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ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜  作者: ジルコ
第2章 異世界の街へ

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第9話 カード作り

 俺の意外な反応に、ソフィアがベッドからむっくりと体を起こす。

 思わず日本語で聞き返しちまったが、俺の様子からミアもなんて言ったのか察しているようで俺に向けてこくりと首を縦に振った。


「魔石を壊してもそんなことになるという話は聞いたことがない」

「『実際に、やってみたことは、ないんだな』」


 うなずいたミアに、俺は袋から取り出したゴブリンの魔石を渡す。

 ミアは少し迷った後、机にそれを置くとそばに置いてあった自らの剣を持つとその鞘を魔石に叩きつける。

 一度目でひび割れが入り二度目で完全に砕けた魔石は、俺のときとは違い、砕けた姿のまま変化することはなかった。


「『ちょっと剣を、貸してくれるか?』」

「ああ」


 ミアから受け取った剣を持ち、ミアと同じようにその鞘を机に置いた魔石に叩きつける。

 一度で完全に砕けた魔石は、光の粒子を放ちながら小さくなっていき、そしてそれが消えた後にゴブリンのカードが現れる。


「うーん」


 袋からもう1つ魔石を取り出し、力加減に注意しながら再び鞘を叩きつける。

 そしてミアと同じように一度目でひび割れ、二度目で完全に魔石を砕いたが、その結果はミアとは違い、いつも俺が砕いたときと同じだった。


「ふむ」


 机の上に残ったゴブリンのカードを拾いながら今起こった事象について考える。

 というか考えるまでもないか。

 まだ試してもらったのがミアだけという点はあるものの、そんな話を聞いたことがないという前提から考えれば、特殊なのがミアではなく俺である可能性は非常に高い。


「私もやろうか?」

「『頼む』」


 ベッドから起き上がってきたソフィアに剣を渡し、ソフィアが何度か鞘で魔石を叩いて割ったが、その結果は当然のようにミアと同じだった。

 砕けたままテーブルの上に残る2つの魔石を眺め、そして自分の手を見る。頭の中に先ほどソフィアから言われた、俺の能力という言葉が繰り返されていた。


「『これが俺の力か』」

「私と同じような、ね」

「『ああ、たしかにそういう見方ができるのか』」


 ベッドに座って自分を指差して笑うソフィアを見て、そういえばここが魔法やなぜか言葉が理解できる能力があったりする常識で測れない世界であることを思い出す。

 そう考えれば、俺のこの力も、異質な力ではあるが特別ではないといえるのか。

 考えてみればピクトグラムなんて、この世界で俺以外に知っている奴がいるはずがないし、こんな現象が一般的に起こっているはずがないよな。


「『まあ、使えるものは使えばいいってことだな』」

「そうだね。それでいいと思う。先輩のアドバイスはちゃんと聞くべきだよ」

「『了解。それで、先輩、はなんて言うんだ?』」


 とりあえずカードに関する考察をいったんおわり、せっかくなのでソフィアに言葉について質問しながらゴブリンのカードづくりを続けていく。

 重ねられ厚みを持ったゴブリンのカードは合計67枚。当面これだけあれば十分な量を確保できたと考えていいだろう。


 次の袋を開け、そこから魔石を取り出して同じように手のひらで潰していく。そして残ったカードは、スライムのカードだった。


「『おっ、スライムか。これはありがたいな』」


 裏に書かれている非常口を確認し、顔が緩んでいくのを感じる。

 下の森でのスライム探しの大変さを実感した俺としては、マイホームに帰ることのできるこのカードを大量に手に入れることができたのはかなり助かる。

 これだけでも鎧を売った価値がある、はさすがに言いすぎだが俺の手にあるカードを見つめるミアとソフィアの表情も嬉しそうだ。


「ピクト、それだけスライムの魔石があるなら戻ってマイホームのお風呂とか使っても……」

「『別に、いいんじゃないか? 俺も病院にいる、女たちが気になるし。ミアはどう思う?』」

「全員いなくなると問題だが、交代で入るぶんには大丈夫だと思う。むろん扉を出現させる位置に注意は必要だがな」

「だって」


 きらきらと期待に満ちた目で見てくるソフィアに苦笑を返しながら、部屋の奥にある荷物置き場と思われるスペースに向かう。

 おそらく隣室には部屋の手前にそういったスペースがあるんだろう。その部分だけ奥に引っ込むようになっているため扉を開けてもすぐには見えないここがうってつけだ。


「『非常口』」


 いつもどおりの魔法陣の後に、見慣れた扉が現れる。その扉を俺が開けると「わーい」と子供のような嬉しそうな声をあげながらソフィアが中に入っていった。


「『ミア、ソフィアのことを頼む。ついでに病院の様子に、変わりがないか、確認してきてくれ。俺はこのまま、カードを作っておくから』」

「悪いな」

「『いや、大変なのは、お互い様だろ』」


 俺のねぎらいの言葉に、ミアは苦笑を浮かべながらソフィアの後を追って非常口の扉の奥へ消えていった。

 それを見届けた俺は、元の位置に戻ってカードづくりを再開する。


 魔石を手のひらに置いて、手を叩き合わせて潰し、現れたカードを重ねる。

 ポン、パシッ、スッ。ポン、パシッ、スッの繰り返しだ。

 最初のころは興味津々だった魔石を壊すと現れる光も、こうも何度も見るようになっては慣れてしまう。


 原理が気になるのは気になるんだが、俺1人だけの現象となると他の人の考察は進んでいない。

 なにか検知するような道具を手に入れたときに測定して少しずつ情報を集めていくしかないだろう。

 うーん、そんな道具あるのか?


 そんなことを考えている間にスライムの魔石のカード化作業が終了する。枚数は32枚。

 たいぶ余裕ができたし、扉を開けたままならカードは消費せずに行き来できるので色々と検証する余裕もできた。


 現状一番気になるのは、今のように中に入った人がいる状態で俺が扉を閉めた場合、どういう風になるかということか。

 病院にいる人たちは、今まさにその状況にあるんだが、眠っているので中の様子を聞くことはできないしな。

 またソフィアたちに相談して、森ででも試してみよう。

 閉めた後の扉がどうなるのかも気になるしな。消えるのか、それともそのまま残るのか、どちらかだとは思うんだが。


 俺は次の袋に手を伸ばし、その中の魔石を取り出すと同じように手で叩き潰す。

 そして俺の手に現れたカードは、縁取りの全くないイノシシの描かれたカードだった。そしてその裏には、青地の中央に書かれた左矢印、一方通行の標識が描かれていた。


「おおー、これは助かる。ただ問題は何秒もつか、か。金縁のキングボアだからあれだけの時間もたせられたけど、無地だと一瞬で終わるんじゃないか?」


 攻撃や衝撃を一切無効化してくれるこのカードは非常に強力だ。だがイレギュラー相手に使ったのはキングボアから出た金縁のカードだ。

 無地と金縁の間にどの程度の差があるのかはわからないが、下手をすれば一瞬で終わりそうな気がする。いや、攻撃や衝撃を完全には防げないという可能性もあるか。


「これは要検証だな」


 頭の中の検証リストに、イノシシのカードの効果確認の項目を上位に追加し、俺は残りの魔石のカード化を続ける。

 袋に入っていた魔石は11個。やはり弱いのイノシシと言ってもゴブリンやスライムに比べると倒しにくいんだろう。

 検証するにはいささか心もとない枚数だが、ただ効果を確かめないまま使うのもはばかられる。このカードが必要になるのは切羽詰まったときだろうしな。


 他の2つに比べて明らかに厚みの薄い束をテーブルの隅に寄せ、新たな袋を取り出す。残りの袋はあと3つ。

 つまりあと3種類のモンスターの魔石があるというわけだ。とはいえそのうち1つの袋はとても小さいので入っていても1個か2個くらいだろう。

 あれはメインディッシュとして最後にカード化しよう。


 残された袋の中で1番多く魔石が入っている袋を机の上に置き、そこから取り出した魔石を手のひらの上で叩き潰して壊す。

 そして現れたカードに描かれていたのは、四本足で立つ立派な2本の角を持つ生き物。鹿によく似た、というかモロ鹿だな。


「へー、森に鹿なんているんだな。裏のカードは……うえっ!」


 いきなり俺の手の中のカードが弾け、床に魔法陣が広がる。なんでだ? 俺はキーワードになりそうな言葉なんて言ってないはずだぞ。

 そうは思いつつもなにが起こるかわからないので、椅子から立ち上がり様子を見る。


 地面に広がった魔法陣がその形を完成させると、その中央に光の柱が立ち上った。

 前に風呂などが出たときと似たような現象だが、その光の柱はそのときより明らかに小さい。

 なにか出るのはいいけど、動かせるものだといいな。そんなことを考えている俺の目の前で光が消え、その後に残っていたのは……


「鹿?」


 立派な2本の角を持ち、真っ黒な瞳でこちらを見つめてきたのは、まごうことなき鹿だった。

お読みいただきありがとうございます。


現在新連載ということで毎日投稿を頑張っています。

少しでも更新が楽しみ、と思っていただけるのであれば評価、ブクマ、いいねなどをしていただけると非常にモチベーションが上がります。

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