539 監察官アロガン登場
クロエさんも落ち着いたようだから、出発しましょう。
「クロエさん。馬車に乗ってください。中は子供だけですから十分乗れます」
クロエさんを馬車に乗せて、さてお楽しみに出発。
轍は脇道に逸れる轍とまっすぐ行く轍がある。
街道をしばらく行くと観察ちゃんが盗賊がいると教えてくれます。大盗賊団だな。ここをアジトに王都や周辺に出撃しているのだろう。
道についている荷車の跡は盗賊団のものだな。さっき通り過ぎた脇道に逸れて盗賊団を回避する人達もいるらしい。
「おとたん。行くよ」
「まだだよ。もう少し近くなったらね。盗賊の人数が多いからその前にお茶にしよう」
馬車を止めて、シートを敷いて、おやつの時間だ。
「クロエさんもどうぞ。盗賊がこの先にいますが待っていてくれるでしょう」
「いいんでしょうか」
「はい。大人が少なく子供が多い。そしてお茶などしている。馬車も立派となればもう襲わずにはいられないでしょう。待っていてくれます」
「はあ」
おやつをしてジェナとチルドレンはブランコに寄りかかってと言いたいところだが、ブランコは人化しているのでごろごろして寝てしまった。今ブランコが人化を解くと盗賊さんも困るだろう。
遠くからアイスマンが近づいて来る。3騎ついてくる。
「げ、アロガンが嗅ぎつけた」
クロエさんが気がついた。
なんだか面倒そうだ。観察ちゃんが離宮の見張りを送り込んだ男だと言っています。
「クロエさん。馬車の中に入ってください。向こうはまだクロエさんに気が付いていません。外からは開きませんから安心してください」
クロエさんを馬車に押し込んでクロエさんの痕跡は消した。
近づいて来た。アイスマンが申し訳なさそうな顔をしている。
いいよ、いいよ。よく護衛して来た。僕はすかさず褒めるのです。
「監察官のアロガンだ。お前たちか。勝手に盗賊の討伐をするというのは」
「へえ。それはどこからの情報でしょうか」
「決まってる。監察官の権限はどこにでも及んでいる。たとえ後宮だろうとだ」
翻訳すれば、王妃のところにも間諜を送り込んでいるということだね。へえ。王妃も大変だ。しかし、このお方の発言で後宮に間諜がいることがわかってしまった。このお方は馬鹿ではないか。
「盗賊の討伐に許可がいるのですか。僕たちはこの国の人ではないから面倒ならやめますよ。言っておきますが、盗賊はすぐ先に待ち構えています。後ろにも回って包囲の態勢です。では僕らは帰ります。あとはご自由に。みんな行くよ」
ブランコが乗ったバトルホースを先頭に馬車は離宮にむけて出発。御者はリンだ。
いつでもムジンボーケン隊が出動出来るようにジェナとチルドレンはバトルホースに分乗。
「ガキどもが。待て」
通せんぼしている。
「どけ」
ブランコが少し力を込めて言うと監察官殿とお付きの二人の腰が抜けた。
監察官殿を道の脇にどけて僕らは離宮に向かう。
監察官とお付きは、置いていかれては盗賊にやられてしまうと気付いたらしく、必死になって這ってついて来る。構わないけど。三人は無事に王宮方面と離宮方面の分岐点近くまでたどり着いた。
監察官たちは、急に強気になって立ち上がった。
「覚えていろ」
「忘れませんよ。大丈夫です。ご安心ください。ただ今度は許しません。僕が許しても周りが許さないでしょう」
みんなの怒りが三人に伝わる。監察官たちはもう一度腰を抜かした。今度は当分立てないぞ。
さて離宮に戻ろう。楽しいな。監察官殿がどう出るかな。ワクワクだよ。みんなも楽しそう。
今度は消してしまおう、ショーコインメツとジェナがチルドレンと話しています。
アロガン監察官とお付きの二人。立てない。いつまでたっても腰が抜けたまま。這っていく。通行人から胡乱な者たちという視線を浴びた。しまいには通行人から城門の守衛に不審者がいると通報されてしまった。守衛が4、5人で行ってみると普段大層威張っているアロガン監察官殿である。
「これはアロガン監察官殿にそっくりな方、いかがなされましたか。お腰のあたりが湿っぽいようですが」
大声で問いかける。通行人が集まって来る。
「これは聞こえないようだ。これはアロガン監察官殿に瓜二つの方、いかがなされましたか。お腰のあたりが湿っぽいようですが」
通行人の失笑が聞こえる。
思わず服で顔を隠したアロガンとお付きの二人、四つん這いになって城門に逃げ込んだ。面倒だから守衛は放っておく。
普段威張っているから誰も助けてくれない。3人で必死になって四つん這いで屋敷を目指す。
観客は増える一方。顔を隠し、名前を言わないので、観客は知らぬふりだ。
監察官たちは手のひらと膝小僧を血だらけにして、やっと屋敷が見えるところまで到達した。門番が走って来る。
「お前らなんで教えてくれない。アロガン監察官殿であるぞ。引っくくるぞ」
「これはアロガン殿でしたか。顔を隠して名前も言わなかったのでわかりませんでした。まさか四つん這いになって腰を湿らせて這っているのが高名なアロガン殿とは全くわかりませんでした。せめて顔を見せてくれれば或いはわかったかもしれないのに、顔を盗人のように隠していたのではわかりようがありません。この失禁して無様に四つん這いになっている男が本当にアロガン殿でしょうか。見間違えではないでしょうか」
門番、何も言いかえせず、アロガンら三人を屋敷の中に運び込んだ。
アロガンの耳に屋敷の外の盛大な笑い声が入ってくる。
隣近所の屋敷の貴族も思わぬ珍事に耳をそば立てているようだ。
「くそ。俺の力を見せてやる。さっきの奴らは王妃の離宮に滞在している奴らだな。王妃は隣の国出身だ。うまくもっていって国賊にしてやる。奴らも王妃共々処刑だ。目の上のたん瘤の王妃を片付けるチャンスだ。自動的に王子も王女も消える。そうすれば次の国王は俺の子だ」
大声で怒鳴り散らすから、窓の外にいた観察ちゃんに聞こえてしまう。もっとも小さい声でも聞こえてしまうのだが。
『シン様、シン様。監察官が王妃を国賊にしようとしているよ。王子も王女も消したいんだって。シン様も一緒に処刑だって。自分の女が産んだ子を国王にしたいんだって』
『わかった。ありがとう』
シン様に褒められた。褒められたと喜ぶ観察ちゃん。
『危ないことしちゃダメだよ』
『はーい』
返事がいい。怪しい。




