741 ディースに一泊する
ディースが近くなってきたのでブランコから僕とアカとマリアさんが降りてブランコに小さくなってもらう。
ディースの入り口の門は大きい。真ん中が壁で出口と入り口が別になっている。それぞれベーベーに荷物を満載して2頭並んでも余裕が十分ある。上部はアーチ状になって城壁につながっている。つまり城壁に上部がアーチ状になった穴が空いていて真ん中に仕切りがあるということだ。扉は分厚い板で作ってある。
門のところに大勢順番待ちをしている。門が一箇所だから反対側の隊商路から城壁伝いに回って来た人も並んで混雑している。
やっと僕らの番になった。
「ようこそ、ディースへ。見かけぬ服装だがどちらから」
「砂漠を越えて来ました」
「こちらには何しに?」
「これを売りたい」
甜菜糖の小袋を見せます。
「甜菜糖は流通が少ない。良い商いが出来ますように」
交易のための街だから品物があれば簡単に入れる。
門を通り過ぎると広い道路になっていて、街は土色だ。金持ちらしい家にはタイルが貼ってある。この前来たときと全く変わりはない。
小さな宿泊施設のようなものがたくさん並んでいる。その先は大きな隊商宿だ。構造は砂漠の隊商宿と同じ。周りを囲って、囲いに沿って倉庫、ベーベーの厩などがあり、2階が宿舎、中庭に大きな四角い池がある。一階に大きな事務室のようなものがある。
僕らは隊商ではないので、この前泊まった大通りをひとつ入った通りにある宿に行ってみる。大混雑だ。やめよう。
ちょうど宿から出てきた娘さんに見つかった。
「シン様。お久しぶりです。おかげさまで宿の改築が出来ました。シン様・お狐様御宿泊の宿として知られ大繁盛です」
「それは良かった」
「ぜひお泊まりください」
「いやこんなに混んでいては部屋がないだろう」
「いまお客さんをお見送りしましたので、部屋が空いています。ぜひ皆さんでお泊まりください」
「じゃあそうしてもらおうか。ここにいる人数で大丈夫?」
「はい。大丈夫です。今のお客さんも大人数で続きの4人部屋2部屋を使っていましたので」
「そうかい。それじゃ市場でも見てきてお世話になろう」
「何泊でしょうか」
「一泊でお願いする」
「承知しました。夕食と朝食をお付けします」
娘さんと話し終わって、僕らは市場だ。
荷車は預かってもらった。
僕らはいろいろ持っているから特に買うものものもないけど市場は面白い。
ブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃん、ジェナとチルドレンはアイスマンとジュビアと一緒に屋台巡りだ。
僕はアカを抱っこしてぶらぶら。アーダは僕の服の内側のアーダの部屋だ。
「シン、甜菜糖が売っている」
マリアさんが甜菜糖を見つけた。聞いてみよう。
「この甜菜糖はどこからくるんですか」
「これかい。これはな。滅多に入ってこない。ここからずっと東に行って平原に出るあたりで作られている。この辺じゃ土地が悪くて出来ない」
「そうかあ。遠くから来ているんだ」
「西は砂漠、東は山と荒れた乾燥地帯だからな」
「イヅル国あたりで出来ないの?」
「あそこはよその国とほとんど付き合いがないからな。お狐さんという神様を祀っていて外に出てこないからイヅル国がどうなっているのか知らない。よそ者はラシード隊しか行かないのじゃないか」
「そうなの」
「前は人攫いなどが行っていたようだが、この頃は入口に関所などが出来て行けなくなったようだ。あの国の周りは強い魔物がいて抜け道はないそうだ」
「へえそうなの」
「それで何か買うか?」
しょうがない。塩と甜菜糖を交換した。甜菜糖の品質は悪いが高い。
まあイヅル国は細々とラシードさんと商売していれば良いか。漆器もラシードさんが捌いてくれるようになったから、国の奥の貧しい地域も程々になったろう。気持ちは豊かに生活は程々豊かにがお狐さんの国だ。
「スリだー」
遠くで声がした。男が駆けてくる。逃げているみたいだ。男の足先の空気を固めてみる。突っかかって転んだ。追いついた人たちが男を押さえ込み懐にあった巾着をとり出した。
「あったぞ」
追いついた衛兵と行商人が巾着を確認している。
幸い巾着の中に書きつけがあって持ち主の確認が出来たようだ。
人ごみにスリは付き物か。
面倒ごとにはかかわらないようにしよう。そっと現場を離れる。あぶないあぶない。
ドラちゃんたちと合流して宿へ。
門から中に入ると小さな中庭があり、水が張られた水飲み場がある。周りは回廊になっていて、ベーベーの厩、倉庫、事務室などがある。2階が宿泊施設だ。小さいながらも隊商宿と構造が同じだ。入り口近くの事務室に顔を出す。
「こんにちは」
「シン様。いらっしゃい」
娘さんのお母さんだ。
「宿は奇麗になりましたね」
「はい、娘がシン様からもらった宝石で大工さんに頼んでくれて」
「シン様、お母さんは美味しいものを食べようとしたんだよ」
「おまえ、そんなことを言わなくても」
「美味しいものを食べて遊んでいたら今ごろ潰れていたよ。潰れそうな宿を支えて働いてくれていた人たちも失業したんだよ」
言いたいことを言って娘さんが二階の部屋に案内してくれた。
前は換気用の窓があるのみだったが、改築後はちゃんとした窓になっていた。少し裏通りの小奇麗な宿になった。
僕がやった宝石をもらっても改築する気にならなかった親から宝石を取り上げて改築したしっかり者の娘さんが仕切ればもう大丈夫だろう。
夕食は下の食堂だ。ラシード隊の元隊員のおやじさんが挨拶に来た。
「シン様ありがとうございました。おかげさまでお客さんが引きも切らさず来てくれています」
「しっかり者の娘さんが仕切っていれば大丈夫でしょう」
「面目ない」
ラシードさんもディースに来るたびに寄ってくれるそうだ。
夕食は美味しい。若い料理人を雇ったらしい。味付けもメニューも今風だ。
「おとたん、美味しい」
「そうだね」
ジェナの美味しいを聞いてアーダが出てきた。
マリアさんがアーダに料理を取り分けている。
妖精だという声があちこちから聞こえる。良くない視線も感じる。
食堂ではそれ以上のことはなかった。
夜も何もなかった。
朝食を済ませて、昨日忘れていた料金を支払わなければ。この世界の宿は前金が原則だけど。事務所に寄る。
「昨日忘れていたけど、宿代はいかほど?」
「とんでもない。うちが潰れず繁盛しているのはシン様はじめ皆さんのおかげです。とてもではありませんがいただけません。いつでもお泊まりください」
料金は夫婦と娘さんに固辞された。最初からとる気はなかったらしい。まあいいか。こっそり3人を祝福しておこう。




