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ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜  作者: ジルコ
第2章 異世界の街へ

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第23話 人形

※注意


この話の中に、一部胸糞の悪くなる要素が含まれております。

お読みになりたくない方は、あとがきのあらすじをお読みください。

 全部知らなかったことにしてリリースしたい。それが正直な感想だ。

 あー、でもリリースしたらリリースしたで、7はこれからもお父様とやらに利用されて犠牲者が増えるだけだし、こいつ自身も幸せにはなれないんだよな。

 別に俺が他人の人生を背負う必要はないわけだが、人の役に立つために生まれてきたピクトグラムとしては、少しでも良い方向に進んでほしい。


「このままだと、これまでにしてきたことについて悔いることもできないしな」

「んっ、なんのこと? 君もなにか悪いことをしてきたの?」

「いや、俺は人のためにずっと生きてきたぞ。それは胸を張って言える」

「ふーん。なら君はきっと神様の御許に行けるね。僕もいつかそこに行って兄弟たちと幸せに暮らすんだ。そこはね、とても素晴らしい世界なんだって」

「そっか」


 きらきらとした瞳で楽し気にそう伝えてくる7の様子に、ぎゅっと胸の奥が締め付けられる。

 そして同時にそのお父様とやらに対する怒りが、黒い渦となって心の奥底に溜まって嵩を増していくのを感じていた。


 これまでこいつの手にかかって死んだ被害者たちのことを思えば、罪がないなんて口が裂けても言えない。

 だが全ての責任が7にあるのかといえばそうじゃないだろう。

 こいつは知らないんだ。自分が本当は何をさせられているのか。手ごまとして使うのに必要な知識だけを詰め込まれ、仮初めの愛情で縛り付けられた操り人形。

 そんな奴を断罪することは俺にはできない。


「常識を教えてくれる存在がいれば、変わりそうな気もするんだが……ミアたちは駄目だろうしな」


 この世界の常識に疎く、そして人でもない俺は常識を教えるのに適した存在ではない。

 そしてそれは、既に悪い奴として刷り込まれているミアたちも同様だ。詐欺師だって言われているみたいだし、きっと騙そうとしていると考えて聞き入れはしないだろう。

 となると、俺たち以外の適任者、できればカウンセラーのような人がいればいいんだが、そんな都合の良い人材なんているはずがない。


「ピクト」

「んっ、なんだ?」


 ソフィアを介抱していたはずのミアの声にそちらを向くと、ミアがリュックから衣服をこちらに放ってきた。

 受け取ったそれは、2人がエミレットの街で購入していた下着と部屋着だ。購入するまでにソフィアが迷いに迷って結構な時間がかかったので、よく覚えている。


「そいつを着替えさせてきてくれ」

「あー、結構汚れているしその方がいいか。ついでに風呂も入れちまうわ」

「……頼む」


 なんとなく含むものがありそうな複雑そうな顔をミアはしていたが、未だに辛そうにしているソフィアのことを優先したのかそれ以上は何も言わずに戻っていった。

 拘束を解き、不思議そうな顔をする7を連れて、俺は風呂に向けて歩き始める。


「とりあえずお風呂に行くぞ」

「おふろ? おふろって何?」

「体を綺麗にする場所だ。行けばわかる」

「わかった」


 俺のことは敵じゃないと認識したのか、案外素直に7は俺についてきている。

 さっきまで思いっきり殺そうとしていた相手にそんなんでいいのかと思わないでもないが、こんなことが起こるとはお父様とやらも考えていなかったんだろう。

 まあ殺されそうになった相手が、保護して風呂に入れてやるなんて想像するほうが頭おかしいのかもしれんが。


 風呂に入った俺は、7が後生大事に抱えてきたギリースーツを受け取って脱衣所に置くと、汗で半ば透けて見えている薄い肌着しか着ていない7にそれを脱いで奥に行くように指示する。

 その指示でここがどんな場所か理解したらしい7は、躊躇することなく肌着を脱ぎ捨てるとそのまま扉の奥へと消えた。


 うん、ついているものはついていたし、男でよかった。

 特に俺自身は男でも女でも関係ないんだが、ミアたちには俺が男だと思われている節があるし、7が女だった場合、後であらぬ誤解を生む可能性もあるからな。


 ギリースーツも結構汚れているし、やはり暑いのか7の汗のにおいが染みついている。

 こっちも後で洗濯しないとなと思いながら、タオルを用意した俺は7が待つ浴場へと入っていったのだが……


「なにしてんだ、お前?」


 犬のような四つん這いの格好でこちらに尻を向けて待っていた7に、思わず声をかける。


「えっ、だって裸になってすることって、これでしょ? でも、君ってついてないよね。もしかして生えてくるの?」

「いや、お前なに言ってんだ? 裸ですることって言ったら風呂に入る……っておいおいおい、まさかお前」


 この世界にきて、いや今まで生きてきて初めて抱いた体の奥底から逆流してくるような吐き気に、俺は思わず手を口に当てる。

 7の放った言葉をちゃんと理解すれば、それがなにを意味しているのかは理解できる。

 そしておそらく、裸でするという言葉とそれが直結するくらいに、その行為が何度も行われていたのであろうことも。


 7はそのことに何も疑念を抱いていない。

 別に7がそう言った趣味嗜好を元から持っていたとかいうなら、別にそれはそれでいいんだろう。そこに愛があり、他人に迷惑さえかけなければいいしな。

 だが幼い子供に誤った常識を教え、それが当然だと思わせるやり口は違うだろ!


「とりあえず普通に座ってくれ。風呂の正しい使い方を教えてやる」

「わかった」


 そう返事した7は、腰を床につけず膝を抱えるような体勢で動きを止める。小さく丸まったその姿は、いっそう7を幼く見せ、やりどころのない感情が俺の中でこみ上げてくる。

 悪い人間がいるということは知っていたつもりだった。だがこれほどの悪意を目の当たりにした今、その当事者にどう声をかけていいのか俺にはわからなかった。


「とりあえずお湯をかけるぞ。熱かったら言ってくれ」

「わかった」


 カランをひねってシャワーを出し、ちょうど良い温度のになったことを確認してからそれを7の体にかけていく。

 汚れを含んだ薄茶色のお湯が排水溝に流れていくのを視界の端にとらえながら、俺は7の全身をゆっくりと洗い流していった。


「どうだ?」

「うん、気持ちいい」

「そっか」


 されるがままに身を委ねる7の体を、ボディーソープをつけたタオルで軽くこすっていく。

 薄茶だと思っていたその肌の色が、どんどんと本来の白さを取り戻していき、そしてその全身に刻まれた古傷がはっきりと姿を現す。

 俺がそれに驚くことはない。裸になった段階で傷があることはわかっていたことだ。ただやるせない気持ちだけがどんどんと積み重なっていくだけ。


「ちょっと目を閉じててくれ」

「うん」


 7に目を閉じさせ、その茶髪をしっかりとお湯で流してからシャンプーで汚れを落としていく。

 最初は絡まってぐちゃぐちゃだった髪は、ゆっくりとほぐすことで本来の艶を取り戻していった。


「そろそろいい?」

「あー、もうちょっとだから待っててくれ。これで終わりだから」


 何度か洗ってやっと泡立ったそれを最後に洗い流す。

 泡がその華奢な体を流れ落ちていき、ぶるぶるっと頭を振った7が俺のほうを向く。


「なんか頭がすーすーする」

「結構汚れていたからな。とりあえず風呂に入るといい」

「潜る訓練?」

「いや、体をリラックスさせるだけだ。顔まで入れる必要はない」

「わかった」


 7は浴槽に足を突っ込み、それがお湯であることに驚いたように足を引っ込めて俺を見た。

 そして俺がうなずいたのを確認すると、恐る恐るその中に体を沈めていく。

 しばらく7は少し緊張した様子だったが、お湯に包まれて体が温まったおかげか、血色の良い顔つきに変わっていった。


「これ気持ちいいね。これがおふろなんだ」

「そうだぞ。俺もお風呂が大好きなんだ」

「そっか。ねえ、君の名前はなんて言うの?」

「俺か。俺はピクトだ」


 そう答えた俺に、7はとても嬉しそうに笑顔を浮かべ


「ありがとう、ピクト。ピクトは優しいんだね」


 そう言って気持ちよさそうに目を細めたのだった。

(あらすじ)


ミアに促され、暗殺者の7を連れてピクトは風呂に入る。

その途上で、7の悲惨な過去を伺い知る。

そしてピクトは7を綺麗にし、7から感謝されるのだった。

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