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二十九ノ話 「夜明ケ」

激闘が終わって夜が明ける。

俺の目覚めは周囲とは違って遅く、その間にも確かに”黒い翼”は存在しているのだった…。


 ───ザク…ドシュ…!


 バァン! ダダダダダダダ…───


あかだった。


「うわぁぁぁぁぁ!!」


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」


…その景色を見て思ったのは、そんな簡素で飾り気のない事。


…鼻腔を擽るのは、突き刺すような血と焦げたような匂い。


…ああ、紅い。


…この視界も、身体も、…この腕も、何もかも───


 ───…ごめん、ね…約束…したのにね…───


…一番紅い”彼女”は、力なく微笑んでいた。


…”彼女”が何かを与えてくれたのかは、今となってはわからない。

…それは、これからもわかることはないのだろう。

…全てを理解するのは、今の俺には不可能となってしまったのかもしれない。

…身体には傷一つついてはいない、仮に、俺の”何か”が傷ついていたんだとするならば…───


 ───恐らく、この時から、俺は”心”というものが大きく抉られ、欠けてしまったのだろう…───


…ああ、本当に、紅い…。




   〈Another Side〉



「…篠原の様子はどう?」

神社の奥の部屋の一角。畳に座っている朝比奈さんに私は問いかける。

「…(フルフル)」

「…そう」


 ”鴉”の襲撃から夜が明けて今日。

昨夜、戦闘後の消耗もあって、私と亮はあの場から動けずにいた。

そこへ霊力を辿ってやって来てくれたのが坂本さん。

坂本さんの神術による治療の後、私たちは揃って神社に戻っていた。

…そこには、傷だらけの篠原を背負った久遠君と、心配そうにそれを見つめる朝比奈さんの姿があった。

坂本さんは慌てて篠原の治療を始めたが、傷も毒も感知したのに篠原は目を覚まさない。

その事を沙希さんに伝えると、沙希さんはすぐに来てくれた。

沙希さんの話によると、「霊力に乱れがあるから、恐らくは”精神的な何か”が原因で目を覚まさないのだろう」とのこと。

結局その時は深夜ということもあって、私たちは篠原を神社に預けて帰路に就いた。


 …私たちがいくら死と隣り合わせの戦いを繰り広げても、それが世間に知られる事などは無く、学校はいつも通りやってくる。

篠原はもちろん欠席。それの看病をしている坂本さんも欠席。亮は戦闘での怪我がひどくて学校にはこれなかった。

…意外だったのは、朝比奈さんが欠席していたと言う事だ。

一緒にいた久遠君が平気そうだったから、戦闘での消耗…とは考えにくい。

そう思いつつ放課後に神社に様子を見に行くと、そこにはやはり朝比奈さんがいたのだった。

「…部長。傷だらけでした。危険だからとあんなに言ったのに…無茶をして…」

呟き、目を細める朝比奈さん。

…そう、現在私たち依頼部は6名。あの時坂本さんが神社に残っていた以上、3チームに分けるなら当然誰かが1人で行動しなければいけなかったのだ。

篠原は未熟な私たちには任せられない、と自分が単独で行動すると言った。

あの状況で単独行動どれほど危険かは素人の私でもわかる。

篠原の単独行動に一番反対していたのも朝比奈さんだった。

私は篠原の実力を良く知っていたから、信頼と言う意味もあってあまり強く反対はしなかったけれど…やはりこういう結果となると、あの時引き留めなかったことが悔やまれる。

「本当に…バカです」

いつも涼しい顔できつい言葉を発する朝比奈さんも、今回ばかりはその勢いは弱弱しい。

「…」

私は、眠り続けている篠原の顔を見る。

沙希さんの話では、一時的なものだから、近いうちに目を覚ますとは言ったけれど…

「みんな心配してるってのに…何やってるのよ…」

私は、未だ眠っている俊樹に向かって、小さく呟いたのだった…───




「朝比奈さん、ちゃんと休んでる?」

翌日も朝比奈さんは欠席。神社を訪れると、やはり朝比奈さんは篠原の眠っている布団の側に座っていた。

「…大丈夫です」

「朝比奈さん。朝早くから来てくれるのはありがたいのですけど…やっぱり少し辛そうです」

その横にいる坂本さんも、不安げに呟く。

「…そう言う坂本さんも辛そうだけど?」

「…い、いえ! そんなことはないですよ!?」

私の指摘を慌てて手を振って否定する坂本さん。

(わ、わかりやすい…)

坂本さんも毎日神術で篠原の治療を行っている。

外傷は感知したのに、意味あるのかと最初聞いたところ、どうやら霊力の循環を安定させる効果もあるらしい。

身体面だけでなく、霊力に関わる精神面でも治療して初めて霊能力者にとっての”治療”といえるのだそうだ。

「…私が出来るのは、こんなことしかありませんから。いつもドジばかりですけど、こんな時くらいは…」

坂本さんは、そう言って胸の前でぎゅっと両手を握った。

「”こんな時”、か…」

皆が篠原のことを心配している。それは同じだ。…けど、多分この2人が一番彼のことを心配しているのではないだろうか。

ついこの間メンバーに加わった私たちよりも、ずっと…───

「…お邪魔します、と…美里も来てたのか」

「みなさんお集まりのようで」

声に振り返ると、亮と久遠君が部屋に入ってきた。

「まだ起きませんか?」

久遠君の問いに、坂本さんは力なく首を振る。

「いつも寝てばかりでしたが、今回は随分と長いですねぇ」

久遠君はいつもの笑顔のまま茶化して言う。

でも、みんなわかっている。久遠君も笑顔こそ浮かべてはいるものの、やっぱり篠原の事が心配なのだ。

「それにしても…2人ともすっごい健気だよなぁ…毎日毎日こんな美少女に看病してもらえて、羨ましいったら…」

「そ、そんなっ! び、美少女だなんて…そんなことは…」

「…」

亮の一言に、慌てた様子を見せる坂本さん。

それに対して朝比奈さんはただ無言で亮を見詰め返すだけだ。

「…な、なに? 朝比奈さん? オレ、なんか変なこと言った…?」

「…(ジトー)」

「う…な、なに…?」

「…(ジトー)」

「う、ぐ…」

「…(ジトー)」

「ああもう、悪かったよ! 変なこと言って悪かったって!」

あ、そこ謝っちゃうんだ。

そんなやり取りで、少しだけ場の雰囲気が和やかなものに変わる。

無意識的なものかもしれないけど…亮のこういうところは一種の才能なんじゃないかとさえ思う。

普段は冴えないけど、亮のそういうところは私も好きだった。




   〈Another Side Out〉




「う…ん…?」

眩しい光のようなものを瞼越しに感じて、俺はゆっくりと眼を開けた。

「ここ…は…?」

頭がまだぼんやりとしていて、いまいち現在の自分の状況を把握できていない。

まず視界に飛び込んできたのは、見覚えのある天井。

…ていうか、ここは…奈々美の神社、か?

あれ? 何で俺、神社に…───

………。

……。

…。

「───!!」

夜の出来事が一気に脳内に呼び起こされ、俺は即効で上体を起こし───

パキ!

「あ゛っ…! ぐ、つぅぅぅ…!」

間接がイイ音を立てて鳴り、俺は地味な痛みに表情を歪める。

…身体がやたらと気だるい。試しに間接を曲げてみたら、どこもイイ音が鳴った。

…今度は覚悟してたから痛みは無いぞ?

「どんだけ寝てたんだ、俺…?」

外を見てみると、そろそろ昼ごろだろうか?

この身体の鈍り具合から、あの夜から数日経ったと考えていいのだろうが…───

「…ん?」

ふと、自分の寝かされている布団の上に重みを感じて、俺は視線を下げてみる。

「あ…」

「…すー…すー…」

そこには、霞が静かな寝息を立てて眠っていた。

…この様子じゃ、しばらく側で看ててくれていたのだろう。

…いつもはきつい発言が目立つのに、やっぱりこのショートカットに眼鏡の小柄な少女は子供っぽく見えてしまう。

「…黙ってりゃ可愛いと思うんだがなぁ…」

と、本人に面と向かって言えないような事を呟きながら、そっと寝ている霞の頭に手を置いた。

「う、ん…?」

「…と」

それで起こしてしまったらしい。

霞はゆっくりと瞼を上げ、眼をこすりながらきょろきょろと周囲を見渡していた。

「悪ぃ、起こしちまったか?」

「え…? いえ…───」

…と、そこまで言って、俺と眼が合う。

「…」

「…な、何だよ?」

霞は珍しく驚いた表情のままで固まってしまっていた。

「俊樹…さん?」

「おう、俊樹さんですが」

俺がいつもの調子で答えると、霞は眼に涙を浮かべて

「…俊樹さん…っ!」

ぎゅっと胸に飛び込んできた。

「うぉう! どうしたんだよ、いきなり!?」

「俊樹さん…っ! よかった…本当に…!」

俺の胸にしがみつく霞の手は、細かく震えていた。

…ああ、なるほどな。

俺はポン、と再び霞の頭に手を置く。

「…心配かけたな。お前にも、みんなにも」

「…本当です…! 1人で無茶ばかりして…!」

「あー…うん。悪かったって」

随分と心配をかけていたらしい。この様子じゃ他の面子も同じか…。

こいつらがいる限り、絶対死ねないな…。と、俺はそんな事を考えていたのだった。


………。

……。

…。


「ここ…奈々美の神社だよな? 俺、どのくらい寝てた?」

「…4日間です」

霞が落ち着いてから、俺は現在の状況を聞いた。

あれから”鴉”は撤退。俺は重症で意識を失っていた、と…───

「…また、仕掛けてくるでしょうか?」

霞の心配は、どちらかというと”また俺が無茶をするかもしれない”といった類のものだろう。

「さあな…ただ、亮と美里が1人追い払ったんだ。そう簡単に仕掛けてはこないとは思うが…」

俺は霞からトッポの箱を受け取り、一本口に咥える。…うん、旨い。

「…ま、今は他の連中に復活宣言しとかないとな。霞、奈々美を呼んで来てくれるか?」

霞はコクリと頷くと、部屋を出て行った。


「…いい”家族”に恵まれてるな、俺は…───」


俺は、誰にでもなく呟いた…───




   〈Another Side〉




「幻。お前までもが失敗するとは予想外だったな」

闇の堕ちる空間。

そこには、閃と幻。そしていくつかの人影が佇んでいる。

「予想外だったのはこっちよ…アノ子。もう少しで殺せそうだったのに、ホント残念」

幻の口調はいつも通りだが、やはりどこか悔しそうに見える。

「まぁまぁ。あれは幻の失言が原因でもあったんだしね? あんまり悪乗りしちゃだめだよ?」

子供っぽく、若い男の声が響く。

「…見てたの? ”しょう”」

「そりゃあね。…それにしても意外だったのは───」

”召”。そう呼ばれた少年は閃の方に視線を移す。

「閃が返り討ちだったってことかなぁ」

「…」

「相手は未熟な霊能力者2名だったのだろう? 油断したか?」

男の声が響く。

閃は何も答えず。ただ眼を閉じで沈黙していた。

「…どうしたの? 閃」

幻はそこにいつもと違う様子を感じ取ったのか、声をかける。

「…藤原 亮」

閃は短く、低く呟いた。

「…? 相手にした彼の名前かい?」

召は、閃に問う。

「…奴とはいずれ必ず決着をつける。…必ずだ」

閃はそれだけ言うと踵を返し、暗闇へと姿を消した。

「…アララ、火が点いちゃったわね」

幻は呆れたように呟く。


───…闇夜では、人知れず”黒き翼”が月明かりを覆い隠していた…───




   〈Another Side Out〉

更新遅れて申し訳ありませんでした。

最近~Hearts~含め、感想やお気に入り登録が増えてきて嬉しく思っております。

こんな作品でも応援していただける方がいるのなら幸いです。


今後とも、よろしくお願いいたします。

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