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ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜  作者: ジルコ
第2章 異世界の街へ

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第13話 不穏なアドバイス

 そのことに思い至ったのは俺だけじゃなかったようで、俺たちはほぼ同時にお互いに視線を合わせる。

 ミアとソフィアの伺うような視線に、うん、と頷いて返すと、2人は嬉しそうにほおを緩めた。


「私たちの手元にキングボアの毛皮があります。それなら可能ですか?」

「マジでか? どのくらいある?」


 ソフィアの言葉にドワーフはカッと目を見開くと身を乗り出して尋ねてきた。

 背が低いのにも関わらずその圧は結構なもので、ソフィアは少したじろいでいた。


「1頭分はあります」

「ってことは丸々か。下手な解体をして素材をダメにしてねえよな?」

「状態は悪くないはずだ」

「そうか。となると……」


 ドワーフはぶつぶつ言いながら考え始める。俺たちはその考えがまとまるのをじっと待った。

 そしてドワーフが組んでいた腕を解いて俺たちを見上げる。


「そのキングボアの毛皮の使い道を全て俺に任せてくれるなら引き受ける。もちろん代金はいらねえし、素材もあんたらの装備に使わせてもらう」

「私たちにとっては願ってもないことだが、狙いは何だ?」


 どこか警戒したような表情を浮かべるミアに、ドワーフは苦笑いを浮かべてみせた。

 たしかにドワーフが言っていることが本当だとしたら、俺たちがただ得をするだけの取引になる。

 恩があるってわけでもないし、そんな怪しい申し出は警戒して当然だろう。

 ドワーフはちらりと俺たちとは別方向へ視線をやり、わずかにまなじりを下げる。


「キングボアの皮といえば、この辺りではめったに出ない希少素材だ。大きさにもよるが1頭分ともなれば数百万は硬い。俺が装備を作りゃあ総額で1千万エルにはなるだろうさ」

「すごい自信だな」

「事実だからな」


 俺が呟いた疑問に、ドワーフはにやりと笑ってみせた。

 ここまで言うってことは本当にそうなんだろう。考えてみたら俺を見てもこのドワーフは驚いた様子すら見せなかった。これまで会っただれもが俺を見て何かしらの反応を見せたのに。

 肝が太い、というより幾多の経験を重ねた海千山千の古強者なのかもしれない。


「それならなぜ?」

「弟子のためだ。あいつに一流の素材の加工を見せ、そして経験させてやりたい。あいつは人づきあいも客の扱いも、世間の常識さえわからん馬鹿だが、その根性と素質は疑いようがねえほどに高い。うまくいきゃあ、いつか俺を超えるだろうさ」

「弟子の成長のために使いたいと? なぜそこまで彼に入れ込むんだ?」


 ミアの追及にドワーフは鼻のしわと指でこすり、少し恥ずかしそうにしながらほほ笑む。


「あいつは原石なんだ。磨けばどこまで輝くのか、それを見たい、そう思っちまったんだよ。ただそれだけだ」

「……」


 その澄んだ瞳には俺たちを騙してやろうなどというよこしまな思いは感じられなかった。

 ミアはソフィアの方に視線を向けており、そのソフィアはじっとドワーフを見つめていた。

 しばらくそうしていたソフィアは、小さく首を縦に振る。


「わかりました。ホルストさんに全部任せます」

「おおっ、そうか! 助かるぜ。それで素材はどこにあるんだ?」

「宿に置いてあるので後で持ってきますね」


 本当に嬉しそうに破顔したドワーフに、ソフィアがいい笑顔で返す。

 なんかちょっと引っかかるところがあるんだが、なんだろう。特にソフィアやミアは気になっていないようだし、俺の気のせいか?

 まあいいや。とりあえずこちらは本来の目的を達成できるし、あっち側もそうだ。WIN-WINの関係が築けたんだから大成功だろ。


「でも、そうすると金が余っちまうな。いや別に使わなくてもいいんだが」

「ピクトはなにか欲しいものはないのか? 街を見てから決めると言っていたが」

「お前、ピクトって言うんだな。言葉を話せるってことは高位のモンスターか? 始めてみる種族だが」

「ピクトはオートマタだ」

「オートマタ!? あの、オートマタなのか?」


 俺がオートマタだと聞き、目が飛び出るのではないかと思うほどにホルストが驚きをあらわにする。

 そして俺のほうに駆け寄るとじっと俺の姿を観察し始めた。


「つなぎ目も関節もねえ。なんなんだこの緑の素材は。どうしてこれで動ける」

「さあ、俺にもわからん?」

「だろうな。こんなもん造れねえ。構造さえ想像がつかねえ。はるか昔にはこんな技術が当たり前に存在していたのか」


 ぶるっとホルストが体を震わせる。

 そのきらきらと輝く瞳を見ればそれが恐怖からではないことはわかるのだが、べたべたと触られる俺としてはちょっと恐怖なんだが。

 下手をしたらこのまま解体されそうな怪しさを感じる。


「ホルストさん。ピクトは駄目だからね」

「お、おおっ。すまん、そうだな。伝説をこの目にできただけでも幸せだと思っておこう。ただ1つ言わせてくれ。あんまオートマタだということは広めんほうがいい。モンスターだと思わせておけ。そうしないと厄介なことになる可能性がある」

「冒険者ギルドにもう伝えてしまったんだが……」

「あー、早めにキングボアの皮を持ってきてくれ」


 いや、諦めたよな。不安になるアドバイスだけ残して諦めんなよ。

 しかも早めに持って来いって、なんかしら俺たちが厄介ごとに巻き込まれて持ってこれなくなる可能性を考慮しての発言だよな。

 どんなことが起きると想像したのか聞いてみたいところだが、その前に噂が広がるのを止めるほうが先決か。


「ミア、ソフィア。冒険者ギルドに行こう」

「セシルさんに噂が広がらないようにお願いするんだね」

「あとは状況確認だな。キングボアの皮はその後に持ってくる」

「おお、頑張れよ」


 ホルストがなにに対して頑張れと言ったのか、ギルドに向かった俺たちは存分に知ることになるのだった。





 ギルドに向かい、一度宿に戻って非常口を呼び出した俺たちはキングボアの皮を持つとそれをホルストに届けた。

 そしてそれからどこに寄り道することなく再び宿に戻ると、俺は再びスライムのカードを使って非常口を呼び出すとマイホームに引っ込んだ。

 もはや欠かせない癒しスポットとなったお風呂に全身を沈め、俺は大きなため息を吐く。


「はぁー、俺は見世物じゃねえっての」


 ギルド周辺で冒険者や好奇心旺盛な住人たちに囲まれた光景を思い出し、げんなりしながらお湯を手ですくって顔にかける。

 たしかにピクトグラムは人に見てもらうためのものだ。注目されるというのは俺の本質にも合っている。


「だがなぁ……」


 ピクトグラムが俺だと認識した後の人々の顔に浮かんだ表情が俺の心をぐさりと刺しまくっていた。

 その多くは落胆。


 気持ちはわからなくもない。オートマタが出てくるのは有名な話らしいし、見たこともないオートマタという存在を、それぞれ頭で思い描いていたんだろう。

 その想像と乖離したものがそうだ、と言われればがっかりするのは当然かもしれない。

 だがな、それで俺が傷つかないと思ったら大間違いだからな。

 ずぶずぶとお湯に体を沈め、顔をほぼ半分までお湯につけながら俺は天井を見上げる。


「いいアイディアだと思ったんだがなぁ」


 こちらで馴染みのないピクトグラムという存在よりも、存在を周知されているオートマタを名乗るほうが安全に思ってもらえると考えていた。

 だが首輪の存在を知った今となっては、むしろその設定が足かせになりかねない。

 俺はしばらくうだうだと考えを続けていたが、体の芯まで温まるにつれてそれらがどうでもいいことのように思えてくる。


「まあ最悪こっちに逃げ込んで隠れればいいか。人のうわさも75日って言うし」


 そう結論を出して考えるのを止めた俺は、ただお湯に身を任せるこの瞬間を楽しむことにした。

お読みいただきありがとうございます。

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