733 強盗始末 (上)
宗形が強盗の親分に聞く。
「さて、親分。この囚われていた人たちの取引はどうなっている?」
「もう人買いが来る頃だ」
「どこに来る?」
「峠から森の中をこちらに少し入ったところが取引場所だ」
「待ち伏せしよう」
ドラちゃんが楽しそうだ。
「その前に溜め込んだお宝は頂いておこう」
ドラちゃんが言ってドラニちゃんが金貨と良さそうなものを収納した。
ドラちゃんが、
「囚われていた皆さん、安全は保証しますから、少しの間付き合ってください。人買いを捕まえます。この龍愛が囚われたふりをして一番前にいますので安心です」
「あたし?」
「そう。うまく囚われ人になってね。オドオドとするのよ」
宗形マネージャーが演技指導をする。
ドラちゃんが聞く。
「ジェナ達も一緒に囚われ人になる?」
「うん。面白そう」
宗形が続ける。
「では親分さん。取引場所まで先導してください。わかっていると思うけど、すぐ後ろは凶悪チルドレンよ。余計なことは考えないほうがいいわ」
ジェナに突っつかれて親分はトボトボと歩き始める。その後を龍愛、チルドレン、囚われ人。
取引場所まで着いた。
相手もやってくる。馬車3台だ。
すかさずブランコがこっそり退路に陣取る。
「よう。今度は大量だな。品質もいい。高く売れそうだ」
下卑た笑いの男が馬車から降りて来て親分に向かって言った。
親分は黙っている。
「そのちっこいのは安いな」
ちっこいと言われた龍愛がムッとする。
「お前が人買いだな。確定した」
「だからどうした」
「この場で罰を受けるか、官憲に引き渡されるか、選ばせてやる」
「ちっこいくせに偉そうに。俺は男爵だ。お前達下賤のものと違う。官憲などこの俺に楯突けるわけはない」
「おーい。餅つき大会を始めるよー」
エスポーサが迎えに来た。
「あらら、面白いことになっているわね。ふーん」
「誰だ、お前は。俺はヴァルガー男爵だ。お前らは盗賊の一味だな。そう決まった。おい、やっちまえ」
ヴァルガー男爵の従者が剣を抜いた。
「何?やるの?」
「い、いや」
エスポーサに聞かれて後退りする従者。剣を投げ出して両手を上げてしまった。
「後ろの二台の馬車は人買仕様のようね。入っていなさい」
従者は馬車に入った。外から鍵がかけられるようになっている。ドラちゃんが鍵をかけた。
「さて、ヴァルガー男爵。餅つき大会を始めるので忙しいのよね。ハミルトンかトラヴィスか。どちらがいいかな。好きな方を選ばせてやろう」
「ハミルトンとはなんだ」
「公爵」
「トラヴィスとは」
「宰相」
「お前のようなものが知るわけはない」
空中にコップが出現した。男爵の口が開いてコップの水が口に流れ込む。口が閉じられる。圧がかかったようだ。ごくんと飲んだ。
見ている地球組は「えらいこっちゃ踊り」を踊り出すと思った。
「踊り出さないわよ。今度新しく作ったんだけど。ああ効いてきた」
足がなよっとなって男爵が倒れた。
「な、何を飲ませた」
「骨が溶ける薬」
男爵の足が先からだんだん平べったくなってきた。腰のあたりまで平べったくなった。
「頭の骨が溶けてしまうと面白くないわね。この辺でやめておこう」
またエスポーサがコップの水を飲ませる。男爵が盛大にむせた。肋骨にかかるあたりで平べったくなるのが止まった。
「ドラちゃん、囚われ人はハミルトンに押し付けてきて。押収した金貨などを渡してうまくやってくれるように頼んできて」
「わかったー」
ドラちゃんとドラニちゃんが囚われ人と転移して行った。
「ブランコ、アジトは破壊」
ブランコが消え、ドッカーンと音がした。だいぶ地面が揺れた。力技で破壊したらしい。もちろん牢にいた盗賊ごとだ。
エスポーサが紙を取り出して何やら書いて、その紙で紙飛行機を折った。空に向かって軽く投げると、紙飛行機は、ゆっくりと滑空を始め徐々に早くなり、上昇してあっという間に大空に消えた。
馬は馬車から解放してやって、盗賊の親分も馬車に乗り込ませ外から鍵をかける。男爵は放置。
「さて餅つき大会に行こう。ここには魔物忌避剤を撒いておこう。効果が薄れる前にトラヴィスの手下がやってくるといいわね」
エスポーサ達が神国に転移していく。
リュディア王国王宮、執務室のトラヴィス宰相。どうも寒気がする。風邪ではないだろう。何かありそうだ。窓の外を見るがドラゴンは飛んでいない。
ドカンと壁を突き破って何かが執務室に飛び込んで来た。紙飛行機だった。宰相の目の前の空中で止まった。浮いている。
こんなことができるのは連中である。空にはドラゴンはいないが。
凶悪な雰囲気の紙飛行機はトラヴィスに機首を向ける。体を貫通されそうだ。手に取って読めと言っているようだ。慌てて手に取る。
手紙のようである。
「盗賊と人買いを捕まえた。人買いはヴァルガー男爵だと。人身売買の取引場所に男爵らをおいておくので回収しろだと」
地図も書いてある。
署名はエスポーサ様である。
「やばい。何をされるかわからない。近衛隊長と衛兵隊長を呼べ。それと壁の修理の手配をしろ」
秘書が慌てて出て行く。
馴染みのドラゴンは壁を壊したり、大声で王都中に宰相の行状を告げたりするが、慣れたので可愛いとまでは言えないがまずまずの関係だ。
だがエスポーサ様は底知れぬ恐怖がある。遠くから飛んできた紙飛行機が壁を破壊したなどと信じられない。




