572 モンターナの街中でスリ被害屋の悪人に会う
宿を探そう。
観察ちゃんの案内で裏通りの宿へ。
二階建てのこぢんまりした宿だ。
ジュビアが三泊で交渉に行く。
大丈夫だそうだ。大部屋一部屋をとった。
フロントはおばさんだ。
今回はトラブルはないだろう。おばさんは元気そうだ。
暇そうだからこの国のことを聞いてみた。
街の各地区の世話人と、商業組合とで集まって運営しているのだそうだ。代表は互選で今は商業組合の会長が代表をしている。軍と名があるが、国境警備隊と街の衛兵だけで、警備隊は30人。ヴィオレンシア帝国との国境しか常駐の警備詰所はない。他の国境は見回りだけと教えてくれた。
なるほどそうなの。ごく一部の耕作可能地域を除いてみんな荒地で領土は広い。領土の広さから言ったら小国だろうけど、実態は街だな。
部屋はいつも通り、床が一段高くなっていて寝具は布団だ。お湯を持ってきてくれるところも一緒だ。
今回は何もなさそうだ。魔物も飼っていないし、奴隷商もいない。奴隷もいない。
たまにはのんびりだな。
夕食を食べに行こう。フロントのおばさんに断って出かける。
中央広場か裏通か。今回は裏通の食堂へ。
僕らが入ると一杯になりそうだ。何軒か見たけど広い食堂はない。そしたらやっぱり広場の大きな食堂か。
広場に行こうと裏通を歩いているとスリだという声が聞こえる。男がかけてくる。僕に何か投げる。
犯人と被害者はグルだと観察ちゃんが言うので投げられたものは投げた男のポケットに転移させておいた。
被害者が僕を目指して走ってくる。その後ろを衛兵らしい人と野次馬が追って来る。
「こいつが犯人の仲間だ。スリとった品物をその子供に投げるのを見た」
僕に品物を投げた男は角を曲がったところで止まって角からこちらを覗いてニヤニヤしている。古典的な手口だ。
後ろに気配を殺したエスポーサがいるのに気が付かない。
衛兵と野次馬が追いついて来た。
「こいつが犯人の仲間だ」と自称被害者がさっき言った事を繰り返している。
衛兵が「ちょっと来てもらおうか」と言うから断った。
衛兵はムッとしている。
「衛兵さん。早くその男を捕まえてくれ。そいつはよそ者だ。スリは財産没収だ。擦られた者のものだ」
「へえそうなの。衛兵さん。そういう規則があるの?」
「ある。が主犯だけだ」
「僕は子供だ。主犯に見える?」
「見えないな」
「残念ながら僕の財産は没収にならないみたいだよ」
「お前が主犯だ。その光って飛んでいるものも没収だ」
「あなたはさっき広場にいたね。見てたでしょう。この子が少し離れたら僕の元に引き寄せられたのを。この子は僕とアカから離れられない。だから元々無駄だよ」
「そいつはなんなのだ」
「さあ。それにこの子をヴィオレンシア帝国の闇市で売ろうと思った人がいたけど、ヴィオレンシア帝国は滅びたよ。見たでしょう。火球が飛ぶのを。今は火球の業火に焼かれてすっかり草原になっていて魔物の天下だよ。滅びの草原という」
「待て、火球のことを知っているのか」
「知っているよ」
「今天変地異で大騒ぎになっている。中央会議で話してくれないか」
「いいけど。その前にこれを片付けなければね」
「ああ。どうするのか」
「簡単だよ。これの仲間を今連れてくる」
逃げようとしたね。角からこちらを覗いていた男。エスポーサが気配を消すのをやめた。びっくりして振り返る。
「逃げますか?」
逃げればたちまち命を失うのがわかった。どうやるのかわからないが命が消えることがわかる。
「いや、逃げない」
「ではお仲間のところに行きましょう」
被害者と言っていた男があんぐり口を開けた。
お仲間は「すまない。ばれた」。
「その男のポケットを見てください」
衛兵がポケットから品物を取り出した。砂金の小袋だ。
「その小袋を目星をつけた人に投げて、犯人の一味にするんです。そして財産没収というわけです。これまで何回もやっていたんでしょう。調べてみた方がいいですよ」
衛兵は大変なことになってしまったと唇をかんだ。
「とりあえず逮捕して上司に指示を仰いだ方がいいんじゃないでしょうか」
「そうだな。そうする」
衛兵は応援に駆けつけていた衛兵とスリの被害者を装った犯罪者一味を捕縛するのであった。
衛兵が気がつけば子供とその仲間達はいなくなっていた。
僕たちお腹が空いたんだよね。裏通りから魔の森の泉に転移した。シートを出してみんなで夕食にした。
一応宿に帰らなくてはならない。おばさんが心配する。早くしないとジェナ達が眠くなってしまう。宿の近くに転移、宿に戻ってから再び森の中に転移。スパ棟を出してすぐお風呂、就寝だ。忙しかった。
朝は、ジェナ達も元気よく起きる。すぐ宿に転移。宿から広場に行き、朝粥を食べた。なかなか美味しい。衛兵が見つけたと言う顔をして走っていく。
少しして昨日の衛兵が来た。
「おはよう」
「昨日はどうしたのだ」
「お腹が空いてね。ほらこんなに幼児がいたのでは時間になれば食事にしないと大変だ。お子さんはいるのでしょう?そうじゃないですか」
「ああ、まあ、そうだ」
「それとそろそろ国境警備隊の一部が戻ってきますよ。警備隊長は国境近くの谷まで行ったでしょうからまだ戻ってはこないでしょうけど、国境警備隊が戻ってきたら一緒がいいんじゃないでしょうか。手間が省けますよ」
「わかった。どこに泊まっている?」
「名前は聞いてなかったな。裏通りの二階建てのおばさんがやっている宿だ」
「ああ、わかった。会議の時間が決まり次第呼びに行く」
「わかりました。午前中はいませんが、昼食を食べたら戻っています」
衛兵は城門の方に行った。宿は有名なのかな。おばさんが有名なのか。どちらでもいいけどね。
「おとたん、午前中、熱帯号と雪原号と、熱帯雨林と雪原に遊びに行っていい?」
「いいよ。あ、そうだ。リンがまだ行ったことがないのでマリアさんとリンと一緒に行ってくれる?」
「いいよ。おねたん一緒に行こう」
宿の部屋に転移して、ジュビアとアイスマン、リンが人化を解いて出かけて行った。
僕は何をしようかな。ぶらぶらと散歩だ。僕とアカ、ブランコ、エスポーサ、ドラちゃん、ドラニちゃんだ。ドラちゃんとドラニちゃんは交代で僕に抱きついてくる。ジェナもお狐さんもいないからね。たまには甘えたいのだろう。僕は嬉しいけど。僕とアカの間に二人を入れて手を繋いで散歩だ。
この国は王政ではないから貴族はいないのだろう。貴族街はない。その代わりにあるのは高級住宅地だ。だけど明確な区別はない。だんだん立派な家が増えていくと言う感じだ。官庁街は中央広場のあたりにあるみたいだ。各地区の世話人と、商業組合とで運営しているそうだからその方が都合がいいのだろう。
半日で街を大体回れたと思う。
「3泊も要らなかったかもね」
「そうね。何もなければ明日出ましょうか」
アカも同意見だ。




