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ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜  作者: ジルコ
第2章 異世界の街へ

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第25話 神、降臨!

 この病院のカプセルは1部屋に4つ設置されており、ゴブリンに連れ去られた女たちは4人と2人に分かれて治療を受けていた。

 たしか先ほど会った女は2人部屋のほうにいたはずなのでそちらに向かうと、その部屋には身なりを整えた女が少し所在なさげに立っていた。


「待たせたな」

「いえ。服まで用意していただいてありがとうございます」


 入ってきた俺たちのほうを向き、少し儚げな笑顔を浮かべて女が迎えてくれる。

 その瞬間、後ろで息を飲む音が聞こえ振り向くと、ミアとソフィアがとても驚いた様子で彼女を見ていた。


「どうした、2人とも」

「いや、その……」

「まともに受け答えしてる」


 その言葉を聞いて、なぜ2人が驚いたのか俺は理解した。

 たしか2人はこの女たちと同じようにゴブリンに連れ去られた女たちを見たことがあったっぽいんだよな。

 そのときと今の女の状態があまりに違いすぎるということだろう。


「大丈夫、なのか?」

「はい。ご心配ありがとうございます。でも大丈夫です。自分がどんな状況に置かれていたかは覚えているんですが、なんというか、その、どこかお話で聞いたような感じで実感がないんです」

「ピクト?」

「いや、俺に聞かれてもわからないぞ。そもそもこの施設自体、俺の理解を超えているんだし」


 女の話を聞いたソフィアが、そんなことあるの? と俺に尋ねてくるが、それに回答なんてできるはずがない。

 女の話が本当なんだとしたら、記憶の改ざん、いや補正が行われたって感じか。悲惨な経験の当事者から、それを第三者として映画で見てしまったみたいに。

 記憶なんて言うあいまいなものをピンポイントでフィルターにかけるようなことなんて現代医療じゃ無理なはずだ。


 カプセルでひん死のミアが回復したときから思っていたが、やっぱりこの病院は未来の病院なんだろう。

 そんなことありえるのか? と疑問は残るものの、異世界に来ている時点でそこを追及しても仕方ない気もするし。


「まあ、その人の今後を考えればこの方がいいんじゃないか? とりあえず、名前を教えてもらってもいいか?」

「イリナと申します。そこで眠っているタチアナの母です」


 未だ閉じたままのカプセルに目をやり、イリナは目を伏せる。

 そのカプセルの中には、15歳前後と思われる少女が眠っていた。確かに言われてみればその顔つきはイリナに似ている。

 胸の中に浮かんだどうしようもないもやもやを息を吐いて吐き出した俺は、言葉を詰まらせるミアたちに代わって話しを続けた。


「俺はピクト。こっちの2人がソフィアとミアで、俺の後ろにいるこいつが7だ」

「7、ですか?」

「うーん、まあその辺はちょっと複雑な事情があってな。聞かないでくれると助かる」

「わかりました」


 イリナは眉を寄せて不思議そうにしていたものの、それ以上は聞かずにこくりと首を縦に振った。

 うん、とりあえず普通に話はできそうだし、ちゃんと考えることもできているっぽい。

 これなら想定していたより、今後については楽観視していいかもな。


「現状の説明をさせてもらうと、ゴブリンに捕らわれていたイリナさんたちを俺たちが助けた。ここはイリナさんたちが住んでいた場所とちょっと違う特別な空間で、そこで治療するために保護していた訳だ」

「特別な空間、ですか?」

「うーん、一度病院の外に出てみたほうがわかりやすいか。イリナさんは今歩けるか?」

「歩くのは問題ありません。でもタチアナが……」


 イリナの視線がカプセル内で眠るタチアナに向かう。

 そりゃそうか。娘が訳のわからないカプセルに入れられているんだから、そばを離れたくないよな。


 どうしようか、と俺が考えようとしたときタチアナの入っていたカプセルが音を立ててその形を変えていく。

 床から繋がれていた台座が収納されていき、カプセルの下部から4つの車輪が現れるとそれはイリナの近くに寄って止まった。


「一緒に動けるようだな。これなら大丈夫か?」

「はい」


 少し顔を明るくしたイリナを連れ、俺は病室を出て廊下を進み、自動ドアを通り過ぎて外にでる。

 緑一色の空間に、トイレ、お風呂、そして病院が並び、隅のほうにはキングボアとアサシンベアの死骸が倒れている。

 うん、これを見れば一目瞭然で自分のいた世界と違うとわかるだろう。


 イリナはしばらく呆けたように周囲を見回していたが、ハッと何かに気づいたような顔をすると、いきなりその両ひざを地面について俺に向けて頭を下げた。

 いきなりなんだ? と意味も分からず困惑する俺に、イリナは祈るような仕草をしながら話しかけてきた。


「あなた様は神の1柱だったのですね。そうとは知らず、大変失礼なことを……」

「えっ、ピクトって神様だったの!?」

「いや、違うぞ。なあ、ソフィア、ミア。なんか言ってくれ」

「何かと言われても、私にもそれを明確に否定することはできないぞ」

「ピクトがそう思ってても、こんな空間に来られるってだけでも、ねぇ」


 完全に勘違いしているイリナ、そしてそれにつられている7を説得するためにソフィアたちに援護を要請したものの、返ってきたのは俺が求めていた回答じゃなかった。

 いや、確かに何をもって神ではないと証明するのかって考えると、それは難しい問題だな。


 普通なら神なんてありえない、で終了すると思うんだが、俺の姿は人とは違い、そしてこんな空間に連れてきて、しかもひん死の重傷を治したりしている。

 まあ治したのは病院であって俺が直接って訳じゃないが、カードも俺の力って考えればあながち間違いでもない。

 やってること、なんか神様じみてないか? 少なくとも人知は超えてる気がする。


「いや本当に違うからな。俺はただのピクトグラムだから」

「ピクトガームがあなた様の本当の名なのですね。そして地上に顕現するときはピクトと称していると。救っていただいたうえに、本当の名まで……」


 目を潤ませてこちらを見るイリナの姿に、流れるはずのない汗が流れていくように感じる。

 うん、まずい。絶対にまずい方向に話が進んでいる気がする。

 なによりまずいのが、俺がそれを否定することができないってことだ。つまり歯止めがきかない。

 助けを求めるようにソフィアたちに視線をやるが、2人はついっとその視線を逸らせる。


「そっか、ピクトは神様だったんだね。だから僕にも優しくしてくれたんだ。んっ、だとするとピクトが騙されることってないような……」

「7。ちょっと待て。いちおう俺は神様じゃないって否定しているからな」

「でもあの人が……」

「うん、まあそうなんだが。あの人が勘違いしている可能性だってあるだろ」

「そうなんだ。うーん、難しいね」


 いちおう7を引き留めることには成功したが、これだけ素直に信じられると逆に心配になるな。

 暗殺者として名の知られた凄腕って話だったはずなんだが、普通に街で悪い大人に騙されそうな危うさしか感じられない。

 うーん、もしかしてこれまで保護者みたいな人がついていたのか? 謎だ。


「ピクト。もう神様でいいんじゃない?」

「ナニイッテンデスカ、ソフィアサン」

「ピクトが否定したい気持ちはわかるけど、救いを求める人に手を差し伸べたんだからやっていることは神様と一緒でしょ。それに、今のイリナさんには支えが必要だと思うんだ」

「いや、そういわれると、な」


 イリナの境遇を考えれば、たしかにソフィアの言い分も間違いではない。

 病院のおかげでなんとか話せるまでに回復してはいるが、それでも完全になかったことにはなっていないしな。

 もしかしたらフラッシュバックとかもあるかもしれないし、心の支えが必要なのも理解できる。でも、それにしても俺が神? ありえないだろ。


「とりあえず俺が神かどうかは置いておいて、保護した以上、面倒は見させてもらう。それでイリナさんは、今後どうしたい?」

「今後、ですか?」

「ああ、これからのことだ」


 俺の言葉に少しの間イリナは考えるそぶりをし、そして俺を見てにっこりと笑った。


「タチアナともども、ピクト様にお仕えしたいと思うのですが、それでもよろしいでしょうか?」

「えっ、マジで?」


 嘘だろ、という俺の思いとは別に、イリナはこくりと頭を縦に振ったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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