632 テラーサス王国臨時渉外担当大臣アンヌ 前国王の住まいを手配する
アンヌは、王宮出納係からたんまり旅費、交際費等をせしめ、ワイン管理人から極上のワインを一樽、高級、中級、一般のワインも数樽づつ強奪して収納し、料理長の元に行き、ほぼ出来ていた王宮用料理をこれまたしこたま強奪し収納し、鼻歌を歌いながらロワール商会に戻った。
その日の王宮の夕食は少し寂しかったとか。
アンヌはすぐさま観察ちゃんとパレートのロワール商会支店に転移した。
オリメ商会のマノン支店長、縫い子さん、売り子さんと話をして、スパ棟へ。
夕食とお風呂をシン様達と一緒にしてロワール商会支店に戻り、支店長に呆れられる。
翌朝、愛馬を引き出し、ブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃん、ジェナとチルドレン、熱帯号、雪原号とで、まずはテッサニアの湖の入り口の観光馬車屋さん達の宿舎の前の街道に転移。そこから走って湖へ。
シン様湖の石碑を見学。ブランコがシン様から預かってきた競走用のボート三艘を湖に浮かべる。馬は観光馬車屋さんが預かってくれた。
ブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃんで一チーム、ジェナ、チルドレン、アンヌで一チーム、アイスマンとジュビアで一チームだ。ヨーイドンで一斉に漕ぎ出す。ジェナのチームもアンヌが加わったのでスピードが上がる。湖尻で高速ドリフトしてターン。ほぼ同着である。
競走用ボートは収納。次は家族用ボートを出した。ジェナとチルドレンを除き一人一艘だ。みんなボートに乗り込む。
最初は大人しく漕いていたがいつの間にか横一直線、ヨーイドンで一斉に漕ぎ出す。
湖畔の見物人は呆れて見ている。
家族用ではあるが馬鹿力なので速度が出る。シン製品なので馬鹿力でも櫂も櫂の受け部分も壊れない。先行したブランコ達は湖尻で一斉にターン、ぶつかってひっくり返る。やや遅れていたジェナとチルドレン、ひっくり返ったボートをゆっくり避けてターンし、猛然と逃げ始めた。ブランコ達はひっくり返ったボートを起こし水の入ったままジェナ達を追うが追いつけなかった。優勝はジェナ、次はチルドレンである。
ボートを収納し、みんなの服はジェナとドラちゃんが水分飛んでけとやって乾かした。シン様公園の東屋で休憩。シン様の眷属が登場とあって見に来た。
「初めまして。宿をやらせていただくヘレンテと申します」
「観光馬車屋と貸ボート屋のディミーティスと申します」
「テラーサス王国の臨時渉外担当大臣のアンヌと申します。宿はだいぶ出来たようですね。今度この奥に茶屋と10家族くらいの宿舎を作りたいのですが、大工さんを紹介してくれますか」
「勿論。一人しか知りませんが、今来ています」
宿の主人が大工さんを連れてきた。
「カルピンだ」
「アンヌと申します。街道から湖に入るところの宿舎を見させていただきました。大変しっかりと作られていると思いました」
「おお、あれを見てくれたのかい。あれはシン様が直してくれた」
「元が良くなければ直しようがないです。壊して建て替えになってしまいます」
「そうか、そうか。お嬢さんよくわかっているね」
「それでこの奥に高級茶屋を建てたいのです。それと主人夫妻が住む家。家臣10家族程度が住める宿舎。商品の保管用倉庫」
「この奥は入れねえ」
「大丈夫です。この土地はシン様用なので無関係な人は入れませんが、関係者は入れます。一緒に行ってみましょう」
ゾロゾロと公園から高台に上がって行く。
「これは良い土地だ。湖が一望できる。ここに高級茶屋か。なるほど納得だ。奥も広い」
「奥はシン様が使うようです」
「どんな人が主人なのかい?」
「テラーサス王国の国王が退位されその住まいです」
サラッとアンヌが言った。みんな仰け反った。さすがシン様関係者。話のスケールが違うと思った。
「実際の商売は家臣がやるのですが、まあお飾りですね。偉い人が来たら挨拶するとか」
「国王の住まいを俺が作るのか。やらせてくれ」
「はいお願いします。前国王になりますが。これから子供を作るくらい若いです。まずは手付け」
砂金の大袋を出した。
「受け取りはええと」
「用紙はあります。日付とサインをお願いします。砂金は確認してください」
宿の主人と観光馬車屋さんが「大丈夫だ。シン様関係だ」。
「茶屋は高級路線で考えておいてください。具体的には家臣を派遣しますのでその人と打ち合わせをお願いします。一年を目処にお願いします。早くてもかまいません」
「街道の脇の宿舎は幾つか部屋は空いていますか?打ち合わせに来る家臣の滞在に使わせてもらおうかなと」
「空いています。どうぞお使いください」
「そうですか。料金は家臣と打ち合わせしてください」
「承知しました」
「家臣は数日のうちに出発しますが、馬か馬車で来ますので少し時間がかかるかも知れません」
「おう。時間があったほうが俺の方も考える時間が取れて助かる」
みんな東屋に戻った。
「高級茶屋だけでは生活出来ませんので、馬車屋さんの隣あたりに売店を作り、特産のワインとこれを売ろうと思います。売店の建築もお願いします」
アンヌが布袋を出した。
「棟梁さんにはこれ。棟梁さんと奥さんと娘さん、息子さん二人分が入っています。使って見てください。馬車屋さんにはこれ、宿の主人はこれ。ご家族の分も入っています。持って帰って使って見てください。オリメ商会パレート支店の製品です」
「店の建築は引き受けよう。袋の中身はなんだかわからんが商品なんだな」
「はいそうです。大変好評です。後は土産物ですか。元祖シン様湖饅頭とか旗を立てて、売店は商品を売る場所に休憩してもらうスペースを併設し、饅頭とお茶、軽食を出す」
元祖シン様湖饅頭にはみんな笑った。
ジェナ達が飽きてきた。
「ではよろしくお願いします。そうそう、さっきのボートをシン様から頼まれていましたので渡しておきましょう」
ドラちゃんが隣に行き、馬車屋さんにボートを渡した。ボートの収納庫は作ってあった。
預けておいた馬を引きとって転移して行った。
残った人達はあれよあれよと色々決まってしまって、東屋で座り込んでいる。
「アンヌさんは何者だろうか?」
棟梁さんが聞いた。
「テラーサス王国の臨時渉外担当大臣だとさ。シン様の眷属とやって来たのだから間違いはない」
宿の主人である。
「それじゃあ国王の話も」
「ああそうだ。確かな話だろう」
「勢いで契約してしまったが」
「布袋も各人に用意してあった。全て調査済みなのだろう」
「ああ、そういえば俺に娘と倅二人がいるとわかっていたな」
「シン様は全てお見通しです」
馬車屋だ。
「そうか。契約は織り込み済みだったのか」
「そうとしか考えようがないですね」
しばらく話をして解散した。




