表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/35

十七ノ話  「”罠”」

美里の初の実戦。相手は妖魔と違う”生きた人間”。

内容はごく単純で、楽に終わるはずだったその任務は突如として様子を変える。

同じ頃、”日常”を生きていたはずの男は少しずつ”非日常”へと

足を踏み入れつつあるのだった…。

ガキン…ガキィン!!

「くっ…そぉ!!」

ドガァ!

目の前の男を拳で吹き飛ばす。

不意に背後から殺気を感じる。

「くっ…!」

身体を反らすと、顔の真横をナイフの刃が掠っていった。

その男を裏拳で殴りつけ、周りの様子を観察する。

晃は…奈々美を守ってるか。

霞は…高台から男たちを迎撃してる。

「って…あれ…?」

そんな中、一番身の安全が不安な美里がいないことに気付く。

やばい…この状況ではぐれたってのか…!?

「チクショウ…!」

慌てて駆け出そうとした俺を取り囲む男達。

くそ…どこからこんなに湧いて出やがったんだ…!?

「そこをどけっての!!」

俺は男たちに向かって駆け出した…。




今から数時間前。

準備を整え終えた俺たちは、その”悪質霊能力者”がたむろしている廃墟に向かって出発した。

日ノ輪からの報告じゃあそれほど規模は大きくなく、俺たちだけでも十分余裕を持ってこなせると判断したからこそ美里を連れて行けるわけだ。

「流石に緊張してるか?」

俺はそう言って美里に話しかける。

「だ、大丈夫よ。何てことないわ」

こりゃ相当だな…。

妖魔との戦いじゃ最近はサポートくらいはこなせるようになってはいたが、今回はそういうわけにもいかないだろう。

まして相手は俺たちと同じ人間だ。

まだ時期的に早いかとも思ったが、ここは美里を信じてみるとしよう。

…いずれは通る道なのだから。


歩くこと1時間ほど。俺たちは町外れの廃ビルの前にいた。

「うし、とりあえず結界張るぞ」

俺たちは廃墟入り口に霊札とチョークで描いた”陣”を組む。

そこを中心に5人で立つ。

最近は美里も加わってくれたおかげで陣を張る速度も短縮され、より高度な効果を付加することができた。

こうやって美里が早々に実戦に加わってくれたのは正直かなりありがたい。

「…”人払い”、”閉鎖”、”防音”、”不可視”…と。こんなところか」

”結”。その一言でこの区画を結界が包み込む。

これよりこの廃墟一画は完全に外と隔離される。この中では人知れず常識外れの戦いが行われるのだ…。

「うし…。行くか」

俺たちは顔を見合わせると、黙って小さく頷きあった。

「…?」

足を踏み入れる時に一瞬感じた”違和感”。

だが、それはすぐに消え、俺は特に気にもせずに足を踏み出した…。




   〈Another Side〉




「ハァッ…ハァッ…!」

依頼部の面々───美里を追って走っていたオレは日が落ちかけている街の中を走っていた。

この辺りはかなり複雑に入り組んでいる為、オレは美里たちを見失ってしまったのである。

「くそ…どこ行ったんだよ…!?」

未だに”嫌な予感”は収まっていない。むしろ美里を見失って、時間が経てば経つほどその予感は強くなっている。

(取り返しのつかないことになったら…っ!)

ただの杞憂だったならそれでいい。けど…

焦ってきたオレが走る速度をさらに速めようとしたときだった。

「っ…!?」

突然感じた”何か”。

さっきまで感じていたいやな感じとは違う。なんというか…全身を駆け巡っていくような感覚。

「あっちは確か…廃ビルが…?」

もし今感じた”何か”が美里の居場所を示しているのだとしたら…。

「…他に手がかりは無いか…」

オレはさっき感じた”何か”を信じて、そっちの方角へと走り出したのだった…。




   〈Another Side Out〉




「…いるな」

現在廃ビルの外周を進行中。

気配を探った限りじゃ間違いなく”いる”。

一見すると妖力に見えなくもないような禍々しい霊力が肌に纏わりつくように感じる。

それは俺だけじゃないようで、他の面々も皆緊張した様子で周囲を警戒していた。

やがて廃ビルのの周りをぐるりと一周して入り口前へ戻ってくる。

「外にはいない…かな? …と、なるとやっぱ…」

俺は廃ビルの入り口へと目を向ける。

正直室内は相手のほうが遥かに有利だから避けたいところではあるが…やっぱ仕方ないな。

「さっき以上に警戒しとけよ、どこから襲われてもおかしくないからな」

結界を張った時点で相手にはこっちの存在を十中八九気付かれている。

俺たちは一歩一歩慎重に廃ビルの中へと足を踏み入れて行った…。


「…2階もハズレ…か」

廃ビルに入った俺たちは1階の完全を確認した後、2回の安全も確認した。

この廃ビルは5階建て。あまり大きくないとはいえ1フロアだけでも結構広い。

広いということは隠れ場所もかなりの数があるということだ、が…。

「…不気味だな」

外周、1階、2階とここまで何の動きも見せない敵に、俺は違和感を感じていた。

「霊力は感じるのに、姿は見えず…。…”姿”…?」

”姿は見えず”。そのフレーズに俺は引っ掛かりを覚えた。

(…まさか)

俺はある1つの仮説を立てる。…これまた”嫌な予感”だ。

だが、これが真実なら…早々に手を打たないと…!

「…? どうしたんですか、俊樹さん?」

思いつめた俺に気付いて、奈々美が問いかける。

「いや…次はこっちだ」

そう言って、俺は歩き出す。

「あれ? そっちはさっき見たんじゃ…?」

俺の歩き出した方角を見て、美里が不思議そうに問いかける。

「まぁまぁ。ちょっと見逃したかもしれなくてさ」

俺は軽くそう言うと、再び歩き出した…。




   〈Another Side〉





 日も暮れ、闇夜が包み込む廃ビル。その屋上で侵入者を監視している者がいた。

『…? 何処へ向かう気だ?』

次の階へと続く階段とは違う方角へと移動する彼らを怪訝そうに見つめるいくつかの影。

『気付かれたか?』

先ほどとは違う若い男の声。

『仮に気付かれていたとしても最早手遅れ…。様子を見るだけで十分かと』

今度は若い女の声が響く。

『…しばし様子を見る。ただし不測の事態に備えて配置の修正を』

その言葉を聞いた他の影は皆一様に頷き、やがて屋上には1つの影だけが残った…。




   〈Another Side Out〉




「…部長。何か気になることでも?」

到着したのは倉庫のような場所。

ここは非常階段も兼ねているらしく、1階へと降りる階段も近くに見えた。

俺はひとまずある程度の広さのある場所へ移動すると、おもむろにチョークと霊札で陣を用意し始めた。

「…? 篠原? 何で陣を…?」

周りの面々が不思議そうに問いかける。

「いいから手伝ってくれ。手短にな」

俺は少し慌てながらもそう促した。


「よし。…じゃあ始めるぞ」

やがて陣の準備が終わり、今度は俺だけが陣の中央に立つ。

「後でちゃんと説明してくださいね…?」

不安げに奈々美が言う。俺はそれにただ頷くと、意識を集中して…。

「…”解”…!」

”解除”の術式を発動した。と、その瞬間───

「「「「「ッ!!??」」」」」

全員の表情に警戒の色が宿った。

それも当然だろう。俺が”解除”の術式を発動した瞬間、一気に敵の気配が周囲に現れたのだから…。

「…これは…」

「…やっぱりな」

「ちょ…ちょっと篠原!? なんで急に、こんな…!?」

突然の事態に誰もが動揺している。

「…罠だ。あちらさんが先にこの区画に結界を張ってやがったんだよ…!」

ここに入る前に一瞬感じた”違和感”。それはおそらくこの結界だったのだろう。

おそらく付与されていた効果は…

「”隠密”とか”消音”か…。気配がまったく無かった辺り、相当手が込んでやがるな…!」

入るときにほとんど気付かなかったことからも、この結界がかなり高等なことがわかる。

(けど…だとしたらどうやってこれほどの結界を…?)

話じゃ相手は小規模のはず、それがこれほどの結界を張れるはずが…

「思考中のところ悪いですが来ましたよ。霞さん、数は?」

俺の考えは晃のその一言によって止まる。

「…どうやら”小規模”というのは誤情報だったようですね。かなりの数がいます」

「嘘だろ!?」

霞のその言葉に、俺はうろたえる。

高等な結界…予想以上の敵の数…。

くそっ…どうなってやがる…!?

「…とにかく移動するぞ! ここじゃ分が悪い!!」

俺はそう叫ぶと、みんなを引き連れて移動を開始した。

どうやら今夜はタダじゃ帰れそうにない…。




   〈Another Side〉




「…ここか…」

オレはさっきの感覚を頼りに廃ビルに到着した。の、だが…。

(…なんか、妙に静かすぎるな…)

もうとっくに日は暮れている。ここに美里たちがいるとしたらあまりにも静かすぎた。

気配1つ感じないほど静かだなんておかしい。ましてここは廃ビルだ、誰かいるならわかるはず…。

「やっぱり、ハズレか…?」

そう言いながらもオレは廃ビルに足を踏み入れようとする。と…


ドクン…


「ッ!?」


再び早くなる鼓動。だが、今度は歩けなくなるほどではない。

やっぱりここに、美里たちが…?

オレは意を決して、廃ビルへと足を踏み入れた。その瞬間───

「なっ…!?」

突如、不気味すぎるほど静かだった廃ビルには喧騒が響く。

怒号や悲鳴、それに何かが崩れる音。そしてこの周囲に満ちる殺気…!

「どう…なってんだよ…コレ…!?」

さっきまでとはまるで違う雰囲気に、俺は動揺を隠せなかった。


ドクン…


「くっ…!」


だが、そんなオレもお構いなしに鼓動は早くなっていく。

(そうだ…。ここに…美里が…!)

もしこんな異様な場所に美里がいるんだとしたら…!

「美里が…危ねぇ!!」

そう思うと、オレの足は自然とその喧騒のほうへと向かっていたのだった…。




   〈Another Side Out〉

早々にストックが切れた…。

空いた時間を見つけてペースアップをしないとなぁ…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ