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ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜  作者: ジルコ
第1章 扉の先の世界へ

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第35話 後片付けと可能性

 一時はどうなるかと思ったが、結果的に見ればミアは順調に回復してきている。

 ミアがカプセルに入って4日経過した今、壁に映し出されるバイタルは安定的な動きを取り戻していた。

 まだ目を覚ましてはいないが、たまにぴくぴくと体を動かしたりしているので一安心といったところだろう。


 基本的にソフィアはその部屋にずっといて、ソフィアが休む時には俺が代わりにそばにいる体制をとっているが、問題が起きたことは一度もない。

 ちょっと気になってこの装置がどんな仕組みなのか調べてみたりもしてみたが、俺にはさっぱりわからなかったんだよな。

 少なくとも俺の知識の範囲外の超科学の産物のようだ。まあソフィアが使う魔法と同じようなものだと思っておけばいいだろう。


 そしてゴブリンに連れられた女たちは、ミアとは別の部屋に運ばれていた。

 現在はミアと同じような液体に満たされたカプセルの中で目を閉じ眠っているようだ。

 あの虚無に満ちた姿よりはマシなんだが、ミアとは違い心の傷を癒すことができるのかと疑問ではある。


 その中でも1つ驚いたのが、ゴブリンの胎児を妊娠していたはずの2人の女だ。

 カプセルに入れたときは確かに大きかったはずのお腹が、俺がお風呂で体を休めて戻ってきたときにはぺったんこになっていたのだ。

 もう生まれたのか? とも思ったんだがカプセルの中をいくら探してもゴブリンの子供らしき姿はどこにもなかった。そして俺が探した限りこの病院のどこにもいない。

 真相は闇の中だな。


 あってほしくはないが、次にこういう機会があったら見ておいたほうがいいような気がする。

 俺の家であるマイホームであんまり不可思議な現象は起きてほしくないしな。魔法なんかと違ってこっちは観察すればある程度分かりそうだし。

 そんなことを考えながら、俺は最近の日課となりつつあるゴブリンの解体を進めていた。解体といっても魔石を取り出して、残りをぽいっと外に捨てるだけなんでそれ自体はさっき終わったんだが。


「うーん、だいぶ片付いたな」


 ゴブリンが着ていたぼろ布などを使った雑巾で床を拭いていた俺は、それなりに綺麗になったところで立ち上がり、ぐぐっと背を伸ばす。

 まだまだ完全に掃除できたとは言い難いが、少なくともちらっと見て汚いと感じる状態からは脱することができたので今日のところはこのくらいでいいだろう。

 使い終わった雑巾をぽいっと扉の向こうに捨て、ぱんぱんと手をはたいて次は何をしようか考える。


 いちおうソフィアの助言に従ってイレギュラーとゴブリンソルジャーとアーチャーの複数体は残している。

 そいつらは隅の方にかためて置かれているんだが……


「うーん、やっぱり腐ってないよな?」


 いちおう確認のために近づくが、イレギュラーたちは死んだときの状態のままで変わっていない。野性感あふれる匂いはするものの、腐敗臭は感じられなかった。

 だがこれは明らかにおかしい。俺が扉を閉めるために少しだけ外に出たとき、溢れかえるような腐敗臭に閉口したのは記憶に新しい。

 そう、外では死んだら腐るという俺の常識が通用しているのだ。だが、なぜかマイホームではそれが通用しない。


「そもそも腐るのってなにが原因なんだ? 微生物に分解されるのがその1つってことは知っているが、それ以外にもありそうだよな。この中に微生物がいないってことはないだろうし」


 微生物なんて普通に生活していれば、体に付着しているもんだ。たしかに外に比べたらマイホームの中は少ないかもしれないが、それでここまでの差が出るようには俺には思えない。


「時の流れを止める効果が……いや、そんなことだったらそもそも動けないし傷もつけられないはず。となると魔法的ななにかか? うわぁ、そうだとしたらこの世界にまで異世界の浸食が始まってんじゃん」


 思い至ったその事実に若干寒気を感じはするものの、これ以上俺になにかできることはない。

 うん、これ以上この事実について考えるのはやめておこう。どうしようもないことを気にしても意味がないしな。


「さて、となると残されたのはこっちか」


 腰に提げていたお手製バッグから1枚のカードを取り出す。そのカードにはゴブリンが描かれており、そのカードの縁は青色の線で囲まれていた。


「いやー、次はどんな施設が出せるようになったんだろうな」


 昨日、ゴブリンソルジャーから取り出した魔石を割ったらこのカードが出てきたんだ。

 俺が考えたカードのランクアップ理論が正しい可能性が高くなったわけだが、それよりも気になるのがこのカードでなにが呼び出せるようになったかだ。


「ソフィアの希望は食べ物関連だったな。とりあえずその辺りから探っていくか」


 ちょっとランクの高いゴブリンのカードが手に入ったので、別の施設が出るかもしれないと言ったときにソフィアが希望したのが食べ物だった。

 まあ気持ちはわかる。料理を担当していたミアが倒れている今、ソフィアが口にしているのはあのもそもそした携帯食料と水だけだからな。

 病院の2階には入院患者用なのか清潔なベッドがたくさんあったし、簡易的な料理ができそうな小さなキッチンやランドリーも見つけてはいるんだが、食べ物はなかった。

 開けられない保管庫らしき部屋の中に入ればなにかあるのかもしれないが、入る手段がない現状ではどうしようもない。


 お腹をくーっと鳴らして顔を赤くしたソフィアの姿を思い出してほほ笑みながら、俺は『ピクト』と呟いてカードを発動させると、食べ物関連の施設を次々と挙げていく。


「ホテル、レストラン。んー、レストランとかは種類を分けないとだめか? フレンチレストラン、イタリアンレストラン、和食レストラン。まあ弱いゴブリンだし、いろいろな種類の出るこの辺は無理か。となると単品メインで考えて、ラーメン屋、カレー屋、焼き肉屋」


 思いつく限りの料理店を挙げていくが、何一つとして現れる様子はない。うーん、どっかに出せる施設一覧とかないものか?

 いや、そもそも考えたら施設が出るだけで人はいないんだから、材料があったとしても結局料理するのは自分になるんだよな。

 病院みたいな自動化されていればいいが、ゴブリンソルジャーくらいの強さでそんなものが出るとは思えないし。


「となると方向を変えた方がいいか。弁当屋、パン屋、おにぎり屋。あぁ、スーパーマーケットとかでもいいのか。となると八百屋、肉屋、魚屋。うーん、コンビニエンスストアなんかがあったら便利なんだが……これも無理だよなぁ」


 その後も思いつく限りの店の種類を挙げていくが、魔法陣が現れることはなかった。

 うーん、そろそろ自分でも何を言ったのか把握できなくなってきたし、なによりちょっと飽きてきたな。

 後でソフィアに紙をもらって、そこに思いつく限りの候補を書いてから順に調べていったほうがよさそうだ。


 そう判断した俺は、ソフィアの元に戻ろうと考え、ふと見下ろした自分の体が思ったより汚れていることに気づく。

 うん、清潔さを求められる病院にこんな格好で行くのは駄目だよな。そう、決して風呂に入りたいからそう考えた訳じゃない。


「でもやっぱ、『風呂』って最高なんだよな。あの全身を、あっ、まずい」


 自分の失言に気づいたと同時に地面に魔法陣が広がる。俺はすでにカードを発動させた状態だった。それで風呂という言葉を言ってしまうということはすなわち……


「風呂が消えるよな。まあゴブリンのカードはいっぱい……あれっ、消えてない?」


 非常口の時と同じようにお風呂が消えるかと思ったのだが、魔法陣の光を浴びたお風呂はそれが消えた後もそこに変わらずあった。

 いや、ちょっと一回りぐらい大きくなってないか?


「これは、検証してみる必要があるな」


 お風呂になにか変化があったことは疑いようがない。それが危険なものでないか、ここの主である俺は確かめなくてはならない。

 この風呂はソフィアも使っているから安全かどうかはとても重要だからな。

 まあ、建前はこのくらいにして


「さーて、どんな変化があったか楽しみだ」


 そんな本音を漏らしながら、俺は男風呂に向けて足取り軽く歩き出したのだった。

お読みいただきありがとうございます。


現在新連載ということで毎日投稿を頑張っています。

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