ルームメイトの令嬢たちが 冷遇カードバトルを しかけてきた!
※なろうラジオ大賞投稿作品のため、1000字の超短編です。
寮の二人部屋に、わたしを含めて三人の令嬢が集まっている。
最初は困惑したが、寮側の配置ミスだとわかった。新しい部屋が割り当てられるのかと思いきや、事務の男性は面倒くさそうにいった。
「部屋空いてないんで、とりあえず三人で住んでください」
二人部屋に!?
ベッドは壁の両端に固定されている。三人なんて無理に決まっている。三人目は床で寝ろっていうの!?と憤慨していたら、古びたマットレスと毛布が運ばれてきた。
今、部屋の中央にあるそれを見つめて思うことは皆一つ。
あのマットレスで寝るのはいやよ。
金髪のルームメイトがいった。
「貴族らしく決めるべきではなくて?」
私ともう一人が胡乱な目で彼女を見る。貴族らしい貴族なら「こんな寮、私の方から願い下げですわ」と立ち去っているだろう。それができないのはそういうことなのだ。
金髪の令嬢は訳知り顔で頷いた。
「家柄では全員どんぐりの背比べでしょう。ここは婚約者という手札で戦いませんこと?」
婚約者カードバトルですの?
なんてツッコミを入れている場合ではない。「反対!」と叫ぶ。わたしの婚約者は優しいし格好いいし世界一だけど、商家の次男なのだ。階級バトルには負けてしまう。
しかし金髪の令嬢はいった。
「わたくしの婚約者は浮気性ですわ。その上、自分が浮気するのはわたくしが地味でつまらないせいだと言い放つ最低男ですわ。わたくしはドアマットのように踏み躙られて冷遇されているの。せめてベッドで寝たいわ」
このルームメイト、出してくるカードが特殊すぎませんこと??
まさかの不遇さで戦う冷遇バトル。
まあそんな不憫な事情ならベッドを一つ譲っても……もう一つあるし……と思っていたら黒髪のルームメイトがいった。
「待って頂戴。私の婚約者だって酷いのよ。彼には病弱な従妹がいるんだけど、いつも彼女を優先するのよ。私は蔑ろにされてばかりよ。耐えきれずに抗議したら優しさがないといわれて、私ばかり悪者にされるのよ?」
それも酷いですわね。
二人の目がこちらを向く。
わたしはサッと青ざめた。二人には同情するけどマットレスはいやよ。自分の婚約者の顔を思い浮かべる。人懐こい大型犬に似ている。わたしよりずっと背が高いけど笑うと可愛いの。ってそうじゃないわ。『浮気』や『従妹優先』に匹敵する冷遇カードを、彼の冷たい所を探さなくては……!
「わたしの婚約者は、手が冷たいから繋ぐとヒヤッとするわ!」
寝床がマットレスになった。