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ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜  作者: ジルコ
第1章 扉の先の世界へ

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第12話 スライム様々

「いやー、これはいいわ」


 満面の笑みを浮かべながら俺は森の中を歩いていく。邪魔な木を避け、時に襲ってくる奇妙な生物たちから逃げながらも俺の進路は一定方向からほとんどずれていない。

 それもこれも、目の前にある道具のおかげだった。


 まあ道具と言ってもそこまで大したものでもない。森で採取した複数の細い木の枝をツルで縛って板状にして、その上にスライムを載せているだけだしな。

 核のない(・・・・)スライムのジェル状の部分はゆっくりとその木の枝の板の上を俺の方に向けて動いている。それが少し中央の枝から逸れたことに気づき、進路を少し修正した。


 しばらく進んだところでスライムが板の端まできたのでくるりと180度回転させると、スライムは反転して再び俺の方向に進み始める。

 それが中央の枝上をゆっくり進む姿を眺めながら、俺は口の端を上げた。


 俺が思い出したのはスライムの習性だ。

 1回目にスライムに出会ったとき、ジェル状の部分から核が飛び出すと残されたジェルたちは核のもとに向かうようにじりじりと動いていた。

 つまり核のある1つの方向を目指して動くわけだ。


 これはある意味で常に北を指すコンパスと同じと言えるのではないか。

 どの方向に進んでいるのかはわからないが、少なくとも核から離れる方向に進むことができる。変な方向に進めばスライムが板の中央から逸れるからそれを見て方向の修正も容易だ。


 懸念材料としてはジェル部分が少しずつ減ってきていることだが、これまで見てきた限りでは1日以上はもちそうな感じだ。

 距離が離れると核の方向がわからなくなるかもと恐れていたが、今のところそんな様子もなくジェル部分は動き続けているしな。


「いやー、スライム様々だな」


 これまで当てもなく歩いていたときに比べ、しっかりと指針がある今の状況はかなり気持ち的に楽だ。

 スライムのジェルが少なくなったり、動きが止まったりしたらまた新しいスライムを探して同じようにすればいいし、もはや森を脱出したと言っても過言では……あれっ、なんか前方から光が差し込んでいる?


 数十メートル先のところで木々が途切れており、そこからかなりの量の光が差し込み森の中を照らしている。

 光の具合のせいか、地形のせいかその先は見えないが、やっとのことで森を脱出できそうだ。やっぱりぐるぐると回っていたのかもしれないな。


 先程までよりも少し軽い足取りのままに歩を速める。

 これでやっと不毛な森から文明圏へ俺は行くことが……


「うん、そんな気はしてた」


 平坦な声で呟き、大きくため息を吐く。

 たどり着いた先は、断崖絶壁だった。木の幹を片手で持って命綱代わりにして顔を伸ばしてみると、吹き上げる風が俺の頬を撫でていく。

 軽く見下ろしただけだが、少なくとも50メートル近い高さがありそうだ。90度に近いごつごつとした岩肌を素人の俺が降りるのはさすがに無謀すぎる。どこか降りられる場所を探すしかないか。


 少しがっかりしつつも、俺が落ち込むことはない。なぜなら見晴らしの良いここは遠くの景色がはっきりと見えるのだ。

 崖の下にはまだまだ森が広がっている。それこそ数日歩いたくらいでは抜け出せないだろうと思えるほどの広い森が。

 しかしその森が途切れた先には狭いながらも道が見えており、その先には街の姿が確認できた。


「おー、見た感じあと数日歩けば外に出られそうだな。とは言ってもまずはこの崖を降りることのできる場所を……んっ?」


 背後から聞こえてきたドドドドという足音と、バキバキと枝の折れる物音に、景色を見ることに集中していた俺は気づくのが遅れてしまった。

 振り返ったそのとき俺の目に入ったのは、以前俺が倒した顔に傷のある巨大なイノシシよりも一回り小さいイノシシが俺に向かって突っ込んでくる姿だった。

 とっさに逃げようとした俺だったが、崖の下を見るために身を乗り出した不安定な姿勢では素早く動くことなどできない。


「くっそ、不運すぎるだろー!」


 そんな不満の声をあげながらなんとか飛びあがって木の上部に抱きついたところで、その木はイノシシの突撃を受けて根本から吹き飛んだ。

 そしてその結果、当然として……


「ひょああああぁぁぁー!!」


 自分でもよくわらかない悲鳴をあげながら、俺は木もろとも崖下に向かってダイブすることになった。

 イノシシも勢いを止められなかったのか落下していくのが視界の端に映る。ざまあみろ、と一瞬思ったが、差し迫った生命の危機にそんな考えは即座に吹き飛んだ。


 幸か不幸か俺が捕まった木は、根元の方を下にしたまま比較的安定して落下している。このままいけば再び地面に突き刺さるんじゃないかって思うくらいの安定度だ。

 生命の危機ゆえかゆったりと感じる時間の中で、俺は自分が生き残る術に頭をフル回転させる。


 落下まであと数秒、下には生い茂った森。枝葉の部分がうまくクッションになればなんとかいけるか?

 いや少しでも可能性を引き上げるには……


 俺は即座に決断を下し、掴んでいた幹から手を離すと同時に上に蹴り上がる。

 そして落下する木の上部の枝を再び掴んだ。こうすれば2重のクッションになって少しは助かる可能性が……んっ、なんかぬるっとする。


「なにが、ってスライムかよ!」


 滑りそうになった手を慌てて掴みなおした俺の視界に入ってきたのは、俺の掴んだ枝に並ぶ5匹のスライムたちだった。

 スライムたちはジェル状の部分をトサカのように逆立てながら、木の枝に張り付いている。こいつらこんなに集団で木の上に待機していたのかよ。


 たぶんこの枝に集まっているのは、俺が下にいたからだろう。あそこでイノシシの襲撃がなければきっと俺の頭にまたスライムが落下してきたはずだ。

 まあ今は俺もろとも落下しているわけだが、こいつらはジェル状でショック吸収性も高そうだし落ちても生き残りそう……あれっ、これ使えるんじゃね?


 ひらめいた直感に従い、浮き上がっていた体をスライムの上に乗せるようにして枝を掴む。気持ち悪いグニュグニュした感触が体に広がるが、今はそんなことに構っている暇はない。

 もう下の森は目の前なのだから。


 下の森に生えていた木に、落下した木が突っ込みバキバキと派手な音を鳴らしながら進んでいく。

 俺の掴んでいた枝にも衝撃が伝わり、ほどなく全身に枝葉がぶち当たっていく。


「かはっ」


 俺の掴んでいた枝よりも明らかに太い枝にぶつかったせいか、掴んでいた枝はバキッと根元から折れ、金属バッドでフルスイングされたかのような衝撃が全身に伝わる。

 自身の口から空気の漏れる変な音を聞きながら、なんとか意識を保っていた俺は逆さまになった世界を見つめる。

 その直後、俺の頭の下で破砕音が響き、幾多の葉が宙を舞い踊った。


「助かった、か」


 運よく俺の掴んだ枝は、下の森に生えていた木の枝に引っかかって止まっていた。

 途中で枝が折れて落下の衝撃をまともにくらわなかったおかげか、体の下に敷いたスライムのおかげかはわからないが、体は痛みはするものの動けないような重症は負っていない。


 手を組み替え、枝にしがみついていた体を離して世界を180度回転させると、手を枝から離して着地する。

 落下して地面に叩きつけられた木は、様々な場所が折れてはいるが思った以上に原型を留めている。ただ森の地面にはぼっこりと穴が開いてしまっていた。

 俺がなにもせずにあのままこの木と運命を共にしていたら、助からなかったかもしれない衝撃があったことをそれは示していた。


「九死に一生を得たって感じか。この世界に来てからそんなのばっかだけどな」


 そんな風に自嘲の笑みを浮かべていると、俺の体からきらきらとした光が舞い上がる。

 またやばい事か? と一瞬警戒心がわいたが、すぐにそれがスライムが消えていくことによるものだと気づいた。

 枝がぶつかった衝撃のせいで、スライムの核を俺が体で潰してしまったんだろう。


「お前たちのおかげで助かった部分もあったかもしれないからな。成仏しろよ」


 そう言って手を合わせた俺の目の前に、まるでスライムたちの餞別せんべつであるかのように見覚えのあるカードが5枚現れたのだった。

お読みいただきありがとうございます。


現在新連載ということで毎日投稿を頑張っています。

少しでも更新が楽しみ、と思っていただけるのであれば評価、ブクマ、いいねなどをしていただけると非常にモチベーションが上がります。

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