646 エルフの訓練 (上)
訓練当日、まずはエルフさんたちを送ろう。
日の出頃に迎えに行った。
ユリアーナさん、ローザリンデさん、ヴィーラントさん他50名がすでに集まっていた。
滅びの草原近くに転移した。綱が切れた吊り橋側だ。
すぐゴードンさんたちがエスポーサに連れられてやってくる。
「はい、みなさん。おはようございます。エスポーサです。案内人です。一部でツアコンさんと呼ばれていたりします。エルフの皆さんは頑健ということですから訓練はごく短く3日間です。訓練場はヴィオレンシア帝国の跡地の滅びの草原です。この草原には魔物が満ちています。今までみなさんも魔物に出会って狩った経験があると思いますが、この草原の魔物は大変強いです。今まで出会ったことはないでしょう。みなさん武器はお持ちですか。収納から出しておきましょう。この訓練の責任者はゴードンさんです。教官は、三馬鹿神父のゴットハルト、ラインハルト、ベルンハルト、神父さん10人、ブランコ、エスポーサ、ドラちゃん、ドラニちゃん、ティランママ、ティランサン、プリシラさん、ロシータさん、三馬鹿の奥さんです。ではゴードンさんよろしくお願いします」
「ゴードンだ。隣の大陸で極級冒険者・神国の外交担当をしている。皆さんは頑健と聞いているが、うっかりするとローザリンデさんのように捕まってしまう。過信しないようにお願いする。まずは女性と男性と分けよう。女性はティランママさんのところにお願いする。男性はこの場に残る。担当は私だ」
「別れたな。それでは滅びの草原に転移する。言い忘れたが、三日間ということは昼夜通しで三日間だ。まずは自由に滅びの草原の魔物を相手にしてもらおう。それではエスポーサさん、転移をお願いします」
魔物の真ん中に転移した。
ヴィーラントは思う。
エルフだけで魔物の跋扈する中に転移させられた。いや遠くにパラソルの下にテーブルと椅子を出して、ゴードンさん達がお茶を始めた。魔物がジリジリと近づいてくる。パラソルの方に魔物は行かない。何故だ。
今まで魔物に出会い労せずして狩っていたので、強いと言っても少し手強いだけだろうと余裕でショートソード、弓矢を構える。
一斉に魔物が襲ってきた。
ショートソードで切り付けるが簡単に魔物の皮に弾かれた。矢も当っても刺さらない。おかしい。今までは魔物であっても遅れをとったことはなかった。
考える間もなく肉弾戦になった。
ショートソードの刃はたちまち潰れてしまった。魔物に対する自信も潰れてしまった。ショートソードはもはや平たい棒と同じである。殴るだけだ。弓も折られてしまった。弓組は慌てて予備のショートソードを取り出し肉弾戦である。たちまち棒と化すショートソード。
《みなさん、武器が潰れてしまったようですね。シン様からショートソードを預かってきています。一本づつどうぞ》
戦いのど真ん中にエスポーサさんが転移してきて、ショートソードを渡してくれた。
《では、お昼まで頑張りましょう》
エスポーサさんが消えたと同時に魔物が襲ってきた。
ショートソードを振るう。今度は切れるが数が多い。手傷を負わせるとすぐ引いてしまう。どうもエスポーサさんのところに行って治してもらっているらしい。
治してもらって逃げようとした魔物がいるが捕まって何か飲まされた。方向転換してこちらにものすごい勢いで向かってくる。次々と何か飲まされて向かってくる。
賢そうな魔物は少しくらいの怪我ならエスポーサさんのところに行かず、逃げる奴がいる。ダメだ。ゴードンさんたちに捕まった。イヤイヤしている魔物にエスポーサさんが何か強制的に飲ませた。こっちに向かってくる。
ひょっとして教官というのは魔物を捕まえてけしかける役なのか。
神父さん連中とティランサンさんは木刀で打ち合っている。神父さんがわはははと笑っている。楽しそうだ。ブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃんはどこかに行ってしまった。
目を血走らせ魔物が向かってくる。何を飲ませたんだろう。
いくら我々エルフでも日の出から食わず飲まずではダメージが大きい。疲れて来た。
《はーい。みなさん、疲れが溜まり喉が渇いたでしょう。お食事と飲み物ですよ》
魔物は下がった。みんな我先にと食事に手を出す。コップに手を出す。これは大丈夫か。おれはどうも怪しいと思う。
食事はいただいたが、コップの水はさっき魔物に飲ませていた水ではないか。コップの水はそっとこぼしてシン様が収納に入れてくれた水筒の水を飲んだ。
《ではみなさんまた夕方来ます》
食事の容器などを片付けてエスポーサ様は消えた。同時に魔物が襲ってきた。
魔物はエスポーサ様が怖いらしい。良く言うことを聞く。
我が同胞は目が血走っている。魔物と同じ症状だ。魔物に突進していった。やはりあれは魔物に飲ませた水だったのだろう。
夕方まで一進一退の攻防だ。
夕方エスポーサ様が来た。
《はーい。お元気ですか。さすがエルフの皆さんです。では夕食をどうぞ》
夕食とまたコップの水だ。俺はまたそっと水をこぼして水筒の水だ。
ありがたく食事をいただく。食べ終わってしばらくしたら何やら体が熱い。しまった。こんどは食事に入っていた。
《ではこれから夜の部になります。魔物も夜活動するタイプの魔物になります。朝まで頑張りましょう》
昼の部の魔物がエスポーサ様に怪我の手当をしてもらってペコペコして去っていく。代わりに夜の部の魔物がブランコ様たちに引率されてたくさんやってきた。遊んでいたわけではないらしい。
エスポーサ様が水を飲ませて、魔物が突進してきた。こちらも体が勝手に突進していく。
しばらく戦ってふと見ると、教官たちはテントを張って中に入ってしまった。見張りも何もいない。お気楽にテントに入ってしまった。
俺たちだけ一晩魔物と戦いか。いや、エスポーサ様はいた。パラソルの下にテーブルと椅子をだして座っている。魔物が怪我を治しにいっている。ブランコ様が群がってくる魔物を整理しているらしい。大人しく魔物が言うことを聞いている。時々ブランコ様を避けている魔物がいる。因縁があるのだろう。
エスポーサ様やブランコ様には逆らうまいと思った。ドラちゃん、ドラニちゃん、ティランサンさんも危い。あとは人ではあるが、ゴードンさんも危険な香りがする。三馬鹿と神父さんも危なそうだ。
結局全員危ない。やれやれ。




