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ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜  作者: ジルコ
第1章 扉の先の世界へ

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第24話 ゴブリンの検証?

 結論、キングボアは美味い。

 いやー、けっこうグロい解体とか、キングボアなどのモンスターを高く売るためのポイントだったり勉強になることはいっぱいあったんだが、それを吹き飛ばす勢いで俺が学習したポイントがそれだ。

 さっき分けてもらって食べた携帯食料がいかにクソなもんだったか今の俺ならよくわかる。そりゃソフィアにポイって捨てられるわ。


 未だに床に放置されている携帯食料に、お前が悪い、と心の中でつっこむ俺をよそに、何度目かのキングボアのステーキをソフィアとミアはお代わりしていた。

 2人の目には僅かではあるが涙が浮かんでいる。まあそんだけ喜んでくれれば肉を提供したかいがあったってもんだ。


 それにしても美味いな。目の前のステーキの残り1欠片を見ながら改めて思う。

 解体したキングボアのもも肉を1センチ厚くらいに切って塩を振って焼いただけなんだが、適度に噛みごたえがあって、適度に脂があって食べやすかった。

 いや俺自身肉を食うのが初めてだから比較対象がないんだが、ソフィアたちの様子からしてもこの肉がかなり美味いのは間違いない。


「しかし、不思議だな。あいつ普通に木とかへし折るくらい頑丈だったのに」


 貸してもらった木のフォークでぷにぷにとキングボアのステーキをつつく。その柔らかさは食べた今となっては疑いようがない。そして木にぶつかったら確実に肉がつぶれるはずだ。

 やはり筋肉、筋肉なのか? どこかで筋肉は全てを解決すると耳にしたことがあったがそういうものなのか。そういう次元の話じゃない気がするんだが……。


 ソフィアたちに話を聞いてみたいところだが、今2人は食べるのに忙しいみたいだし緊急の話でもないから後でいいだろ。

 フォークに刺した肉を口に放り込んで咀嚼し、やっぱりうまいなと色々なものを噛みしめながら立ち上がる。


 さて、ソフィアたちが食事を食べ終えるまでしばらくかかるだろうし、その間にゴブリンの検証でも済ませておくか。

 と言ってもさっきキングボアの解体をする前にゴブリンの魔石の取り出し方も教えてもらったので、すでに俺の手元にはミア、俺、キングボアそれぞれに倒されたゴブリンの魔石がそろっている。


「まずは再現性の確認から行くか」


 判別がつくように置き場所を変えておいたゴブリンの魔石の中で、ミアが倒したものの元へ行きそれを思いっきり踏みつぶす。

 当たりどころが良かったのかパキっという音とともに綺麗に粉々になった魔石は光を宙に放ち、そしてそれが消えた次の瞬間見慣れたカードが地面に残った。

 残されたカードを拾って観察してみると、片面はゴブリン、もう片面は人のピクトグラムが描かれている。うん、前と同じカードだな。


「いちおう再現性は確認できたな。となると次は俺の倒したやつか」


 カードを地面に戻し、俺が倒したゴブリンの魔石の元に向かって同じように踏みつぶす。

 見慣れた光を放って消えた魔石が残したのは、先ほどミアが倒したゴブリンの魔石から出現したカードと全く同じものだった。

 続けてキングボアが倒したゴブリンの魔石についても同じことをしてみたが、結果は全く同じ。


「ということは、残されるカードは倒したモンスターの種類により変化する可能性が高い。確定なのは倒した人の違いによる変化ではないってことか。ふーむ」


 3枚のカードを拾い集めながら考える。

 倒すモンスターの種類によってカードが変わるという説の検証をするのは結構簡単だ。なにせここにはキングボアとアサシンベアという2種類のモンスターの魔石があるんだからな。

 まだアサシンベアは解体してないから無理だが、直近で倒したキングボア1体はもう解体して、魔石も俺が持っている。やろうと思えばすぐにできそうだが……


「売れば1年は楽に暮らせる、か」


 ちらりと視線をソフィアたちの方に向けながら考える。

 先ほどキングボアを解体していたときに教えてもらったのだが、強いモンスターから得られる魔石は希少品であり、かなりの高値で売れるそうだ。


 そしてキングボアはかなり強いモンスターに該当するらしく、あくまで推測ではあるが売ればかなりの大金が手に入るらしい。

 とは言え、楽に暮らせる、の水準がどの程度なのかにもよるが、俺に魔石を渡すときにソフィアがぐぎぎ、とでも言いそうな顔になっていたことを考えれば、はした金でないことは確実だ。


「うーん、保留だな」


 俺としては、どちらかと言えば知識欲のほうが勝っているんだが、あの苦渋に満ちた顔を見ると簡単には言い出しづらい。

 せっかく築いた友好的な関係が壊れてしまっては元も子もないしな。

 となると次にやるべきことは……


「あの……ピクトさん」

「んっ? おお、もう食べなくてもいいのか?」


 少し遠慮がちに声をかけ、俺の思考を止めてきたのは、ソフィアだった。

 赤く染まった顔で俺を見つめながら、グロスを塗ったかのように光る唇を彼女は動かす。

 ぽっこりと膨らんだお腹や、その唇のグロスがキングボアの油であることを知らなければそれなりに色っぽいんだろうな。たぶん。


「はい、ごちそうさまでした。えっと、それでですね……」


 んっ、なんか歯切れが悪いな。もしかして食事中に検証したのはまずかったか? いや、でもソフィアたちはグロい解体直後に肉をばくばく食べるような奴だぞ。そんなことを気にするようには思えない。

 そんな風に何を言い淀んでいるのか俺が察せずにいると、ソフィアはさらに顔を赤く染めながら一度目をつぶる。

 そして再び目を開け、俺に力強くこう告げた。


「あの、ここにトイレとかないですか? 地面を掘ろうとしてもできなくて。外に出ていいのかもわかりませんし」

「あー、そういうことか」


 うん、食べるものを食べれば、出るものもあるよな。ちょっとソフィアに悪いことをしちまったな。言うのはかなり恥ずかしかっただろう。

 言い切った今でさえ、羞恥のためか真っ赤になりながらプルプル震えているし。


 とは言え俺自身、排せつの経験がないからそっちの発想に思い至らなかったんだよ。

 いや、待てよ。これまでは食べなかったからなかったが、今の俺は普通に物を食べているし、いずれ経験するのか? おお、なんかちょっと楽しみになってきたな。


「なんか別のこと考えていません?」

「んっ、何が……いやいや、トイレの話だよな。さすがにトイレは……なんだ!?」


 ここにはないぞ、と言おうとした瞬間、俺のすぐ目の前で地面から光が立ち上った。


「ソフィー!」


 光の向こうで切羽詰まった声をあげながら立ち上がったミアの姿が、突如として現れた白い壁に遮られて見えなくなる。

 なにが起きたのかわからずぽかーんと突如現れたそれを俺とソフィアは見つめ、同時にゆっくりと首を動かしてお互いを見つめる。


「なんですか、これ?」


 うん、そのセリフでソフィアがなんかしたという可能性は0になったわけだが、まあこんなものがこっちの世界にあるとは思えないしそれも当然か。

 まるで豆腐のように四角い建物には2つの入り口がついており、その入り口付近には青色と赤色のそれぞれ男性と女性を示すピクトグラムが貼られている。

 うん、まごうことなき公衆トイレだ。


 しかしなんでいきなりこんなもんが……いや、その思考は後回しだな。

 鬼気迫る表情で走ってきたミアの姿を認めた俺は、この場を切り抜ける方向にそのリソースを全投入する。

 そして思い浮かんだのは……


「ソフィー大丈夫か? ピクト、なにを……」

「はい、これがトイレだ」

「した……トイレ?」

「いや、ソフィアにトイレがないかって聞かれたから」

「だからと言ってこんなものを突然出す奴がいるか! 出すなら前もって言え」


 ぷりぷりとミアは怒っているが、ソフィアに言われたとおりに俺がトイレを用意しただけと誤解したようで、安堵の息を吐いて心を落ち着けていた。

 まあいきなりこんなことが起こればびっくりするよな。俺だってびっくりしたし、ソフィアが危機に巻き込まれたかもしれないとミアが怒るのも理解はできる。

 しかし俺はこんなことが出来るとミアに思われてるのか。それはそれでちょっと問題のような気もするが、それはとりあえず後回しだ。


「で、どうする。使うか? そっちの赤いピクトグラムがある入口が女性用のトイレだぞ」

「ありがとうございます。お借りします」


 ミアの声で正気に戻ったらしいソフィアが、そそくさと女性用トイレへと向かって歩いていく。

 そして、その入り口で見えない壁にぶつかって顔をのけぞらせながら「痛っ」と可愛らしい悲鳴をあげた。

 赤くなり始めたおでこをすりすりとなでながら、少し涙目になったソフィアが俺を見つめる。


「もう、なんなんですか、これ!?」

「いや、なんなんですと言われても、なんだろうな?」


 トイレの入り口にある不可視の壁なんて俺が知るわけないだろ。

お読みいただきありがとうございます。


現在新連載ということで毎日投稿を頑張っています。

少しでも更新が楽しみ、と思っていただけるのであれば評価、ブクマ、いいねなどをしていただけると非常にモチベーションが上がります。

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