633 テラーサス王国臨時渉外担当大臣アンヌ テッサニア王国を籠絡する
さてアンヌ。大体国王の住まいに目処が立ってご機嫌である。
次は、オフェリア王妃の離宮前に転移した。警備員が敬礼している。ジェナとチルドレンは警備員と遊ぶのだろう。警備員達の方に行った。
馬を引いて離宮に入る。
ドラちゃん達と一緒だからクロエ侍女長が出て来て迎えてくれる。すぐ馬丁が馬を預かりに来て、アンヌ達は侍女長に応接室に案内された。
中に二人いた。
「テラーサス王国の臨時渉外担当大臣のアンヌと申します」
「オフェリアと申します。こちらは夫です」
国王も事件以後時々離宮に来るようになったと観察ちゃん。
「よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。今日はどのようなご用件で」
「私どもの国王が退位することになりました。国王には先の国王の同母妹のジゼルの息子が先の国王の養子となって即位することになりました。国王は若く優しい方なので国内にいては利用されてしまうことがあるかも知れないと国外に住まいを探しておりました。シン様からシン様の湖の土地を使わせていただけることになりご挨拶に伺いました」
確かに大物だったと王妃。
「シン様から聞いております。シン様に差し上げた土地です。どうぞお使いください」
「ありがとうございます。家臣10家族ほどと移り住む予定です」
「いつ頃でしょうか」
「これから茶屋を作って、自宅を作って宿舎を作って、売店を作ってですから一年くらいを目処にしています」
「売店では何を売るのでしょうか?」
「我が国特産のワインです」
「ほうほう」
突然会話に入って来た実はワインが大好きな国王であった。
すかさずワインの樽を取り出すアンヌである。
「これは極上のワインです。試飲して見てください」
ワイングラスを四つ出してワインを注いだ。国王夫妻とクロエ侍女長、それに自分用である。アンヌに抜かりはない。
「これは見事なグラスだ。見たことはない。いくらお金を積んでも手に入らないだろう」
そこかよとアンヌ。
「シン様から頂いたグラスです。宜しかったらどうぞ」
「もらっていいかな」
「どうぞ」
「そうだ。ワインだ。澄んでいて鮮やかな色だ。素晴らしい。豊かな香りだ。葡萄畑の風景が目に浮かぶようだ。美味いとしか言いようがない」
「極上ワインは売り物ではありません。売るのは高級ワイン以下です。高級、中級、一般のワインもあります。一樽ずつどうぞ」
「悪いな」
かくしてアンヌの前に国王は落ちてしまったのである。
王妃はやれやれという顔をしてワインを飲んだ。
「あれ、美味しい」
今まで雑味があるワインしか飲んだことがなく、ワインは嫌いであった王妃。
「初めて美味しいワインを飲んだわ。いただけるの?」
「はい。これが欲しくて塩商人が事件を起こしました。これは国の宝です」
「そうだろうな。飲んで見てわかった」
「こちらは高級ワインです」
三人と自分用にも注ぐ。
「これも美味しい」
「そうね。さすがにワインの国だわ」
「こちらは中級品です」
「中級でも普通に美味しい」
「これが一般品です」
「どれ。これでも不味くはない」
「確かに。美味しさは落ちるが普通に美味しい」
「ワインの国と言われるだけのことはある」
「湖畔では、高級品から一般までを扱います。ご贔屓に」
「極上ワインは?」
「売り物ではありません」
「そうか。国の宝ではやむを得ないな。大事に飲もう」
アンヌの役目は十二分に果たした。
「ではお暇します」
「お昼を食べていかんかね」
「あれ、もうそんな時間?それではお呼ばれに預かります」
あ、ジェナちゃん達をよばなくちゃ。とアンヌ。窓の外に向かって呼んだ。
「ジェナちゃん達ー、お昼だよー」
あっという間にジェナとチルドレンがやって来た。
何という臨時渉外担当大臣かと思った国王と王妃、クロエ侍女長であった。
「王妃様、お昼」
ジェナだ。
「はいはい。食堂に行きましょうね」
ワインの樽はクロエ侍女長が収納した。
食堂に着いて国王が言う。
「食前酒はあれにしよう」
すかさず高級ワインを出すクロエ。
「あれは」
「あれは特別な時です。収納は時間停止ですから悪くなりません。お預かりしておきます」
あとで王妃とこっそり飲もうと思ったクロエであった。
国王はあきらめる。
「まあこれでも美味いけど」
「おじさん。ジェナ達は」
おじさんと呼ばれてしまった国王。
「葡萄ジュースがありますから」
アンヌがジェナ達にジュースを注いでやった。
「おじさん。ジュースがあるから大丈夫だよ」
一言多いジェナであった。
「じゃあいただこう」
「テラーサス王国にはアンヌさんのような方がたくさんいらっしゃるのかしら」
「今度退位する国王は優しく真面目だし。後はーー英雄ジゼルでしょうか」
「さっきのお話のジゼル様でしょうか」
「そうです。娘時代から長い棒を持って街を徘徊してならず者を殴り倒していたと有名です。裏通りまで出かけてならず者を探していたそうです」
「それはすごい」
「はい。今回も私が刻んだ丸太にシン様から貰った棒を刺して襲撃者に投げつけていました」
ジゼルさんもそうだがアンヌさんも負けず劣らずだと国王と王妃、クロエ侍女長。
「吟遊詩人が、国の宝のワインを救った「塩荷馬車を守る橋上の英雄ジゼル」、「ジロー小隊武勇伝」などを歌っています」
念の為王妃が聞いてみる。
「アンヌさんは」
「一応アンヌ無双伝が歌われています」
交渉力も、態度も無双だと思う王妃達。これに武が加わればまさに無双だと思う。
「ではお暇を。そうそう、シン様湖のシン様の土地の湖側をシン様が公園として、東屋とかベンチなどを置いて誰でも休憩できるようにしました。退位した国王様の茶屋はその奥になります。茶屋の奥に自宅、宿舎、倉庫を建てる予定で、その奥をシン様が使うようになっています。茶屋予定地より奥は現状関係者しか入れません。ワイン、オリメ支店の品物などを売る売店は観光馬車屋さん寄りの道路に面したところです」
馬鹿に詳しいと思う王妃達。何でも決める権限が与えられているのかと思った。
「それからこれは試作品ですが」
小さなドラちゃん人形を王妃に渡した。巨木のタグが付いている。
「まあ可愛い」
「下着の余り布で売り子さんが作っています。そのうち色つきが出回るでしょう。では失礼します」
「あ、忘れるとこだった。侍女さん達の下着が上下一組づつ入っています」
大きな布袋をクロエに渡した。
「では」
窓の外に大きくなったドラちゃんが浮いている。みんなはドラちゃんの上に転移。アンヌは窓から飛び乗った。馬はドラニちゃんが転移で連れて来た。
スッとドラちゃんが高度を取り、アンヌが手を振って飛んで行った。
「窓から出る大臣なんて初めて見たわ」
「俺も初めてだ。クロエに出来るか?」
「とても。考えもつきませんでした」
笑い合う主従であった。不思議と爽やかな印象しか残らなかった。無作法さえ、その場面では当然と思えてしまった。
「トンデモ臨時渉外担当大臣だったわね。人材が豊富なのか貧弱なのか判断に迷うわね」
「あれに大臣の肩書きを与えて送って寄越すのだから、トンデモ王国なのには間違いない」
「でもきちんとやるべき事はやっていきました。さりげなく侍女達の下着まで置いていきました。トンデモ優秀なのはまちがいありません」
またひとしきり笑い合う主従であった。
「湖の復活をお知らせする使節はもう各国に着いたかな」
施設は、道路の補修が終わり湖の周りの施設の完成の目処がついた少し前に各国に派遣しておいた。
「近いところからついたと思います」
「そうか楽しみだな」
「はい。みんなシン様のおかげです」
「ありがたい事だ」




