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目覚めた世界で生きてゆく 僕と愛犬と仲間たちと共に —新大陸編—  作者: SUGISHITA Shinya


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594 商業組合に入会する (下)

「それで組合に入りたいのですが」

「おお、そうだったな。掃除をしてくれるか」

「いや、組合に入るだけ」

「いやいや、ペテンの手口はなかなかどうして堂に入っていた。普通の人間にできるものではない。色々ぶったくり姐さんの噂があってな。串焼き屋台からぶったくったという話もあったが年齢が合わないな。またそのぶったくり御一行の方々が、ヴィオレンシア帝国に入国してしばらくしたらヴィオレンシア帝国が業火に焼かれたという話もあってなかなかだ」

「あらそうなの。おほほほ」


「入会だったな。これに書いてくれ」

 入会申込書を出された。


「この頃入会がなくてな。新しい仕事をする気風がなくなってしまったようだ。動かないと淀む。新風を吹き込んでくれるとありがたい」

「いつまでいるかわかりませんよ」

「いいさ。入ってくれるだけでありがたい」


 ステファニーさんが申込書を僕の方に押しやってきた。ステファニーさんでいいのに。しょうがない。

「あれ、お子さんがかい?」

「我が主です」

「主か。わかった。記入をお願いする」


 名前はジュノ シン

 年齢は11にしておこう。

 出身 テッサニア王国にしておこう。

 職業 旅人

 現住所 ロワール商会内

 店舗名 オリメ商会パレート支店設立準備中

 店舗所在 ロワール商会内

 扱い品 服 その他


「待て待て、ロワール商会とどういう関係だ。でしょうか」

 言い直した。

「ちょっとした知り合いで」

「確認していいでしょうか」

「どうぞ、近くですから」

 組合長、走って行った。

 すぐ戻ってきた。


「確認しました。ロワール商会から名誉会員の推薦を受けましたので、名誉会員とさせていただきます。会費無料、商売してもしなくても資格は失いません。この大陸のどこでも通用します」

 どっかの名誉組合員証と同じだ。


「そんなに簡単になれるものなのでしょうか」

 マリアさんが聞いた。

「いえ、普通はなれませんがロワール商会の推薦なら問題ありません」

「そうですか」

「はい」


 ノックがあって、女性事務員さんがトレーに何か乗せて持ってきた。

「これが名誉会員証です。サインをお願いします」

 サインした。


「今から名誉会員です。どうぞ我々に力をお貸しください」

 あれ、なんだか雲行きがあやしい。

「なんでしょうか。できることとできないことがあります」


「実は、我が国は塩不足に直面しておりまして、遠国の塩商人から取引の中止をちらつかせられ、特産のワインを、それも年代物を不当な値段で根こそぎ買い叩かれようとしています。年代物ワインは長い年月を経てできるもので、それがなくなってしまったら、宝がなくなったも同然、もはやワインの国とは言えなくなってしまいます。昨日今日出来た新興ワイン国になってしまいます」


「ああ、塩ですか」

「はい。サルメウムの塩が枯渇しつつある今、遠国の塩に頼るほかなく国の宝が塩商人に強奪されてしまいます。何かお知恵を拝借できないでしょうか」


「サルメウムで新たな岩塩の鉱脈が発見されました。厚い岩塩の層です。すでに採掘を開始しています。ロワール商会からサルメウムの塩を買い付けに今朝隊商が出ましたよ」

 ノックがあって、秘書さんがロワール商会から支店長が来たと言って来た。


「おう、元気か。青菜に塩だな。振る塩もないか。これはシン様」

「いま、塩の話をしていたところです」


「シン様の店の事でバタバタしていてさっきは話すことを忘れていたが、ロワール商会でサルメウムに塩の買い付けに行った。荷馬車10台だ。空荷で行って買い付けたらすぐ戻る手筈だ。安心しろ。塩商人の話は断れ。王都には連絡鳥を飛ばした」


「断って塩が入らなければ我が国は・・・。それに王都の連中がその話を信用するかどうかわからない。信用しなければワインを渡してしまうだろう」


「サルメウムの塩なら持っていますよ。融通しましょう。見せ金ではありませんが見せ塩に使ったらどうです」

「本当でしょうか」

「はい。見せ塩なら荷馬車二台ぐらいあればいいでしょう」

「「是非お願いします」」

「いいですよ。塩を入れる袋を用意してください。ツルハシとスコップで掘ったものですから塩板ではなくサラサラの塩になっています。不純物はありません。良い塩です」

「すぐ用意します」


「荷馬車はお前の方で出せよ。うちは10台出てしまっているからな」

「わかった。すぐ用意する」


「袋を荷馬車に積んで、すぐ出られるようにして、ロワール商会まで来てください。塩を袋に入れ積んだらそのまま出たらいいんじゃないでしょうか」

「そうさせてもらう」

 眠っていたような商業組合がにわかに慌ただしくなった。


 支店長はすぐ戻って行った。オリメ商会支店の話が忙しいのだろう。


 僕らも戻ろう。馬車のもとに行くとバトルホースが楽しそうだ。

 なになに。首になった人たちが馬車を盗もうとしたから、蹴飛ばした。そうか。よくやった。その後観察ちゃんが全員滅びの草原に送った。そうか。観察ちゃんもよくやってくれた。ありがとう。尻尾を振っている。嬉しいのだ。

 すぐ馬車に乗ってロワール商会に戻った。


 ブランコと雪原号が、僕の塩、僕の塩というから、少しづつもらって荷馬車一台分づつ複製した。ブランコと雪原号は尻尾を振っている。


 程なくして組合の馬車が着いた。なるべく早く王都に行きたいのだろう。4頭立てだ。砂金の大袋をいくつも積んできた。塩の代金というのでもらってブランコと雪原号の収納にプッシュしておいた。


 エスポーサとリンが積み込みをやってくれるというので二人の収納に複製した塩を送った。


 エスポーサが馬車の荷台にポンと飛び上がる。

「一人が袋の口を開いて持っていてください。私が塩を入れますから、一杯になったらもう一人が袋の口を閉じてください。二人一組です。ではやります」


 どうやるのかわからないが言われた通り袋の口を開いた。すぐエスポーサが塩を袋いっぱいに出した。

「次」


 一人は袋の口を閉じ、一人は慌てて次の袋を開く。繰り返し。すぐ荷馬車いっぱいに塩が積まれた。幌はあるが、塩の袋にシートをかけた。万全の構えだ。


 リンも同じようにして二台の荷馬車に塩が積み込まれ、出発した。組合長もついて行った。護衛が10人。だいぶ奮発したようだ。観察ちゃんがついて行ってくれるから大丈夫だろう。

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