顔で


「…死になさい」


 …なんて繰り返して言うもんだから、俺はしばらく


「( ゜Д゜)…」


 こんなんなってた。


「…真面目な話。どうするのよ? 晃君、その刀を持ってないと…───」

「…まぁ、終始持ってないといけないわけではないんだが…」


 着替えの時とかは普通に手放しているので、常に持ち歩いていなければいけない。何てことはない。…はずだ。


 …というのも、”死喰”に関しては俺や姉貴も伝承や資料等でしか理解していない部分が多いのである。

 詳細に関しては、”死喰”を封印していた村の唯一の生き残りである晃本人が一番詳しいと思うのだが…生憎とその辺りのことは全く思い出せないらしい。


 今現在わかっている事と言えば、晃は未だこの妖刀の呪縛に縛られており、一定距離以上離れると凄まじい苦痛が本人に伴う…ということくらいである。

 …不便と言えば不便だが、逆に言えば、”一定距離以上は離れてもいい”ということなのだが…さて…。


「…よし、じゃあ晃は後衛に変えよう。美里、お前が前衛な」

「え…」


 人差し指を突きつけて宣言する俺に、美里は若干驚いている。

 …まぁ、こうするしかないわな。


 とりあえず刀はベンチに置いておいて、晃にはそこから近いコート後衛付近にいてもらう。

 かなり守備範囲が限られてくるが…致し方あるまい。


「美里。やれるな?」

「え、いや…昨日の疲れが───」


  …ポン。


 俺は、何かを言いかける美里の肩に手を乗せる。

 瞳はどこまでも真っ直ぐ。美里の瞳をじっと見据えて、口を開いた。


「そうか、やってくれるか」

「何も言ってない!!」

「いや、仕方ないじゃん。奈々美に前衛が勤まると思うか?」

「…」


 2人して、奈々美をじっと見る。

 急に見つめられ、奈々美は頬を少し赤く染めて後退する。


「な…なんですか?」

「…無理ね」

「無理だな」

「ふぇ!?」


 一蹴。

 あんまりな扱いに、奈々美は涙目で固まる。


 …普段からミスの多い奴だ。自分から攻めるにはあまりにも荷が重い。

 …というか、後衛ですらマトモに働いてくれるのか心配だ。


 とにかく、奈々美は適任ではない事を理解してくれた美里は、わざとらしくため息を吐きながらも


「…わかったわよ。あんまり期待しないでよ?」


 そう言って了承してくれた。

 …別に、”奈々美が無理だから”という理由だけで美里を選んだわけでもないんだが。


「亮。そういうわけだから、頼んだぞ?」


 近くで話を聞いていた亮の肩に、俺は手を置きながら言った。

 亮は、どこか嬉しそうに


「おう! 任せとけ!」


 …と、ガッツポーズで返事をする。…まぁ、嬉しい気持ちもわかるのだが。


 美里と亮なら普段からのチームワークもいい。突出しがちな亮のサポートに適任だろう。

 そういう期待もあったから美里は適任だったのだが…さて、どうだろうか。


「亮。足、引っ張らないでよね?」

「何を! お前こそ、昨日の疲れでヘマすんなよ!」


 …うん。あれだけ仲がいいなら大丈夫だろう。


「さて…んじゃあ、改めて許可もらってくるぞ?」

「待ちなさい」


 踵を返す俺を、美里が呼び止める。

 …なんだ? まだ何かあるのか?


「…そのトッポは置いて行きなさい」


 美里が指差したのは、俺の口に咥えられたトッポ。


「…言ったろ? 俺はコイツを口に咥えてないと禁───」

「…死ねば?」


 …。


「…ゴメンナサイ」


………。

……。

…。


『団体対抗競技を開催します。第一試合の参加者は───』


 体育館にアナウンスが響き渡る。

 周囲を見てみると、かなりの人数の生徒がウロウロしていた。


 毎年の事だが、やはり参加者は多い。

 これが複数人の団体にまとまるとしても、かなりの数が参加しているのだろう。

 …だからこそ、この”団体対抗”が恒例と化しているのだが。


 確か…俺達の試合はもう少し先だ。

 ということで、俺達は参加者の邪魔にならないうちに体育館2回のギャラリーに移動する。


「優勝候補はー…バスケ部5人? 誰が勝てるんだよコレ…」


 参加している団体の情報は既に霞が収集済みだ。…手段は不明だが。

 現在試合をしている内の片方が”その”チーム。

 相手チームはまったく反応する事が出来ず、次々と点数を許してしまっている。


 無理もない…今回の優勝候補は、我が校のバスケ部レギュラー5名のチームだからである。

 まぁ…確実に勝ちに行くなら最も合理的ではある。が…いくらなんでもこれでは希望がなさ過ぎる。


「いくらなんでも反則だよなぁ…あれじゃ」

「…勝利が目的なら仕方のないことです」

「間違ってはいないけど…」


 美里が呟くのとほぼ同時に試合終了。

 相手チームは得点ゼロ。…最早勝負にもなってはいなかった。


「あちゃあ…これじゃあオレ達も勝てるか微妙だぜ?」


 勝つための狡猾さもスポーツには必要ではあるが…それ以前に俺達の実力がどこまで通用するかが気になる。


 俺達は単に”運動神経がいい”だけであって、現役でバスケをやっている人間の持つ”技術”は備わってはいない。

 所詮体育でやる程度のスポーツだ。日頃の戦いで身についた運動神経がなければやってられない。


「…霞。勝算、あると思うか?」


 俺は、隣でキーボードを叩く霞に問いかける。

 霞は試合中も表情を変えず、ただ黙々とキーボードを叩いていた。


「…まだ何ともいえません。が、勝利は少し難しいかもしれません」

「…だろうなぁ」


 霞は淡々と告げる。…まぁ、俺と同意見だ。

 ただでさえ晃が後衛で動きを制限されているこの状況だ。恐らくこっちが守らなきゃいけない状況も多いだろう。 


 問題は…後衛は動きの制限された晃と、奈々美が勤めている…という点。

 晃はともかく、奈々美がバスケ部の機敏な動きについていけるはずがない。


 …となると、中衛で立ち回る俺が、晃と守りに徹しなきゃいけなくなるだろうから…攻めの要は完全に亮のみとなってくる。

 美里は昨日の疲れもあるし、亮のサポートに回るだろうからだ。


「…藤原君がマークされれば…決定打に欠けます」


 俺が前に出ても良いが…ボールを奪われたときに守備が間に合わなくなる。

 この辺りは…もうその場の判断で決めるしかない。


「まぁ…決勝まで行かなきゃ当たらないってのが唯一の救い…か?」


 あのチームが途中敗退なんてありえないだろう。

 俺達と当たるとしたら…決勝まで行くしかない。


「…昼食の休憩時に彼らの弁当に下剤を混ぜる…という手も───」

「やめなさい。…ていうかそんなモン本当に出すな」


 ポケットから本当に出してるし…物騒だなオイ。


「まぁ、優勝はあくまで”出来れば”ですし。そんなに気張らずに」

「ですね~。私も精一杯頑張ります!」


 …と、こちらはのんびりとした意見。


 だが…晃も内心少し悔しいんだろうなぁ…。

 もう初期メンバーの連中は知っているが、晃も意外に俺と同じくらい負けず嫌いだったりする。

 流石に今回ばかりは我慢してもらうしかないが…。


「まぁ、晃の言うとおり、今回はあくまで”参加する事自体”が重要だからな」


 やることこそが重要…うん。まさに青春の醍醐味じゃないか。


………。

……。

…。


 …その後の試合は、ほとんど互角の勝負が多く、あの優勝候補のチームだけがいかに販促級なのかがよくわかった。

 …この様子じゃ、間違いなく決勝まで進むだろうな。


『1回戦最終試合を開始します。出場チームは───』


 アナウンスが響き渡る。

 いよいよ俺達の出番だ。相手チームの情報は…今までと同じの平均的なチーム。


 …まぁ、ウケ狙いでもない限りこういう競技には平均以上の連中しか出ないんだろうから、当然と言えば当然である。


「…特に気をつける相手でもありません。決勝までに体力は温存しておいてください」

「OK。ちゃっちゃと終わらせてくるわ」


 霞なりに気を遣ってくれてるのは十分判っているので、俺はそんな霞の頭にポン、と手を置いてやる。


 …相変わらず小さい。頭の先が俺の肩ぐらいしかないから、中学生でも通用しそうだ。


「…子ども扱いは嫌いです」


 ジト眼で睨んでくる霞。

 俺は苦笑しながらも手を離すと、他のメンバーに振り返る。


「…うし、行くか!」


 俺の言葉に、みんなは無言で頷く。


「篠原。待ちなさい」

「あん?」


 コートに進む俺の肩を、美里が掴んで止めた。

 おいおい…この期に及んでいったい何の───


「そのトッポは今すぐ飲み込みなさい」

「ん…」


 俺の口には、例によってトッポが咥えられている。


「だ───」


  ズコン!!


「フゴホッ!? …ゲホッゲホッゲホッ…ゥ…ウォェゲホッ!?」


 美里はいきなり俺の口のトッポを押し込んできた。

 突然の事で対応が遅れた俺はそのトッポの侵入を喉奥まで許してしまい…そこそこの大きさの固形物が突然喉を流れる感触に、俺は崩れ落ちて咳き込む。


「だ…大丈夫ですかっ!? 俊樹さん!?」

「ゲホッ…て…てめぇ! 美里! いきなり何を───」

「ト ッ ポ は 後 に し な さ い よ ね … ?」


 …抗議しようとした俺を、すごくドスの利いた声で牽制する美里。


 眼…眼がっ! 眼が怖いよぉっ!?


「スイマセンデシタ…」

「…よろしい」


 なんということだ…部長たるこの俺が…このような横暴に屈するとは…!!


「何たる…何たる屈辱…ッ!!」

「俊樹君。馬鹿面は良いので早く来てくださいよ」


 失礼100%の言葉に振り返ると、晃がいつもの笑顔で手招きしていた。

 …いつもの笑顔にしては…侮蔑の感情が見え隠れしていた。


「…ティッヤァ!!」


  ビュゥン!!


「おっと」


 駆け寄って膝を顔面に食らわせようとした俺を、表情を変えずに回避する晃。


「いきなり仲間割れですか? 暴力反対ですー(笑)」

「お前らゴメン。ちょっとメンバー1人減るわ」

「やめんか!!」


 …美里の一喝で、この場は収まる。

 …ええい、晃の野郎…ッ!!


「あの…始めてよろしいでしょうか…?」


 審判の生徒が、恐る恐る尋ねてくる。

 見ると、相手チームは既に準備を終えていた。


「…ええ。いつでも良いわよ…」


 美里は、なんだか昨日よりも疲れた顔でそう言った…───。


………。

……。

…。


  ピィィィーーー!!


「試合終了! 57-0で、”依頼部”の勝利!」


 審判の声で、ギャラリーに歓声が上がる。


『うおぉぉぉぉ! 坂本さぁぁぁん!!』

『久遠君ーー! 素敵ーー!』

『篠原君ーカッコいいーーー!!』


 …黄色い声も上がってる。


「すっげぇなぁ…流石はミスコン本選出場」

「篠原も久遠君も顔は良いもんねぇ…」


 黄色い声援が唯一上がっていない亮と美里は感心している。

 いや…よく聞くと、これは…?


「何人かお2人の名前も聞こえますよ?」

「霞のも聞こえるな…向こうからならベンチの霞も見えるのか」

「「え…?」」


 俺、晃、奈々美の声が圧倒的に多く感じるが、残りのメンバー3人の声も結構多い。

 まぁ、美里もミスコン本選出場だったもんなぁ…確か。

 亮は…かなり意外だが。


 …いや、まぁパッと見爽やかなスポーツ少年って感じだもんなぁ…わからなくもないか。


「嘘だろ!? 美里はともかく…俺も?」

「そうね、亮はおかしいけど…私も!?」

「え、酷くない、それ!?」


 …またなにやら言い合いを始める2人。


「2人とも、仲良しさんなんですね~」

「まったくだ…。ていうかうるさいなぁコレは…」


 元々容姿云々から依頼部メンバーが人気者揃いってのはわかってたが、ここまで目立たなかったのは、依頼部という存在がとことん”ひっそりしていたから”である。

 非公式で、部室も校舎の奥の奥───。認知度はとことん低い。


 まぁ…目立ちすぎるとそれはそれで動きにくくなるから好都合といえば好都合なんだが。


「うるさいって…コレはほとんど俊樹君の声援だと思いますよ?」

「はい…?」


 俺の呟きを聞いた晃が、妙な事を言った。


「ああ、やっぱり知らなかったんですね。俊樹さん。結構隠れファンが多いので」

「…嘘だろ?」


 ”隠れ”…?

 いや、確かにそれじゃあ気付かないのも無理はないのかもしれないが…。え、何で?

 俺のどこがいいの?

 確かにこういうことを言うと他の連中が”顔はいい”と良く言ってはいたが…それが原因か?

 特に人に好かれる要素が思いつかないんだが…?


「…まったく気付かなかった」


 俺が小さく言うと、晃も小さく笑って。


「多分、そういう所が俊樹君の魅力なんだと思いますよ? それがよくわかっている人が、すぐ近くにもいるのですが…ね」

「え? 何て?」


 最後の方は、声援にかき消されて良く聞き取れなかった。


「いえ…何でもありません。…さぁ、そろそろ戻りましょう」


 聞き返したが、晃は相変わらずの笑顔で小さく言っただけだった…───。


………。

……。

…。


「オイ藤原!! 何でお前みたいなのが”零命の高嶺の花”と仲良くしてんだよ!」


 ギャラリーに戻る途中、亮が知り合い2人に捕まり、質問攻めを受けていた。


 ”零命の高嶺の花”…何でも、俺達依頼部の初期メンバー4人を指してそう呼ぶらしい。

 奈々美や霞はミスコン本選出場なので言うまでも無いが、晃と…なぜか俺も含まれている。


 まぁ確かに、俺は自己評価が出来ないからともかくとして、残りの3人の容姿は十分だし、成績に関しても俺と晃は学力、運動共に平均以上。奈々美と霞は学力平均以上だから、そういう呼び名がつくのも不思議ではない…のかもしれない。


「別に何もしてないって! 大体、話してみるとみんな普通でオレ達と変わらないぜ!?」


 亮は慌てながらも知り合いに告げる。

 ”仕事”のことを除けば、亮の言っていることは間違いなく事実だ。

 成績が他より良かったり、容姿云々が良かったりとか、そういう理由からなぜか俺達を遠巻きに見る連中が多いが、別に俺達はそこらの生徒と何にも違わない。


 話しかければ普通に対応するし、他の生徒を避けているわけでもない。

 最近は依頼者の生徒が多かったが、それで知り合った奴らとは何度か会った時に言葉も交わすようになった。

 …確か、そいつらからも”意外と話しやすい人たちだった”と良く言われたっけか。


「「…」」


 相変わらず質問攻めを受ける亮を見つめる奈々美と霞。


「何ならいま亮と話してる連中に挨拶でもしてくるか?」


 そんなに話がしたいなら話しかけてくれりゃあいいと思うのだが…やっぱりそういうことじゃないのだろうか?


「…いえ。興味ありません」

「えっと…私は…」


 霞は相変わらずコミュニケーションに消極的。

 奈々美は…すこし遠慮がちだが向こうを気にしてる。…気を遣ってるな?


「そんなに行きたきゃ行って来い。そして亮を助けて来い」

「え───ひゃっ!?」


 俺は奈々美の背中を押してやる。

 その勢いで、奈々美は大きく前に倒れそうになる…が、何とか踏みとどまる。


「と…俊樹さん…?」


 振り返り、まだ何かを言おうとする奈々美に、俺はただ無言で頷くだけだった。

 奈々美はまだ何か言いたげだったが、やがて決心したように頷くと、くるりと向き直って亮たちのほうへと歩き出した。


「あ…あの…」


 しばらく亮たちの近くでオロオロしている奈々美。

 頑張って声をかけているが、小さくてよく聞こえていないようだ。


「…プッ」


 …で、それを見て吹き出す俺。

 …なんか、冷たい視線を後ろのほうから感じる。


「アンタ…面白半分で坂本さんに任せたの…?」


 美里がジトーと睨んでくる。


「いや…俺はただ”背中を押しただけ”だが?」


 奈々美は元々好かれやすい性格な為、本来ならもっと大勢の友人がいてもいい位だ。

 だが、同時に彼女はドジで引っ込み思案なところがあるため、なかなか他人に一歩を踏み出す事が出来ない。


 …そんな彼女にとって、恐らく”依頼部”とはとても居心地のいい場所であったのだろう。

 それは俺にとっても喜ばしい事であるので、それに関してはそう思っていてくれて一向に構わない。


 ただ、俺は奈々美に限らず、依頼部のメンバーには”この場所”に”依存”はしてほしくはなかったりする。

 あまりにも居心地が良いから、と。ただこの場所にしがみつくだけでは人は前には進めない。

 前に進む事が出来なければ、その先の成長もない。


 最近加入した美里や亮はその心配はないとは思う…が、初期メンバーの3人に関しては色々と抱えてるものもあるため、そういう部分も克服してもらいたいと思っていたりする。

 奈々美に関しては…今みたいに背中を押したりとかだ。


「…あ! 坂本さん! 坂本さんからも何とか言ってやってくれよ!!」


 しばらくして、知り合いの後ろでオロオロしている奈々美に気付いた亮が声を上げる。


「「え? 坂本さん!?」」

「ひゃっ…」


 その言葉に反応して即座に振り返る知り合い2人。

 突然振り向かれて、奈々美は少し驚いて肩がビクンッと跳ねた。


「あ…あの…えっと…」


 奈々美は少し緊張しながらも、少しずつ声を絞り出す。


「「…」」


 向こうも向こうで、妙に緊張した面持ちだった。


「あの…えっと…」


 もじもじしながらも声を発する奈々美。

 かなり時間が経ったが、ようやく奈々美が告げたのは───


「よ…弱いものいじめは…いけないと思います…っ!!」

「「「…は?」」」

「…ハァ…」


 …そんな言葉だった。

 亮含め、ポカンと口を開ける向こうの3人。

 そして俺は、思わずため息をついてしまっていた。


「え…弱いものいじめ?」

「…えっと…?」

「いや…そうじゃなくてだな? 坂本さん…」


 …。


「あ…あれ? …私…何か変な事を言いましたか…?」


 駄目だ…コイツ。自分が見当違いなことを言ったことにすら気付いちゃいねぇ…。


「仕方ない…行くか…」


 多分、このまま奈々美に任せてもロクなことにならないことを悟った俺は、小走りで奈々美の元へと歩み寄る。


「アホ。”助けろ”とは言ったが、別にいじめられてるわけじゃねぇんだよ」

「あうっ!?」


 そう言って、奈々美の頭をコツン、と叩いてやる。

 …その辺の話は後にするとして、ともかく俺はまず目の前の3人に向き直る。


「亮も言ってたと思うが、別に俺達は他の連中を避けてるわけじゃねぇんだから、いつでも話しかけてくれて良いんだぞ? ホイ、名刺」


 そう言って、胸ポケットから以前美里にも渡した事のある名刺を渡す。

 …さりげなく依頼部の宣伝も忘れない。


「え…コレ…?」

「依頼部…?」


 まだ事態が飲み込めず、キョトンとしている知り合い2人。


「ホラ、お前ら2人も宣伝しとけ。今度客になるかもしれないんだから」


 俺は、亮と奈々美に目で合図をする。

 それを聞いた2人は、慌てて向き直る。


「えっと…何か困った事があったら、いつでも来てください…っ!」

「最近ここにいるから、用があったら来てくれよな!」


 …。


「「はぁ…」」


 まだイマイチ混乱しているような知り合い2人だったが、ペコリと頭を下げて笑顔を浮かべた奈々美を見ると、その顔は一瞬で真っ赤に染まった。

 …うん。さすが依頼部ウチのマスコットだ…。


………。

……。

…。


  ピィィィィィィーー!


「…試合終了」

「圧倒的だなぁ…」


 ギャラリーに戻った俺達は、既に始まっていた2回戦の試合を観戦していた。

 出場チームの片方は…例のチームである。

 で、今しがた試合が終わったのだが、やっぱり結果は予想通り。最早説明するまでもなかった。


「現役のバスケ屋に勝てる気がしないわけだが」

「優勝賞品でも狙っているのでしょうか?」


 晃の呟きで思い出した。

 そういや、今回の優勝賞品はなんだったか…? 昨日のクラス対抗はカニだったよな…。


「確か…賞品は家電製品のセットだった気が…」

「金かけ過ぎだろオイ!?」


 カニに家電って…相変わらずフリーダムな学校だぜ…!


「…賞品の1つにエアコンがあります。部室に設置するのが目的かと」

「…あーなるほど。この季節に部室は熱いわなぁ…」


 ていうか…電気代云々はいいのか?


「僕達が優勝しちゃったらどうしましょう?」

「ああ…そういや考えてなかったな」


 晃の呟きを聞いて思い出した。

 適当に山分けしようかと思ったが…そうか…エアコンか…。


 ちなみに、依頼部部室にも当然ながらエアコンは存在しない。

 この季節、とにかく数台の扇風機で何とか凌いではいるが…暑いものは暑い。


 …。


「優勝して…部室に設置する!」

「同感だ!!」


 亮の宣言に、俺も立ち上がって同意する。

 バスケ部には悪いが…こちらもこの季節を乗り切るための設備はぜひとも欲しい…!


「掃除機もありますよ~。お掃除が楽になりますね~」

「そうね…あの部室を掃除するには、あると便利だわ…」


 女性陣は女性陣で、家電のラインナップに目移りしている。

 …どうやら、俺達は意地でも優勝しなくてはいけなくなったらしい。


「上等だ! バスケ部だろうが何だろうが、叩き潰して部室のグレードアップだぁぁ!!」


 …こうして、軽い気持ちで参加したにもかかわらず、いつの間にやら俺達は優勝する気満々になってしまっていたのだった…。

遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。

課題やら何やらでなかなか更新も出来ませんでしたが、ようやく一段落しました。

最近表と裏は小出しが多かったので、今回は頑張って眺めのを投稿してみました。

もちろん、~Hearts~もちゃんと更新していきたいと思っています。


ひとまずは、更新ペースを取り戻せるように頑張って行きたいと思います。

今年もよろしくお願いいたします。

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