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502 ステファニーさんとマリアさんの故国の宮殿跡地でリンに出会う

「それにしても右を見ても左を見ても前を見ても後ろを見ても森ばっかりだね」

 エリザベスさんがぐるりと眺めながら言った。


「ここから見たら美しい王都が見えたのに今は森だけしか見えない。国民はこの峠に来て王都を見るのが楽しみだった」

 ステファニーさんがつぶやく。

「みんな来てここで楽しく宴会して王族も混ざって王都を眺めて楽しい一日を過ごしたわ」

 マリアさんが回想する。


「せめて王都のあったところに行ってみましょう」

 少し下ると道路跡に出た。

 ブランコとドラちゃん、ドラニちゃんが慎重に道路跡をたどって先導していく。


「こちらからは比較的緩やかですね」

 アンナさんがステファニーさんに話しかける。

「そう。王都の国民は朝出発して、昼前には峠について、お昼と宴会を一緒にして王都の景色を眺め、峠の向こうの友好国の方も眺め、ときには王族と一緒になって楽しんで、それから戻って日の落ちる前までには王都に十分帰りついた。緩やかな坂だから子供にも歩けた。魔物も少ないし、大人が何人かいれば逃げていくような魔物だから、一日かけての行楽だった。国民の楽しみだった」

「みんなで行ったわね。父と母と友達で峠に行くと国民の誰かしら宴会をしていて、一緒になって楽しんだわね」


 そんな話をしていると麓まで着いた。お昼にしよう。

 シートを敷いて昼食だ。

 昼食の後はジェナはブランコに寄りかかって昼寝。

 ドラちゃんとドラニちゃん、ブランコに乗ったエスポーサが偵察に行く。

 しばらくしてドラちゃんとドラニちゃんが戻ってきた。崩れた城壁らしいものを見つけたと教えてくれます。

 ブランコも戻ってきた。城門らしいものがあって、そこを通り過ぎると建物の土台らしいものがあったと教えてくれます。


 ジェナがプンプンしている。起きたらブランコがいなかったと言っている。

 ブランコが慌ててジェナをペロペロしてあやし始めた。すぐ機嫌が直った。

 では行こうかね。ブランコがジェナとエスポーサを乗せて、ステファニーさんとマリアさんの記憶にある道路跡をたどっていく。みんなが見つけた城壁跡なども方向はあっているらしい。


 おやつ前には崩れた城門、城壁跡に着いた。

「美しい王都だったのに」

 マリアさんとステファニーさんが呆然としている。上空から見たら森となっていたので覚悟はしていただろうけど、いざ遺跡のようになってしまった王都を見ると涙が出てくるのであろう。

 しばらく立ち止まっていた。みんな後ろで待っている。


「すみません。いきましょう」

 ステファニーさんが声をかけて王都だったところに入って行く。瓦礫だけだ。瓦礫の間から木が生えていて森になっている。道路だったところを歩いていく。


「ここは友達の家だった。木に覚えがある」

 マリアさんがつぶやく。庭木が残っていた。

「この木に友達と登って友達のお母さんから良く叱られた。ずいぶん大きくなった」

 庭木を撫でている。

 庭木のほかは森の中に土台らしいものや瓦礫が転がっているだけ。


「先に進みましょう」

 マリアさんが歩き出す。

 しばらくすると多分広場だったろうという場所に出た。

「ここは中央広場だわ。ここから王宮は近かった。貴族街はなかった。貴族も一般国民も区別なく一緒に住んでいた」


「王宮の門柱が残っている」

 マリアさんが門柱を見つけた。

 何の変哲もない門柱だ。飾らない王宮の姿が見えた。

 門柱の内側も瓦礫だ。建物はなにもない。全て破壊されていて、瓦礫の間から木が生えている。


 がさっと音がした。

「「リン」」

 大きな猫のような動物がよろよろと歩いてくる。

 危ないな。寿命が尽きかけている。エネルギーを少しやろう。

 ちゃんと歩けるようになった。こちらを見てニャーと鳴いた。多分お礼だろう。


 ステファニーさんとマリアさんのところにトコトコと向かって、やがて走って飛びついて抱きついた。

「リン。守ってくれていたの。ありがとう」

 ニャーと鳴いて返事をした。

 二人で代わり番こに抱っこして撫でている。

「家で飼っていたリンです。長生きの子なのですけど、生き別れになってしまいました。生きて王宮を守ってくれていたのね。ありがとう」


「良かったら水を飲ませてアンクレットをしましょうか」

「「是非、お願いします」」

 ニャーと言っている。

「じゃあ、リン、ステファニーさんとマリアさんと一緒に生きるかい?」

 ニャーと返事をした。

「じゃあ水を飲んでごらん」

 マリアさんの手のひらに水を出して飲ませる。ペロペロ舐める。体が光った。アンクレットはステファニーさんにしてもらおう。アカがアンクレットをステファニーさんに渡す。アンクレットをリンの前足にした。体が光る。アカが体力と体を回復してやった。痩せ衰えていた体がふっくらとし毛並みの色艶が良くなる。

「ニャー」

 元気に鳴いた。


「良かった。良く生きてくれていたわね」

 ポンとマリアさんから飛び降りトットットッと走り出す。こちらを向いてニャーと鳴いた。

 ついて来てね、だろう。みんなでついていく。

 少し歩いて、地面を掘り出した。

 大分掘ったら大きな箱がいくつか出てきた。

 箱を咥えてステファニーさんに渡す。もう一つはマリアさんに渡す。

 もう一つは僕に渡した。

 なんだろうね。


 ステファニーさんとマリアさんの箱からはティアラが出てきた。おそろいだ。

 僕の箱からはクラウンが出てきた。

 ニャーと言っている。くれるらしいよ。

 これを守っていたのか。偉いな。撫でてやる。目を細めている。


「リン。ありがとう。帝国が侵略してきた目的の一つは、このティアラとクラウンだった。伝説の職人が作ったティアラとクラウンで、もう作れないと言われていた。良く持ち出して守ってくれたわね。ほんとにありがとう」

「ニャー」

 ステファニーさんに褒められて嬉しそうだよ。

 確かにこの世界の今の職人では作れないな。威厳があり、かつ優雅、優しくもあり一緒にできないような性質がうまく調和して具現化されている。稀有な出来だ。


「それで、このクラウンは僕がもらっていいのかな」

「ずっと守っていたリンが渡したのです。もらってください」

 マリアさんがいいというのだからいいのだろう。

「そうか。じゃあもらおう」


 みんなでかぶってみる。

『お似合いです。王様から託されて守ってきた甲斐が有りました』

 リンが喋った。眷属だから喋るか。

 ステファニーさんとマリアさんが照れている。なんでだ。


「ステファニーさんとマリアさんに良く仕えるのだよ」

『はい。承知しました。主様にも』

 なんだかわからないけど、そのうち世界樹のもとに連れて行ってやろう。熱帯号と雪原号と一緒に連れて行こう。


 クラウンの少し傷んでいたところは直した。バランスがあるから元の意匠を残しつつ全体的に手を入れた。ティアラも同様に手を入れた。箱は汚れ飛んでけして新品同様になった。


 さて、これでリンも肩の荷が降りたろうね。心置きなくこの地を離れてついてこられるだろう。

 今日はここでテントを張って泊まろう。

 シャワー棟を出して夕食を食べて就寝。


 お狐さんが来た。

 リンによろしくと言われてびっくりしている。

 でもリンはステファニーさんとマリアさんのところに行ったので安心して僕に抱きついてきた。

 いつものように話を聞いて寝る。アカが僕の右、左はマリアさんとステファニーさん。間にリン。頭の上がエスポーサ、足元がブランコ。お腹の上がドラちゃんとドラニちゃん。


 眠ったら、リンが話しかけてきた。

『シン様、アカ様。ありがとうございました。寿命はとうに尽きて、王様から託されたクラウンとティアラをステファニー様かマリア様に渡さなければという使命感だけで生きてきました。今日シン様とステファニー様、マリア様に渡せてホッとしています。またこれからもシン様、アカ様、ステファニー様、マリア様に仕える事ができるようになり大変嬉しく思います。これからもよろしくお願いいたします』

『僕とアカは仕えてくれる人が多いから、お気楽に一緒にいてくれればいいよ。ステファニーさんとマリアさんに仕えてくれればいいよ』

『はい。わかりました』


『忠臣よね。その国の人は忠臣が多いね。明日連れてきなさい。熱帯号と雪原号も一緒にね。そちらの大陸を旅をするには人型になった方がいいこともあるからね』

 世界樹さんだ。

『わかった。明日連れて行く』

 そのまま眠ってしまった。

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