584 ドンドコ教団の免罪符売りに出会う
国境監視所がある。向こう側にあるだけだ。こっちの国はやる気がないらしい。
「身分証明書を出せ」
向こうの国はやる気があり過ぎるらしい。
大人しくテッサニア王国の名誉国民証を出した。
「ふん。その小さいのはなんだ」
「従魔です」
「通れ」
やれやれ。
「先が思いやられますね」
マリアさんがエスポーサに言った。
「そうだわね。面白いかも」
確かに面白そうだ。すぐ先で、なんだか太鼓を叩いている人たちがいる。チラシでも配りそうだ。
ドンドンドコドコ、ドンドンドコドコ、ドンドンドコドコ。
繰り返している。聞いていると眠くなりそうだ。
何か演説を始めた。
「皆の者よく聞け。この間の火球は神が降らしたものである。邪な者に鉄槌を下したのである。神の代理人である我が教祖がこのありがたいお札を作った。このお札があれば罪は浄化され神の代理人である我が教祖の庇護下になり、火球は落ちない。札を買わねば火球が落ちる。急ぎ買え」
エスポーサがマリアさんに言った。
「めざといわね。免罪符売りの商売を始めた」
「インチキ教祖に騙される人がいるのかしら」
誰かお札を買った。下を向いてニヤッとしている。サクラだな。
「今買った人、教祖の祝福がある。罪は浄化された。安心して眠れる。他のものは買わなければ安心して眠れない。いつ火球が落ちてくるかわからないぞ。神の目は限りなく良い。今もみんなの行動を見ているぞ」
あ、何人か買っている。疚しい人たちだろう。
ジェナがぷんぷんしている。溶岩を取り出した。
男たちの頭上に真っ赤なドロドロとした溶岩が浮いた。
聴衆はザワザワしている。
インチキ教団の人は真上の溶岩に気が付かない。
「火球というのはあなた達の頭の上にあるものかしら」
エスポーサがインチキ教団に聞いた。
上を見た。燃える火の玉が浮いている。
「ひえええ」
腰を抜かした。
ジリジリと溶岩が下がる。
「お札はどうしたの?」
「こんなもの、効くものか。助けてくれ」
「教祖に頼んだら」
「こんなこと出来るものか」
ああ、燃え出した。
集まった聴衆は、呆気に取られている。お札を買った人は詐欺師だと喚いている。
ぷんぷんジェナは
「きったない。取り替えてくる」
溶岩とジェナが転移して行った。
すぐ戻ってきた。
「おとたん、たくさん持ってきた」
「そうかい」
どのくらい持ってきたのだろう。この星は若いからね。溶岩も元気だ。
では行こう。
ジェナがさっきお札を買ったサクラの頭の上に小さい溶岩を置いた。
溶岩が頭に潜る。頭が燃える。
「お札は効き目がないようね。持っていると目印になってかえって危ないかも」
エスポーサが言うとお札買った人が慌ててお札を投げ捨てた。
僕らは歩いて街を目指す。
程なく街に着いた。国境から近い街だ。門番はいたが特に何も言われず出入りしている。
普通の街だ。広場を抜けて街を通過。
次の街を目指す。
今度はなかなか街が見えない。ただ歩いている人はいる。魔物もいないのだろう。
やっと街が見えてきた。行手から音が聞こえて来る。
ドンドンドコドコ、ドンドンドコドコ、ドンドンドコドコ。
「またドンドコ教団ね」
マリアさんが呟く。
「そうみたいだね。お札売りか」
「おとたん、溶岩?」
「一応行ってみてからね」
街の門はここも出入り自由だ。
音のしている方に行ってみる。
中央広場だろう。屋台が並んでいる。ジェナ達はすぐ屋台に行った。
ドンドコ教団が中央で演説している。
「皆の者よく聞け。この間の火球は神が降らしたものである。邪な者に鉄槌を下したのである。神の代理人である我が教祖がこのありがたいお札を作った。このお札があれば罪は浄化され神の代理人である我が教祖の庇護下になり、火球は落ちない。札を買わねば火球が落ちる。急ぎ買え」
さっきと全く同じ口上を述べている。あらかじめ決めてあったんだろう。
周りでは太鼓をドンドンドコドコと叩いている。
「屋台で串焼きを買ったお嬢ちゃん、このお札を買わないと明日は串焼きにありつけないかもしれないよ。火の玉が今夜お嬢ちゃんの上に落ちるかもしれないよ。さあ買った買った」
「うるさい」
天から光がズドーンと。演説者は灰になってしまった。
「お札がなんだって」
幼児のジェナが凄んだ。
「お札は、お札はありがたいものだ」
ズドーン。灰になった。
ドンドコ教団の連中は太鼓もお札も放り出して逃げて行った。
ズドーン。
逃げた人も太鼓もお札も灰になった。
お札を買った人は慌てて放り出した。
彼らは金儲けがしたいのか、それとも信仰なのか。どっちなんだろうね。
だいたいこういうものは仕組みを考えた人が儲かるが、その他の人は損するばかりというのが真理だろう。お札を売りつけて教祖が吸い上げる仕組みに違いない。




