744 ラピスラズリの村 (1)
翌朝、まだ数日はこの街にいるというラシード隊長、隊員、ベーベー達と別れて僕らは門を出る。
エリザベスさんとエスポーサは一晩泊まってから僕らと一緒に街の門から出て帰って行った。
門の外側は少し広場のようになっていて、山へ続く道と山裾の道とに別れている。
僕らと一緒に街の門を出たいくつかの隊商が山裾の道に進んで行く。
僕らは山のほうに進む。山裾の道の方が楽だろう。僕らの方についてくる隊商はいない。
道はやや上り坂になっている。すぐ道が曲がって街が見えなくなった。
「おとたん。誰もいないね」
アイスマンが引く荷車に乗ったジェナがつぶやく。
「こちらの道を通るのは地元の人と行商人さんだけじゃないか」
「ふうん」
途中休憩しながら半日歩いた。
「シン、村もないし、誰もいないわ」
「そうだね。これじゃ盗賊も出ないだろう。お昼にしようね」
誰もいないから道に荷車をおいたままお昼だ。
道端にシートを敷いて食事にした。二百人衆が作ってくれた食事は今日もおいしい。アーダもアーダの部屋から出てきてマリアさんに取り分けてもらって少し食べている。
食事をしていると予想に反して向かう先から若い男女が歩いてくる。粗末な服を着ている。
アイスマンが道の真ん中に止めてあった荷車を脇にどかしてくれた。
声をかけてみよう。
「お茶でもいかがですか」
二人がこちらを見て顔を見合わせた。
「おじゃまします」
子供が多いから安心したのだろう。僕たちの方にやってきた。
今までの経験では二人で歩いていると訳ありが多いがこの二人は訳ありではなさそうだ。
紅茶でもてなす。
「これは美味しい」
「お二人はどちらへ」
「麓の街に行って、石を売って日用品を買います。この先に大きな街は当分ありませんが皆さんはどちらまで」
「この道を歩いて行くと山裾の道と合流するところに街があるそうですのでそこまで行ってさらにその先に行ってみたいと思います」
二人は首を傾げている。
「物見遊山です」
「えー、物見遊山にしてはずいぶん遠くまで行くんですね。それに道も険しい。この先しばらく街はありませんが」
「大丈夫です。お二人はどちらから」
「この近くの道沿いの村です」
「ところでどんな石を売りに行くのですか?」
「これです」
見せてもらったらラピスラズリだ。
「これは綺麗な深い濃い青ですね」
「青石は安くて」
「これはラピスラズリという宝石です」
「青石ではないのでしょうか」
「宝石ですよ。ラピスラズリという名前を覚えておいてください。ただの青い石として売っていたんですね。宝石の名前を言うだけでも違うと思います」
「ラピ、ラピスラズリというのでしょうか」
「はい。ラピスラズリは希少な宝石です。それにこれは高品質の立派な石です。良い値で売れると思います。今ならラシード隊商が麓の街に滞在しています。見てもらっていつもの値段と比べてみたらどうでしょうか」
「ラシード隊と言うのは?」
「僕の知り合いのラシードさんが率いている隊商です。シンから聞いたと言ってもらっていいです。街の中央付近の大きな隊商宿に泊まっています。あと何日かは滞在していると思います」
「でも今まで買ってもらっていた店が・・・」
「ラシードさんは定期的にこの先の街に寄っているようです。この辺までなら買い付けに来てくれるかもしれませんよ。相談してみたらどうでしょうか」
「聞いてみます。でも店から横やりが入るかもしれません。うちの村は戦える村人はいません。ラシード隊商も大丈夫なのでしょうか」
「大丈夫ですよ。村に被害が及ばないように手配しておきましょう。それにラシード隊は大変強いです。連れているベーベーもまた強者です。彼らにかなうものはいないでしょう。紹介状を書きましょう。少し待ってください」
ラシードさんへの紹介状を書いて二人に渡した。
「ありがとうございます。ごちそうさまでした」
二人は明るい顔をして街へ向かった。
「買い叩かれていたんでしょうね」
「そうだろうな。石の本来の値段を知らないから安値で買われていたんだろう」
「あの人たちが仕返しに合わなければいいですが」
「観察ちゃんに頼んでおこう」
観察ちゃんが手を上げた。了解らしい。駐在観察ちゃんが見ていてくれるだろう。
「観察ちゃん。何かあればジェナの警備員を出すよ」
ジェナの方を向いて観察ちゃんが手を上げる。何かあったら建物ごと殲滅だな。
「そろそろ行こうか」
声をかけるとジュビアがシートを収納してくれた。出発。
お腹が一杯になったジェナたちはアイスマンが引く荷車の上でお昼寝だ。アーダはだれも通らないからご機嫌で周りを飛んでいたが僕の頭に止まって寝てしまった。そっとアーダの部屋に入れてやった。




