666 賭博開催の貴族邸は大騒動である
真夜中、盗賊の貴族邸襲撃班が走る。騒いで衛兵と近衛兵を引き出すのが目的なので音を立てなくてはならない。わざとらしくではなく、失敗したようにみせかけなければならない。気を使うとぼやきながら貴族邸に到着した。
屋敷内は何やら騒いでいる。面食らった盗賊。しかし、騒ぎを起こせばいいのだからと思い直して、屋敷の塀を乗り越え屋敷に侵入した。
屋敷内は大騒ぎである。盗賊は騒ぎに乗じて門を内から開けて開放、扉と窓を打ち破って中に押し入った。
貴族、胴元側と賭場の客の大騒動に盗賊が加わった。
その頃になって騒動を聞きつけた近衛隊長率いる近衛兵がやって来る、貴族街に接した庶民街の騒動かと衛兵隊長率いる衛兵がやってくる。
貴族屋敷から騒乱の音が聞こえる。屋敷の門が開いている。貴族の屋敷は自治であるが、中を覗くと扉と窓が破られており、中で大騒動が起こっている。
門が開いて中が大騒動で、声をかけても誰も出てこない。
すでに自治能力がないと見た両隊長。
「よし。踏み込むぞ」
踏み込んだ。
屋敷の中は大乱戦である。
貴族の格好をした男と使用人に見える者は貴族屋敷の者だろう。他にどう見てもカタギとは思えぬ男達、他に町人、貴族らしいのもいる。
賭場を開いていると噂がある屋敷だ。八百長がばれて修羅場になっていると兵隊達は見た。
「やあやあ、我こそは狐仮面であるぞ。ものども恐れ入ったか」
狐面を被った男が乱入して来て叫んでいる。両脇を狐面の男女が固めている。両隊長はなんだか背格好に見覚えがあるような狐仮面だと思った。
「うるせえ。やっちまえ」
誰が叫んだかわからないが、狐仮面に襲いかかっていく。
狐仮面が叫ぶ。
「正当防衛だ。やってしまえ」
両脇に控えていた狐面二人と一緒に三人でバッタバッタと鞘つきのショートソードで手当たり次第殴りつけている。丈夫な鞘だ。もう一人いた。狐面少年が木刀で殴りつけている。
どう見てもアレはアレである。
あっという間に狐仮面一味が現場を制圧。
「うははははは。狐仮面が出張ってきたからには、悪は壊滅、証拠は隠滅。さらばじゃ」
狐仮面4人は立ち去った。鞘のままのショートソードと木刀で柱と壁を殴りつけながら。
屋敷が傾く。慌てて逃げる衛兵と近衛兵。屋敷が崩れ落ちた。下敷きになった者達はほとんど死んだに違いない。生きていてもあちこち打撲だらけだろう。確かに悪は壊滅、証拠は隠滅だ。
どこの誰だか知ってはいるが、誰もがみんな知らぬふり、狐仮面の爺さんは、事件現場に現れて、現場を荒らして去っていく。
もう嫌。今日は大災厄日だと思う両隊長。
貴族屋敷で門が開いたまま中で大騒動と報告を受けた宰相。遅ればせながら現場にやってた。
崩れた屋敷を取り囲んで近衛兵と衛兵が佇む。
近衛隊長と衛兵隊長を見つけた宰相。
「どうした。どうなっている。これはどうしたことか」
「狐・・」
「待て言うな。裸足か」
「いえ」
「報告せよ」
「狐仮面4人が騒乱現場に現れ、4人で正当防衛を主張して全員を殴り倒し、柱や壁を殴って去りました。屋敷は見た通り崩れました」
「貴族の内輪揉めか」
「いや、この屋敷は賭場を開いているのではないかと噂があり、我々が来た時にはこの屋敷の貴族とその家族、使用人、賭場関係と思われるヤクザ者一味に対して、客と思われる町人と貴族が八百長だと叫んで、それに盗賊と思われる覆面男達が加わって大騒動でした」
「そこへ狐仮面4人組が現れて、名乗りをあげて襲われると正当防衛だと全員殴り倒して制圧しました。悪は壊滅、証拠は隠滅と言って柱と壁を破壊し去って行きました」
四人組だと。アレは三人だが。待てよ昼間孫に手伝わせるとか言っていたな。そうすると4人だ。
「4人組の一人は少年ではなかったか?」
「そのように見受けられました。どうしましょうか」
「狐面を被っていたのではどこの誰だかわからぬ。それに人が殴って屋敷が崩れるはずはない。だから狐面の連中は人ではない。我々の捜査対象外だ。そんな人は見なかった。いなかった。賭博の欲にくらんだこの屋敷の貴族、儲けばかり考え屋敷の手入れをおこたり屋敷が老朽化していた。賭場を開くと八百長が露見、屋敷の貴族と家族、ヤクザ者、賭博客で大揉め、そこへ盗賊が現れまたまた大騒動。老朽化していた屋敷が揺れに揺れて崩れ落ち全員下敷きになったということだ。そもそも貴族屋敷での賭博は死刑だ。ただ現行犯でなければならない。そのため刑が執行されたことはない。今回は現行犯である。死刑は免れない。捕える前に屋敷が潰れて全員死亡してしまったのは残念だが」
ハビエル神父の手口をよく学んだ宰相である。それにすんなり従う両隊長と兵である。こちらもよく学んだ。
「今日は遅い。明日明るくなってからゆっくり片付けよ。下敷きになったもの達は全員死亡だ」
「承知しました」
兵が全員で屋敷の瓦礫を踏みつけている。明日の片付けの手順を確認しているのだろう。うめき声が聞こえているあたりを集中的に踏みつけている気がするが。邸跡は静かになった。
「今日はよく働いた。数人残して引きあげてよい。現場は火の気がないのを確認して放って置けばいい」
宰相のお言葉だ。火の気がないことを確認して衛兵と近衛兵を2名ずつ邸跡に残して全員引き上げた。
 




