587 ドンドコ教団を滅ぼす
役所に忙しく人が出入りしている。何やら緊迫している。連絡鳥がクーデターの情報を運んできたからだな。
突き当たりの丁字路の手前の左側の建物からドンドコが出て来た。軍の建物らしい。
ドンドンドコドコ、ドンドンドコドコとやりながら角を曲がった。滅びの草原に歩いて行った。
真っ直ぐ中央広場に行くドンドコはジェナとチルドレン、熱帯号、雪原号に任せよう。ブランコ、マリアさん、リンがついて行ってくれた。オリメさんとアヤメさんは、生地や服を見に一緒に行った。
ドンドコさんはもう出てこない。全員出払ったと観察ちゃんが申しております。あとは将校が少しいるだけで、将軍は商人が教祖のところに来るのを待っているそうだ。
それではステファニーさんとエスポーサの最強・最恐経営者に行ってもらおう。僕とアカ、アーダはやることないな。ついて行こう。
ステファニーさんとエスポーサを先頭に軍の建物に入って行く。
受付がある。ステファニーさんが行った。
「ドンドコ教の教祖様の話を伺いに来ました」
「はい。あちらです」
ドンドコ教で通じるらしい。
待合室のような部屋に案内される。
しばらく待っているとさっきの女性が迎えに来た。
「こちらです」
案内された部屋の奥に教祖だろう。女児がお化粧をされて座っている。
先客もいるみたいだ。
来たぞ。将軍だろう。女児の隣に座る。
「では順番にやろう」
待っていた客が女児の前の椅子に座る。
「相談は何かね」
「この頃商売が上手くなくどうしたものかと思っています」
将軍は女児に聞くふりをする。
「そちが派遣した遠国からの塩の隊商はまもなく無事に到着する。だいぶ元手がかかっただろうがサルメウムの塩が不足している今、サルメウムの塩の二、三倍の値で売れるだろう。たいそうな利益になる」
「それはありがとうございました。大変助かります」
「ちょっと待って」
ステファニーさんが発言した。
「サルメウムでは新たな岩塩の鉱脈が発見されすでに採掘が始まっています。遠国の品質の悪い塩は大暴落よ。あんたは大損よ」
「そんな話は聞いていない」
「教祖ならお見通しでしょう。聞いてみたら」
将軍は焦っている。
「それは嘘だ」
「嘘じゃない。サルメウムで枯渇しつつある岩塩鉱脈の坑道の落磐があり、鉱員の救出のために掘った穴が岩塩の厚い層にぶち当たったのよ。神の代理人になぜわからないの」
「嘘をつくな」
「嘘じゃないわ。私たちはその現場にいたのよ」
「・・・」
「ワインを売って歩いている行商人はご存知?その人たちがサルメウムに向かっているわ。塩を仕入れてくる。この地が塩が高ければ少しここで売ってボロ儲けよ」
「・・・」
ワインの行商人は知っているようだ。有名なのかね、あのおじさん。
「それで、教祖さんとやら。あなたはさっきから口をきいていないけど、このおっさんにどうやって情報を教えているのでしょうか」
「あたいは、・・・」
「それでいいのよ。教祖などと言われて口がきけないより自分の言葉で話す方がよほど大切よ」
「あたいの弟が囚われていて、教祖をしろと脅されていて」
「黙れ、黙れ」
「おや、教祖様になんていう口をきくのでしょうか。教祖様のお言葉は絶対じゃないでしょうか」
ドーン、ドーン。
中央広場の方から音が聞こえてきた。
「おい、なんだ」
さっきの商人に向かって言った。サクラだ。部下だろう。部下に聞いてもわからないからエスポーサが教えてやる。
「あれはね。神を詐称する集団に神が天罰を下した音よ」
将軍は顔色がどす黒くなった。
「そんなはずはない。神の代理人はここにいる」
「神は代理人を頼んでいないわ」
「お前達は誰だ」
「聞かない方がいいかもよ」
「誰かいるか」
さっきの受付嬢が来た。
「将軍様。ばれちゃったようね。ミコちゃん。おいで」
「でも」
「大丈夫よ。弟さんはちっちゃい動物が助けてくれた」
教祖様が受付嬢の方に行った。受付嬢が世話をしていたらしい。
「私は兄弟もいない。二人は妹と弟のような気がする。私が二人を引き取ります。私は今日で辞め、故郷へ帰ります」
偉いね。それでは将軍がお札で稼いだ中から、教祖代と監禁慰謝料、退職金を進呈しよう。
観察ちゃんが金庫の中から砂金の大袋を二つ持ってきて僕に渡した。
「これは教祖としての出演料、弟さんの監禁慰謝料、受付嬢の退職金です。もっていきなさい。故郷にはこの小さい動物が送っていきます。ここにいてはいけない。直ぐ立ちなさい」
砂金は観察ちゃんが収納した。持てないからね。
教祖を演じていたのはミコちゃんていったっけ、ミコちゃんとその弟が成人するまで十分な砂金の量だろう。
ミコちゃんの化粧は落としてやった。愛くるしい子供だ。
ミコちゃんと受付嬢は出て行った。
将軍は目を丸くして、何か言いかけたが、エスポーサに睨まれて黙ってしまった。
「三人は詮索無用」
エスポーサが念を押す。将軍は震えている。
すぐ三人と観察ちゃんで軍の建物を出た。あとは観察ちゃんがついているから大丈夫だろう。
あれ、ゾロゾロと内勤の事務員さんたち、下働きの人たちが逃げ出した。受付嬢が声をかけてくれたのだろう。
ジェナとチルドレンが熱帯号と雪原号に分乗して、マリアさん、リンとブランコと転移してきた。
「おとたん。終わったよ」
「じゃあ、ここは終わりだ」
「お前達は軍を総動員して滅ぼしてやる」
「できるかしらね。やってみたら」
ステファニーさんがニコニコしている。
「あほー、あほー」
アーダだ。妖精に似合わず口が悪い。
僕たちも軍の建物を出た。
役所には衛兵が集まっている。衛兵は軍の管轄ではなかったらしい。
衛兵はピリピリしているね。軍がクーデターを起こそうとしていると思っているね。
教えといてやろう。
「衛兵さん、軍に関する大事な情報があるのだけど」
軍の建物から出て来たのを見ていたね。すぐ隊長らしい人のところに案内された。
「こんにちは」
「軍の大事な情報をお持ちとか、教えていただけないでしょうか」
おお、丁寧だ。それじゃ教えてやろう。
「軍は、ドンドコ隊を各地に派遣、その過程で大半の軍人は逃亡。ドンドコ隊は神の怒りに触れて既に全滅。今、軍は将軍と将校の数人しか残っていない」
ドラちゃんたちが上空に戻って来た。
僕が軍の建物を指差す。
軍の建物に熱線が照射された。軍の建物は将軍と数人の将校もろとも蒸発してしまった。
「神の代理人を詐称したので、神の怒りに触れました」
「・・・そのようです」
目の前の子供が指さしたら熱線が天から照射された。神はこの子なのか。畏れる衛兵隊長である。
「それじゃ僕らはこれで失礼します」
ドラちゃんとドラニちゃんが小さくなって降りて来て抱きついて来た。
「全部やったよ。漏れなく全部」
「ありがとうね」
よしよししてやる。
観察ちゃんも戻って来た。
『シン様。送って行ったよ。田舎の街だった。軍の退職金と言って少しの砂金を元手に三人で小商をするみたい』
「大丈夫そうね。小商というところがいいわ。細々とやっていけば困ることはないわね」
ステファニー管理職だ。
「じゃあ行こう。それではみなさん、さようなら。軍は潰れましたよ」
中央広場近くに転移、オリメさんとアヤメさんと合流。
「生地は緑の平原に限ります」
オリメさんとアヤメさんの評価だ。
裏通りから郊外へ転移。
昼食を一緒にしてから、ステファニーさん、オリメさん、アヤメさんは神国に戻って行った。




