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ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜  作者: ジルコ
第2章 異世界の街へ

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第8話 常識と非常識

 冒険者ギルドでの話し合いを終え、俺たちはセシルが案内してくれた宿の一室に集まっていた。

 宿のランクとしては中の上程度らしいのだが、ソフィアたちがこれまで泊まっていた宿よりもはるかにいい宿らしい。


 なにせ以前の宿では貴重品が盗まれないように、そして突然部屋に入られて襲われたりしないように、扉の前に何かを置いて対策していたらしいからな。

 安心できない宿って存在意義あるのかよ、とも思わないでもないが、まあ実際に2人は泊まっていたんだし一定の需要はあるんだろう。

 雨風がしのげればいい、的な? まあ、いいや。


「『しかし、なんとかうまくいってよかったな』」

「ピクトの安全も確保できて、お金も手に入ったし」

「そうだな。お金は大切だからな」


 2人の実感のこもったうなずきに少し笑いながら、ベッドの脇に置かれたリュックをちらりと見る。

 大きく膨れたそれは、その中身が詰まっていることを示している。もちろん、今回俺たちが鎧を売った対価が入っているのだ。

 ちらりと見ただけだが、大きな金貨や小さな金貨、他にも使いやすいようにという配慮からか細かい貨幣も入っていたので調べてみたいんだよな。


「『お金について教えてもらってもいいか。せっかく手に入ったんだから』」

「いいよ。じゃあ実物見ながら教えるね」


 ソフィアが頬を緩めながらリュックから小さな袋を取り出し、その中からいくつかの貨幣を取り出して備え付けの小さな机の上に並べていく。

 種類としては大きな金貨、小さな金貨、大きな銀貨、小さな銀貨、大きな銅貨、そして小さな銅貨の6種類だ。


 小さいほうはだいたい1円玉くらいの大きさで、大きな方は500円玉より少し大きいくらいか。

 偉そうな中年の男性や女性の横顔が描かれているが、きっとこの国の王様とかそんな感じなんだろう。

 どこかで貨幣に人の顔が描かれるのは偽造を見破りやすくするためとか聞いたことがあるが、こっちでもそうなのか?


「こっちから順番に、10エル、100エル、1000エルって感じに10倍になっていくんだ。で、この大きい金貨が100万エル。エルは、エ、ルでエルだね」

「『了解。けっこうわかりやすいな』」


 小さい銅貨から順番に指さしながら、ソフィアが説明をしてくれる。

 うん、10進数だし、貨幣の呼び方もそのまま聞こえるから覚えるのはそこまで難しくはなさそうだ。

 ただ数字は発音と聞こえかたが違うので後で確かめる必要がある。今は貨幣のことを知りたいからそれは心に留めておこう。


 そして続いたソフィアの講義から推測すると、エル=円の価値と同等程度と考えてよさそうだ。

 もちろん入手しやすさなどによって物の価値が地球とは大きく違っているため、地球で安く買える物がとんでもなく高いこともあるようだ。

 ソフィアが虎の子として持っていた小さなドライフルーツ1袋が1万エルと聞いたときは耳を疑ったぞ。


「そういえば1エル硬貨とかはないのか?」

「昔はあったらしいけど、今は廃止されたらしいよ。1エルで買えるようなものはないし。昔は今の10エルの大きさの銅貨が1エルとして使われていたと聞いたことがあるような……」

「ふーん」


 物価の上昇とともに低い単位の用途が少なくなり、単位を10倍に上げたのか。

 成長の証とも言えるが、当時は大混乱だっただろうな。テレビやネットを使って全国民に周知するなんてことはできないし。

 まだまだ知らないことはあるだろうが、とりあえずお金に関しては大まかに知識を得ることができたと考えていいだろう。計算は全く変わらないから楽なもんだし。


 さて、今、俺たちの手元には鎧を売った代金である500万エルがある。商人ギルドに直接売れば倍くらいになるらしいが、それでも大金だ。

 この宿は1泊5千エルらしいので、千泊できる計算だな。うーん、宿の値段は安いんだよな。人件費とかが安いのか?

 使い道はある程度2人の中で決めているらしく、明日は市場に行くという話なので、色々見ればまたわかることもあるだろう。俺も欲しいものがあったら買っていいと言われているしな。


 俺たちがそんな風に話すのをよそに、部屋の中をぐるりと見て回って色々と調べていたミアが俺たちの元に戻ってくる。

 そしてソフィアに目配せすると扉の方を指差した。それを確認したソフィアは「うん」と頷き、しばらく目をつぶって静かにしたかと思うと、ふぅ、と安心したかのように息を吐く。

 んっ、なんだ?


「周囲の人の気配を探っていたんだ。入口の兵士たち以外にはおそらくいない。ここのギルドがまともでよかったよ」


 不思議そうにする俺に、ソフィアがその耳をピクピクと動かしながら周囲を見回して教えてくれる。

 なんでそんなに用心深くする必要があるんだと疑問に思いつつも、それより気になるのは……


「『まともじゃない、ギルドがあるのか?』」

「あるね。まあそういうところはだいたい雰囲気でわかるんだけど」


 緊張を解いたのか、ぐでーっとソフィアがベッドに倒れこむ。ふにゃふにゃにふやけたその姿は、マイホームでリラックスしていたときのソフィアの姿そのままだ。

 そんなソフィアを微笑ましく眺めながら、先ほどまで彼女が座っていた椅子にミアが腰を下ろす。


「ギルドの規定では、モンスターから得た物品は討伐者の物になるとなっている。今回の鎧も、この規定が適用されるわけだ」

「『うんうん』」

「だが、この鎧を私たちに奪われたという者がいたとしたら? それを私たちがゴブリンに着せて、倒したモンスターが着ていたと偽装したと主張されたらどうなると思う?」


 うーん、ギルドの規定をこちらが悪用したと言われた場合ってことか。

 普通に考えれば、提出を受けたギルドが両者の話を聞いて、その内容に矛盾がないかや証拠があるかなどを考慮して判断を下すと思うんだが……まさか!?


「『ギルドが、ぐるになることがある、ってことか』」

「裏で買収されているか、もしくはギルドが主導しているという可能性もあるな。特に私たちのように特定の拠点を持たずに移動する流れの冒険者はカモになりやすいんだ」

「『うわー、たちが悪ぃ』」


 そこまで聞いてやっとミアたちが帰るときに焦っていた意味が理解できた。

 ソフィアはともかくミアには鎧の価値はわかっていただろうし、それを売ればどんなことがあろうとも利益が大きくなるということは明らかだったはずだ。

 ギルドで鎧の買取価格を聞いてから、それなのになんでミアが急いでいたのかずっと不思議だったんだよな。あー納得したわ。


 よしお金について話は聞けたし、疑問も解けた。

 数字の発音を教えてもらうというのが残っているが、せっかくだらけているソフィアにお願いするのも悪い。

 周囲の安全も確保されているし、よし、始めちまうか。


 先ほどソフィアが貨幣の入った袋を取り出したリュックに手を突っ込み、その中からいくつかの袋を取り出しては床に置いていく。

 数は6つ。そのうちの一番大きい袋を手に取ってその口を開き、中に入った丸い物体を見つけて俺はにんまりと笑みを浮かべる。

 それは俺がセシルにお金以外に欲しい物として要望した、ギルドが保有するモンスターの魔石だった。


 モンスターを相手にする冒険者ギルドだけあって、売却することができるらしい魔石は結構保有しているだろうと思って提案したんだが、袋の中には10や20ではきかない数の魔石が入っている。

 その中の1つの魔石を手のひらの上に乗せ、上から自らの手を叩きつけて砕くと、魔石はきらきらとした光を放ちながら徐々に小さくなり姿を消す。

 そして俺の手のひらにゴブリンの描かれたカードが1枚現れた。うん、まあゴブリンのカードは今後使うかもしれないからな。どれだけあっても損ではないはずだ。


 半ば作業的に魔石を取り出しては潰してゴブリンのカードに俺はし続ける。

 それを10回ほど繰り返したぐらいだろうか。ベッドに寝ていたソフィアが、俺のほうに顔を向けながら何気なく尋ねてきた。


「でもピクトの能力って面白いよね。なんで魔石を潰すとカードになるんだろう?」

「えっ? これって皆こうなるんじゃなかったのか!?」


 ひょんなことから俺は衝撃の事実を知ってしまったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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