表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜  作者: ジルコ
第1章 扉の先の世界へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/62

第18話 ゴブリンとの死闘?

「そらよ!」


 少女とゴブリンたちとの間に無理やり入り込み、持っていた木の棒を大振りする。自分の思った以上の速さの出た枝が、近づいてきていたゴブリンたちを吹き飛ばしたのはいいんだが……枝が折れた。

 まあそうだよな。武器として使うために作ったわけじゃなくて、ただの折れた枝を拾って持っていただけのものだから仕方ない。


 手元からぽっきり折れてしまって60センチほどの長さになってしまった棒を放り投げ、地面に落ちていた先ほどゴブリンに投げた棍棒を拾う。

 長さ的にはあまり変わりはないが、さすがにこっちのほうが丈夫だろう。

 棒に吹き飛ばされたゴブリンたちはまだ地面に転がったままだ。よし今のうちに青髪の女にまとわりついているゴブリンたちをなんとかしよう。

 と、その前に……


「なあ、こいつらって倒しても問題ないんだよな?」


 青髪の女が思いっきり斬り殺していたし、たぶん大丈夫だとは思うんだが一応少女に確認すると、コクコクと首を縦に何度も振って答えてくれた。

 そうは言われても人型の生き物に攻撃するのはちょっと気が引けるんだが……まあ、あいつらが襲ってくるんだから正当防衛ってことにしとこう。


 なんでこんな風に俺が悠長に構えているかといえば、ゴブリンたちが青髪の女を攻撃する様子がないからだ。

 着ているものを引っぺがそうとしていたり、手足をツタで拘束しようとしていたりはするものの俺の時のように武器で殴り掛かるようなことはしていない。

 襲うというよりさらおうとしているように見えるんだよな。


「おっと、そんなこと考えている場合じゃねえか」


 1対1であれば青髪の女の方が強いんだろうが、群がっているゴブリンは5体いる。さすがに多勢に無勢というやつだ。

 身に着けていた装備や服はどんどんとぼろぼろになっていく。いちおう女も抵抗しているんだが、何度殴り飛ばされてもゴブリンたち平気で戻ってくるしな。

 打たれ強いなゴブリン。あっ、あいつなんか歯が抜けてんじゃん。それでも戻ってくるなんて無駄にガッツがあるな。


「あの、そろそろミアを助けていただけると……」

「おっ、おお。悪い」


 遠慮がちにかけられた声に正気を取り戻した俺は、青髪の女、ミアに近づいていく。

 元々ピクトグラムとして動かずにせずじっとしていたせいか、観察するのがくせになっちまってるんだよな。

 危険が迫ったりしていれば別なんだが、今はそこまでの状況でもないし。


 そんな風に自分で自分に言い訳しながらミアのそばに立った俺は、次々にゴブリンたちを棍棒で叩いていく。

 ミアに夢中だったらしいゴブリンたちは、反撃どころか抵抗するそぶりすら全く見せず、頭を棍棒で叩かれ気を失っていった。

 剣を掴んでいたゴブリンを最後に叩いて倒してミアの方を見ると、ゼーゼーと荒い息を吐きながら鋭い眼光で俺を見つめている。んっ? なんで俺なんだ?


「助けるならさっさと助けろ」

「すまん」


 助けてもらっておいて感謝の言葉はないのかよ、と少しは思ったが、衣服をぼろぼろに破かれ肌色の見え隠れするミアの姿に謝罪だけして口をつぐむ。

 さっさと助けていればもうちょっと被害は抑えられたはずなのは確かだしな。


 ミアは俺がそれ以上何も言わないことを察したのか、絶命したゴブリンの体から剣を引き抜くと、俺が棍棒で殴ったゴブリンたちに次々ととどめを刺していく。

 そこに一切の躊躇はない。

 本当に彼女たちにとってゴブリンは害虫のような扱いなんだろうなと、その様子をしげしげと観察していると、俺に背中を向けながらミアがぼそりと呟いた。


「助けてもらって感謝している。なによりソフィーを守ってくれてありがとう」


 ミアの表情は俺からは見えない。しかしせわしなく左右に揺れる尻尾の動きからして、俺に対して悪感情を抱いているわけではなさそうだと感じた。

 なんか素直じゃないところが猫っぽいよな。

 そんな感想を抱く俺の目の前で、ミアのしっぽの動きはゆっくりと止まり、その体がぐらりと傾いでいく。


「お、おい!」


 ミアの体が地面に倒れこむ直前に、俺は体を滑り込ませ抱き留める。腕の中のミアは目を閉じ、苦し気に浅い呼吸を繰り返していた。


「ミア!」


 慌てて駆け寄ってきた黒髪の少女、たしかソフィーだったか、がミアの様子を確認し始める。

 血を失ったせいか、青白いミアの顔に泣きそうになりながらソフィーはその両手をミアの胸に置いた。


「かの者の傷を癒せ、ヒール」


 ソフィーの手から放たれた金色の光がミアの全身に広がっていく。

 あのドラゴンのところで見た時間が戻っていくような劇的な変化はないものの、ミアの呼吸がゆったりとしたものに変わり、その表情も幾分か和らいだようだ。


 うーん、程度の差があれど、こんな風に怪我とか病気を治せるなんてすごい世界だな。今後のために俺もぜひとも覚えたいものだ。

 幸運にも今まではたいした怪我をしてこなかったが、いつ何時そんな状況が来るかわからない。そんなときのために、奇跡のように回復できる手段を覚えておくというのは……あれっ、これってもしかして自分には無理とかいう制限があったりするのか?


 考えてみればドラゴンとの戦いで歌って踊っていた変な女も、ソフィーも自分ではなく誰かの怪我などを治療していた。

 もし自分に効かないとしたら代替手段を考えないといけないことになる。あくまで可能性の1つなので、普通に自分に効く線も消えたわけじゃないが。

 とりあえず覚えておくリストには入れておこう。


 ミアの状態は良くなったものの、その目が開くことはない。こんだけ出血しているんだ。生きているだけで儲けものってもんだろう。

 せめて目を覚ますまでは安全な場所で休ませてやりたいところだ。


「となると、あそこしかねえよな」


 森の中に鎮座する1枚の扉を見ながら、俺は小さくうなずく。

 崖の上よりはたぶん安全だと思うが、ゴブリンたちのような存在が襲ってくる可能性がこの森でも少なからずある。ここはけが人が休むには適さない場所なんだ。

 その点、マイホームであれば最低限の安全は確保されている。今のところ勝手に扉から入ってきた奴はいないしな。


「いや、そもそも俺以外の生き物が中に入ることが出来るのかって問題があるのか。入れなかったらマイホームを守るという問題は解決したようなもんだが、こっちの物は持ち込めるんだよなぁ」

「あ、あの、何を?」

「ああ、すまない。安全に休める場所について考えていたんだ」

「はあ」


 よくわからないと首を傾げるソフィーに苦笑を返し、ミアを胸の前で抱えたまま俺は立ち上がる。

 そしてソフィーについてくるように促しながら、白い扉の前に俺は立った。


 うん、やっぱ森の中に扉があるのは異様だな。いや、どこであろうとほとんどの場合はおかしい状況になるだろうが。

 俺はミアを両手で抱えているのでドアを開けることが出来ず、ソフィーに扉を開けてくれるように声をかけた。

 俺の頼みに少し戸惑った様子を見せながら、ソフィーが扉に向かって歩いていく。


「えっと、何ですか。このドア?」

「俺にもよくわからん。でも安全な場所に続いているドアだ」


 ソフィーは突然現れた扉を不可思議そうにしばらく見つめたが、ミアのことを思い出したのか恐る恐るドアノブをひねり、扉を開けようとする。

 しかしガチャっという音が響きはしたものの、その扉は微動だにせず「んー、んー」というソフィーのうめき声だけが森に広がり、そして消えていった。


「全然開きませんよ!?」

「えっ、マジで? ちょっと待ってくれ」


 はぁ、はぁ、と荒い息を吐きながらグリンと振り向いたソフィーの圧に若干焦りながら、抱いていたミアをゆっくり地面におろして扉に向かう。

 いや、まあ勇気を出して扉を開けに行ったのに開かなかったんだから、ソフィーの気持ちもわからんではないんだが、それにしても怒りすぎじゃね?

 しかしなんで扉が開かないんだろうな。そんな風に思いながらドアノブに手をかけてひねるとガチャリという音とともにあっさりと扉は開いた。


「開くじゃん」

「えっ? ちょ、ちょっと待ってください」


 ソフィーがやってきたので場所を譲ると、彼女は不思議そうに扉を動かし首をひねる。

 そして扉を一度締めるとソフィーは再びドアノブをひねり開けようとしたのだが、ドアは再びピクリとも動かなくなってしまっていた。


「本当に何なんですか!?」

「えっ、いや俺に言われても」


 ダンダンと地団駄を踏んでソフィーがイライラを爆発させている。なんというか最初は大人しい印象を受けたんだけど、感情表現が豊かな奴だな。

 しかしソフィーが本気で扉を開けようとしているのは確かだ。あれが演技だったらかなりのパントマイム技術の持ち主ってことになるが、そんな感じはしないしな。

 俺の時は扉がすんなり開いたのに、ソフィーの時はビクともしない。考えられるとしたら指紋認証や生体認証のようなものがこの扉にあるということなんだが……


「見た感じなにもないんだよな。しかしこの予想が当たっていれば問題は全部解決なんだが、たまたまソフィーだけ適合しなかったという可能性も捨てきれないし。うーん、これも後で検証だな」


 幸いにも助けたのはソフィーだけじゃなくミアもいる。扉を開けられるかどうかの検証に付き合ってもらうくらいはできるだろう。


「まあその前に、マイホームへ行けるかどうか確かめるか」


 頬を膨らまして感情をあらわにするソフィーに苦笑しながら、俺は扉を開けて手招きしたのだった。

お読みいただきありがとうございます。


現在新連載ということで毎日投稿を頑張っています。

少しでも更新が楽しみ、と思っていただけるのであれば評価、ブクマ、いいねなどをしていただけると非常にモチベーションが上がります。

よろしければお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ