536 離宮にて
「おとたん。今日の魔物に乗ってくるね」
「いいよ」
あれ、アイスマンとジュビアが寂しそうだ。
「熱帯号と雪原号は特別だよ。ジェナの眷属だよ。一緒に行こう」
アイスマンとジュビアはニコニコとジェナとチルドレンについて行った。
少ししたら森で吠え声が聞こえた。
「グルグルグルグァーーー」
森が震える。離宮がビリビリ震える。
もう一つ。
「ヴア゙ーゥ゙ァ゙ーヴア゙ーゥ゙ァ゙ー」
また森が震える。離宮がビリビリ震える。
「な、なんでしょう」
「あれですか。ジェナの友達が魔物に魔物が置かれた立場を教えたのでしょう」
今まで聞いたことがない迫力のある吠え声だ。
どんな友達かわからないが、魔物では到底敵うまい。
「僕、行ってくる」
ブランコが言って出て行った。
「バカねえ」
エスポーサがのたもうた。
しばらくして森の中から咆哮が聞こえた。
「ウォーーン」
今度は森は大揺れ。離宮はばらばらになりそうだ。王都まで聞こえたぞ。
アカが外に手を向ける。
せっかくの警備員が間近でブランコの咆哮を聞いたものだから泡を吹いてほとんど死にそうなのだ。
「警備員が死にそうだったけど回復させた」
「すみません。馬鹿なもので。つい張り合ってしまいました」
エスポーサが謝っている。叱られるぞブランコ。
クロエがびっくりしている。
どう見ても強者のエスポーサさんが美少女アカさんに謝っている。咆哮といい、美少女のことといい、また報告書が厚くなってしまう。
「ドラちゃん、ドラニちゃん、一廻り見回りしてきて。窓から外に出ていいよ」
「わかったー」
二人で楽しそうに部屋へ戻った。
外を見ると巨大ドラゴンが二頭飛んでいる。離宮を中心に同心円状に回りながらだんだん半径を広げていって森の上を飛んでいる。クロエさんはほとんど気絶状態だ。大丈夫か。
使用人が駆け込んでくる。
「ドラゴンが、ドラゴンが」
「ご心配なく。僕の友達です。森に被害がないか見回りに行きました」
必死に正気を保っていたクロエ侍女長。ドラゴンが友達と聞いて気絶した。リンが介抱している。
「しばらくお休みになっていただいたほうがよろしいかと」
リンが言うと使用人がクロエさんの部屋に案内してくれるようだ。
リンがひょいとクロエさんを抱きかかえた。
使用人はびっくりしている。首を振って案内していった。
エスポーサが転移して行く。ドラちゃんから連絡のあった場所に魔物を回復させに行った。
ブランコが意気揚々と引き上げて来た。
「エスポーサはブランコの咆哮で被害にあった魔物を回復しに行ったよ」
ブランコはまずいという顔をしている。
「今行ったばかりだから追いついて乗せてやれば機嫌がなおるかも」
「シン様、ありがとう」
ヨシヨシいい子だ。
部屋に駆け込み窓から出て行った。
使用人が駆け込んでくる。
「白い狼が、馬よりでかい狼が・・・」
「僕の友達です。大丈夫です。エスポーサと森の被害を回復に行きました」
使用人はなんだか訳が分からない。頼みのクロエ侍女長は寝込んでしまった。
しかし、外から侵入してきたのではなく、外に出ていったのだからクロエ侍女長に報告するのは侍女長が起きてからでいいだろう。こう天変地異が重なったのでは白い狼が出ていったことなど大したことではないと思うのであった。
ジェナとチルドレン、熱帯号、雪原号が帰ってきた。
ジェナはプンプンしている。
「ブランコおにたんが吠えたから乗っていた乗り物が倒れてしまった。痛かったんだから。乗り物は熱帯号と雪原号に限る。弱っちい」
熱帯号と雪原号は嬉しい。ジェナに褒めてもらった。尻尾がパタパタだ。
「ブランコおにたんは、エスポーサに今頃叱られているから許してやってね」
「そっか。叱られてるの?エスポーサおねたんとドラおねたんは怖いものね」
ジェナの機嫌が直った。
「人化しておいで。家の中を歩くと怖がられるといけないから外を回って窓から部屋に入りな」
雪原号と熱帯号がすぐ外を回って、人化してきた。
ドラちゃんとドラニちゃんが帰ってきた。抱きついて来る。
「どうだった?」
「攻撃的な吠え声じゃなかったから、気絶しているくらいだった。小さい魔物は死にそうだったけど、みんなで治してきた」
エスポーサを乗せたブランコが帰ってきた。俯き加減だ。小さくなって玄関から入ってきた。
「よしよし。大丈夫だよ。みんなが治してくれたからね。よしよし。みんなもいつまでも怒っていないよ」
ブランコは‘ほんと’という目をしている。
「大丈夫だよ。いいこいいこ。みんな帰ってきたよ。窓から入って人化してきな」
うんって言っている。玄関から尻尾を振って出ていった。可愛い。
「出来の悪い子は可愛いと言うけど」
エスポーサ、それを言っちゃあおしまいだ。ほんとだけど。
みんな人化して来た。
あ、クロエさんが起きて来た。
「大丈夫ですか」
「ええ、まあ。色々ありすぎて」
「大丈夫ですよ。この離宮は警備員が守っていますから、誰も近づけません。心配はいりません」
その警備員と、その監督が頭痛の種だと思うクロエ侍女長。
「ドラゴンはご覧になりましたよね。あと白い狼と、熱帯号、雪原号というジェナの乗り物がいるのですが。それはまた」
平常心、平常心と小声で唱えるクロエ侍女長。
しばらくして夕食になった。
「明日は色々手配がありますので、朝早く出て夕食には戻ります。朝食はいりません。勝手に出て行きますのでご心配なく。離宮の周りは優秀な警備員が警備していますので安心してください」
「はい」
夕食は静々と進んだ。
「それでは明日、夕方」
部屋に戻って、持って来てくれたお湯でドラちゃんとドラニちゃんが遊んで、何人かがお湯を使った。
お湯を下げに来た使用人さんに、これから明日夕方までいませんのでよろしくと言っておいた。
僕らはすぐ転移。神国自宅スパ棟に戻った。




