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十九ノ話  「”暴走”」

何も理解できない。

けど、理解する必要なんてない。

…考えることはただ一つ。

…今のオレは、ただその”想い”だけを胸に抱いていたのだった…。

   〈Another Side〉




「美里に…触れるんじゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


───そう叫ぶと同時に、オレの中で、”何か”が弾けた。

身体中に迸る”力”。

濁流のように駆け巡る感覚。

オレの意識のほとんどがその濁流に呑まれて消えていくのを感じていた。

…考えることは、ただ一つ。


「…お前を倒して、美里を助ける…っ!!」


───そう言葉を発すると同時に、身体を駆け巡る感覚がさらに増していくのを感じていた───。




   〈Another Side Out〉




「ッ!? これは…!?」

戦闘は今だ激化している。

あの場は何とか持ちこたえてくれているあいつらを信じて、俺は1人男どもを蹴散らしながら美里を探していた。

「霊力がかなり微弱になってやがる…。危ない状態なのか…?」

俺はその微弱な霊力を何とか辿りながら進む。

そのすぐ近くには禍々しい霊力。

…このままじゃマズイ。急がないと…!

その時だった。

微弱な霊力のすぐ近くから発生した膨大な霊力。

今まで何も無かった場所から発生したその力に、俺は動揺を隠せなかった。

(これだけの霊力、一体どこから…!?)

禍々しさと言うよりは…感情の昂り…?

敵ではないとは思いたいが…。

「邪魔だってんだよ!」

俺は立ちはだかる男に向かって駆け出した…。




   〈Another Side〉




「…亮…?」

「…これは…!?」

私も男も突然変化した亮の様子に動揺を隠せなかった。

あれは…霊力…?

でも亮から霊力なんてほとんど感じなかったし、なにかあったら篠原が言うだろうし…。

「今まで隠していた…? いや…それにしてもこの量は…!?」

男の言うとおり、量の霊力は未熟な私にもわかるくらいの量だった。

「美里から…、離れろ…ッ!!」

亮はそう言うと身を屈めて一瞬で男の懐に潜り込んだ。

「なっ…!?」

男は何とか繰り出される拳を手で弾く。

「くっ…ッ!」

一旦後ろに跳んで距離を置こうとした、が…。

「逃がすかぁっ!!」

亮はその動きにすら対応して男に張り付き…

ドゴォッ!!

「が…は…!?」

男の腹に、亮の拳が叩き込まれた。

吹き飛ばされ、壁に衝突する。

その様子を私はただ呆然と見つめていた。

(なんで亮が…? それに、いきなりこんな…)

私を助けに現れて、突然膨大な霊力を放出して男を圧倒する亮。

正直、脳がまだ全てを把握し切れていなかった。

「ハァッ…ハァッ…!」

「う…ぐ…」

男はよろよろと立ち上がる。

亮も私を庇うように立つ。どちらも消耗しているようだった。

「油断した…。まさかこれほどの霊力を隠していたとはな…」

「んなもん知るかよ…! お前を倒して、さっさと美里を───ッ!?」

男の呟きに、亮がそう言って一歩踏み出した時だった。

「亮…!?」

「ぐ…ぁ…なんだよ…これ…ッ!?」

突然頭を抑えて苦しみ出す亮。

「ぐ…あ…ああぁぁあぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁああぁあぁ!!??」

「なっ…。これは…!?」

叫び声と共に亮からさらに溢れ出す霊力。

それは留まることなく、やがて亮もそれに包まれて…───。

「うあああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁあああ!!!」

「ちょっと、どうしたのよ! 亮っ!?」

この霊力の量…。ひょっとして亮、制御できていないんじゃ…!?

「っ! …ここまでか…」

男は何かに気付いた様子を見せると、こちらを一瞥した後、崩れ落ちた壁から飛び出し、姿を消した。

「なっ…ちょっと…───」

「美里、無事か!?」

待ちなさいよ───そう言う前に聞こえてきた声。

振り向くと、向こうから篠原がこちらに向かって駆けて来ていた…。




   〈Another Side Out〉




「あそこか!」

俺は敵を蹴散らしながらもついに霊力の発生源にたどり着く。

その空間に足を踏み入れようとしたその時───

「うあああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁあああ!!!」

突然聞こえてきた聞き覚えのある叫び声。

そして押し寄せる膨大な霊力。

それと共に禍々しい霊力の持ち主はどこかへ消えたようだが…。

「なんだよ…これ…!!??」

俺はその霊力の発生源へと目を向ける。

(あれは…藤原亮…!?)

一般人の彼がなんで結界の中に───

「…まさか…”潜在型”か…!?」

突然現れた藤原亮の存在に、俺は1つの仮説を立てた。

(もしそうだとしたら…急いであいつを止めないと…!)

「美里! とにかくこっちまで来い!」

俺はなんとか押し寄せる霊力の流れに抗って美里に近寄ろうとする。が…

「美里に近寄るなあああぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁあぁぁ!!」

藤原亮がそう叫ぶと、美里を守るかのように彼の霊力が俺を押し戻そうとする。

「く…そ…!!」

「ちょっと亮っ! どうしたって言うのよ!?」

美里はそんな彼に向かって必死に呼びかける。

「無理だ美里! コイツ完全に”暴走”してやがる!!」

「”暴走”って…久藤君と同じ…!?」

俺の言葉に、美里が信じられられないといった様子を見せる。

「違う! 霊力を制御できてねぇんだよ!!」

俺は押し寄せてくる霊力に必死に耐えながらも美里に向かって叫ぶ。

「何とかしてそいつの動きを止めろ! このままだとそいつ死ぬぞ!!」

これだけの量だ、制御できずに呑まれるような事になれば…!

俺の指示に、美里はどうしていいのか迷ったような表情を浮かべたが、すぐにはっとなって”拘束”の霊札を取り出す。

「くっ…!」

「な…んだよ…これは…っ!?」

美里が発動させた”拘束”の術式のおかげで一瞬動きを止める藤原亮。

よし、今だ…っ!!

「ちっと痛ぇが…我慢しろよ…!」

俺は即座に彼の懐に飛び込み…

ドスッ…

「く…は…」

鳩尾に鋭い手刀を叩き込んだ。

崩れ落ちる藤原亮。それと同時に霊力もその流れを止める。

「亮っ…!」

崩れ落ちた彼に駆け寄る美里。

「安心しろ、気を失ってるだけだよ」

…なんとかこの場は乗り切れたな…。

「俊樹さんっ!!」

振り返ると、奈々美たちが駆け寄ってきていた。

「お前ら、無事だったか」

俺は元気そうなみんなの顔を見てほっと胸を撫で下ろす。

「突然膨大な量の霊力が発生したかと思うと、男たちが次々と倒れていったんですよ」

やっぱり術で操られていたのか…。操っていたのはおそらくさっきの…───。

「…先ほどの霊力は、彼が?」

そう尋ねる霞に、俺はゆっくりと頷く。

「これからどうしましょう…?」

不安げな奈々美の声に、俺は少し考えた後

「とりあえず撤収しよう。今回のことは不可解なことが多すぎたからな。早くここを離れたほうがいい」

俺はそう言うと、早々に撤収する準備を整えるのだった…。




「…ねぇ、亮も霊能力者の素質があったって事なの?」

俺たちはとりあえず学校の部室に移動していた。

流石にこんな状態の彼を送り返すわけにもいかないしな…。

「…まあ、そうみたいだな」

俺は美里の質問に答える。

美里も動揺が隠せないようだ。

「なんで…? 篠原たちでさえ気付かなかったなんて…」

「気付けなかったのも無理はないさ」

俺の言葉に、美里は怪訝そうに顔を上げる。

「こいつは”潜在型”だったってこと」

本来、素質のあるものは常人よりも霊力が多い。

だが、彼のように素質があるのに霊力が潜在してしまっているケースがある。

こういったケースは”潜在型”と呼ばれ、いわば霊力が眠ったままという状態だ。

霊力が眠った状態でそれを判別するのはほぼ不可能。霊力が眠ったまま生涯を終える人間も少なからずいる…と思う。

「その眠った状態の霊力が覚醒する”条件”は様々だが…主に”感情の爆発”だな」

「…それって」

どうやら思い当たる節があるらしい。…当たりだな。

「”覚醒”自体は問題は無い。こうやって保護してお前みたいに鍛えてやればいいだけだしな。…ただ」

”潜在型”は皆一様に膨大な霊力を持っている場合が多い。こいつも霊力の量だけなら恐らく俺たちの中でトップだ。

…だが、それが自身を滅ぼす原因にも成り得る。

膨大な”力”を今まで極小さく凝縮して抑え込んでいた状態なのだ。

その”抑え”を失ったら、今まで凝縮されていた力がどうなるか…。

「抑え込まれていた霊力は一気に溢れ出し、感情の昂りで冷静さを失った能力者の制御をすぐに離れる。暴走した霊力はやがてその持ち主すら呑み込み、最悪…死に至る」

それだけじゃない。感情の昂りによって自身を滅ぼした人間は負の感情にまみれ、その膨大な霊力を抱えたまま高確率で妖魔になってしまうのだ。

「…とにかく、”潜在型”は判別が難しいからほとんどの場合”覚醒”してから───つまり後手に回ってしまう。すぐに意識を奪ってでも霊力を止めさせないと…」

そこまで言って、最悪の可能性を想像したのか、美里が俯く。

「…ま、今回のことはイレギュラーが多すぎたからな。”日ノ輪”に報告しておくとするさ」

俺はそう言うと、今咥えているトッポを噛み砕いて新しいものに変えた…。




   〈Another Side〉




「…失敗したか」

闇が堕ちる空間に複数の人の気配。

「…申し訳ありません」

その中に、先ほどの男の姿があった。

「まあ仕方ないんじゃない? 私たちですら”潜在型”の存在は判別不可能なんだから」

女の声が響き渡る。

男はただ無言で佇むだけだ。

「…まぁいい。この程度のミスは修正可能だ。次に期待するぞ、”せん”」

「…御意のままに」

閃。そう呼ばれた男は一礼して去って行った…。

「…よかったのかい?」

若い男の声。

「構わん。我らの目的は”無益な殺生”などではないからな」

やがて月明かりが空間を薄く照らし、人影を浮かび上がらせる。

「全ては、我ら”からす”の為に」

中央の男がそう言って天を仰ぐ。


───月明かりが消え、空間を再び闇が支配する頃には、一切の気配が消え去っていた───。




   〈Another Side Out〉

廃ビル編は完結です。

謎の男と組織。

物語は緩やかにも進んでいきます。

ちなみに次回は新キャラ登場予定です。

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