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十八ノ話  「”胎動”」

美里を追ってここまで来た。

けれど、そこで待っていた光景はわけのわからない”非日常”。

その中で振り回され、感情が爆発した時。

オレの中の”何か”が産声を上げようとしていたのだった…。

ガキン…ガキィン!!

「くっ…そぉ!!」

ドガァ!

目の前の男を拳で吹き飛ばす。

不意に背後から殺気を感じる。

「くっ…!」

身体を反らすと、顔の真横をナイフの刃が掠っていった。

その男を裏拳で殴りつけ、周りの様子を観察する。

晃は…奈々美を守ってるか。

霞は…高台から男たちを迎撃してる。

「って…あれ…?」

そんな中、一番身の安全が不安な美里がいないことに気付く。

やばい…この状況ではぐれたってのか…!?

「チクショウ…!」

慌てて駆け出そうとした俺を取り囲む男達。

くそ…どこからこんなに湧いて出やがったんだ…!?

「そこをどけっての!!」

俺は男たちに向かって駆け出した…。


 俺たちはあれから続々と押し寄せてくる敵を迎撃する為に場所を移動した…筈だったんだが。

(誘導されてるな…これは)

開けた場所には出たが、廃ビルの中から脱出できていない辺り、上手く誘導されたと考えるべきだろう。

大方、あのまま俺たちを屋上まで移動させて完全に袋小路に追い込むつもりだったんだろうが…。

「どの道、このままじゃまずいよ、なぁっ!!」

向かってくる男を殴り倒す。

この男たちもなんだかおかしい。

瞳に生気が宿っていないし…どんだけ殴り倒しても立ち上がってくる。まるでゾンビだ。

操られてるのか…死体が動いているのか…。

(何にせよ…不可解なことが多すぎるな…)

ブォン!

「うぉぅ!?」

などと考えていたら突然拳が飛んできた。

間一髪で避けた…のだが。

「あ゛っ!?」

無茶な体勢で避けたからポケットからトッポの袋が…!

バキィ!!

そして無残にも踏まれて砕け散る俺のエネルギー源。

「うおぉぉぉぉやっちまったあぁぁぁぁぁぁぁ…」

がっくりと項垂れる俺もお構いなしに男たちは襲い掛かってくる。

「…トッポの敵だぁ! テメーら覚悟しろやあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

…早く美里を探さないと…。




   〈Another Side〉




「くそ…何なんだよ、ここは!」

現在は廃ビルの2階。壁や天井が崩れて剥き出しになった広い部屋の前にいる。

喧騒は上に移動したようだが、廃ビルの中には人がいた。

だがどいつもこいつも瞳に生気がなくて、どうにも異様な雰囲気だ。

ここまで何とか見つからずにこれたものの…美里はどこにいるんだろう?

ここに近づくにつれて、次第に美里の気配のようなものが強くなっている。

今もそれを辿ってここまで来た。根拠はない、けど、確かにここに美里がいる。

オレは広間に慎重に足を踏み入れる。

崩れた壁から月明かりが差し込んで部屋の中を明るく照らす。

オレは警戒しながらも、ゆっくりと歩を進めていく。すると…

「…?」

喧騒の中からわずかに聞こえてくる、静かで、でも早い誰かの息遣い。

オレは物陰に身を隠し、そっとそちらの方を覗いてみた。

「…!」

そこには、確かに美里がいた。

相当疲労しているのか、ぐったりと壁にもたれかかって荒い息を吐いている。

「美っ───」

…そう声をかけようとしたところで、美里の近くに人影が現れた───。




   〈Next Another Side〉




「ハァッ…。ハァッ…」

どこをどう走ったかもわからない。

身体は悲鳴をあげ、もう走る体力もないくらいに疲弊していた。

あれから私は篠原たちに守られながら移動していた。…筈だった。

いつそうなったのかはわからない。が、私は確実に篠原たちから分断されていっていた。

戦闘に集中している篠原たちがそんな私に気がつくのはおそらくもう少し先になるだろう…。

そう思った私は、篠原たちとは別の方向へ向かって走り出したのだった。

幸いにも男たちはほとんどが篠原たちの相手で手一杯になっている。

私を追ってきた男たちも、この廃ビルの入り組んだ構造のおかげでうまく撒くことができた。のだが…。

「流石に今見つかったら…」

不安定な足場のせいもあって、私自身もう走る体力が残っていない。

元々こんな状況で戦力になりはしないことは私自身が一番よくわかっている、が、ならばせめて足手まといにはなりたくなかった。

「カッコつかないわよね…これじゃ…」

とにかく何とかこの場所から離れないと…。そう思って軋む身体を起こそうとした時だった。

「見つけたぞ」

突如聞こえた男の声───と同時に、私の前に黒いコートを見に纏った男が立っていた。

「なっ…!?」

私は驚きながらも即座に後ろに跳んで男から距離をとる。

これも日々の訓練で身についたものだ。

そんな私の動きを見て、男は

「ほう…。まったくの素人、というわけでもなさそうだ」

と、呟いた。

鋭く、意志の強そうな瞳は美しくもある。が、この霊力の禍々しさ…。

意志が強いからこそ、その禍々しい霊力にも強い意志を感じる。

(まずい…)

勝てるわけがない。

私はこの人の足元にも及ばない。

本能がそう告げる。

鼓動が早くなっていく。

「あなた…何者?」

それでも私は勤めて冷静に男に問う。

男はそれに対して表情を変えずに

「答える必要はない。…教えられることがあるとすれば、”一番未熟なお前を孤立させ、始末する”…といったことくらいか」

「ッ…!」

それだけ告げると、男の霊力が解放された。

禍々しい、意識を持っていかれそうなくらいの禍々しさが私を包み込む。

「…行くぞ…!」

「!!」

男はそう言うと、重心を低くした後、一瞬で私の前まで跳躍してきた。

「くっ!?」

私は軋む身体を必死に動かして、繰り出される拳を避ける。

脚、拳、そのどれもが鋭く。今の私が一撃でもマトモに食らえばタダじゃ済まないことは明白だ。

(けどこの人の動きは…避け切れないほどじゃない…!)

早いが、回避できない程ではない。

何とかこのまま隙を見つけて、足を止められれば…!

そう思った矢先に、上段からの拳の振り下ろし。

(よし、今だ…!)

大きく回避されて隙だらけの男に、私は”拘束”の術式を発動しようとして───。

ガッ!!

気付けば男は私の背後に移動しており、鋭い回し蹴りが私の脇腹を抉っていた。

「なっ…かっ…!?」

鈍い衝撃と、身体の中身が搾り出されそうな感覚と共に、私は吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。

「う…ゲホッ…ゴホッ…!!」

「ほう、今のでも意識を保つか。大したものだ、見くびっていたよ」

むせ返る私を見下ろしながらそんなことを言う男。

「舐めるんじゃ…っ…ないわよっ…!」

私は必死に強がって見せる。

が、さっきの一撃で既に身体は言うことを聞かなくなっている。

蹴られた脇腹は未だ鈍い痛みが残っている。

男は今だ折れない私を見て、感服したように

「…よかろう。お前のその強い意志に敬意を表して、一思いに殺してやるとしよう」

そう言って、右手に霊力を収束させる。

(…ここまで、か…)

身体は動かない。どうやら私はここで死ぬようだ。

…みんな、ゴメン…。

私が諦めと共にゆっくり瞳を閉じようとしたところで───

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「「!?」」

突如響き渡った聞きなれた叫び声。

慌てて瞳を開けると…───。

「させるかあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

鉄パイプを振りかぶり、背後から男に襲いかかる亮の姿が目に映ったのだった…───。




   〈Next Another Side〉




「させるかあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

オレはすぐ近くに落ちていた鉄パイプを振りかぶって男の背中に襲い掛かる。

正直もう何がなんだかわからなかった。

いきなり美里の近くに男が現れて。

美里の身のこなしが信じられないくらい良くなっていて。

美里が吹っ飛ばされて。

男の右手には変な光が収束していって。

───美里が危なくて…!!

とにかく美里を助けないといけない。オレはそれだけを考えて男に向かって駆け出していた。

男に向かって振りかぶった鉄パイプを遠慮なく叩き落す。

が…

「っ…」

ガシィ!

男は身を捻って鉄パイプを掴む。

「くっ…このっ…!?」

オレは掴まれた手を振り解こうとする。が、鉄パイプはどれだけ力を入れてもビクともしない。

(なんつー馬鹿力だよ…!?)

「…フンッ!」

男は腕を大きく動かす。

オレは鉄パイプごと振られ、そのまま地面を転がる。

「く…っそ…!」

何なんだよ、コイツは…!

ここに来るまでに見た異様な男たちもそうだったが、コイツはそれとはまた別の意味で異質だ…!

「…? もしや、お前…」

よろよろと立ち上がるオレを見て、男が何かに気付いたように呟く。

「霊力が無いのか…? どうやってここに入ってきた?」

男はわけのわからないことを聞いてくる。

「どうやって? まっすぐ入り口からに決まってんだろ!」

オレはそれだけ言うと、再び男に向かっていこうとする。

「ちょっと…亮っ…いいから逃げなさい…!」

男の後ろで美里が叫ぶ。

逃げろだって? 馬鹿言うんじゃねぇよ…!

「逃げられるわけねぇだろ!!」

「…やめておけ、お前では時間稼ぎにもならん。今なら見逃してやる」

男はそんな俺を見て言う。

…そうだな、多分オレじゃあ勝てない。

そのくらいは今ので十分悟ってるさ、けどな…。

「ここまできて、無様に逃げられるわけねぇだろうが…!」

オレは強い意志で叫ぶ。

そんなオレを男は心底呆れた様子で

「俺は弱者を嬲る趣味は無い。勇気と無謀はまったく違うぞ? 小僧」

表情を変えずに告げる。

弱者…。弱者か。…そうだな。けどなぁ…!

「オレにだって意地があるんだよ!!」

おれはそう言って駆け出す。

時間稼ぎにもならん。そう男は言ったが…なんとしても美里が逃げる時間くらいは稼がないと…!

オレは拳を振りかぶり、男に突き出す。が…

ガッ!

「なっ…!?」

男はアッサリとその拳を掴み…

「フンッ!!」

───腹に鈍い衝撃が走った。

「が…」

「亮!!」

美里の悲痛な声が響く。

オレはそのまま美里のように壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられる。

化け物だ…そう思うしかなかった。

たった一撃でオレは身体がまったく動かせなくなってしまっていた。

「邪魔が入ったな…」

男はオレを一瞥すると、そのまま先ほどのように右手に光を収束させる。

「今度こそ…!」

男はゆっくりと右手を振りかぶる───。

(なん…だよ…)

結局、成す術無しじゃねぇか…!!


……ン…


美里が死ぬかもしれない。そう思ってここまでやってきた。その予感は間違って無かったってのに…!


…クン…


結局オレは何にもできなくて…! 黙ってみてることしかできなくて…!


ドクン…


時間稼ぎにもならなくて…!! 一瞬でやられて…!!


ドクン…ドクン…


なんで何にもできないんだよ…!! こんな時に助けてやれなくてどうするんだよ…!!


ドクン…ドクン…ドクン…


ふざけんなよ…!! おかしいだろうがよ…!!


ドクンドクン…ドクン…ドクン…


オレが…。 オレが…!!


ドクンドクンドクンドクン…


オレが…助けるんだよ…!!


ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン…。


「美里に…」


美里に……!!


「触れるんじゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」




───そう叫ぶと同時に、オレの中で、”何か”が弾けた。




   〈Another Side Out〉

久しぶりの戦闘パートです。

廃ビルでの戦いはいよいよクライマックス!

次回をお楽しみに!

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