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十二ノ話  「冬ノ祭典」

冬といえばなんだろう?

雪? スキー? クリスマス?

俺たちはこんな夏に指しかかろうかという時期にもかかわらず、場違いにも程があるイベントを開催していたのだった…。

 ぐつぐつ…。

部室に鍋が煮える音と、いい匂いが漂う。

今日は日曜日。本来なら今日学校休みだぜヤッホォォォーーウ!とか歓喜の喜びに満ちた学生たちが有意義な休日を満喫する昼下がり。

「「「「「…」」」」」

ぐつぐつ…。

そんな休日だというのに、

なぜか俺たちは、

部室で、

コタツに入って、

すき焼きを囲んでいた!!

「いや、どこからツッコんだらいいんだろうな、この状況」

「…篠原があんな依頼受けるからでしょうが…」

俺の右隣に位置する美里が呆れたように口にする。

「仕方ないじゃぁ~ん。最近依頼増えてきてるしさあ。ちょっと評判上げて知名度うpをと…」

俺は依頼部のためにこの依頼を受けたんだ。なのになぜこんなに非難されないといけないのか。

「まあ、休日も暇なんですから丁度いいじゃないですか」

おお、晃。お前はわかってくれるか。ごめんよ、お兄さん誤解してたよ。お前はいい奴だ、こういう時はちゃんとわかってくれる。俺はお前を見直したよ。

「だよなー。それに一応すき焼きなんてご馳走をただ同然で食えるんだからいいじゃんか」

まあそんな感謝の気持ちを晃本人に言うつもりは無い。っていうか本気でそんなこと思っちゃいない。

普段サボるやつにかける慈悲など無いわ!

そんなことを考えつつ俺が言うと…

「あの…でも…。…いくらなんでも…」

俺の左隣の奈々美が息も絶え絶えに言う。なんか今にも倒れそうな表情だ。

「…そうよね…いくらなんでも…」

「同感ですね…」

「…だなぁ…」

というか、あっちでPCに向かっている霞以外みんな倒れそうな表情を浮かべていた。

なんでかって? そりゃなぁ…。

「「「「あっつい!!」」」」

俺たちは同時に叫んだ。そう、とにかく暑いんだよ!

みんな汗だくだよ!

霞だけなんか涼しい顔してるよ!

季節は春の終わり、いよいよ夏にさしかかろうかという季節。

さすがにそんな時期にコタツに鍋は暑すぎる。

ていうか暑いとか言う次元を超越している。

「もうただ飯とか言ってらんねーぞこれ! 拷問じゃねぇかよ!! 誰だよ、こんな依頼受けたのはよぉ!!??」

「…篠原じゃない」「あの…俊樹さんが…」「俊樹君ですね」

コタツを囲む面子は暑いながらもしっかりとツッコミを返してくる。

…ああそうだよ、俺だよ! これでも部のためにやったことなんだ! 若干”タダですき焼き”に惹かれたのは事実だが俺だって部のこと思ってんだ! 悪いか! 俺のが悪いのKAAAAAAAAAAA!!??

「…スイマセンorz」

なんて口が裂けても言えるわけなかった!

※篠原俊樹は依頼部”部長”です。

俺ががっくしとうなだれながら謝罪してるのを遠まわしに見ていた霞がぼそり、と小さく「部長…バカ?」なんて言ってるのが見事に俺の耳に届いちゃったばっかりに、俺の心はめでたくノックアウトとなったのだった…。

…あれ? 俺”部長”だよね…?

※篠原俊樹は依頼部”部長”です。大事なことなので2回言いました。

…なんで俺たち、休日にこんなことやってるんだっけ…───




 時はさかのぼって昨日の放課後。

いつものように部活で何をするでもなく集まってみんなで適当にダラダラやってた時のことだった。

「…赤6」

「じゃあ、リバースで」

「あ、テメッ! また俺はおあずけかよ!!」

俺たちは美里を除く4人で机を囲んでUNOをやっていた。

で、霞→晃で、晃がリバースを出しやがったから俺はお預けだ。

…なんかコイツ、執拗に俺の番を減らしてくるんだけど。イジメ?

「じゃあ黄色の3で」

そんなことを考えていると、順番が奈々美から俺へと回ってきた。

ここで俺は温存していた”アレ”を用い、隣でニコニコしてる晃の野郎に攻撃を仕掛ける。

「ドロー2×4!」

「おや…」

晃は俺がここまで温存していたことに若干驚いたようだ。はは、ざまあみやがれ。俺の順番を避けてきたから俺には手札が貯まってるんだよ!!

このまま8枚引きやが…

「では僕もドロー2」

そんな俺の態度も意に介さず、晃は涼しい顔でドロー2を置く。

し、しまった…晃はまだ隠し持ってやがったのか…!

晃がドロー2を置いたので、次は霞に順番が回る。

「…ドロー2」

だが、霞もドロー2を持っていたらしく、そのまま順番は奈々美へ。

…な、なんか嫌な予感が…。

「あ、その…」

奈々美はこの状況に戸惑っている。…ひょっとして、持ってない? 12枚引くのか!?

俺は奈々美の態度に淡い希望を抱くが…───

「あの…ごめんなさい。色変えのドロー4です…」

そんな希望は、最も最悪の形で打ち砕かれてしまいましたとさ…。

「…」

俺は無言で16枚山札から引く。うう、手札がこんなに…。

心が折れかけてる俺を見て、晃が

「あっれぇ~? このドローって誰が始めたんでしたっけぇ~?」

とか白々しく笑いながら言うもんだから

「…orz」

俺の心は見事にへし折られたのだった…。

うう、なんか最近酷い目に遭ってばかりな気がするよ…。

そんなことを考えて落ち込んでいると…

ガラララララ…

「みんな、いる?」

美里が、1人の男子生徒を連れて入ってきた。

「なんだ美里。彼氏でも紹介しに来たのか?」

俺が半ばやさぐれたように言うと

「違うわよ…」

呆れたように返される。

「…部室に男を連れ込むのはいくらなんでm───「なんか言った?」───ナンデモナイッスヨ」

…うん。まだ死にたくない。


「で、そいつは?」

気を取り直して、俺は美里の後ろにいる男子生徒を見た。

「ああ、お客さんよ。B組の高橋たかはし君」

「よろしく」

高橋と呼ばれた男子生徒は軽く会釈する。

「よろしく。…じゃ、話を聞こうか」

俺たちは高橋を机のほうへと促す。奈々美は即座にお茶を淹れに行った。

…ちなみに、最近は美里も手伝ってくれてるから失敗は少ない。これが意外とありがたかった。

接待用のソファに腰を降ろした俺たちは、改めて高橋に向き直る。

高橋はゆっくりと語り始めた…。




「ホント、何でこんなことやってるんだろうね?」

高橋の依頼とはこうだ。

以前、家族ですき焼きをしたものの、姉や母に肉をものすごい勢いで掻っ攫われ、自分はほとんど野菜ばかり食べる羽目になった。

で、悔しいからなんとか”すき焼きにおける肉争奪戦の必勝法を見つけてほしい”とのこと。

幸いにも材料費は向こうが出してくれたからただ飯同然なのだ、が…。

「とりあえずこの暑いの何とかならないの?」

美里がうんざりしたように言う。俺だって別に好きでこんなことをやっているわけではない。

最初は”ただ飯”とか”知名度UP”とかに釣られて意気揚々と受けたのだが、これが失敗だった。

高橋曰く、「限りなくこの前の状況に近い状態でやって欲しいからコタツも用意してやってほしい」とのこと。しかもそれを”受けてから”言いやがった!

こっちはもう準備万端だった分、今更断ることもできず、そして現在に至る、ということだ。

部室の冷房はフル稼働。それでもやっぱ暑いもんは暑かった。

「高橋…。恐ろしい子!」

いや、んなこと言ってる場合じゃないな。

「…っていうか、必勝法くらい自分で見つけなさいよね…」

いよいよ美里が悪態をつき始めた。

「まあまあ、美里さん…」

「それができないから僕たちを頼ったんでしょうし…」

そんな美里に、慌てて2人がフォローを入れる。

…まあ、今更どうこう言っても仕方ないか…。

食材には罪は無いしな。こうなったらせめておいしくいただくとしようか。

「…そろそろだな。じゃ、食べようか」

俺がそう言うと、霞も向こうの机に移動して食べる支度を始める。

…コタツには入らないけど、一応食べるのね…。

「…まあいい。それじゃあ」

俺は両手を合わせる。それを見たみんなも両手を合わせて

「「「「「いただきます」」」」」

…そして、”戦い”が始まった…───


「…」

いや…ていうかさ。いただきますしたのはいいんだけど…

(必勝法なんて…どうすりゃ見つかるんだよ…!?)

マズイ、何も思い浮かばない。ただ単に飯を食べるだけなんてことになったら最悪材料費を請求されかねない。

みんな考えてるのは同じなのか、微動だにできすにいた。

「…」

テクテク

「…」

ヒョイヒョイ

「…」

テクテク

「…って」

「…(モグモグ)」

霞が何食わぬ顔で持っていったよ!

何食わぬなのに食ってるよ!

ってうまいこと言ってる場合じゃねぇよ!!

「ええい、ままよ!!」

俺は意を決してとりあえず肉に箸を伸ばす。

このままじゃ霞が全部もって行っちまう!

とりあえずわからないならわからないなりに何か手がかりを掴まないと…!

とか思ってたら

ガッ!!

「…あ」

「…おや」

向かいに座る晃と箸が交差してしまった。

「「…」」

お互い見つめあうこと数秒。

ガガガガガガ!!

俺は別方向から箸を伸ばす。が、向こうの箸と交差する。

「オイ! 真似するんじゃねぇよ!!」

俺がじれったくなって叫ぶと、晃は困ったように

「そんなつもりはないのですが…」

そう言う。

くっ…なんかコイツにはとられたくない…!

「…ハッ!」

ひょっとして、肉争奪戦とはこういうことじゃないのか!!

フッ…ならばやってやろう!

───こいつには、肉は渡さん!!───

「いくぞ!」

俺はさっきよりも素早く箸を伸ばす。

「っ!」

だが晃はそれに反応して箸を交差させる。

野郎…。これではっきりした。コイツもどうやら俺と同じ気持ちらしい。

「ならば!」

「…っ!!」

ガガガガガガガガガガガガ!!

俺は素早く箸を伸ばし、晃がそれを止める。もはや箸の戦いというよりも刃を交えているかのようだった。

「あわわ…ど、どうしましょう?」

「ほっとけば…? 私、肉は重くて好きじゃないから野菜とかでいいわ。坂本さん、食べましょ?」

すっかり俺たちの勢いに圧倒されている奈々美に呆れたように呟く美里が見えたが、そんなことは正直今はどうでも良かった。

これは…男と男の戦いだッ!!

「ぬおおおおおおお…!」

「くぅっ…!」

まるで鍔迫り合いが如く箸を交差させる俺たち。

正直、外野から見ればバカ丸出しの光景だった…。


 …で、そんな箸の戦いが数分続いてどうなったかというと…。

「ゼハー……ゼハー……」

「ハァ…ハァ…」

俺たちは両者共にぐったりとダウンしていた…。

そりゃあただでさえ暑いのにこんなことやってたらバテるわ…。

(だが…これは好機…!)

相手もバテている今。先にバテれば負ける!!

俺は起き上がり構える。だが、晃も起き上がって箸を構えた。

「オイオイ、もう限界だろ? 諦めたほうがいいんじゃないか?」

俺は不敵に笑ってやる。対する晃も不敵に笑って

「いえいえ。まだまだこれからですから」

そんなことを言った。

フッ…いいだろう…。

今度こそ…引導を渡してやるぜッ!!

「いくぞ!!」

「っ!」

俺は箸を伸ばし───

「…アレ?」

その箸が、止まった。

「…? あ…」

晃もどうやら気付いたらしい。

「肉が…無い…?」

バカな…晃が既に!? いや、晃も戸惑っている。では誰が……まさか!!

俺たちは揃って周りを見渡す。

「おいしいですねー」

「そうね、量は食べられないけど、おいしいわ」

「…おいしいです」

「「…!」」

俺たちは揃って絶句する。だって、女性人がおいしそうに肉を食べてたんだもの。

「お…お前ら、どうして…?」

俺は恐る恐る問いかける。すると3人はこっちを向いて、さぞ当たり前のように

「ん? だって2人ともぐったりしてたから、もういらないのかと思って」

「…早い者勝ちです」

「ご、ごめんなさいね?」

そんなことを言いやがった!

「そ…そんな…」

俺は一気に力が抜けたようにぐったりする。向かいを見ると、晃も同じらしかった。

───後に残ったのは、残りわずかな野菜類と、女性人の楽しそうな声、そして言いようの無い疲労感だけだった…───




「すき焼きしたんだろ? どうだった?」

次の日、高橋が尋ねてきて成果を聞いてきた。

「…」

「材料費出したぐらいだしなぁ。うまかっただろ? で、なんか掴めたか?」

「ああ…」

楽しそうに聞いてくる高橋に、俺は力なく答える。

すると高橋はさらに嬉しそうに笑って。

「お、マジか!? なんだよ、教えてくれ!!」

俺はゆっくり顔を上げる。そして、期待に満ちた表情を浮かべる高橋に、悟りきった表情で言ってやった。

「あきらメロン」

今回はちょっとギャグ多めにしてみました。

次回もお楽しみに。

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