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目覚めた世界で生きてゆく 僕と愛犬と仲間たちと共に —新大陸編—  作者: SUGISHITA Shinya


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708 軍は脱走兵が相次ぎ、国王は老衰し退位させられた

「お送りしましょう」

 ローコーに侍従が言った。

「いや、道は覚えましたので、大丈夫です。先ほどの侍従さんは明日より当分休みでしょう。ではこれで失礼します」


 ホイホイと天秤棒で砂金の大袋10袋担いでローコーが宮殿を出た。もちろん侍従は手のものに後をつけさせた。


 天秤棒老人は、走っているようには見えないが、尾行者が必死に走らないと置いていかれる。ふと横道に曲がった。中央広場への近道であるが地元の者しか知らない細い曲がりくねった路地だ。尾行者が追いかけて角を曲がると、天秤棒老人がいない。道が曲がりくねっているから曲がっていて見えないのかと思って走るがどこまで行っても天秤棒老人が見えない。見失った。中央広場まで走って行った。


 見張らせていた兵士に聞くと老人が路地から天秤棒を担いで出て来て、すぐ老人の荷馬車は街を出た。兵が一人尾行しているとのことであった。


 一人尾行班の兵士は荷馬車の見張りを命じられていたが、路地から出て来た老人がすれ違う時、「危ないぞ。すぐ故郷の街に帰れ。送って行こう。このままついて来い」と囁かれた。

 一人尾行班の兵士は不思議な老人一行の言うことは確かだろう。それになんとなく街が不穏だと思ってついて行った。尾行をしているように見せかけた。


 老人一行の荷馬車が城門に向かって進んで行く。

 老人一行は城門を出て、兵士も出た。出る時はチェックがないのですんなり出られた。それからしばらく荷馬車について歩いて人通りが途絶えた時、兵士の目の前がくらっとした。気がつくと故郷の街がすぐ近くに見えた。荷馬車はどこにも見当たらなかった。


 呆然としたが、やはりあの方々は普通ではなかった。きっと言うことは確かだろうと急ぎ自宅に帰った。


「ただいま」

 自宅のドアを開けると母親が驚いた顔をして立ちすくんだ。小さな妹もびっくりしている。そして母と妹が兵士に抱きついて泣いた。


「良かった。良かった。戦争になる。負け戦だ。お前に何かあったらどうしようとおっとうと言っていた。良かった。帰って来てくれて良かった。すぐ服を着替えな。兵士の服は燃やしてしまえ。軍が進軍して来たら城門を閉める。もう外に出るな」


 それから落ち着いてから不思議な老人一行に一瞬で王都からこの街の近くまで送ってもらったと話をした。母親は老人の一行が歓楽街のならず者達を一掃した、影形もなく消したと噂があると話した。

 そして二つの話を合わせて、やはりあの人たちは尋常ならざる方々なのだろうと思った。


 父親が帰って来て、とりあえず、不思議な行商人の手引きで息子が兵役を抜けて帰って来たと月番の商業組合の組合長に報告に行った。


 組合長は、

「わかった。よく報告してくれた。行商人御一行様の手引きで兵役を抜けて来たことはそれでいい。知っての通り我々は軍とは決別した。軍を抜けて来た者に対する処罰はない。帰還おめでとう」


 お祝いの言葉までもらって兵の父親は自宅に帰った。組合長はなにやら行商人のことも知っているようだった。


 それから10日くらいして出征していた兵が一斉に帰って来た。


 この国には、故郷から王都に出征した兵士に街から便りを送る「ふるさとたより」という無料の制度があった。出征兵士は出世しない限り街単位で一緒の部隊に配属されていたので「ふるさとたより」は一部送れば済むのでどの街でも故郷の便りをまめに兵士に届けていた。


 故郷から出身者の部隊宛に送られてくる一枚のニュースである。検閲も何もない。その便りに国境の情勢と、街の「軍は入れない」という決定を書いて素知らぬ顔をして送りつけたのである。


 受け取った部隊はすぐさま演習に向かって、そのまま集団脱走し故郷の街に向かった。あっという間に国境方面の街の部隊が消えた。消えた理由もわからない。軍は動揺した。三分の一くらいの兵がいなくなったのである。それからも集団脱走した兵の友人達がパラパラと脱走した。気が付けば半数近くの兵が脱走していた。


 こちらは雪原号印の丸薬を毎日飲んでいる国王と取り巻きの合わせて5人。10日過ぎて夜がすこぶる快調になった。昼は気もそぞろで夜が来るのだけを楽しみに日を過ごしていた。

 もちろん脱走の件も報告を受けていたが、この国は街の独立性が強い。どうにもならないので引き締めを将軍に頼んで夜を待っているだけである。


 将軍は親しい国境方面出身の将校にふるさとたよりの内容を聞いていた。それとなく自分のグループに情報を流して、病気を理由に引きこもってしまった。

 もちろん将軍派の将校は病気になったり、故郷の母が病気になったりして出勤しなくなった。


 すこぶる夜が調子良い取り巻きの将校が軍の指揮をとることになった。


 ついに国境方面へ進軍開始である。丸薬を飲み始めて15日目であった。覇気に溢れた将校が軍を率いて進軍を開始した。


 野営をして、朝、将校の副官が将校のテントに出向くと老人がいた。よく見ると将校である。


「俺は疲れた。朝起きたら急に疲れが出た」

「どうしたんでしょうか」

「わからない。精力を全部持っていかれたようだ。精も根も尽き果てた。俺はもうダメだ。あとは頼む」

 テントで寝込んでしまった将校である。


 困った副官。他の将校に相談した。

 好戦派の将校が軍を率いることになり、出発と命令して進発した。が、一部残ってしまった。進発したのは好戦派のみ、およそ200。他は理由をつけて、引き上げてしまった。故郷に向かって。


 副官は精も根も尽き果てた将校を馬に括り付けて王都に向かった。


 王都では一夜明けたら国王と取り巻き3人が寝込んでしまった。いずれも精も根も尽き果てた老人になってしまった。


 王妃は王子、王女、重臣を呼んだ。引きこもっている将軍も呼び出した。そして寝室で寝ている国王を見せた。国王はアグアグ顎を動かしているだけである。


「国王は役立たずの老人になった。取り巻き連中に連絡しても病気と返事が来た。国王は見た通り何も出来ない」


 侍医が発言する。

「原因は不明ですが、陛下は一夜にして老衰、長くはないと思われます」


「あなた、退位するわね」

 アグアグ。


「退位するそうですから、長子のお前が国王になりなさい」

「わかりました」

 だれも反対しなかった。国王の取り巻きがいないのである。


「本日即位。手続きしなさい」

 王妃が言って重臣の一人が出て行って書類を持って来た。


 王妃が国王の手を持って書類に署名した。王子も署名。手続きはすぐ終わった。


「では国王。すぐ撤兵したら如何」

「撤兵する。将軍、撤兵だ」


「承知しました。ですが、もはや軍は壊滅状態です。好戦派の将校が率いて出陣しましたが、将校は陛下の取り巻きです。症状は同じでしょう」


「どうなるのか」

「出兵した兵はおよそ500、国境を目指して進んでいると思われます」


「間に合わないか」

「はい。この国の西の国境は近い。今頃国境に差し掛かっている頃でしょう」


「戦になるのか」

「私がつかんだ情報では、隣国の国境を守る兵はまるで異国の兵のように服も我々の服とは違い、兵の練度も良いと聞きました」


「なぜ他国の兵が守る?」

 新国王が聞いた。当然の疑問である。


「わかりません。兵を借りたのかもしれません。それともう一つ。国境の近くの街は軍が進軍してきたら周りの作物は収穫、場内に運び入れ城門を閉じるそうです」


「それでは兵糧がないではないか」

「はい。こちらから持参した兵糧と草を食べているのではないでしょうか。もはや引いても兵糧は調達できず、進むより他はないと思います」


「戦況はどうなると思う?」

「借りて来た兵が帰ったとしても、国境の兵は500です。こちらも500ですが、兵糧、地の利がないので苦戦です」

 まだ進軍した兵が200ほどになったという情報は王宮に届いていない。

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