表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜  作者: ジルコ
第2章 異世界の街へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/62

第2話 初めての村を訪問(入るとは言ってない)

 朝から休憩を1度挟んだとき以外は歩き続けること4時間、森の様子が少しずつ変わり始める。

 森の奥のような道なき道を進むのではなく、明らかに人の手が入った小道を歩いているため体にかかる負担も少なくペースも早い。

 ところどころに新しい切り株や、そこから若木が生えているものが見られるようになり、人の生活を感じられるように変化していったのだ。


「もうすぐ村だよ、ピクト」

「『おー、こうもピンポイントで村の、場所までたどり着けるなんて、ミアの方向感覚は、すごいな』」


 連日歩き続けたせいで若干疲れ気味だったソフィアの明るい声に微笑んで返しながら、ミアに称賛の言葉を贈る。

 こんな目標物もなにもない森を歩いて、目的の村付近にピンポイントでたどり着くことが俺にできるとは思えない。

 いや、俺というか普通の奴にはそんな芸当無理だろ。


「私だけの功績じゃない」


 猫耳をぴくぴくと動かしていたミアが、周辺を警戒しながらそう返してくる。

 いや、先導したのはミアだし、ソフィアと俺はついていっただけだからミアの功績だと思うんだが。

 まあその尻尾がゆらゆらと揺れているので、悪い気はしていないんだろう、たぶん。


 コーン、コーンと森のどこかで木に斧を入れているのであろう音を聞きながら俺たちは進み、光差し込む先へとついにたどり着く。

 この世界にきてから崖の上を除けば初めて開けた視界に映ったのは、木がところどころに立ってはいるもののそれ以外は広大な草原が広がる光景だった。


 森のすぐそばには切り出した木を保管するためか、粗末ではあるが屋根付きの倉庫のようなものがありそこには丸太がいくつも並んでいる。

 そしてその奥には、高さ1.5メートルほどの柵に囲われた、見るからに小さな村が存在していた。


「『思ったより、小さい村、なんだな』」

「ピクトがどんな村を想像していたのかわからないけど、魔の森の近くにある村なんてこんなものだよ」


 村というんだから広大な土地に家がぽつぽつと建ち、周辺には田畑が広がっている田舎の風景を想像していたんだが、言われてみればその通りか。

 モンスターがはびこる危険な森の近くで、土地を広げるのは防衛という面で大きなリスクになる。

 家をある程度密集させることでその面積を狭め、なにかがあったときに対応しやすくしていると考えれば、当然の構造と言えるのかもしれない。


「『うーん、村よりどちらかと言えば、』……山小屋はなんていうんだ?」

「ウ、ガ、レ、イ、アかな? ミア、山で休んだりするときに使う小屋って山小屋でいいよね?」

「そうだな。山小屋、エルフたちが使うような木の上にあるものは山小屋というな」

「エルフの山小屋は、ヴァ、ネ、レ、イ、アだって」

「おおう、ちょっとややこしいな。会話の流れから判断すればなんとかなるか?」


 俺にはどちらも山小屋と聞こえるが、普通の山小屋と、エルフたちが使う、たぶんツリーハウスみたいな山小屋の発音は違うらしい。

 共通点はあるから覚えるのはそこまで難しくないが、話す相手がどちらの山小屋のことを言っているのか発音を聞き取れない俺には判断が難しい。

 あまり日常会話に出てくるような単語でなかったからマシだが、こういうのが多いとちょっと苦労するかもしれないな。


「『村より、山小屋のイメージだな。仕事のために、住んでいる、みたいな』」

「ピクトの考えは正しいな。普段は街に住み、出稼ぎで村にやってくる者も少なくない。特にこの村は近くにエミレットがあるから、食料などもほとんど生産していないし、その側面が大きいだろう」


 森を抜けたことで警戒を解いたのか、ミアが振り返りながら解説してくれる。

 エミレットというのは、俺が崖の上から見つけた街の名前だ。森の中で聞いたソフィアの話によると、この辺りを治める領主の屋敷がある、領都と呼ばれるそれなりに大きな街らしい。


 この辺りは王をトップとして、各地方を領地貴族が治める国家構造をしているらしい。

 あんなイレギュラーみたいなモンスターがはびこる危険な世界では、即断即決の判断が求められることが多いだろうし、これも国家構造が最適化した結果かもしれない。

 民主主義は、まあ、うん。即断即決は難しいし、味方の中に足を引っ張る奴がいたとしても、なかなか切り捨てられないだろうしな。それが平和である証とも言えるのかもしれないが。


 現代社会で公言すれば袋叩きにあいそうなことを考えつつ、肩にかけた人間が入りそうな大きな布が少しずれてきたので背負いなおす。

 この袋の中にはイレギュラーとゴブリンソルジャー、アーチャーそれぞれ1体ずつの死骸が入っていた。


 ミアとソフィアはこの村から出された森の異常を調査する依頼のために森の奥地へと入っていたらしい。

 ゴブリンの数が増えているという情報から、ゴブリンの集落ができているのではないかと考えていたらしいのだが、出会ったのがまさかのキングボアだったせいで不覚をとった。


 ゴブリンに関しても、ある程度の上位種がいたとしてもミアだけで対処可能だと考えていたようだ。

 ゴブリンの集落は大きくても50体程度が限度であり、それを超える数になると集団で支えられる許容量を超えるために分裂するらしい。

 そして別れた集団が新たな拠点を見つけ、そこでまた数を増やしていく。


 なんというか蜂みたいだな。あれも巣が手狭になると分蜂して新しい巣を作ったりするし。

 まあそんなゴブリンの生態もあって、普通であれば数を読み違えることなどなく、上位種がいたとしても多くて5体程度ということもあって、実力のある者にとってゴブリンは比較的安全なモンスター扱いらしい。


 問題はそこにイレギュラーという非常識な存在がいたこと。

 うん、そう考えるとミアとソフィアの運ってかなり悪いな。いや、ちゃんと生き残ったことを考えると悪運は強いのか。

 そんなことをつらつらと考えている間にも村は近づき、歩哨なのか村の柵の外を歩いていた中年の男がこちらに気づき目を見開くと走って近づいてくる。


「おおっ、嬢ちゃんたち無事だったのか!? もうやられちまったのかと……うおっ、なんだこいつ」


 俺が見えていなかったわけじゃないんだろうが、生き物だと認識していなかったのか近づいてきた男が俺を見つめ大仰に驚く。

 まあピクトグラムになじみのないこの世界の人間が俺を見てどう思うのかは、あらかじめ2人の反応を見てわかっているので心の準備はしてきたんだが。ちょっと傷つくな。

 なんだよ、つるつるの緑ボディが悪いのか? それとも寸胴体型のせいか?


「そのあたりも含めて村長と話がしたい。村長は今、家にいるか?」

「あ、いや。村長は、その……」


 言いづらそうに言葉を止めてしまった男の様子に、ミアがその耳をへにょりと曲げる。


「エミレットのギルドに向かったか」

「すまん。こちらも生活がかかっていて、いつまでも待つことができなかったんだ」

「いや、依頼期間を大幅に超過したのは私たちだ。むしろ今いないということはこれまで待ってくれていたんだろう。それに感謝こそすれ、怒る理由を私は見つけられない」

「お待たせしてしまいすみませんでした。たぶん原因を取り除くことはできましたので安心してください」


 そう言って頭をさげた2人に合わせて俺も頭をさげると、男も慌てて頭を下げる。

 その顔はどこか申し訳なさげであり、その男の人の良さを現しているように見えた。


「村長が村を出たのは今朝がたなので、今から急げば間に合うかもしれん」

「ありがとうございます。急いで戻ってみます」

「いや、こちらこそありがとう。君たちの道に光あらんことを」

「え、ええ」


 男の見送りの言葉に、なぜか顔をもにょっとさせた2人だったが、すぐに気を取り直したのか中に入ることもせず村に背を向ける。

 あれっ、ちょっと俺、村の造りとかいろいろ興味があったんだが寄らないのか? いや、この感じからして絶対に中に入らないよな。


 村に背を向け、足早に歩き始めた2人を追って、俺も歩き始める。

 ちらちらと村の方を振り返って、手を振って見送ってくれる男の姿が小さくなっていくのを確認しながら、俺は小さくため息を吐いた。

 あぁ、初めてのこの世界の人間の村が遠ざかっていく。入ってみたかったなー。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ