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十四ノ話  「舞イ落チル桜ト最期ノ春」

もう助からない命。

それはとても残酷で、空しくて、儚い現実だった。

消えそうな命の灯火。俺にできることは、彼女にとっての一番の”幸福”を与えてやることだけだった…。

「…お前の姉さん。もう助からないんだろ…?」

「…!!」

瞬間、凍りつく空気。

…正直、即座に否定してほしかった。

そんなわけないじゃないですか、って。

だって…そんなの、いくらなんでもあんまりだろう?

「…どうして、わかったんですか?」

だが、彼女は俺に問い返す。それはつまり、遠まわしながらもその事実を”肯定”してしまっていた。

「…マジか…」

俺は大きく肩を落とす。しばらく俺たちはその場で立ち尽くしていた…。




「…今までは、軽い病気ばかりで何とかなったんですが。今回は…」

「…」

病院を後にして、俺たちは近くの公園のベンチに腰掛けた。

…なんかカップルのデートの一コマみたい、と言いたいところだが、俺たちはとてもそんな明るい表情ではなかった。

「なんとか頑張っても来年まではとても…。なので、卒業式まで持つかもわからなくて…」

彼女は俯きつつも、ぽつぽつと語り続ける。

俺はそんな彼女の言葉を黙って聞いていた。

「卒業式まで仮に持ったとしても、式にはおそらく…」

…出られない、だろうな…。

「そのこと、本人は知ってるのか?」

俺の質問に、彼女は黙って首を横に振る。

…なんだろう。けど、あの人はまるで…。

「…姉さん。私と違って何でもできて、クラスでも人気者だったんですよ。春になると、通学路の桜を眺めて、凄く嬉しそうに笑ってました」

彼女は勤めて明るく振舞おうとしている。が、目尻は既に震えていた。

「…これが最期かもしれないから、せめて桜だけでも…か」

俺の呟きに対して、彼女はゆっくりと頷いた。


「…さて、どうしたものか…」

あれから彼女と別れ、俺は1人公園で物思いに耽っていた。

…正直、まだ頭の中がぐるぐるして考えがうまくまとまらない。

だが、とりあえずこれから俺が何をすべきか、大体要点にして順番付けていく。

「…とりあえず。この”違和感”から確認しに行くとしますか」

俺は立ち上がると、再び病院へ向けて歩き出したのだった…。




   〈Another Side〉




「…ハァ…。…見つかった?」

もう桜の捜索を始めて数日。私たちは一度集合して情報交換を行っていた。

朝比奈さんは千里眼の使用で疲れているのか、少しフラフラしている。

「大丈夫? 朝比奈さん?」

「…大丈夫です」

朝比奈さんって本当に強いなと思う。おそらく一番頑張っているのは彼女のはずなのに…。

依頼とはいえ、こんなにも無謀に近い依頼にこんなに真剣になっている。

いったい何が彼女をそこまで奮い立たせているんだろう…?

「っていうか…篠原は?」

ふと見回してみると、一番肝心の奴がいない。

「まだ、来てないみたいですね?」

今回は珍しく久藤君がサボってないのに篠原がサボるなんて…。

「あの…なにかあったんじゃ…」

坂本さんが心配そうに呟く。

「…ハァ。私、ちょっと電話してみる」

仕方がないので、私は携帯を取り出して、篠原に電話をかけたのだった…。




   〈Another Side Out〉




 プルルルルルルル…プルルルルルルル…

病院への道中、携帯が鳴った。

「ん…。…美里…?」

ディスプレイに表示される”九条美里”の名前。

ピッ!

遠慮なく切断。

そして電源OFF。

「…病院もうすぐだし」

みんなも病院では携帯の電源はOFFにしようね!


コンコン

「はい」

ノックしてすぐに返って来る返事。俺は扉を開けて中へと入った。

「あら? 忘れ物ですか?」

つい先ほど帰ったはずの俺を見て、彼女は怪訝そうな顔を浮かべる。

「忘れ物…。まぁ間違っちゃいないな」

曖昧な俺の返事に、彼女はさらに怪訝そうな顔をした。

「あの…どうしたんですか? 一体…」

若干警戒しつつも彼女は俺に問いかける。

俺は静かに椅子に腰掛けると、真剣な表情で言った。

「アンタ。わかってるだろ」

「え? 何がですか…?」

「自分がもう永くないこと」

そこまで言うと、彼女は瞳を大きく見開く。

その仕草は共学の事実を告げられた驚き、というよりも、どうしてわかったのか、といったような風に感じられた。

「やっぱり、か…」

俺は息を1つ吐くと、深く椅子に座り直した…。


「どうして、わかったんですか?」

「…フッ」

その発言に俺は思わず笑ってしまう。

またも怪訝そうな表情を浮かべる彼女に対し、俺は申し訳なく手を上げて

「いや、ゴメンゴメン。妹も同じ風に問い返すもんだから、思わず笑っちまったよ」

そう言った。

俺のその言葉に毒気を抜かれたのか、彼女も微笑を浮かべて

「そうですか…。…やっぱり似てます? 私たち…」

問いかける。

「まあ、姉妹だしな。やっぱり似てる部分はあるんじゃねぇの?」

俺は兄弟とか姉妹とかはよくわからんからなんとも言えないが、この姉妹は雰囲気が似ていると思う。

「それで…どうしてわかったんです?」

改めて彼女は俺に問い返す。

「ん~…。まあいろいろ根拠はあるんだけども。やっぱ一番は…勘、かな…」

自分の身体の事は自分が一番よくわかるとは言うが、彼女の陰のある雰囲気はどことなく全てを理解しているような…そんな諦めたような雰囲気だった。

勘で見抜いた俺に、彼女は瞳を見開いて驚いていたが、観念したように

「そうですね…。もう永くはない、と、漠然と感じてはいました」

どこか遠くに想いを馳せるかのように、彼女は窓の外に視線を移す。

「…アンタ、桜が好きなんだってな。今、俺たちは妹さんの頼みで桜を探してる。…”咲いた桜”を、な…」

「え…」

俺の告白に、彼女は慌てて視線を戻す。どうやらそこまでは悟ってなかったらしい。

「咲いている桜って…この時期ですよ? 流石に無理じゃあ───」

「いや、俺に考えがある」

無謀だと訴える彼女の言葉を遮って、俺は言った。

ここに来るまでに、桜を見つけ出すのは不可能だと正直諦めていた。

だが、人望があってクラスの人気者だった彼女だからこそできることがあるんじゃないか、と…。

俺は、ある1つの”考え”が浮かんでいた。

「あの…”考え”って?」

不思議そうに問う彼女を手で制し、俺は

「まあまあ。それはそん時の”お楽しみ”っつー事で。ともかく任せてくれ」

俺はそう宣言すると、立ち上がって病室を後にする…前に、振り返って

「そういやアンタ、3年の何組よ?」

そう彼女に聞いた。彼女は首を傾げつつも

「3年D組ですが、それが何か?」

そう答える。俺はひらひらと手を振って

「イヤイヤ、なんでもないよ。…じゃ、また来るわ」

そう言って、今度こそ病室を後にしたのだった…。


「さて、とりあえず下準備、と」

すっかり日が暮れかかっている頃、俺は学園の前にいた。

「体育館とかは使えないし…。…個別に作って向こうで仕上げるか」

俺は部室を目指して歩き始めた。

…”大量の木材”と、”大工道具”を持って…───




    〈Another Side〉




…その頃、別行動の依頼部メンバーは…───

「電話切られたと思ったら繋がらないし! 篠原の奴、電源切ったわね…」

ギリギリと携帯電話を握り締める私、そんな私を見て坂本さんが

「ま、まぁまぁ、美里さん、落ち着いて…。俊樹さんも事情があるのかもしれませんし…」

恐る恐る宥めてきた。

もう日も暮れかかる頃、結局合流しなかった篠原を放って、私たちはもう少し桜を捜索することにした。

「ハァ…見つからないし。…やっぱ無謀よね…」

「まあ、現実的ではありませんねぇ」

「…時期が時期ですし」

全員揃ってぐったりするしかなかった。

「…まったく。篠原は今頃何やってんだか…」

「サボってるんじゃないですか?」

うんざりしたように呟く私に、久藤君がいつもの調子で言う。

「…久藤君は今回珍しく働いてるわね…」

「アハハハハハハ。美里さんも言うようになりましたねぇ」

私の力ない皮肉を、久藤君は余裕を持って回避していたのだった…。




   〈Another Side Out〉

ものすごい久しぶりですがあけましておめでとうございます。

相変わらずの不定期ながらも頑張って執筆を続けております。

誤字、脱字や作品についての感想は遠慮なくお願い致しますm(_ _)m

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