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ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜  作者: ジルコ
第2章 異世界の街へ

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第10話 新しいカード

 理解が追いつかず動きを止めた俺をしばらく鹿は見つめると、首を傾げながら部屋の中を見回す。

 そして俺を見つめながら再び首を傾げた次の瞬間、その瞳が赤く変わった。


「まずっ!」


 頭を下げて角を俺の方に向ける鹿がなにをしようか察した俺は、即座に近づきその首を腕で固めると、もう片方の手で鹿の体を引き上げながら非常口へ向かう。

 体をぶんぶんと振って暴れる鹿に閉口しながら、なんとかそのまま鹿ごとマイホームへと入った俺は、外に誰もいないことを確認して鹿を投げ飛ばす。

 少しの間、宙を舞った鹿は、胴体から地面に落下するとしばらくうずくまる。そしてよろよろと立ち上がるとその赤い瞳を俺に向けた。


「モンスターが出てくるカードなんてあるのかよ。扉の近くに出てくれたからよかったものの、あやうく大惨事だぞ」


 万が一のときのことを考え、扉のそばに槍を置いておいた過去の自分の判断は間違っていなかったと確信しつつ、手に取った槍を鹿に向ける。

 鹿は2、3度前足で地面を蹴りつけると、その角を俺にまっすぐ向けながら突進を始めた。

 その速度はなかなかのものだ。だが、イレギュラーの攻撃を受けた身としては十分に対処可能な速度でもある。


「はっ!」


 突き出した槍が鹿の頭を的確にとらえる。少しの抵抗を破り突き進んだ槍は、ほどなく鹿の動きを止めてみせた。

 瞳の色を再び黒に戻した鹿から素早く槍を引き抜くと、鹿はどさりと地面に倒れ伏してピクリとも動かなかった。


「ふぅ、なんとか倒せたな。弱いモンスターで助かった」


 安堵の息を吐きながら、じっくりと鹿を確認する。

 立派な角を生やした牡鹿だ。こげ茶よりやや黒に近い色の毛を生やしており、その体はしなやかな筋肉に覆われている。

 さっき持ち上げた感じだと100キロ近い重さがあるかもしれない。そう思うほどのなかなか立派なボディをしていた。


「ピクト、なにかあったか!?」

「『おお、ミア。なんか鹿が出てきた』」


 女風呂から抜身の剣を持って飛び出してきたミアに、地面に倒れ伏した鹿を指差して伝える。

 髪が濡れているだけじゃなくて、体についていた水が張り付いて薄手の服を透けさせているところを見ると、まだお風呂に入っていたのかもしれない。

 申し訳ないことをしたな。


「ダークディアがなんでここに……と考えるまでもないな。ピクトのカードか」

「『正解だ。どうもキーワードが、当たっちまったみたいでな。で、この鹿は、モンスターなんだな』」

「そうだ。暗く深い森などに生息する鹿型のモンスターだ。この辺りでは見ないはずなんだがな」

「『そっか。後で詳しく、教えてくれ。俺はとりあえず、部屋に戻る。後始末は……』」

「私がしておこう。汚れても風呂に入ればいいだけだからな」

「助かる」


 髪から落ちた雫によって服の結構な範囲が透けている自分の姿を見て苦笑いするミアに、両手を合わせて感謝を伝えて俺は扉の外に出る。

 もしかして部屋の外で待機しているらしい兵士たちに気づかれていないかと心配していたが、特に部屋の中が変わった様子はなかった。

 そのことにほっとしながら、俺は再び元の椅子に座ると机の上の袋に入った魔石を見つめる。


「うーん、とりあえずカード化だけしておくか。何かに使えるかもしれないし、挙動にも気になるところがあったし」


 そう結論を下すと、俺は魔石を手でつぶしてカード化させる。

 現れたカードは鹿の絵が描かれたものであり、それを裏返しにするとそこには黄色のひし形の中央で飛び跳ねるような姿をした黒い鹿が描かれていた。

 たしかこれは森なんかでよく見る、動物が飛び出すおそれあり、の標識だったはずだ。


「いや、両面同じようなもんだと思わないだろ。誰だよ、これ考えた奴」


 はぁ、とため息を吐き、カードをテーブルに置くと魔石のカード化を進める。

 当然のことながら言葉を言わなければ勝手に鹿が出てくるようなことはない。いや、一概にキーワードが『鹿』だと考えるのは危険かもしれない。

 下手をすると別の動物の名前を言ったら、その動物に似たモンスターが出てくる可能性がないとはいえない。


「うーん、色々と検証のしがいがありそうなカードだな。しかもこれ、もしあの鹿の中に魔石があって、それがカード化できるなんてことになったら無限に鹿肉がとれるんじゃないか?」


 下手をするとこの1枚のカードが無限の食料を生むかもしれないのか。

 まあそれができるのが俺だけということを考えれば、既存の産業への影響はないに等しいがこれはこれで結構ヤバいカードなのかもしれない。

 そうじゃなくても場所を取らずに非常食を保管しておけると考えれば、かなり有用なカードだからな。


 次々と鹿をカード化することちょうど40枚。あの森では結構な数の鹿のモンスターが狩られているようだ。

 イノシシよりは危なくないし、肉も食べられるから獲物としてはうまいのかもな。そのあたりの事情は後でミアに聞けばわかるだろう。


 さて、残るはあと2つ。どちらもその数は今までのものよりぐっと数が減る。

 その中の1つ。袋に十数個入っていた魔石から1つ取り出し、俺は手を叩き合わせて魔石を破壊する。

 現れたカードに描かれていたのは、羽ばたく鳥の姿だ。森には鳥型のモンスターもいるってことか。森を歩いているときに聞こえたさえずりはこのモンスターのものだったんだろうか?


「さて、裏は?」


 余計なことを言ってキーワードを踏まないように注意しながらカードを裏返す。

 そこに描かれていたのは、長方形の長い辺の1つから二等辺三角形が四角の内部にできている図形。

 手紙とかメールとかでよく見るアレだった。


「うーん、これはまた何の効果かわかんねえな。検証するにも1人だと厳しいか」


 少なくともさっきみたいにいきなりモンスターが出てくるなんてことはなさそうだが、どんなことが起こるのかの予想が難しい。

 少なくとも手紙やメールだったら送る側と受け取る側の2者が必要になるはずだから、検証するにしてもミアやソフィアが戻ってからのほうがいいだろう。

 そう結論を下した俺はカードを作ることに専念し、出来上がった鳥のカードは16枚だった。


「よし、これで最後だな。って2個か」


 最後に残った袋に入っていたのはたった2つの魔石のみ。うーん、生息数自体が少ないのか、それとも倒しにくい理由があるのか。

 その少なさに見合う有用なものが出てくるといいんだけどな。そんなことを考えながら俺は魔石を潰す。

 特に数が少ないからといって特別なことは起こらず、光の粒子が消えてカードが俺の手の中に残る。


「んっ、なんだこれ?」


 カードに描かれていたのは、ずんぐりとした体をして、長い鼻に数本の髭を生やした生物。手足は4本でその指先には鋭い爪のようなものがあるように見える。

 ネズミとはちょっと違うよな。体型は似ている気がするので、小動物系だと思うんだが。


 とりあえず何の生き物かという推察は後回しにし、カードをひっくり返して裏側を見る。

 そこに描かれていたのは、黄色時のひし形の中で帽子をかぶったピクトグラムがスコップで土を掘ろうとする姿。うん、工事中の標識だな。


「あー、どんな効果か気になるが、さすがに2枚だと簡単に検証に使うわけにもいかないしな。自分で狩れるなら話は別なんだが、いったいどんなモンスターが……」


 そう呟いていた俺の頭にふとある動物が思い浮かぶ。

 ずんぐりむっくりした体型、突き出した鼻、鋭い爪。そして倒されることが少ないということと、裏に描かれた工事中の標識。

 そこから浮かぶイメージは……


「モグラ、だな。いや、しかしモグラをうまく狩る方法なんてあるのか?」


 地中に生息するモグラをどうやって倒すか。首を傾げてその方法を考えながら、俺は最後に残された魔石を叩き潰したのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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