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ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜  作者: ジルコ
第1章 扉の先の世界へ

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第17話 戦いが終わって

 いちおうこれだけゆっくりしていてもイノシシに動きがないってことは大丈夫だと思うが、万が一ということもある。

 俺は落ちていたイノシシの牙を拾うと、それを持ってそろりそろりと扉の向こうに見える巨体へと近づいていく。


 そしてこっそりと覗き込むと、イノシシは首を90度に折り、その顔面から血を流しながらフーフーと荒い息を吐いていた。

 その両瞳がギロリと俺を睨みつけ、イノシシは立ち上がろうと必死に足を動かす。しかし制御がうまくいかないのか、その足は地面をかくばかりだ。


「悪いな、今回は俺の勝ちだ」


 既にイノシシが脅威ではないことを確認した俺は、その巨体に近づくとその頭へと折れたイノシシの牙を突き刺す。

 ズブリ、という嫌な手ごたえの後、暴れていたイノシシの体はその牙が半ばまで埋まったところでビクビクと震え、そして動かなくなった。


 光を失ったその瞳を閉じさせ、手を合わせておく。今回は出会わないという選択肢も俺にはあったのだ。

 それをあえてせず、そしてイノシシを倒すと決めたのは俺自身だ。命を奪うという選択をしたことは忘れないでおこう。


「さて、いつまでも感傷にひたってる場合でもないよな」


 この場で最大の脅威だったイノシシは倒したわけだが、青髪の女の方はかなりの重傷だった。

 ドラゴンの時にひん死の男を魔法みたいなもので助けた女がいたから、そんなに切羽詰まった事態じゃないのかもしれない。

 でもドラゴンの戦いのときに仲間を回復させていたのって、あの踊っていた白い女だけだったんだよな。


 そんなことをつらつらと考えながら、女性陣2人の元へ向かう。

 俺がイノシシを倒したせいか、それともいきなり扉が現れたせいか、もしくは両方かわからないが2人は呆けたようにこちらを見ていた。

 そして俺が近づいてくることに気づくと、青髪の女は黒髪の少女を隠すように前に立ち、静かに俺を見つめた。

 完全に警戒が解けているわけではないだろうが、武器をむけられなくなっただけマシだな。


「とりあえずイノシシは倒したが、怪我は平気か? 結構血が出ているようだが」

「……」


 相手を気遣い、自分が無害であることをアピールしながらそう尋ねたのだが、2人からの返事はない。

 2人で視線を合わせて無言のうちにやりとりをしているっぽいんだが、いや、それわからない側からすると不安になるんだからな。

 別に感謝の言葉が欲しいとかじゃなくて、俺は誰なんだとかの質問でもいいから会話してほしい。そうしないと先に進まねえし。


 意思を疎通した2人は同時に首を縦に振ると黒髪の少女が目を閉じ、心を落ち着けようとしているのか深く呼吸を繰り返す。

 うん? もしかして黒髪の少女の方が偉いのか?

 いや、考えてみれば青髪の女は彼女を守るように行動していたし、その可能性は大きいのかもしれない。


 まだ若いから経験が足りず、交渉役として話すために心を落ち着けていると考えればこの行動にも納得がいく。

 これでいきなり攻撃でも飛んで来たらアレなんだが、まあ彼女たちは怪我したイノシシでピンチになったんだし、最悪逃げることはできるだろう。そう考えると、ちょっと気が楽だな。


 心が少し落ち着いたことで、2人を観察する余裕ができる。

 俺がイノシシと戦っている間になんらかの治療でもしたのか、見たところ青髪の女の腹部から流れていた血は止まっているようだ。

 とはいえ顔色は青白く、時折その顔をしかめている様子からして体調はかなり悪そうに見える。だが少なくとも死ぬようなことはなさそうだ。


 そうなると必然的に考えは別のものに移る。もちろんそれは彼女の頭から生えている猫のような三角の耳と腰のあたりから伸びる長い尻尾だ。

 尻尾は垂れたままあまり動いていないが、その耳は周囲の音を拾ってピクピクと動いていた。コスプレのようなものではなく、それがしっかりと耳としての機能を果たしている証拠といえるだろう。


「猫は聴力に優れているんだっけ? でも見た目はほとんど人間だし、そんなこともないのか? いや、あえて耳を残して進化したこと考えれば、多少なりとも優位性はありそうだよな」


 俺の呟きを拾った彼女の耳がこちらを向きながらぴくぴくと動く。そこまで大きな声を出しているわけじゃないんだが、この反応からして聞こえている可能性は高いだろう。

 このまま声を小さくしていって、どこまで聞こえるのか試してみたいという考えが浮かぶが、さすがに今は変なことをしない方がいいだろうと自制する。


(まあ、耳の聞こえ方にも個人差があるからな。もし本気で検証するなら統計的には400サンプルくらい必要なんだっけ?)


 なんとなくどこかで聞きかじった知識を思い出しながら、黒髪の少女が口を開くのを待つ。

 黒髪の少女はどことなく困ったような顔をしながら俺の顔をじっと見つめ、次の瞬間その目をキッと鋭くし俺を指さした。


「危ない。後ろにゴブリンが!」

「んっ、おおっと!」


 その警告の声に振り向くと、そこには俺の脳天めがけて棍棒をふりかざしている原住民の姿があった。

 紙一重でその攻撃をかわした俺の目の前で、思いっきり地面を叩いてしまった原住民がその棍棒を落とす。手をわなわなさせながら固まっているから、多分手でもしびれたんだろう。

 わざわざこんなチャンスを逃す手はないので、落ちた棍棒をさっと俺が拾うと、原住民は牙をむき出しにしてギャーギャー騒ぎ始めた。


「なんとなく返せって言ってんのは予想つくけど、自分を攻撃するための武器なんてお前に返すわけねえだろ!」


 小さな体でピョンピョンと跳ね、原住民が棍棒を取り返そうとするが俺は棍棒を高く掲げてそれを阻止する。

 なんとなくこうしていると小さい子をいじめているようにも思えて妙な罪悪感がわくんだが、原住民はこんななりでも立派な……んっ、今ゴブリンって言ったよな?

 やっぱりアレか。こいつらはスライムと同様に害獣扱いされる存在なのか? それを確認するため2人のほうに振り返った俺の目に映ったのは、今まさにゴブリンの集団が女性めがけて襲い掛かろうとする姿だった。


「後ろだ!」

「えっ、あっ!」


 俺の警告の声に青髪の女は即座に反応した。先ほどまでのふらついていたのはなんだったのかと思うほどの速度で剣をふるい、向かってくるゴブリンたちをなます切りにしていく。

 しかし黒髪の少女は振り向いた姿のまま固まってしまっていた。青髪の女がなんとか助けようとしているが、彼女たちに向かっているのは10を超える数のゴブリンたちだ。

 ゴブリンたちの手が少女の体に伸びる。青髪の女の表情に焦りが浮かび、勢いのままに振った剣がゴブリンの胴体の半ばで止まる。


「なっ!?」


 体の半ばまで刃で切られたゴブリンは絶命しているが、止まった刃を周辺にいたゴブリンが掴んで離さない。

 驚きの声を上げた女が、必死に剣を引き戻そうとするがゴブリンたちは下卑た笑みを浮かべながらそれを阻止していた。


「あ、あ、嫌っ!」


 ゴブリンに腕をつかまれた少女が短く悲鳴を上げる。その視線が青髪の女に向かうが、彼女もまた剣を止められゴブリンに襲い掛かられているところだった。

 助けなどない、そう少女の瞳が絶望に染まる直前、その手を掴んでいたゴブリンが勢いよく吹き飛ぶ。


「ストラーイク! なんちゃってな。あっ、投げるのはバットじゃなくてボールだったか」


 走りながら投げた棍棒を顔面に受け、吹き飛んだゴブリンに向けて俺は挑発の言葉を送った。

お読みいただきありがとうございます。


現在新連載ということで毎日投稿を頑張っています。

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