649 御ローコーはトラヴィス宰相にエルフ入国を教えてやる
「ところで何しにきた」
「しばらくぶりに顔を出してやったのにその言い草はなんだ。せっかく極秘の情報を知らせにきたのに」
どうせろくでもない話だろうと宰相は思う。
「極秘だからな。その辺で耳をそば立てている奴は遠ざけた方がいいぞ」
「・・・」
「シン様に頭の中身を抜き取られる」
「なんだ。その頭の中身がどうこう言うのは」
「ああ、言葉の通りだ。記憶などが抜き取られて、そのあとは白紙だ。何も残らない。あーあー言って垂れ流して這いずり回る。赤ちゃんではないから、もう回復はしない」
あっという間に気配が消えた。
「自主退去したようだな。危なかったな」
また刑が増えた。脳の初期化か、脳の白紙化か。恐ろしいと宰相殿。
「極秘情報とはなんだ」
「ドラちゃん、バリアを張って」
部屋にバリアが張られた。
『いいよ』
「では教えてやる。いまスパエチゼンヤでエルフが五十数人研修している」
「なんだと。エルフだと。そんなことは聞いていない」
「言ってないからな」
「エルフなんていたのか。見たという話も一向に聞かないぞ。エルフハンターがいて、エルフを探し回っているそうだが、一向に見つからないという話だ。権力者が永遠の命を求めて血眼だぞ。五十数人も何処にいたんだ。トラブルの元だろう。どうするんだ」
「神国の友好国は長寿が多いからな。エルフを襲って生き血を飲もうなどという権力者はいないだろう」
「それはそうだが。エルフハンターが聞きつけて誘拐するとか」
「外見はエルフの魔法で人と変わらないようになっている。それにシン様が鍛えたから人外以上だ」
「早く出ていってもらえ」
「ところがエルフも長寿を持て余していてな、俺が雇うことにした。一遍に五十数人ではなく分けて交代だ」
「エルフを雇うなど聞いたことがない」
「あたりまえだ。初めてだからな」
「・・・」
「研修は三日間。それが終わったらオリメ商会パレート支店で働く13人と合流して、王都見学だ」
「そっちは人だろうな」
「今は人に違いない。オリメさんとアヤメさん、二百人衆の奥さん連中が教官になって一週間の訓練中だ。訓練が終われば人外以上だ」
「それでは人ではないだろう。パレートなど聞いたことがない。どこにあるんだ」
「隣の大陸だ。オリメ商会が支店を出してな。エリザベスも出資して儲かっている」
話についていけないと宰相。
「それでだ。見学が終わったら一度戻る」
「二度と来るな」
「それからエチゼンヤで雇うエルフが正式に国境から入国してくるわけだ」
「国籍がなかろう。入れないぞ。もしエルフに国があってもエルフの国の住人では不味かろう」
「国籍か。ティランランドだ。エルフの国ではない」
「聞いたことがない。でっち上げだろう。密入国だ」
「外務必携国家総覧に載っている立派な国だ」
嘘をつけと思うが、相手はシン様と近い御ローコー様である。不安が過ぎる。
「ではな。ブランコたちもお菓子をいただいたみたいだし。帰るわ」
ドラゴンが窓と壁であった空間から外に出て巨大化する。
「ああ、今のはもちろん内緒の話な。友達だから教えておいてやるが、話が漏れるとみんな頭の中身がなくなって四つん這いで這いずり回ることになるから気をつけてな。それにバリアは今外したからな」
「二度と来るな」
ローコーはポンとドラゴンの背中に飛び移った。もう一頭ドラゴンが大きくなり、並んで飛んでいった。白い狼はなんと宙を駆けて一緒に去っていった。
「くそ。おい、図書館にいって外務必携国家総覧にティランランドが載っているか見てこい。急げ」
秘書が走って図書館に向かう。
しばらくして戻ってきた。
「なかったろう」
「いや載っていました。ティランランド 遠国。武芸の国。詳細不明。とありました」
「やられた。偽造の跡があったろう」
「いいえ、発行された時にすでに載っていたようです。書き加え、訂正等はありませんでした」
さすがシン様だ。念がいっている。抜かりはない。いやそういうことではない。密入国者として国外追放をしたくても出来なくなってしまった。それに何やら危なそうな国名だ。ティランママとかティランサンとか。連中が関係していそうだ。武芸の国、もっともだ。薮を突っつくと何が出て来るかわからない。
「御ローコー様は何の用だったのでしょうか」
「妖精様を見せびらかしにきたのだろう」
「図書館に行く時、ハビエル神父様とトルネード様を見かけましたが」
外堀は埋められてしまった。本丸はのほほん大将だからあてにならない。知らんふり以外にないか。
「わかった。ありがとう。妖精様が破壊した壁と窓の補修を急いでくれ。風通しが良すぎる」
国王陛下から呼び出しがあった。
しょうがないから行ってみる。
「トラヴィス、ドラゴン様がお見えになったようだが、なんの用だったのかい?」
先の王妃と王妃様がニヤニヤしている。
「何か楽しいお話でもあったのでしょうか」
王妃様が惚けている。
「シン様、アカ様、御ローコー様と妖精様がお見えになりました」
「妖精とな。見たことがないな」
「この世界で初めての妖精様だそうです」
「そうか見たかったな」
「大層な方で、手のひらサイズくらいの方ですが、窓と壁を羽をパタパタやっただけで吹き飛ばしました」
「それはすごい。そちの部屋は窓と壁からシン様関係者が出入りすると言う噂があったが真だな」
真顔で言うなと思ったトラヴィス宰相であった。
「・・・今日は御ローコー様が壁であったところから出ていきました」
「仲良くて結構結構。余は叔父上が苦手でな。よろしくやってくれ。他に何かあったかい?」
「いや、何もありません」
「御ローコー様の知り合いが見えているそうですね」
王妃様がニコニコして言う。知っていて言うのだろう。悪質だ。
「何でも知り合いを連れてきて、研修して、王都見学させてから雇うのだそうです」
「そうかそうか。王宮も見てもらえ」
「王都見学なんて楽しそうね。ついて行こうかしら」
「研修しないとわからないくらいの田舎者ですから王宮はもちろんやめておいた方がいいのでは」
「どこの人だい?」
「ティランランドだそうです」
「きかないなあ。待てよ、ティランママ、ティランサンの国か。世を忍んでマルティナさんとサントスさんと名乗っているが。名前が似ているぞ」
変に勘がいい王様であった。
「恐ろしくて確認はしていませんが、そうかもしれません」
「シン様関係だから間違いはなかろう。面倒をみてやれ」
「・・・」
「オリメ商会の支店の方もみえるとか」
余計なことをいう。絶対王妃様は楽しんでいると思う宰相。
「そのようです」
「支店はどこにあるのかしら?」
絶対とぼけていると思う宰相であった。
「エチゼンヤさんは手広くやっていますので。それにシン様眷属のオリメ様、エリザベス様、イサベル様がやっているオリメ商会ですので、恐ろしくてよくわかりません」
「御ローコー様の知り合いと一緒に王都見学をするみたいよ。迷子になると困るからよく面倒を見てやったら」
「そうだな。シン様の眷属に鞭の女王陛下が二人だ。メンツがそろっているオリメ商会だから何かあって押しかけられたら大変だ。よく見てやれ」
「頑張ってね」
「シン様関係はトラヴィスに任せておけば安心だ」
国王に言われてしまった。
とほほのトラヴィス宰相であった。
執務室に戻って秘書一名と近衛兵二名をスパエチゼンヤに派遣する事にした。勿論門の中には入れてくれないので門前街の一角にとりあえずテントを張って詰所を作りそこに駐在させる。新参なので外れの方である。研修が終わって出て来たらついていこうという算段である。




