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目覚めた世界で生きてゆく 僕と愛犬と仲間たちと共に —新大陸編—  作者: SUGISHITA Shinya


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681 宿の厨房

 厨房に女将さんが

「夕食を大人6人、子供7人でお願い。二間続きの部屋のお客さんです。部屋で召し上がるそうです」

 と言った。


「部屋に運んだことはないですが」

 料理長の疑問だ。

「いいのいいの。運ぶのは客室係をよこすから膳に乗せてくれればいい」


「特別な客なんでしょうか」

「なんだか支配人が賓客と言っているのよ」


「内容はどうしましょうか」

「いつものでいいんじゃない」


 支配人がやってきた。

「おい、普通はまずい。お前の能力いっぱいのものを作れ。材料費はこちらで出す」

「いいんでしょうか」

「あなたそれでは赤字になってしまいます」

「やむを得ない。妖精を連れていた客だ」


「ようせい?物語に出てくる妖精でしょうか」

 料理長が驚いて聞き直した。

「そうだ」


「あなた、見間違えたのじゃない。それか作り物よ」

「衛兵隊長もそう言っていたが、しゃべって、飛んだ」


「本当なの?」

「本当だ。ロビーの客も見ている。外食に行くと話すだろう。前例のない神隠しの話題と一緒に程なく話は街中に広がる」


「大変。それじゃ、採算度外視、最上級のものをお出ししなくては」

「だから言っているだろう」


 あれあれ、厨房が大変になっている。赤字では可哀想だ。差し入れをしよう。

「マリアさん、ジュビアと厨房に差し入れに行ってくれる」

「はい。わかりました」


「魔肉と何がいいかな。海の魚だとびっくりしてしまうかもしれない。川魚だな」

「行ってきます」


 マリアさんとジュビアが厨房に出かけた。観察ちゃんが案内してくれる。

「こんにちは。主より差し入れです」


「なんでしょうか」

 手ぶらである。女将さんの疑問はもっともだ。


「魔肉と魚を少々。大きめのバットを貸してもらえますか」

「あ、ああ。出してやれ」

 やや大きいバットを料理人が持ってきた。


 女性がバットに大量の魔肉を山盛りに乗せた。思わず取り落としそうになった料理人である。魔肉を出してくれた人と一緒に来た女の人がバットを支えてくれた。

「ちょっとバットが小さかったようね。もう一つお願いします」


 料理人がすぐ今度は一番大きいバットを持ってきた。

 ドーン。大きな魚が頭と尻尾をバットからはみ出させて乗っている。いや、大半がはみ出している。澄んだ目がこちらを見ている。今し方まで生きていたようだ。


 女将さんも料理長も料理人も声が出ない。

「ご存知のように魔肉は足が早いです。余ったら従業員の方の賄いにでもして消費してしまってください。魚は川魚です。虫はシン様が取り除きましたので安全です。こちらも余ったら賄いにしてください」


「あ、ありがとうございます」

「では失礼します」

 女二人が戻って行った。


「どこから出したかわからない」

 女将さんのもっともな疑問だ。


「これは、魔肉も魚もつい今し方まで生きていたようだ」

 料理長が魔肉と魚を吟味して言った。


「じゃあ、本当に妖精を連れていたの?」

「そうだ。妖精だ。それにどこから出したかわからない新鮮な魔肉と魚だ。機嫌を損ねたら潰されるだろう」

「よくわかったわ。厨房もいいわね」

「承知しました。こんな手に入らない食材を頂いたのでは奮い立ちます。採算度外視で行きます。もっともこの食材を考え合わせればお客人の持ち出しと思います」

「そうだわね。弱ったわね」


「お客人に粗相があってはいけない。客室係は選んでつけてくれ」

「わかったわ。私と娘でやるわ」

「そうしてくれ」


 ロビーにいた客はみんな外食に出て行った。妖精を見たと話したくてしょうがないのである。

 街の食堂、飲み屋に行って、妖精を見たと周りに話してすっきりして宿に引き上げてきた。


 宿に泊まっている人から妖精の話を聞いた人は、朝からの神隠し騒ぎに加えて妖精出現の未だかつてない大事件だと興奮した。誰かに話さずにはいられない。すぐ店を出て友達、知人に話した。夕方であったがあっという間に話は街中に広がった。


 衛兵隊長に代官からお呼びがかかった。

 神隠しの報告をせよということだろう、まだ捜査中と答えておくかと代官屋敷に向かった。

 屋敷に着くとすぐ代官に執務室に呼ばれた。


「おい、妖精が出現したそうではないか。何か知っているか」

「あれですか。宿の主人が妖精が泊まりに来たと言ってきましたが、騙りでしょう。この世界に妖精などいたことはありません」


「お前は調べに行ったか」

「いいえ。騙りですから。何か被害があれば調べますが」


「宿のロビーにいた人が妖精を見たと言っている。今や街中に噂が回っている。俺のところにも噂が流れてきた。なぜ調べない」

「本当とは思えません」


「飛んで口をきいたそうだ。噂話の出所は元をたどれば全て実際に妖精を見た宿のロビーにいた人だ。この噂話は真実味がある。」


「本当なのでしょうか」

「それを調べるのがお前の仕事だろう。しくじるなよ。しくじればお前の首だけでは済まない。俺の首も飛ぶ」


 そんなバカなと思いつつ、ややというかだいぶ分が悪くなった衛兵隊長。

「すぐ調べます」

 急いで宿に行った。


 宿に入ってカウンターにいたフロントマンに言った。

「おい、妖精を連れた客がいるそうだが」

「宿は、泊り客の情報は出しません」


「なんだと。ふざけたことを言うな。俺を誰だと思っている」

「衛兵の方でしょうか」

「そうだ。衛兵隊長だ」

「そうですか」

「わかったら妖精を連れて来い」

「宿は、泊り客の情報は出しません。そのようなお方がいるかいないかの情報も出しません」


「支配人は俺のところに言ってきたぞ。支配人を出せ」

「なんでしょうか」

 支配人が出てきた。


「俺のところに言ってきた妖精の話だ。妖精を連れて来い」

「はて、なんのことでしょう」

「惚けるな。言いにきたではないか」

「記憶にありません。言いにきたと言うことは衛兵詰所でしょうか。どなたか衛兵が私を見たと言うのでしょうか」

 くそ、俺一人だったと衛兵隊長。


 少し真実に近づいてしまった支配人とフロントマン。徹底的に惚けることにしたのである。もちろん従業員にも徹底した。魔肉と魚のことで常の人ではないとわかった従業員も言われなくても口が硬い。


「おかえりはあちらです」

 ドアマンがドアを開けて待っている。


 くそ、くそといいながら衛兵隊長は詰所に戻った。

 衛兵詰所には神隠しを調べに行った衛兵が戻りつつあった。衛兵を執務室に呼んだ。


「おい。広場の宿のフロントマンと支配人を引っ括って来い」

「容疑はなんでしょうか」

「奴らは妖精が泊まっているのを隠している」


「宿は宿泊客の情報を無闇に流してはならないと規則がありますので規則通りの対応と思います」


 衛兵は、神隠しが本当であったこと、妖精の出現を直接見た人から妖精は本物だと聞いたので踏み込むのは危ないと思って隊長の言うことは聞かないのである。

「神隠しの報告書を作るようですので失礼します」


 それなら令状を取ってやると思って、薄暗くなった道を代官屋敷に向かった。

 代官屋敷ではすぐ代官の元に通された。


「わかったか?」

「いえ。宿の支配人とフロントマンは泊り客の情報は出せないの一点張りです。捜索令状をお願いします」

「宿の言うことは正しい。令状は出せない」

「そんな」


「遠巻きに見張ってそれらしい方が出てきたら辞を低くしてお尋ねすることだ」

「引っ括ってしまえばいいのではないでしょうか」

「考えてみろ。神隠しされた娘が帰ってきて、すぐ妖精を連れたお方が来た。おかしいと思わないか。本物の神隠しに本物の妖精だぞ」

「それは・・・」


「前にも言ったな。しくじれば首が飛ぶ。もうお前の首は飛びかかっている。ゆっくり休んで良い。ご苦労であった」


 衛兵隊長は辞職届を詰所の執務室の机の上に置き、遠縁を頼って家族と街を出た。

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