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目覚めた世界で生きてゆく 僕と愛犬と仲間たちと共に —新大陸編—  作者: SUGISHITA Shinya


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515 コーレスにて 高級料亭で試される

 荷車屋さんを出て、お昼だな。みんなを呼ぶ。お昼だよと言うとすぐ来る。

 今日は目立って盗賊さんに目をつけてもらわなくてはならないから、高級食事処へ行こう。


 立派な構えの店があった。入ると若い店員がツンツンしている。

「うちは高級料亭ですので、それなりの方が利用されます」

 へえ、ずいぶん上から目線だ。遠回しにお前らはお断りだと言っている。奥から慌てて上司の方だろうか出てきた。


「申し訳有りませんでした。どうぞ、こちらでございます」

 奥の部屋に通された。広い部屋だ。床もピカピカだ。衝立で区切られていて区切りの中にテーブルがある。庭が見えて一番いい部屋みたいだ。


「昼食をお任せでお願いします」

 エスポーサが冷たく言う。

「承りました。本日は大変失礼いたしました」

 若い店員を土下座させて頭を押さえつけている。そのまま後ろに下がって出ていった。


 少し離れて、年かさの店員が若い店員に説教している。人には聞こえない距離だけど僕らには聞こえるんだ。


「お前はあの方々をお金を持っていないと踏んだのだろう」

「だって誰でも着ているような普段着を着ているんだよ」

「馬鹿者。あの方々の服は、普段着に見せかけている大変上等な服だ」

「そんなことはない。安物だ」


「だからお前は駄目なのだ。金ピカの服をありがたがっているようじゃ駄目だ。あの方々の服はお前が上等と思う金ピカの服より遥かにお金がかかっている。この街では着ている人を見たことがない。昔、生地屋の奥に眠っているのを見ただけだ。それを普段着にしているのだ。どれだけの方々かわからない。丁重に接しろ」

 若い店員は不服そうだ。


「料理だって高いものを頼まずにそっちのお任せのようなことを言っていたよ」

「ほんとにお前は馬鹿だ。いいか、お任せというのは、値段も任せるということだ。どれだけ高いものを出しても払うということだ。調理場の連中をみろ。今のやり取りを聞いて奮い立っているぞ」


「お任せだから普通の料理に少し色を付けて高い値段で出せばいいのではないか」

「馬鹿者。調理場の連中を見ろ。値段構わず最高の料理を作れるから奮い立っているのだ。もし、お任せでいい加減なものを出したら、この街一番と言われているこの店の名折れだ。手は抜けない。料金以上のものをお出ししてご満足いただかなければならない。お客様には満足いただき、店は名声を維持できる。とは言ってもまあ実際は多少儲かるが。お前は受付を外す。雑巾がけからやり直しだ」


「あんな田舎者。詐欺師の食い逃げじゃないか。ダンスホール兼用だから楽師を手配して食事の終わりごろに踊らせてみたら化けの皮が剥がれるに決まっている」

「そうか。もしそうなら店が費用を支払おう。そうでなかったらお前が楽師の費用、食事代全て支払え。しばらくタダ働きだ。試したことはすぐわかるだろう。詫びようがない。全ての料金をこちらで持って詫びなければこの店の暖簾が守れない。受けて立つか」

「わかった。やってやろうじゃないか。もし詐欺師なら、親父は首だ」


 やれやれ大変なことになった。大丈夫かね親子。

 しばらく待っていると料理長と弟子が料理を運んできた。

 品数が多い。どちらかと言うと宮廷料理だな。


「本日は、数ある食事処の中から当料亭をお選びいただきありがとうございました」

 料理長がお礼の言葉を述べ料理の解説をしている。解説は別にいらないんだけど、解説に熱が入っているね。

 やっと解説が終わった。聞いていませんよ。


「ではいただきます」

 まずまずの味だね。板長と料理長には負ける。調味料が少ないようだ。その制約の中では頑張っていると思う。


「調味料が入手困難なようですね」

 エスポーサが代表して料理長に言った。

「はい。おっしゃる通りです。この地ではなかなか塩も調味料も届きません」


「調味料が少ない中で創意工夫により、美味しくできています。並の腕ではこうはいきません」

「ありがとうございます」

 料理長と弟子は涙ぐんでいる。

「お客様の慧眼により、われら料理人一同、報われた気が致します。どうぞごゆるりとお過ごしください」

 料理人たちは下がって行った。


 若い人は唖然としている。いままで美味しいと思っていた料理が、味が足りないと言われた。その原因を指摘して、料理人の腕は誉めた。誰も傷つかない。これは親父殿の言うとおりかもしれない。


 料理を食べ終わってお茶の時間だ。楽師がホールに入って来た。

「みなさん、ダンスはいかがでしょうか。ひとときダンスでお楽しみください。今日はお詫びとして全てこちらで持たせていただきます」

 衝立が取り払われ、楽師が曲を奏で始める。田舎者相手だとだいぶリラックスして気楽に演奏しているようだ。


 エスポーサとブランコ、アイスマンとジュビアが踊り始める。

 楽師は驚きが隠せない。先ほどのリラックスは影を潜め、背筋を伸ばし、真剣に曲を奏で始めた。大粒の汗が額から流れる。


 若い人は顎が外れそうだ。親も同様だ。信じられない顔をしている。

 マリアさんに親が誘われた。オリメさんに若い人が誘われた。フラフラと前に出て踊り始めた。カクカクと傀儡のようだ。とてもマリアさん、オリメさんがカバーし切れるものではない。二人とも土下座した。楽師も土下座だ。


「お許しください。試すようなことをしてしまいました。申し訳ありませんでした。本日の費用はすべて私どもで持たせていただきます」

 親が土下座のまま詫びた。


「そうですか。料理長を呼んでください」

 若い人が走っていき、すぐ料理長がやって来た。


「なにか不都合がありましたでしょうか」

「いえ。この料亭であなたたちが唯一精進していると思いました。ハーブはあるようですね。少しですが、塩を差し上げましょう。基本はできています。さらに精進してください」


 小袋に入れた塩を料理長に渡した。

 料理長は平伏した。土下座ではなく平伏。


 僕らは料亭を出た。この辺りは塩は不足気味で品質が悪いがまずまずあるとして、調味料、香辛料がないな。僕たちは持っているけど、それを渡しても、現状入手できないのでもらった方も虚しいだけだ。大変な街だがバランスが取れているのかもしれない。僕らがバランスを崩すと収拾がつかなくなってしまうだろう。現在塩はあるから品質が良い塩を少量渡すのならまあいいんじゃないか。ということにしておこう。


 午後もオリメさんとアヤメさんは店を回る、マリアさんとリン、エスポーサも店を回るというから、アイスマン、ジュビアを連れて行ってもらった。

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