507 山を下り緑の平原へ
山の稜線でブランコの隣に座って前方に目をやる。
緩やかな起伏の緑の平原が続いている。彼方に山並みが見える。かなり遠い。足下の麓に集落があり、幾つかの集落の先には街がある。その先にも集落が幾つかあってまた街がある。街から放射状に道が延びている。その道に集落が点々とあり網の目みたいだ。ただ横よりもこちらの麓から彼方の山へと伸びてゆく道がよく整備されているようだよ。街道だな。名付けて中央街道なんちゃって。
魔物はいないかごく少ないのだろう。一応集落も周りに柵はあるが申し訳程度だ。魔物なら簡単に壊せるが人では時間がかかるだろう。強盗対策かもしれない。ドラちゃんとドラニちゃんが観察ちゃんを乗せて偵察に行く。
シートを出してお昼の準備だ。ジェナはゴロゴロしてアカとエスポーサのところを行ったり来たりしている。
ドラちゃん達が帰って来た。
「シン様。コシくらいの街を五つくらい越えるとその先にリュディア王国の王都エクバティアくらいの街があったよ。その先にも同じように集落が続いているみたいだけどお腹が空いたから帰って来た」
「そうかい。よく見て来てくれたね。ありがとう。お昼にしようね」
マリアさんが料理を並べてくれます。エスポーサはジェナを抱っこして、マリアさんはリンを抱っこしています。
「ではいただきます」
「いただきます」
リンはなんでも食べられるみたいだ。
「ドラちゃん、街に人はいたかい?」
「いたよ。たくさんいた。広場があって出店が出ていたみたいだよ」
「集落にもいたよ。畑仕事をしていた」
ドラニちゃんも見て来たことを教えてくれる」
「そうか、じゃあまずは麓の集落に行ってみよう。そこから辿ってみんなが見つけてくれた大きな街まで行こうね」
『だけど、街は人しかいなかったよ。どの街にも従魔はいなかった。荷車を引いていた馬と、人がついて畑を耕していた牛はいた』
観察ちゃんが見て来たようなことを言う。ドラちゃんの上で分裂して街に転移して見たんだろう。ほら木の実を齧っているふりをしている。可愛いな。
アカがまったくと申しております。
「それじゃみんな人化して行こう。アカは困ったな。神威を抑えても人間離れした美人すぎる」
「大丈夫。シンと同じくらいの背格好になって神威を抑えればいい」
「それじゃそれでお願いしよう。ええとそうすると、マリアさんが成人女性、ブランコとエスポーサが年長青年で、僕とアカが子供でその下がドラちゃん、ドラニちゃん。ジェナが幼児。リンが成人女性だな。どう言う関係にしようか」
しばらく考える。みんな楽しそうだ。
あとは誰か呼ぶかだけど。大所帯になってもおかしいからこのくらいだろうな。でも山を越えて来たのならある程度の大人の人数が必要か。不審がられたらすぐ来ると言って、ティランママ、ティランサン、熱帯号、雪原号を呼べばいいか。
「ブランコとエスポーサの年の離れた妹がジェナ、マリアさんが親戚の子の僕とアカ、ドラちゃん、ドラニちゃんを連れている、リンはマリアさんの侍女と言うことでどう?」
いいんじゃないとアカが申しております。リンもマリアさんの侍女で喜んでいる。
「じゃあそうしよう。受け答えは、エスポーサとマリアさんにしてもらおう。人が少ないと疑われたら後からすぐ来ると言って、ティランママ、ティランサン、熱帯号、雪原号を呼ぼう。人数は必要に応じてだね。観察ちゃんは見つからないように姿を消してね。お昼寝が終わったらでかけようね」
ジェナはブランコに寄りかかって寝てしまった。
僕たちも休む。
この平原は広いね。山並みがなければ帝国が侵略して来たかもしれない。山が深すぎて、帝国がこちらと交流があったとは思えない。山に道がなかったから多分行き来はしてなかったろう。行き来をしたとしてもずいぶん昔だろう。帝国が邪な思いを抱かなければこぢんまりした平和な土地に三国が続いていたろうに残念だな。
うとうとしていたらジェナが起きた。
「おとたん。起きろ。下に行こう」
「はいはい。それじゃみんなに人化してもらうから待ってね」
シャワー棟を出して人化してもらう。このメンバーはトイレは必要ないから楽だ。
「じゃ、坊ちゃん、行きましょう」
リンも乗る人だった。
「急がないと夜になってしまうから、駆け足で行こう。ブランコ、先頭を頼むよ。エスポーサはジェナを抱っこしてね」
ブランコが駆け出す。みんな続く。問題ないね。下りだからスピードも出る。ただし、土埃はあげない。麓から見られると困るからね。
麓近くなってブランコがスピードを落とした。山道がある。よしよし、いい判断だ。ブランコを褒める。はにかんでいる。可愛いんだよ、ブランコは。人が入っているんだね。多分狩だろう。でも今は山に人はいない。
山道を辿っていくとすぐ麓に着いた。集落方面に道が続いているので歩いていこう。
「おっと、そのまえにみんなリュックを背負っていこう。手ぶらでは山越えはできないだろう」
ちゃんとオリメさんとアヤメさんが用意してくれていました。いい具合にくたびれたリュックだ。中身が入っているように見えて、何も入っていない。ジェナは前にもらったチルドレンとお揃いのリュックだ。幼児のリュックだからね。汚れていなくてもいいだろう。
ブランコが先頭で集落に向かう。人も魔物も何も出てこない。すぐ集落に近づいた。畑仕事をしていた人が気がついた。こちらを見ている。
「こんにちは」
マリアさんが対応することにしたらしい。
「ああ」
「この先に行きたいのですが、村を迂回すればいいでしょうか」
「迂回する道はない。おまえさんたちはどこから来た?」
「山を越えて来ました」
「山を越えるのは至難の業だ。本当か?」
「はい。住んでいたところが災害にあって、必死の思いで出て来ました」
「そうかい。それは大変だ。この辺りは魔物はいないし、獣がいるだけだ。おまえさんたちは盗賊に見えないから通っていいぞ」
「そうですか。ありがとうございます」
好奇の目に見つめられたけど、集落を無事通り抜けられた。
集落と集落の間は急いで、幾つか集落を通り抜けた。皆最初の集落同様、簡単に通してくれた。