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十六ノ話  「見ツメル男」

なんてことない日常を生きてるオレ。

毎朝起きて、友達と喋る日々…。そんな日常にはアイツもいた。

けど、最近そんな日常に割り込んでくる奴がいて…。

   〈Another Side〉




 季節は夏。

制服がまだ夏服に変わっていないこの時期、凄く暑いのは言うまでもない。

通学路を歩く同校の生徒達もみんな暑そうに登校している。

この夏服移行前の微妙な季節こそ、生徒達の気分をブルーにするのは言うまでもない。

ただ…

「…」

オレの気分は周囲とはまったく違った方向でブルーになっていたのだった。

オレの名は藤原亮。零命高校2年B組に所属している。

成績は…中の下。体育とかはいつもいいんだぞ。

さて、基本的にいつも元気なオレがブルーな理由。

暑さじゃないなら何なのかって?

それについては教室に着いてから話そうか…。


 学校に着いて、教室の扉を開ける。中の良いメンツと軽い挨拶を交わして自分の席へ。

「おはよう。亮」

「お…」

あまりオレは女子生徒との交流はない。そんなオレが唯一接点を持っている女子生徒。

それが彼女。幼馴染の九条美里である。

「美里から声かけてくるなんて珍しいじゃん。どうかしたのか?」

最初こそからかわれたが、高校2年生ともなると流石にオレたちもそんなに気にならなくなってきた。

今ではこうして普通に喋っていても誰も何も言わなくなっている。

「ん…。最近忙しくてあまり相手してなかったからね」

そんなことを言ってくる幼馴染。

「ちょ…オレはペットかなんかかよ!?」

でも確かに最近こういうやりとりもしてなかったよなぁ…。

「まぁまぁ…ん?」

そんな風にオレが思っていると…。

「お、ここにいたのか、美里」

そんなことを言いながらやってきた1人の男子生徒。

この男こそオレの気分をブルーにしている原因である。

名前は確か…篠原俊樹といったか。

最近美里は妙にこの男と一緒にいた。

なんというか…あんまし気に入らない。

いや、別に彼以外とも最近交流があるみたいだけども…。

「篠原。何か用?」

何が気に入らないってこの男、結構イケメンなのだ。

黒よりの灰色の髪。整った顔。なぜかいつも口にしているトッポ。

ウチのクラスにも彼のファンが何人かいた。

オレ以外にもこの男のことをよく思っていない男子生徒は大勢いるだろうよ。

「なんか用ってお前な…。朝は部室に集合って言っといたろうが。後はお前だけだぞ?」

それを聞いた美里ははっとなって

「いけない、忘れてた!」

そう言って大慌てで走り出した。

「オ…オイ、美里!」

話の腰を折られたオレは慌てて美里を引きとめようとする。

「ゴメン、亮。また後で!」

そう言って、美里と篠原は教室を飛び出して行ったのだった…。




   〈Another Side Out〉




「オイ、よかったのか? 幼馴染なんだろ? あの男子生徒」

部室に着いた時には全員集合していた。

俺はここに来る前に置いてきてしまった美里の幼馴染について聞いてみる。

名前は確か…藤原亮とか言ったか?

「仕方ないでしょ? アンタたちが呼んだんだから…」

ごもっとも。

それにしてもあの男…なんっか引っかかるんだよなぁ…。

…まあいいか。

「今日はいつにも増して暇だから美里の訓練に付き合おうと思って」

付き合う…というよりは現状確認かな。

最近なんやかんやで美里の状態を把握してなかったこともあり、暇な間に美里がどのくらい成長したのか見てみよう…と。そんな感じで今日は集まったのだった。

「付き合うって…具体的にどうするのよ?」

「決めてねぇ」

うん。具体的にどうするかは特に決めてはないんだけどね。

「あのねぇ…」

「まあ、適当にやってみたらいいんじゃないかな」

げんなりしている美里をたしなめて言う。

そんなノリで訓練が始まったのだった…。


「じゃあまずは霞、頼む」

「…わかりました」

俺たちは中庭奥の広場───俺の秘密の寝床がある場所に結界を張り、訓練を開始した。

まあ具体的にどうするかというと、一人一人が各々の方法で美里の能力を測定する…と。

なんとも単純明快だな。

「…では、これを」

そう言って、霞は美里に握力計のようなものを手渡した。

「…これは?」

「霊力を測る零具です。霊力を流し込んでください」

怪訝そうな美里に説明する霞。

見た目どおり、握力計を改造して作った霊力測定器…だったか。

なんかある日突然霞が作ってたんだっけ…。霞はこうやって時々色んなものを作ってる。

中にはガラクタもあるのだが、こういった役に立つものも作ってくれていた。

「じゃあ、行くわよ?」

俺たちが頷くのを確認すると、美里は目を閉じて集中する。

…ふむ。霊力のコントロールは中々みたいだな。

美里の身体からは彼女特有の緑色の霊力が浮かび上がる。

「…測定完了しました」

やがて、霞のその声と共に美里は集中を解いた。

それと同時に彼女の周りの霊力も霧散して消える。

「どんなもんよ?」

俺は霞に尋ねる。

「…まだ未熟ですが。潜在的な霊力も考慮するなら奈々美さんと私の間といったところでしょうか」

「ほえ~」

俺は感心する。

ちなみに霊力の量を図にすると

俺>晃>奈々美>霞

である。

「とりあえず平均より少し上って所か?」

素質としては十分といえる結果だった。

そんなことをしているとチャイムが鳴ったので、俺たちは後片付けを早々に済まして教室へと戻るのであった…。




   〈Another Side〉




「…なあ、美里」

昼休み。朝のこともあって、オレは珍しく美里を誘って学食へとやってきていた。

ちなみに美里は弁当を作ってきているのでオレだけ学食である。

「…?」

話しかけられてこちらに視線を向けた美里にオレは問いかける。

「最近、依頼部? …とかいう連中とよく一緒にいるけどさ、なんかあったのか?」

美里は確か帰宅部だったし、特に部活に入る予定もなかったはず。

それがいきなり非公式の部活に入ることをオレは不思議に思っていたのだった。

それを聞かれた美里はばつが悪そうな表情をすると

「あ~…。まあ、色々あったのよ。色々」

そんな曖昧な返事しかしなかった。

…ホント怪しいなぁ…。

結局そんな風に何の進展もないままオレは美里と別れたのだった…。




   〈Another Side Out〉




「…さて」

昼休みもこうして美里を呼び出して能力測定をしているわけだが。

あれから晃や奈々美もそれぞれの測定方法で美里の能力を調べた結果…。

「…お前。割とマメに訓練してたのな…」

そんな言葉が漏れるほどに十分すぎる結果が得られたのだった。

素質に関しては最初から申し分ないとは思っていたが…これはあまりにも想定外だった。

コイツには俺たちに匹敵するだけの”素質”があるし、なにより熱心に訓練していたことでその実力が十分に引き伸ばされていたのだった。

「”生き残るため”。なんでしょ? ちゃんと時間を見つけてやってたわよ…」

美里は平気そうな顔でそんなことを言った。

「…こんな真面目な奴。依頼部始まって以来じゃねぇか…?」

俺はそう呟いて、ウチの嘆かわしい面々のほうに視線を向けた。

「…」

「あの…これでも頑張ってたんですよ?」

「僕はこう見えても陰ながら努力してましたよ?」

「嘘つけよ!!」

霞と奈々美はともかく。晃に関してはホントどうしようもなかった。

…いやまあ、訓練なんて必要ないほどに実力があったのも事実だけれども。

「…それで? まだ篠原の訓練があるでしょ?」

俺がそんなことを考えていると、美里がそんなことを口にした。

「あ~…。…俺?」

そういや俺は特に考えてなかったなぁ…。

そんな風に悩んでいると、ある1つの考えが浮かんだ。

「よし。じゃあ俺の訓練を発表するぞ」


「悪質霊能力者の確保?」

部室に戻った俺は、全員が集まったところで今回の訓練を発表した。

「ああ。最近”日ノ輪”から回ってきた仕事がいくつかあったからな。そいつに同行して貰う」

”日ノ輪”の仕事は霊能力関係。だから当然霊能力関係の仕事はほとんど管理しているわけで。

”悪質霊能力者”。…要するに霊能力を悪用している輩をしょっ引くのも仕事の1つだ。

「そんなのいるんだ…」

初めて聞く悪質霊能力者の存在に美里は若干驚いているようだ。

「まあ、人間離れした力だしな。大きな力を手に入れたらそれを悪用しようとする輩も出てくるもんさ」

知能のない、ただ人を襲うだけの妖魔なんかよりも、なまじ知能があるから余計にたちが悪いのも特徴のひとつだな。

…正直、日ノ輪の仕事なんて胸糞悪いんだが、まあ今回は利用させてもらおう。

「放置しとくと面倒だからな。決行は今日でいいか?」

俺の問いに、美里もみんなも頷いた。




   〈Another Side〉




「ふぅ~…終わった終わった」

本日の授業は終了。

最近マジで美里との交流がなかったから、たまには一緒に帰ろうかとも思ってたらなんか即効でいなくなってたし。

ハァ…。ホント最近どうしたんだか…。

…やっぱり篠原が何か知ってるんだろうか?

そんな風にモヤモヤと考えを巡らせているオレ。なんか女々しいな…。

おそらく傍目から見ると今のオレはさぞ暗くてキモイ顔をしているんだろう。

あ゛ぁぁぁ~~…なんでこうアイツのことでこんな悩まないといけないんだか…。

「ハァ…。こういうときはさっさと帰って寝よう…ん?」

帰路を急ごうとしたオレの目に飛び込んだのは…。

「美里…?」

美里と…あれは依頼部のメンバー?

何か話しているようだが、ここからは聞き取れない。

普通に一緒に帰っている、ように見えたのだが…。


ドクン…


「ぐっ…!?」


ドクン…


なんだろう。


ドクン…


このままただ見過ごしたら、取り返しのつかないことになるような…。


ドクン…


そんな”予感”が、オレの心臓の鼓動を早くする。


ドクン…


「か…はっ…!」


ドクン…


心臓は早鐘を打ち、呼吸が苦しくなる。

一瞬、頭の中に映った映像は、ありえないほど現実味がなくて。でも…


ドクン…


なんで…


ドクン…


なんで…そんなこと考えたんだろう。


ドクン…


美里が………なんて。


ドクン…


美里が…死ぬなんて。


ドクン…


そんなこと…あるわけないじゃないか…。


ドクン…


そんなこと…


ドクン…


「あるわけ…ねぇよ…!」

そう叫んで、コンクリートの壁を思いっきり殴る。

拳に鈍い痛みが走ったが、それで思考が整い、胸の鼓動も熱い吐息も収まった。

しかし…今だ脳は警告を上げている。

そんな非現実的な映像が頭の裏で流れ続ける。

「…ああもう! こんな状態で寝られるわけねぇよ!!」

オレはそう叫んで鬱陶しい思考を振り払うと、慌てて美里たちが向かった方向へと走り出したのだった…。




   〈Another Side Out〉

何とか今回は週1投稿完了。

感想お待ちしております。

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