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目覚めた世界で生きてゆく 僕と愛犬と仲間たちと共に —新大陸編—  作者: SUGISHITA Shinya


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552 コーリス王国王都の高級料亭と怪しい宿屋の皆さんから情報を仕入れる

 夕食は中央広場に面した高級料亭だ。いつかのように見下されるかと思ったが今日はそんなことなく普通の対応だ。


 料理を持って来てくれた仲居さんに聞いてみよう。

「帝国という名前を聞いたのですがどういう国なのでしょう」

「お客様はよその国の方でしょうか」

「はいそうです」


「この辺で帝国というと、ヴィオレンシア帝国という国があります」

「近いのですか」

「隣国です。・・・あのう」

「はい、なんでしょう」


「みなさんが関わり合いになるような国ではありません」

「それはどのようなわけでしょうか」

 仲居さん。声をひそめる。


「あの国は悪い噂が多すぎます。国家で悪事を働いているとか。周辺国にも密偵を放って悪口を言ったら消すか、誘拐して奴隷にするとかいう噂があります」


「どんな悪事をしているのですか」

「誘拐、奴隷売買、盗品売買の闇市場、賭博。女性を商品とする行為。国家的事業としての周辺諸国への略奪行為。それに噂ですが魔物の改良と改良した魔物を他国に送って国の力を落とし、征服するとか。私の父と弟は大金が動いているという話に釣られて行商に行き、戻って我が国に入ったところで殺されました。何か掴んで戻ったと思われたのでしょう。私と母は止めたのに。・・・母も心労で亡くなってしまいました。だからもう私は何を言ってもどうなってもかまいません」


 なるほど、密偵さんが隣の部屋で立ち聞きしている。せっかく危険を犯して教えてくれたお姉さんに、危害を加えるなら、報いを受けてもらう。


 単純に消すのは簡単だけどそれではこの店に嫌疑がかかってしまう。まずはこの店、従業員は異常なしに記憶を書き変える。発覚を恐れてか報告書、メモの類はない。処分の手間が省ける。


 今日から具合が悪くなり、帰還の途次、国境を越えて帝都に近づいたらはっきりと症状が出て、苦しみのうちに病死というわけだ。


「わかった。よく話してくれたね。もう話さなくていいよ」

「はい。皆さんが帝国に行くと餌食になりに行くようなものです。弟と同じ年頃の人がいたものですからつい余計な事を話してしまいました。すみませんでした」


「いつまでも悪が栄え続けたためしはない。これからは自分の事を考え前向きに生きな。板場で板さんが心配しているよ」

「はい」

 ちょっとはにかんで戻って行った。


 隣の密偵さんは腹を押さえながら出て行った。

「忙しくなりそうね。あまり子供向きの国ではないようですね」

 マリアさんが心配してくれる。


「そうだね。今度の宿の掃除が終わったら帝国の国境まではこのまま一緒に行こう。国境の手前で一度ジェナとチルドレンには帰ってもらおうかな」


「最後は参加でいい?」

 ジェナは物分かりがいいところは物分かりがいい。

「いいよ。ただ場合によっては国ごとだな」

「わかった」

 では宿は掃除が終わったかな。


 宿に戻ると下っ端男が鈍い顔をしている。

「掃除はおわりましたか?」

「終わった。寝具も新品だ」

「それはどうも」


 部屋に行く。あれ、普通宿泊料は前金では。忘れているのか。まあ請求がないのならいいか。

 部屋の寝具は新しくなっていた。一番下のグレードだろうけど、一応虫もいない。


 寝静まった頃おいでになるんだろう。それまで待っていろってか。こんなとこに居られないよ。街の外の森の中に転移。宿は汚いので観察ちゃんは向かいの屋根にいるそうだ。ごめんよ。頼んだよ。テントを張ってみんなでごろ寝。うっかり寝てしまった。


 観察ちゃんから宿の窓の外と部屋のドアの外に従業員が集まっていると連絡あり。では戻ろう。テントを収納して部屋の中へ。外は月明かりだけど窓を破って踏み込んだら部屋の中を真っ暗闇にしてやろう。


 ドン、ドンとドアが叩かれた。それが合図らしい。窓とドアから一斉に侵入して来た。うわっとか言っている。侵入したら目の前は真っ暗。何も見えない。窓の方を見ても真っ暗。


 滅びの草原に転移。賊の周りは真っ暗なまま。賊を手早く椅子に座らせる。ロープで縛った方が捕えられた感じがするだろう。ロープで椅子に縛る。

 顔だけに光を当てる。


「さてみなさん、こんばんは。何かご用と思いますが、なんの用でしょうか」

「なんだこれは。ロープを解け」

「お聞きしたいことがあります。それからです」

「ふざけるな」

「口答えしていいなんて言っていませんよ」


 口答えした男のあたりからバリバリ、クシャクシャと音がする。顔が消えた。牙が見えた気がした。


 残り4人のごく近くから生臭さを伴った息遣いが聞こえる。

「椅子ごとはひどいね。次は椅子は残しておいてもらおう」


「それで続きですが、闇市場があるそうですね。どこにあるのですか?」

「帝都だ」

 今度は正直にお答えいただきました。


「国の名は?」

「ヴィオレンシア帝国だ」

「ヴィオレンシア帝国の帝都に闇市場があるということですね。闇市場にはどうやって入るのですか?」

 答えがないね。椅子を一つ消した。咀嚼音がする。


「残り3人になってしまいましたよ。困りましたね。ではもう一度。闇市場にはどうやって入るのですか?」

「会員証が配られている。それで入場する。または会員の推薦書があれば入れる」


「場所はどこでしょうか?」

「皇帝の居城の隣だ。表向きは公設市場の看板がかかっている。昼間は普通の市場だ。夜になると闇市場が開催される」


「どこに行けばいいんでしょうか?」

「公設市場の入り口の反対側の通用口に見えるところが入り口だ」

「そうですか。入場料はありますか?」

「莫大な金額が動く。そんなケチくさい真似はしない」

「それは太っ腹で」

「各人好きな仮面をして入る」

「そうですか。ありがとうございます。推薦書を書いてください」

 男の前にテーブルが光の中に浮かび上がった。ペンと紙が置いてある。

「書くものか」

 椅子が消えて咀嚼音がする。


「残り2人ですよ。書いてくれますか」

「俺が書く」

 兄貴と言われた男だ。観念して推薦書を書いた。


 隣の男に確認する。

「これでいいですか」

 返事をしない。椅子が消え、咀嚼音だ。


「ダメですよ。ちゃんと書かなくては」

 兄貴は渋々もう一度書いた。今度はいいだろう。

「どうもありがとうございました。ご協力感謝します」


 テーブルが消え、椅子が消え、月の光が暗闇に入って来た。

 一人残った賊は草原の中に立っていた。今まで話をしていた子供らしい者もいない。

 その代わり魔物に囲まれていた。逃げようとしたが餌になってしまった。

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